ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

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第一話 ネズミ色の空の下

 新エリー都郊外のホロウ内のとある研究所。

 数十名の研究員が今か今かと自分たちの研究の成果が完成するのを待っていた。

 円柱のガラスの内部は液体で満たされており、緑髪の少女が一人、胎児の様に体を丸めて眠っていた。

 

 しかし完成予定よりも3日が経過しても自分たちの作品は目覚める気配が無く、研究員たちも焦り始める。

 

「…理論上は問題ないはずなんだが…」

「勘弁してくれよ…ただでさえうちは遅れてるっていうのに…」

「おい聞いたか?向こうの研究所は11号…?だったか?がまた成果を上げたらしいぞ…」

「クソッ…だ、だがうちの方が数値のスペックじゃ上だし、それにあの〈機能〉だってある…!完成はしてるんだ…!目覚めさえすれば…!」

 

 青いふちの眼鏡をかけた白髪頭の男はぎりぎりと悔しさに歯を軋ませ、自身の作った資料を床に叩きつけてガラスの中の少女に怒鳴る。

 

「なぜだ!なぜ目覚めない!!お前も!お前も父さんを無能だと!言うのか!!ホロウで死んだお前を蘇らせてやったのはこの私なのだぞ!そして新たな体を与えたのだ!最強の体を!!」

 

 男はガツンガツンとガラスを殴り、蹴り始めるが、他の研究員たち数名に止められる。

 

「せ、先生落ち着いてください!HE-Pに何かあったらそれこそどうするんですか!?」

「そうですよザイン先生!我々にはもう後が無いんです!これに失敗したら…!」

 

 その時、研究員たちの背後の扉が開き、きっちりと整った軍服を着た男と、武装した兵士2名が入ってくる。

 

「し、指令…官……」

「そこの君。そう、君だ…失敗したら?なんだというのだね?」

 

 司令官と呼ばれた男はガラスの中の少女を眺めながら、研究員に問いかける。

 

「…そ、その…」

「ふむ…言いにくいか。ではその先の答えを私が答えてやろう」

「ひっ…!」

「死だ」

 

 その瞬間、一つの銃声と共に研究員の一人が倒れる。

 

「さて、ザイン君。久しぶりだね…どうだね?HE-Pは」

「お久しぶりです司令官…理論上は完成しております。ですが目覚める予兆が無く…」

「ほう、では失敗作ということか」

「い、いえ違いますそうでなく!」

「何が違うというのかね?君は弾を発射できない銃や、爆発することが出来ない爆弾でも兵器と言うのかね?」

「それは…」

 

 がっくりと肩を落とすザインの肩に手を置き、司令官は「残念だよ」と告げる。

 

「この研究所は破棄する」

「ま、待ってください!あと少し…あと3日…下さい!必ずHE-Pを起動して見せます!」

「……2日だ。それまでに起動出来ない場合君たちの処遇は…分かっているね?」

 

 その後司令官は周囲の研究員たちに「その死体を片付けろ」とだけ言い残し、兵士と共に去っていった。

 

 そして2日後、再度研究所を訪れた司令官たちはエーテル結晶にひどく覆われ、浸食されつくされた研究所を目にすることとなった。

 当然、誰もいなかった。ガラスの中の少女も含んで。

 

そして時は流れる――――

 

 

◆◆◆

 

 新エリー都ルミナスクエア路地裏。

 雨が降りそうなネズミ色の空の下、金髪のロングヘアでボディラインの出るライダースーツに黒い革のジャケットを着たネズミのシリオンの女性が壁にもたれて人を待っていた。

 

「…遅いわねぇ…」

 

 腰に付けたポーチからリップチークのコンパクトを取り出し、小指にリップを付けて唇に塗り、コンパクトの鏡で『髪型』が崩れていないか確認し、長い尻尾の先で整える。

 

「すまぬ。遅くなった」

 

 声をかけられたネズミのシリオンが声のする方を見ると、濃い緑のツインテールの少女が一人立っていた。だが、その少女の出で立ちは治安局の職員で、太ももなどの所々に人ならざる機械の特徴があった。

 

「あら、青衣じゃない。朱鳶から連絡があったからてっきり朱鳶が来るんだと思ってたわ」

「うむ然り。朱鳶が向かうはずであったのだが急に上層部から呼び出しを受けてな。代わりに我が来ることとなった」

「ふぅん…で、資料は?」

「これだ、受け取れ」

 

 印鑑ケースほどの小さな筒を受け取り中身を確認する。

 中には日時が書かれた紙とデータチップが入っていた。

 

「…しかしジェーンよ。此度もまた奥ゆかしい姿であるな」

「そうでしょ?今回の潜入は簡単だけど色々あるからね…あと、向こうでの呼び方はレディ・ノワールよ。気を付けてね」

 

 ジェーンと呼ばれたネズミのシリオンは人差し指を口に当てて「しーっ」とするように自分の尻尾を唇にそっと当てた。

 

