転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第99話 転生勇者、ドワーフの鍛冶屋を訪れる

そこは街の外れにある小さな店舗であった。

入り口に大きく掲げられた看板には“低級魔物用武器専門ゾイル工房”と書かれており、入り口脇の立て看板には“ゴブリン、ホーンラビット、グラスウルフ専用武器防具各種取り揃え、取扱指導承ります”と書かれている。

 

「鍛冶場も見たいって事だったよな?少し片付けるからちょっと店で待っていてくれるか?お~い、今帰った。お客さんだ、店の方を頼む」

“は~い、今行きま~す。”

建物の奥の方から聞こえる若い女性の声、確かセシルさんだったかな?俺が買ったお守りの製作者って話しだったけど。

フレムさんに案内された店の中は小ざっぱりした俺の持つドワーフのイメージとはだいぶ違った雰囲気であった。ファンタジーのドワーフの鍛冶屋と言うともっとごちゃっとした感じに武器を並べていて雑然とした様子だと思っていたんだけど、この工房はどちらかと言うとインテリアショップ?それぞれの商品が見やすく綺麗に並べられていて見ていて飽きない。それと武器や防具よりも包丁やハサミ、生活雑貨などの方が多く並べられている。

 

「いらっしゃいませ~。大勢さまでようこそ。それでどう言った品をお探しですか?」

 

現われた女性は髪の長いほんわかした雰囲気の優し気な方。そして何と言っても目を引くのがその見事なまでの双子山!

「ジェイク君、どうしたの?お顔が赤いよ」

 

真横から掛けられた声にそちらを振り向けば、笑顔なのに目が一切笑っていないエミリーの姿。

“ポンッ”

そして俺の肩に手を乗せ首を横に振るジミー師匠。その目は何か哀れみが込められており、言外に“諦めろ”と言ったメッセージが・・・。

ジミー師匠、お願い助けて、俺まだ死にたくないの!

 

「あらあら、可愛い坊やとお嬢さんね。二人は仲良しさんなのかな?そんな二人にお勧めなのはこのビッグクローの鉤爪(かぎづめ)で作ったペンダント、これは東方から伝わったお守りで“あなたの傍に飛んで帰ります”と言う思いが込められているの。互いに身に付ける事で、お互いを思い合っていると言う証にもなるのよ?」

そう言いニコニコ微笑む店員さん。いえ、その、俺とエミリーはそう言った関係では「買います、二つ下さい!一緒に付けようね、ジェイク君♪」あ、はい。

エミリーはそう言うとお金の入った小袋を持って、ニコニコと微笑みながら店員さんと一緒に支払い台の方へと向かって行くのでした。

その場に残された俺は、なぜかオークの森で出会ったオークソルジャーを一撃で倒すエミリーの姿を思い浮かべるのでした。

 

「ジェイク君、これでお揃いだね♪」

「そ、そうだね。ありがとう、エミリー」

ニコニコ微笑み首から下げたペンダントを眺めるエミリー。うん、かわいいよ、すごくかわいいと思うよ、将来はミランダおばさんに似てすごい美人さんになると思うよ?でも俺まだ九歳よ?お子様もいい所なのよ?将来は冒険者になって色んな場所を巡って色んな景色を見て、土地の食べ物に舌鼓を打っていろんな出会いをってどうしたのさジミー。

死にたくなければ諦めろ?覚悟を決めた女性に逆らってはいけないって、ヘンリーおじさんがそう言ってたの?実体験ってあの優しげで物腰も柔らかいメアリーおばさんが?

