特撮系魔法少女・モモ   作:緋海

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本格的なキャラ、世界観設定は二話目からです。


「……魔法少女、モモ」

月が真下を向く頃。

森の中に、拳と拳がぶつかり合った衝撃音が駆け巡った。

その音と同時に、二つの影もぶつかり合っていた。

 

 

「へっ、やるな()()()()……!」

 

 

そう言い放った一つの影は、化け物そのものといった見た目だった。

輪郭だけなら人に近しいが、全身が黒く、毛が生え、頭からは触角のようなものが生えている。

更には人とは違う目が四つ、口には牙が。

その姿はまるで、人型のクモのようだった。

 

 

「……」

 

 

もう一つの影は、少女だった。

こちらは完全に人の姿だったが、化け物とは違う異様さを醸し出していた。

 

色褪せ、灰色になっている日曜の朝に見れそうなドレスとヒールブーツ。

そのドレスを覆い隠すように包みこむボロボロの暗い茶色のマント。

背中を覆い隠すほどに伸びている、くすんだ桃色の髪。

そして鞘はなく、背負うためのベルトもない、西洋の剣(ロングソード)を大きくしたような大剣が、少女の背に浮かんでいた。

 

 

その化け物と少女は、ボクサー同士が挨拶をする時のような状態で、右の拳を合わせながらファイティングポーズをとっていた。

 

 

邪魔(よこしま)である俺に張り合えるとは……さすが魔法少女ってやつだ。だがてめえ、ひよっこだな?」

 

「……」

 

「まるわかりだぜ?魔法らしい魔法も使わねえ、背中にはお飾りの剣。次々と俺の仲間を潰していったらしいが、それももう終わりだ。ビギナーズラックも終わっちまう頃合いだ」

 

「……」

 

 

人の顔ではないのに、どこか嘲笑っているように感じる顔をする化け物は、少女を煽る。

だが少女は、感情を読み取らせない無表情のまま、煽りを無視していた。

 

化け物はつまらなそうに息を吐き、そして合わせていた拳で少女の手首を掴む。

そのまま引っ張り膝蹴りを少女の腹に向ける。

 

少女は眉一つ動かさず、引っ張られながらも半身にするように右側に避ける。

その次の瞬間には化け物の手には何もなかった。

 

 

「なに――」

 

 

それに気づいた化け物は、守りの構えにするために急いで体勢を整えようとするが。

 

 

「……」

 

 

まるで遅いと告げるように、少女は化け物の顔面に右ストレートを打ち込んだ。

まともに食らった化け物は怯み、その隙を見逃さなかった少女はフック、掌底、ハイキックを叩き込む。

 

 

「ぐおぉっ!?」

 

「……」

 

 

そして、とどめと言わんばかりの回し蹴りを腹に直撃した化け物は、勢いよく数十メートルも飛んで行った。

少女はゆっくりと蹴りの体勢から元に戻し、飛んで行った方を見つめる。

生い茂る木々と、周りに漂う暗闇によって見えないため、反撃を警戒していた。

 

 

「……?」

 

 

しかし、いつまで経っても音すら返ってこないことに、少女は僅かに首を傾げる。

そしていっその事、自身から向かおうと決めたらしく、足を一歩踏み出した。

 

その時だった。

 

 

「……!」

 

 

少女の頭上に一瞬の影が飛んだ。

すぐさま全方位に警戒を向けるが、その場所には既に、化け物は消えていた。

 

 

 


 

 

 

「――というわけで、今日はすぐに家に帰るんだぞ~」

 

 

そう先生が言い終わると同時に、チャイムが鳴った。

気を付けて帰れ~と言いながら、先生は荷物を持って職員室に帰っていった。

クラスはざわざわとしながらも、ぽつぽつと教室を出る生徒が出る。

かくいう私も、荷物をまとめた鞄を持って帰ろうとしていた。

だけど、教室から出ようとしていた友達を見つけて、いいことを思いつき、呼び止めた。

 

 

「と、トウカちゃん!」

 

「あ、ルイルイ!どうしたの?」

 

「もし用事とかなかったら、一緒に帰らない……?」

 

 

トウカちゃんはちょっと考えるそぶりを見せて、いいよと笑ってくれた。

えへへ、やったっ!