「ふむ…【黒鳶会】であったか。一時期は勢力を減らしていたというのに最近になって何か後ろ盾でもできたのやもしれんな」

「おまけに最近になって強ーい用心棒が2人もいるんだとか…気を付けてね?」

「そのうちの1人はぬしであろう…では、渡すものも渡した故、我は失礼する…あぁそうだ肝心なことを伝え忘れておった」

「あら、なにかしら?」

「今回も山獅子組の時と同じように、セス坊は何も知らん」

「あらあらかわいそう!」

 

 くすくすと2人で笑いあった後、ジェーンは「じゃあね」と路地裏のさらに奥へと消えていく。

 

 【黒鳶会】、マフィアグループの1つで先ほど青衣が言ったように勢力を落としていたはずの、本来ジェーンが潜入することなどしなくてもいい取るに足らない集団のはずだったが、ここ最近は資金のハブリや、構成員の数などがメキメキと一気に成長していた。最近ではホロウを使った裏社会のビジネスにも参入しているほか、【黒鳶会】によってHIAの調査員が襲われ、物資が強奪される事態も増えていた。

 

「…さぁて、決行の日までにもう1人の用心棒さんのこと、ちゃんと調べないとね…アタイもまだ会えてないし…」

 

◆◆◆

 

 その後いくつかのホロウを経由し、ホロウ内の【黒鳶会】の根城の前に帰ってきたジェーンはレディ・ノワールとして、中にいる門番に声をかける。

 

「お疲れ様、開けてちょうだい」

「ノワール先生ですかい!お帰りなさいやし!今開けやす!」

 

 扉は銀行の金庫のような強固な作りで、男二人掛りでやっと開場する。「ありがと」と門番の横を通り過ぎるときに尻尾の腹の部分で頬を撫でてやると門番からは黄色い声が上がる。

 

 根城の中はホロウの中とあってエーテル結晶があちこちに生えてはいるが、それ以外は洋風な作りで手入れが行き届いている。【黒鳶会】のボス、ゼンダーは以外にも綺麗好きで自らも根城の掃除を行うほどである。

 ジェーンはそのままボスの部屋へ向かい、ノックする。少しして「入れ」とボスのお付きの男がドアを開け、中へと入る。

 

「おぉ、ノワールか」

「ただいま戻りました、ボス…ご報告しても?」

「構わん」

 

 椅子に座って資金についても資料を見ていた中肉中背の男、ゼンダーはその資料をポンと小脇に投げる。

 

「現状、治安局も【黒鳶会】の脅威度については他のグループより高い位置に設定しているようです。あと、ホロウレイダーから面白い情報を手に入れました」

「ほう、言ってみろ」

「はい。どうやら治安局はポート・エルビス近くのホロウのビジネス用倉庫を我々の根城と勘違いしているらしく、数日以内にそこに突撃するとか…」

 

 もちろん今のジェーンの発言は全て嘘だ。本当は倉庫ではなく、本当の根城のここに突撃する手筈になっている。

 ポート・エルビスのホロウの中の倉庫はそれはもう大量に物資が詰め込まれており、数日どころでは1割ほどしか運び出せないほどであった。【黒鳶会】としては大事な資金源の倉庫の物資は失いたくない。となれば…

 

「なるほどな…確かにあそこには見張り番として何十人か置いているからな…よくやった。追加の人員を動員しよう。ノワール、お前はすぐに倉庫に行って今のことを伝えろ。治安局と全面戦争だ…まぁ、向こうの倉庫にはもう1人の用心棒を置いているが…戦力があって困ることはない…」

 

 その言葉を聞いてジェーンはチャンスだと思った。

 

「ボス、そのもう1人の用心棒って誰ですか?」

 

(聞き出せることは、聞いておかなくちゃね?)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、特務捜査班…

 

セス「くっ…」

 

朱鳶「セス君…どうしたの?その資料に何かあった?」

 

セス「違います!このレディ・ノワールってやつ…出自や経歴を見るにこんなことをするような奴じゃないと思うんです!!」

 

朱鳶「!?」

 

セス「班長!コイツの相手は俺に任せてくれませんか!?説得してみます!!」

 

朱鳶「~~~~~~!(笑いをこらえる)」

 

セス「…班長?」

 

朱鳶「え、えぇ!そうね!ただ、今回は敵のボス…ゼンダーを捕らえることが優先だからそれが済んでからね!」

 

セス「…っ…分かりました!…任せてください!ゼンダーを捕らえて、このレディ・ノワールも必ず説得してみせます!」

 

朱鳶「ン、ンフッ…wわ、分かったわ…セス君に任せるわね…!」

 

セス「…!はい!やってやります!!」

 

青衣「今戻った」

 

セス「あ!青衣先輩!先輩はレディ・ノワールをどう思います?俺は絶対…本当はいい奴だと思うんです!!」

 

青衣・朱鳶「「ブフォwwwwwww」」

 

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