俺の中の天羽奏がうるさい   作:二重人格

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思いついたから暇つぶしで書いた。


プロローグ

 

 

 

なんでこうなったんだろうか。

指先から炭になっていく自分の体に目をやりそんなことを思う。

 

その日の俺はとあるライブに来ていた。

 

何となく聴いて、何となくハマって、何となく足を運んだこの日。

自分以外の客も盛り上がり大成功の3文字が浮かぶそんなライブ。

 

何となくでファンになった俺でも凄いなあなんてこと思っていた。

 

そんな時に襲ってきた異形の怪物たち。

逃げ惑う客達。

 

そして、その怪物に立ち向かったステージに立っていた2人。

 

怪物に捕まれば体が炭化していく現象。数が多くて2人ではなんともならなかった惨状。

 

かく言う俺も捕まった。

捕まったと言ってもちょっと触れてしまっただけだ。これでも体は鍛えてる。触れたと思った瞬間に跳ね除けて逃げたが……それでも炭化の進行は徐々に体を蝕んできた。

 

このまま死ぬのかなあなんてことを思いつつ、怪物たちが消えていく中で体を引きずるように歩き続けていた。

 

そんな中目の前に現れたのは体が消えていっているライブをしていた2人のうちの片割れ。

全身から血を流し吐血もしていて、死ぬまであと少しだとわかる様相。

 

「……死ぬんすか?」

「ははは、そっちもか?」

 

死ぬ間際に似つかわしくない軽い会話。

足も炭化してきた。もう歩くのもしんどい。

 

倒れる彼女の横に座り込み一息吐く。

 

「悪いね、こんなことになっちまって」

「謝る必要ってアンタにあるんすかね。悪いのはあのバケモンどもでしょうよ」

 

「そう言ってくれるだけありがたいな」

 

死ぬ直前。

そこで憧れの人の隣で会話する。いい冥土の土産ってやつだな。

 

「心残りはやりたいゲームをやれずに死ぬってことだけだな」

「こんな時にゲームかよ。もっとあるだろ。こう……なんかさ」

 

「あいにく友人の類はいないもんで……ああでも親には悪いか」

「寂しいやつだな」

 

「……その言葉は親以外に仲のいい人がいない俺に効くんすよね」

「じゃあ生きなきゃな。生きることを諦めんな」

 

「こんな状況で?ポジティブも天元突破じゃないっすか」

 

生きることを諦めるなと言われても。既に片腕と頭以外炭化している。

死まで秒読み。残り1分もないだろう。

 

「ポジティブかあ。ポジティブにならなきゃやってられなかったってだけさ」

「自己肯定感が高そうで何よりですわ」

 

そう言って無言の時間が数秒。

その後、彼女はポツリと呟いた。

 

「……アタシも最後に心の底から思いっきり歌いたかったなあ」

「じゃあ歌えば良くないっすか?」

 

「え?」

「最後だし、やりたいことやって死んだ方がいいでしょ。あ、じゃあ俺と最後に握手してくれません?」

 

「……へ。お前なかなか面白いやつだな。最後の握手会だ、ほら」

 

そう言って差し出される手にかろうじて動く手で握り返す。

 

「アタシらの歌は知ってるな?」

「ん?まあ」

 

「じゃあ最後にお手手を繋いで一緒に歌おうぜ」

「……俺歌下手っぴなんだけどなあ」

 

「いいんだよ。最後に楽しく歌えばな」

「……文句は受け付けないんで」

 

 

 

「「──────♪」」

 

 

 

 

そうして、最後の最後。

俺たちは一緒に歌った。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

そして現在──

 

 

「なんだコイツ…!いやらしい攻め方しやがって…!

 

いや今のガード間に合っただろ。読み負けてんじゃん。もっと慎重に立ち回れって。

 

んじゃおま、やってみろよ!こいつやり辛いから…!」

 

 

──楽しくゲームに勤しむ毎日。

 

あの時死んだ。死んだはずだ。手を握って歌った最後の思い出を冥土の土産に死んだはずだった。

 

気がついたら荒野と化したあの場所で目が覚め、炭化してたからだは元通り、そして、俺の中に──

 

 

「うひぃ…勝てたぁ……。

 

アタシならもっと余裕で勝てたな。

 

言うだけタダだしなあ。初心者ランク帯でも手こずってる人がなんか言ってら。

 

ははは、お前をいの一番に殴ってもいいんだぞ?

 

やめて、"意識は2つ"だけど"体は1つ"なんだから。自分で自分を殴る構図になっちゃうから」

 

 

──俺の中にあの時一緒に死んだはずのツヴァイウィングの片割れ。天羽奏の人格が生まれてしまった。

 

人格が生まれたのか本人が俺の中に入り込んだのか。それは分からないが、とにかく俺は俺自身と天羽奏の人格を宿した多重人格者になってしまったわけだ。

 

 

「はあーあ。最初の頃は三下口調だった癖に生意気なっちまってさあ。

 

そりゃ、文字通り一心同体になったんだから、あのまま遠慮気味の態度続けてたら俺の精神すり減るわ。

 

ま、アタシもこっちの方がとっつきやすくていいけどな」

 

 

そんな会話……独り言?をしつつゲームを閉じる。

こんな時間か。風呂入って飯食って……あー、トイレも行きて。

 

 

「初めの頃はトイレも風呂も躊躇ってたよな。

 

そりゃ、俺の中に女の人いるとか躊躇うって。

 

アタシは別に気になんないけどな。

 

俺が気にすんの。まあもう躊躇ったところでって感じで気にしてないけどさ。あと今から親の前に行くんだから表出てくんなよ?独り言が激しい変なやつだと思われちゃう。

 

いいじゃん、もう変なやつなんだし。

 

俺泣いちゃおっかな?社会的に生きてけないような泣き方をご披露しちゃおっかな?」

 

 

そんなことを言いつつ、部屋を出て親と一言二言の会話してるタオルを手に風呂場へ向かう。

 

 

「今日晩御飯なんだ?

 

バンバーグだとさ。

 

やりぃ、アンタのママさんのハンバーグまじ美味しいから好物なんだよなあ。

 

さいですか。そら良かったですわ」

 

 

ぬぎぬぎと服を脱ぎながらの会話。

はたから見たらほんとに変なやつに見えるんだろうなあ。

 

脱衣所の姿見。そこに移る我が体。

至って普通の男。最近、奏の指導で鍛え始めたからか筋肉も少しばかり筋が出てきてなかなかにいい感じの仕上がりだ。ただ顔は普通だな。フツメンすぎてもはや空気になり得るどこにでもいる顔。

 

くそ、イケメンに生まれたかったぜ。

 

 

「うーむ、いい体になってきたじゃんか。

 

おめーはあんま見んなよ。

 

いいだろ別に。それになかなかどうしてお前も男なんだなと実感するし……なかなかいい大きさのものも持って──

 

そこは特に見んなよ。エロオヤジかこのド変態め」

 

 

呆れつつ鏡から離れる。

平和な日常は戻ってきたが、相変わらず俺の中の天羽奏はうるさい。

 

これが俺こと"天野彼方"の日常である。




続くかな。
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