“コクコク”

そうなんだ~、メアリーおばさんが・・・。女性って怖いんだね~。

ご機嫌なエミリーと何故か生活雑貨を買い漁るケビンお兄ちゃんをしり目に、遠い目をして物思いにふける俺とジミーなのでありました。

 

「お待たせしたな、こっちが鍛冶場になる。片しはしたが足元には気を付けてくれ、くず鉄が転がってるかもしれん」

そこにはレンガで作られた炉と鉄床が備えられており、各種ハンマーや熱くなった金属を挟んで掴む道具などが所狭しと置いてある。そして部屋の片隅にうず高く積まれた錆びたり折れたり割れたりした剣や防具と言ったくず鉄の山、その脇には粉々になった金属片が山になっていた。

 

「まぁそこのくず鉄を鍛冶スキルを使って鉄片にしてからこの魔道具の鍛冶炉を使ってドロドロに溶かすんだがな、これが結構魔力を使う。領都や王都の鍛冶工房では魔石を使った鍛冶炉が主流らしいんだが、エルセルじゃ魔石なんか中々手に入らないからな、細々と作っていくしかないのさ」

そう言いバケツに入った鉄片を鍛冶炉の投入口に流し入れ、鍛冶炉に備え付けられた艶々の半球に手を添えるフレムさん。

 

「“鍛冶の神よ、我に力を”」

フレムさんがそう唱えると、手に触れた半球が光を発し、室内が一気に熱くなりました。

 

「これでしばらく待てばくず鉄のインゴット擬きが出来上がる。この辺じゃ鉄を溶かす為の石炭や良質の炭なんかは手に入らん。俺たちドワーフは元々そうした燃料を基に鍛冶を行っていたんだ。あれはあれで大変だったが、良い剣が打てたもんだよ。

この魔道具は普人族の魔導士と共に作り上げたと聞いている。その昔ゴブリンの魔王が誕生した事があっただろう?その時に大量の武器が必要になってな、とてもじゃないがそれだけの武器を作り出す為の石炭も炭も足りない状況、そこで登場したのがこの魔道具さ、必要は発明の母とはよく言ったもんだ。

鉱山のある地域では国が直轄の精錬場を作りより高性能の魔道具で鉄インゴットを作っているらしい。これも本来ならそうした鉄インゴットを熱して剣を打つ為の道具なんだ。このインゴット擬きを作る機能は失敗作を作り直す為のおまけみたいなもんだったはずなんだよ。今じゃ主な使い方になってるがな」

そう言い鼻の頭を掻くフレムさん。何かこの世界の鍛冶の歴史を感じるいいお話しを聞けました。それと状況に合わせて道具を上手く使っているフレムさん、職人って感じがして格好いいです。

 

そうしてしばらく道具の話しやくず鉄の話しを聞いていると、どうやらくず鉄製のインゴット擬きが出来上がったとの事。フレムさんが革製の手袋を付け炉の蓋を開けます。

“ムワ~ッ”

部屋全体に広がる強烈な熱、目茶苦茶熱いんですけど!?なに、鍛冶場ってこんなに熱いの?こんな中で只管ハンマーを振るってるの?鍛冶師ってスゲー。

 

「これがウチの刃物の基になるインゴットだな、これは材質の均一性に欠けるからどうしても鋳物武器製品には向かないんだ。生活雑貨程度なら何とかなるし味わいにもなるだろうが、刃物類は全く使い物にならん。だからここから只管叩いて曲げてを繰り返して余計な成分を弾き出す作業に入る。

ただその作業に入ると完成するまで休む事は出来ないんでな、このインゴット擬きをある程度の量作ってから作業に入ると言った形をとっている。それでこれがこないだ打ち上がったばかりの剣になる」

フレムさんがそう言って取り出して来たもの、それは黒鞘の直剣でした。

“スーッ”

引き抜かれた刀身、刃先に向かい波打つように映し出された波紋。“切る”、その一点の為に作り出されたフレムさん渾身の一振り。

 

「きれい」

エミリーがボツリと呟くその言葉はこの場にいる全ての者の気持ちを代弁したものでした。

 

 

「いや~、大変すばらしい物を見させていただきありがとうございました。これから行う事はこんな素晴らしい機会を与えてくださったゾイル工房さんに対するちょっとした感謝の気持ちです」