 

 

 

私の名前は立花ルイ、中学一年生。

ここ、石森市にある中学校に通ってる、ごく普通の女の子。

自分で言うのもなんだけど、少し内気で友達もほとんどいない。

でも、そんな私でも大好きな友達……親友と言える子がいる。

 

 

「ふわぁ……」

 

 

そう、私の隣であくびしながら歩いている、本郷トウカちゃん。

この子が私の親友。

私と違って元気ハツラツで、誰にでも優しくて、可愛くて、運動は得意だけど勉強がちょっと苦手で、可愛くて、人助けが大好きで、可愛くて、おっちょこちょいで、ちょっぴりお節介で……

とにかく、とても素敵で大切な友達。

 

 

「最近よく眠そうだよね、夜更かし?」

 

「え?あ、うん、ちょっとね。えへへ……」

 

「ふ~ん……」

 

 

トウカちゃんははぐらかすように笑う。

私は気になる心を静めながら、話題を切り替える。

 

 

「そういえば先生の話だけど、何があったのかな」

 

「……話?何か話してたっけ」

 

「六時間目の最後に先生が話してたよ。もしかして……その時間も寝てた?」

 

「えへへ!」

 

「エヘヘ!じゃないよ……結構大事なこと話してたんだよ?」

 

 

そうなの?と首をかしげるトウカちゃんに、私はしょうがないなぁと微笑み説明する、

 

 

「なんか、まるで血を吸われて死んだような、そんな死体が朝見つかったんだって。だから複数人で、早く家に帰りなさいって、言ってたんだよ」

 

「へぇ……そうなんだ……」

 

「……トウカちゃん、近づいちゃダメだよ」

 

「えっ!?近づかないよ!どうしてそんなこと言うの!」

 

「だってトウカちゃん、こういう時バーッて行っちゃうんだもん。『私が退治してやるー!』って」

 

「そんなぁ、昔じゃないんだから……」

 

 

トウカちゃんは恥ずかしそうに頬をかきながら笑う。

前科があるもん、仕方ない。

人のためだったとはいえ、危なかったんだからもう無理しないでほしい。

 

 

「本当~?」

 

「本当!ルイルイも危ないから近づかないように!あ、夜に出歩くのもダメだからね!」

 

「もう、トウカちゃんじゃないんだからしないよ」

 

 

どういうこと~!と私に抱き着くトウカちゃん。

びっくりしつつもそういうところだよなんて返しながら、じゃれかえしたり、されたりして私達は歩いていった。

 

あんなこと言ったけど、私達はもう中学生。

危ないことからは離れられるし、近づかない方がいいことも分かる。

トウカちゃんもそれは分かるようになってるはず。

だから大丈夫。

 

 

 

そう思っていた。

私は知らなかった。

危ないことは、知らぬうちに近づいてくるってことを。

足元の影のように、逃げられないことがあるってことを。

 

この時の私は、知らなかった。

救い出しに来てくれる、影を打ち消すヒーローもいることを。

 

 

 


 

 

 

「はっ、はっ、はっ……!」

 

 

ぽつぽつとある街灯のみが照らす暗闇の街。

人通りの少ない道を青髪の少女――ルイが走る。

何かに追われるように、何かに怯えるように。

 

どうしてこんなことに……ルイは少し前の景色を思い出していた。

 

 

 

「ふぅ、お店空いていてよかったぁ……」

 

 

