俺の中の天羽奏がうるさい 作:二重人格
「──違う。もっと右のアームを景品に寄せろ」
「こ、こうですか…?」
「ばっか。ボタン離すの早すぎ。それじゃ景品に爪当たんだろ」
ただいま午後の授業中。
俺と女子生徒"立花響"は今、とあるゲームセンターへと来ていた。
「……そこまでいったらあとは奥側ずっと持ち続けてろ。2、3回で手前の方がバーからずり落ちる」
「は、はい………あ、落ちました!」
「1回で落ちたか。ラバー部分劣化で滑りやすくなってたか。まあラッキーだな」
取れて喜んでいる様子の後輩。
行くかどうか悩んでいて半ば無理やり連れ出したようになったが……存外楽しんでるじゃないか。
「それにしても先輩凄いですね!よくやってるんですか?」
「景品とって、それ売って小遣い稼いでたりするからなあ」
「……転売ですか?」
「言っとくがな転売は別に悪いことじゃないからな。買い占めてそれを高値で売りつける"転売ヤー"が悪なんだ。俺は設定がクソで誰も取れないようになってる機体から景品まきあげてそれを売りに行ってんだよ。売りに出されたもんも定価……よりも少し下くらいの値段で品出しされてたりするから俺は優しい。わかったか」
「は、はい……」
別に言い訳じゃないし。
買い占めてる訳じゃないし。クソ設定のクソ機械にしてるクソ店のせいだし。俺悪くねえし。
「……あ!先輩!あれやりましょう!あれ!」
そんなひとり、心の中で言い訳してたら袖を引っ張りとあるゲームを指差す立花。
そこにはよくあるレーシング系のゲームがあった。
「いいけどさ……じゃあほれ座れ。教えるから」
「はい!よろしくお願いします!」
元気よく声を出して意気揚々とゲームに向かっていく。
……たまには悪くないかもしれんな、こういうのも。
──……案外楽しんでるじゃん?
うるせえやい。
頭に響く奏の声を振り払い、立花を追いかけるように歩き出した。
「……初心者なんだからカーブは減速しろ。曲がれねえだろ」
「あうぅ……」
▼▼▼▼▼
夕方の時間になった。
誰かと遊びに来るというのも久しぶりだったが……意外と時間が経つのは早かった。
──やっぱり友達欲しかったんだろ?
──ち、違うし?別に要らねえし?
こんなやり取りを何度頭の中で何度したことか。
現在は近くのファミレスでお食事中。
そろそろ学校も終わり、みんな部活なんかを始める時間だ。
「ん〜!おいしい〜!」
「……そらよかったわ」
パクパクとご飯を食べる立花。
学校の時とは全く違う表情。これが本来の素なんだろう。
「いやあ〜、今日はありがとうございます先輩」
「学校サボって遊ぶ……不良の仲間入りだな」
「不良になっちゃいましたね…」
てへへと笑う後輩。
こんな光景はいつぶりなんだろうか。初めましてなのになんだか懐かしい気持ちになる。
「気晴らしにはなったか?」
「……っ」
何気ない言葉に動揺する様子を見せた立花。
優しそうだもんなあ。気にしちゃうよな。
だからこそ思いつめるタイプだ。友人とかにも弱みを見せちゃダメって思考になってるんだろう。
「……あの、なんで今日私を誘ったんですか?」
「……暇だったから」
「ひ、暇だったんですか…」
「まああとは……頼まれたからだな」
「頼まれた……ですか?」
「おう。俺は善人じゃない。お前がいじめられてようが俺には知ったこっちゃないし、関わったら面倒事になりそうだしな。赤の他人で終わらせるべきだと思ってた。けどなあ……それはそれでうるせえ奴がいるのよ」
「それって…?」
「言わんよ。それこそ面倒事が起こりそうなんだわ」
そんなことを言うと頭の中でワーワー騒ぎ出す存在がいる。うるさい。
まあでも表に出てこないようにしてるあたり、こっちの方にも気を使ってるんだろう。
奏本人も不用意に出るとトラブルが起こることは予想出来てるんだな。
「……私、どうすればいいんでしょう」
「んな事俺に聞かれてもな」
俯く立花に何も言い返せない。
いじめから脱却する方法。それは逃げるか、耐えるか。大雑把にいえばこのふたつだろう。
守ってもらうってのもあるが、先生どもがこの状況に気づいてないはずがない。それでも何もしてこないってことは頼れないし、もはや家にひきこもってた方がいいんじゃね?
「……私、ツヴァイウィングのライブに行ってたんです。そしたらノイズに襲われちゃって。その時、天羽奏さんに助けて貰った記憶があります」
「…………ほーん」
本人おるよー。ここにおるよー。
……なんか知らんが奏のドヤ顔が頭に浮かんできたんだが?静かにしててくれ。
「生き残って、病院で目が覚めて、リハビリして、学校に行くことは出来たんですけど、そしたら──」
「待ってたのはいじめ、と」
「………はい。なんでお前が生き残ったんだって。お前は人殺しだって。学校だけじゃないんです。家にまで来て石を投げる人や落書きする人なんかも……それでお父さんも出て行っちゃって…!」
うっわ、思っていた数倍酷い状況になってんな。
同じようなことがいろんなとこで起こってるって言ってもここまでの迫害ってあんま無いだろ。
……いや、学生……子供だからか。
超えちゃいけない一線の線引きができてないんだ。だから、悪ノリでやったるぜ的な軽い動機でやってるやつもいるんだろう。
やっぱ人間てクソなんだなあ(しみじみ)
「親友にも迷惑はかけたくないです…!家族にだってこれ以上は…!………奏さんに言われました。生きることを諦めるなって。でもこれ以上私どうしたらいいのか…」
親頼って引きこもるにしてもここまでになってるなら無理じゃん。
──何とかしてやれない?
なんでさ。俺がやる必要も意味もないだろ。
──アタシの罪悪感すごいんだよ
なしてお前が罪悪感を持つ。命を助けた、それだけで十分だろ。それ以上救うなんて傲慢で本当に強い力を持つやつの特権だ。
──………
俺の返す言葉に黙った奏。
頭に浮かんだのはしょんぼりした顔だった。
ため息がこぼれる。
ひとまず伝票を手に取り、レジへ。
「あ、お会計…!」
「払っとくわ。付き合わせてんだから当然だ。お前はゆっくりしてろよ」
適当に手を振り、金を払い、立花の視線を感じながら店を出てこれからのことを考えた。
頭が痛くなる。助ける義理はないが、それでもこの問題を放置してたら俺の中の天羽奏がずっと引きずる。それはそれでウザイものだ。
スマホを取りだし、電話をかける。かけた相手は──
「……あーもしもし親父?……おん、今帰るって。飯食ってた。友達?……違う違う。そんなやついないって知ってんだろって。……あーそうそう、先に謝っとこうと思って……何がって?いや"これからまた迷惑かけるかもしれない"からさ……おん。母さんにも言っといてよ。あい、あいあい」
電話を切る。
息をこぼす。
いやはや、やりたくねえなあほんとに。
「……ありがとな彼方。
お前らがウザすぎるからな、しぶしぶだよ。
ははは……でも"このやり方"は……。
うるせ。俺の頭だとこういうやり方しか知らん
……ほんと、悪いな。
悪いと思ってんなら今後は無茶振りやめろよ?」
スマホを操作し、やることをやり終えポケットにしまう。
これからのことを考えると……憂鬱だなあ。
原作突入までは続けたい。