一人。
ふと、目に映った。
あのヒトが置いていった白いハコ。
なんでだろう。
火を、点けてみた。
点けて、みたのだ。
ふーっ、と、
冬先の寒いベランダで。
煙草を吹かす。
一人、
ただ一人で。
少し、
少し咽せる。
ごめんちょっと強がった。
これキツイわ。
あのヒトはライトな方って言ってたけど、
冗談だろう?
えーっとサジェストサジェスト…
ん?
『セブンスター 軽い』
??
………。
うん、見なかったことにしよう。
これを書いたのは相当なヤニカスであろう。
おそらく。
ふーっ、と、
息を吐く。
長く、
長く。
気怠く。
重く。
えっと、煙草は…
あぁ、置けるのか。
灰皿は…なぜかある。
ほんと、なんでだろう。
ろくに吸えないセブンスター。
必要もない灰皿。
立ち昇る体に悪い紫煙。
…あの人の、香り。
ほんと、いやになる。
この香りは嫌いだった。
不快だった。
咽せるし。
何が良いのかなんてサッパリ分からなかった。
あのヒトは「まだまだ子供だ」
だなんて、煙に巻いていたけど。
思えばその程度だったのだろう。
子供。
そう、ただの子供。
あのヒトは私を見ているようで、
見ていなかった。
そういった対象ではなかった。
土俵にすら、立てていなかった。
香り。
ふと、紫煙に意識を向ける。
…うん。やっぱり分からない。
今でも良さなんて分からない。
分かりたくも、ない。
でも、
でもどうしても。
この煙が私をかき乱す。
ぐちゃぐちゃに。
時々、どうしようもない気持ちに駆られる。
胸のあたりが苦しくて、
苦しくて。
眼の奥の奥が、
熱くて、
イタくて、
どうしようもなくなるのだ。
ふと、雫が落ちる。
一滴。
さらに一滴。
ポタポタ、
ポタポタと。
あ。
あぁ。
ダメだ。
止まらない。
こぼれ落ちる。
こうなると、ウザい。
とにかく、ウザい。
自力では止められない。
止まれ。
止まれ。
止まれ、って心の中で命じるけれど、
止まった試しはない。
ほんとに、ウザい。
ジブンがジブンじゃないみたい。
我ながらなんて、女々しいのだろうか。
今どき女性でもこんな風に病むことは少なかろうに。
いや、増えてはいるのか?
学校でやった気がする。
まぁそれはいいか。
さんざん嗚咽をこぼして、
ふーっ、と深呼吸。
落ち着け。
落ち着け。
私は大丈夫。
うん。
あ、
雫を拭うと、
今でもそこにあのヒトがいる気がする。
誰もいないのに。
一人しかいないのに。
確かにその紫煙を纏って、
あのヒトがそこに座っている、
そう錯覚してしまう。
そう、錯覚だ。
錯覚なのだ。
もうあのヒトはいないのだから。
そう、
だから、
だからこれは。
お線香のようなものだ。
今はもういない人への手向け。
弔い。
生き残った人にとってのケジメ。
だから私は火をつける。
紫煙を燻らせて。
吸うわけでもなく。
ただ、
ただ、
アナタと、いや、私だけのために。
これは決別。
お別れ。
気持ちを入れ換えるんだ。
煙草を見る。
少し雲の多い寒空に、
溶けるように消えていく。
薄曇りの月がぼんやりと、
寝静まった街を照らし出す。
普段は鬱陶しくすら感じる月明かりが、
今だけは、
ひどく冷たくて、
温かかった。
だから、そう。
お願い。
お願い、お月さま。
今は、
今だけは、
この痛みから、目を背けさせて
"アナタ"と"私"の性別は、皆さんのお好きなように。