ルイは夜、文房具が無くなりかけなことに気づき、急いで夜の街に出ていた。

そして目的のものは手に入れられた。

思ったより早く手に入ってよかったと安堵しながらも、ルイは先生とトウカの言葉を思い出し、急ぎ足で家に向かっていた。

 

大丈夫、急いでるし、少ししか外に出てないから――そんな風に言い訳を呟いているとき時だった。

 

 

目の前で、何かが倒れた。

 

 

「ひゃっ!?な、なに……?」

 

 

丁度暗闇に塗れた場所から聞こえた音に、ルイは足を止める。

鳥か、猫か、まるで生き物が倒れたような音に、彼女は感じた。

気になる――しかし、ルイは道を戻ることにした。

危ないことから離れる、私はそれはできる。

遠回りになるけど、そうしよう。

 

そう足を後ろに向け。

 

 

「丁度よかったぜ……野郎の血じゃほとんど魔力が籠っちゃいないからな。女……しかもこいつのはいい!」

 

 

そしてルイは、走り出した。

 

 

 

後ろからは何かが追いかけている音がする。

ドシドシと力強く、しかし素早く、しかし遊ばれているような音が、近づいていた。

ルイは振り向けなかった。

どのような人が追いかけてきているか気になるが、振り向けば捕まると。

 

ルイの後ろに、ひゅっと一つの線が通る。

 

 

「きゃっ!」

 

 

それはルイの足元に『ベチャッ』と音を立て、落ちる。

ルイは当たらずとも、突然来たそれに驚き、後ろに倒れてしまった。

そして目にする。

それはまるで、白く、粘着質に見える……クモの糸のようだった。

 

 

「へっへ……鬼ごっこはもう終わりか?」

 

「ひっ!?」

 

 

ルイはそれに思考する時間すらなく、後ろの声に反応するしかなかった。

その声は、幼気な少女を嘲笑うかのような意思を感じさせる、邪悪なものだった。

 

ルイの口から零れるのは、小さな息ばかり。

心の内には、恐怖ばかり。

頭には、殺される、そう直観が浮かんでいた。

 

恐る恐る、ゆっくりと、振り返る。

 

 

「よう、嬢ちゃん。補導の時間だぜ」

 

 

そこには、まるで人の形をしたクモが――

 

 

「……貴様は、処刑の時間だ」

 

 

――斬られそうになっている景色だった。

 

 

「!?ちぃっ!!」

 

 

間一髪、クモの化け物は跳んで避け、それを斬り割こうとした大きな剣は止まった。

その剣の持ち主は、ゆっくりと背に剣を仕舞うように、手から離した。

 

 

「……無事だな」

 

 

ルイは見た。

無骨に見える剣と色遣いに目をそらせば、まるで魔法少女のような目の前の、少女を。

成年のように見えて、メイクでごまかされた顔をしている、自分と同年代ほどの若い顔を。

 

奇麗だ。

そう感じるのは二人目だ、と、場に合わない考えを浮かばせていた。

 

 

「……逃げられるか」

 

 

ルイは自分にかけられた問いということに、数秒経って気づいた。

 

 

「えっ、あっ……こ、腰が抜けて……」

 

「…………そこを動くな」

 

 

そう言った少女は振り返り、化け物を注視した。

化け物は不愉快そうに、ほんの僅かに焦りながら、少女を見る。

 

 

「チッ、どうやって嗅ぎつけやがった」

 

「……」

 

「少しくらい喋りやがれ、せっかくいい面なのに……よっ!」

 

 

化け物――クモの邪魔は呑気に話しかけ、瞬時に(少女)に距離を詰める。

そして右手で、少女の顔に掴みかかろうとする。

それを見抜いていたのか少女は、左手で邪魔の手首を掴んだ。

そのままお返しと言わんばかりに、顔面に右ストレートをお見舞いする。

 

 

「ぐぁあっ!」

 

「……」

 

 