感嘆のため息を漏らした後、口を開いたケビンお兄ちゃんが放った一言。えっ、ケビンお兄ちゃん一体何をするつもり!?キョトンとした顔のフレムさんに対し、一気に警戒の色を強めるマルセル村の一同。

ケビンお兄ちゃんはそのまま部屋の隅にうず高く積まれたくず鉄の山の前まで行くと、手を晒し魔法の詠唱を始めるのでした。

 

「“大いなる神よ、その慈悲を持って大地に開放を与えたまえ、破砕”」

“ザザ~ッ”

ケビンお兄ちゃんの詠唱が終わった時、先程まで目の前にあったはずのくず鉄の山は、細かい鉄の小山に変わっているのでした。

 

「今のは一体・・・、鍛冶スキルにもそんな事を出来るものはなかったはずだが」

呆然とくず鉄の山があった部屋の隅を眺めるフレムさん。うんうん、気持ちはよく分かります。でもこれってウチの村だと日常なんです。

 

「今のは土属性生活魔法の“破砕”、村の古い文献から発見したもので、どこから伝わった物なのかはちょっと。主に石を砕いたり硬い地面を柔らかくする為に使われるものですが、どうも金属にも使える様なんです。ただその為にはその金属全体を土属性の魔力で覆う必要があるので使い所は難しいのですが、こうした作業でなら十分使える魔法でしょう。

練習は必要になりますがフレムさんにでも十分習得できる技術だと思いますよ。生活魔法ですので然程魔力もいりませんし、慣れてくれば砕く金属の大きさも変える事が出来ますから」

そう言いニッコリ微笑むケビンお兄ちゃん。ケビンお兄ちゃんって授けの儀の前なんだよね?発言がどこぞの賢者か大魔導士のそれですから。ケビンお兄ちゃんは何処の物語の主人公なの?意味解らないんですけど!?

 

「え、あ、うん。こんな凄い技術を、そんなに簡単に見せてしまっていいのか?俺としては嬉しいが、これに見合うほど君に返す事の出来るものがここには・・・」

そう言い下を向くフレムさん。そんなに自分を卑下しないでください、フレムさんの作る剣はそれはもう素晴らしい物なんですから。さっきからボビー師匠が獰猛な目をして狙ってますから、“手持ちで足りるかの~”とかブツブツ言ってますから。

 

「それでしたら私が持っている鉄のインゴットで一振りの剣鉈を打って貰えませんか?まぁこれは素人が作ったくず鉄インゴット擬きですのでプロであるフレムさんにお見せするのはお恥ずかしいのですが、自分が製造工程に関わった武器を身に着けるのって、男心を擽ると言いますかロマンと言いますか。かなり無茶を言ってるのは分かりますが、どうかお引き受けいただけないでしょうか?」

ケビンお兄ちゃんから出された提案と言うか無茶振り、そんな無茶苦茶な提案に苦笑いしながらも“お引き受けしましょう”と答えるフレムさん。

え~、いいんですか?そんな提案に乗ってしまって。言うなれば素人の粘土細工を焼き物の窯で焼いて仕上げる様なものですよ?駄目なら一度砕いてからインゴットに作り直せばいい?あ、その為の魔道具がありましたね、なるほど納得です。

そしてガサゴソと例のカバンを漁って何かを取り出したケビンお兄ちゃんは、“これがそのインゴットです”と言って二つの長方形をした塊をフレムさんに渡すのでした。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ケビンお兄ちゃんから渡された“自作くず鉄インゴット擬き”を手に持ったままジッと固まるフレムさん。その様子に“えっ、そんなにダメダメだったの?”とガックリ落ち込むケビンお兄ちゃん。

 

「な、」

な?

「何でこんな所に魔鉄のインゴットがあるんだ~~~~~~~~~!!」

突然大声で叫ぶフレムさん、どうやらまたケビンお兄ちゃんが何やらやらかしてしまっていた様です。




本日一話目です。
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