もろに受けた邪魔はよろけ、少女は手を放し屈む。

前にステップを踏み、その勢いのままアッパーを顎に打ち付ける。

邪魔は後方へ勢いよく吹っ飛ぶが、空中で回転し地面へと着地する。

 

 

「クッソ……!食事の邪魔をしやがって……!」

 

「…………邪魔はお前、だろ?」

 

「てめぇ!」

 

 

煽られ、完全に怒りの導火線が焼き切った邪魔は、少女に駆け、殴りかかった。

少女は対照的に歩いて近づき、飛んできた拳を軽く避け、そのまま返す(カウンターパンチ)

邪魔は少し怯むが、そのまままた殴ろうとするが、またカウンターパンチを、今度は二発食らう。

 

 

「く、クソ……!」

 

「……街中で戦い始めたのは愚かだったな」

 

「はぁ……はぁ……へっ、それはてめえもだろ、魔法少女……!」

 

「魔法、少女……?」

 

 

後ろにいたルイが、耳にした言葉を反復した。

少女はその言葉に、少し目を振り向かせてしまった。

 

 

「へっ、今だ!」

 

 

邪魔は口から、白い糸を向け飛ばした。

少女は咄嗟に腕でガードしたが。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

その糸は、少女の後ろにいるルイに飛ばされていた。

ルイは糸に纏わりつくように縛られ、そして邪魔の方へ引っ張られる。

そして抵抗すらできないまま、邪魔に右腕で抱えられるように捕まってしまった。

 

 

「っ、ルイ!」

 

「動くな!」

 

「っ……!」

 

「動いたらどうなるか分かってるな?」

 

「ひっ……!」

 

 

邪魔はくつくつと笑い、ルイの首に向かって、左手の爪を立てる。

 

 

「やっぱりちゅんちゅん鳴くひよっこだったなぁ!てめえの幸運も終わっちまったってことだ!」

 

「……」

 

「俺はこのまま逃げさせてもらうぜ、あばよ!」

 

「た、たすけ――」

 

 

ルイが少女に向かって手を伸ばした。

同じように、少女もルイに手を伸ばす。

だが届くはずもなく、糸を使い空へ舞った邪魔によって、連れ去られた。

 

 

月だけに照らされるように、二つの影が浮かんでいた。

そして、それを見ているのは、一人だけだった。

 

その場に人がいれば、こう答えたであろう。

何も浮かんでいないような表情で、しかし、確かな怒りを見た、と。

 

 

「……」

 

 

己を鍛えるためといえ、守れなかったら意味がない。

 

 

「幸運が尽きたなら」

 

 

少女は、剣を引き抜いた。

 

 

「実力で覆すだけだ」

 

 

上段に構えられた(つるぎ)は、影に向けられ――

 

 

「『偽剣(ぎけん)』」

 

 

――振られた。

 

 

 

「へっ、へへ……!やってやったぜ……!あとはこのガキを食って、魔力を回復させれば――」

 

 

その言葉は全て、紡がれることはなかった。

前に抱えていた少女を掴む力を無くし、ルイは下へと落ちる。

ルイは突然のことで、驚愕の顔以外に何も出せなかった。

目は自身を掴んでいたはずの化け物に、向けられていた。

 

化け物は、邪魔は。

まっすぐに中心を斬られ、線がつけられていた。

線からは光のようなものが溢れ、そして。

 

 

「――きゃっ!?」

 

「……大丈夫か」

 

「……は、はい……う、受け止めてくれて、ありがとう……」

 

「……気に、するな」

 

 

爆発した。

 

 

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

ルイを降ろした少女は、そのまま歩いて消え去ろうとしたが、呼び止められた。

少女は立ち止まり、一瞬の長考をした後、振り返った。

そして、声をかけた。

 

 

「……なんだ」

 

「あ、あなたは……一体……?」

 

 

ルイは恐る恐ると、しかしはっきりと問いかけた。

もしかして。

本当に。

彼女は。

本物の。

 

 

そして、少女は答えた。




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