ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

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第十一話 またしても何も知らないセス

 

 治安局ルミナ分局受付にて――

 

「治安官の朱鳶さんを呼んでくださる?【黒鳶会】の『レディ・ノワール』って言えば分かってもらえるわ」

 

 その言葉に周囲の治安官たちは凍り付いた。先日治安局の【黒鳶会】の根城への突入作戦があったばかりで、『レディ・ノワール』が捕縛できていないという噂が上がっていたからであった。さらに、この時まだジェーンは知らなかったのだが、実は昨日のうちに【黒鳶会】の倉庫でも事件があり、ピリピリしていたのである。

 

「…わ、分かりました。治安官朱鳶は現在現場に出ておりますので、ひとまず応接室にご案内します…」

「ありがと、行きましょマイハニー」

「え、あ、あのそちらの女の子は…」

「あら、この子は【黒鳶会】のもう一人の用心棒の子よ?ねぇ?」

「ん」

 

 ツヴァイがコクリと頷くと、受付で対応した治安官がいかにも「勘弁してよ…」という顔をしている。

 

「大丈夫よ。アタイたちは暴れに来たんじゃないから…その気があるなら既にやってるわよ」

「…っ…く、くれぐれも騒ぎを起こさないようにお願い致します…」

「アハハッ!だってさハニー?アタイたち悪人じゃないのにねぇ?」

 

 ツヴァイに顔を寄せて、小さな声で、「大丈夫、アタイのはぜぇんぶ演技だから」と小声で言った後、ツヴァイと腕を組んで案内の治安官の後に着いていく。

 

 応接室に入ってからは念のためと銃を持って武装した治安官2名が同室してきたが、『レディ・ノワール』はそんなことはお構いなしと椅子に座って、更にはツヴァイを自分の膝の上に座らせて手を握ったり、頬にキスをしたりとやりたい放題していた。

 10分程してからだろうか、応接室の扉が勢いよく開かれて、息を切らした猫のシリオンの治安官の男が入ってくる。

 

「ハァッハァッ!げほっ…れ、レディ・ノワール!自首しに…きたのか!?」

「あらセス治安官。ご苦労様ね?まずはお水でも飲んで落ち着いたら?」

「あ、あぁ…そうする…げほっ…」

 

 備え付けのウォーターサーバーから紙コップに水を注ぎ、一気に飲み干したセスは呼吸を整えてからノワールと少女に対面するように机を挟んだ位置に座る。

 

「で?自首しに来たのか?」

「そればっかりね?今日はお話ししに来たのよ、アンタの班長様とね」

「朱鳶班長と…?やっぱり昨日のことで…?」

「まぁね、だから自首とかそういうのはナシよ」

「だ、だがなぁ!?ここは治安局の中なんだぞ!?お前たちがこのまま出られるかなんてそんなの分からないんだぞ!?」

 

 セスから出る言葉はどれも心配から来るものだった。自首をすれば罪は少しでも軽くなるし、きちんと更生するというならばセスは自らの名前で嘆願書を書いてもいいと必死に説明した。

 

「それに……その子は…どうするんだよ」

 

 心配していたのは『レディ・ノワール』に対してだけではなかった。少女もその対象で、「まだ子供何だろう?」と頭を抱えていた。

 

「そうねぇ、アタイはハニーにもしものことがあろうとも命を懸けて守るわアンタたちを薙ぎ倒してでもね?」

「だ、だったらなおの事自首を!」

 

 その時、部屋の扉をノックする音が聞こえ、扉が開いて朱鳶と青衣が入ってくる。

 

「あ、は、班長!お疲れ様です!その、い、今なんとか自首をしてもらうように説得してるんです!だから逮捕は待ってくれませんか!?」

 

 『レディ・ノワール』は朱鳶に目で合図すると、朱鳶は「はぁ…」とため息をつく。

 

「…セス巡査、それは出来ないわ…自首は認められません」

「なっ…!ま、待ってください!お願いします!コイツには更生の余地があります!」

「セス坊…朱鳶もそう言っておる。自首はナシだ」

「青衣先輩まで…!?」

 

 「そんな…」と後ずさって壁に背を預けて項垂れるセスを見て、朱鳶は「もう、いいかしら?」と言い放つ。が、それはセスに対してではなかった。

 

「えぇ、いいわよ」

「ま、待ってくれ!『レディ・ノワール』!お前は!お前たちはまだ…!」

 

 手を伸ばすセスの肩に朱鳶が手を置く。

 

 

「いい?セス君。この部屋の中に自首しなきゃいけない人は…いないのよ」

 

 

「…班長…!!……………ん???え?それって…どういう…?」

「こういうことよ」

 

 金の長髪のウィッグを取り、いつもの黒とアクセントに赤が入った色の長い髪が目のあたりになる。

 

「ハァイ、セス」

「え?」

「ごめんね、セス君。紹介するわ『レディ・ノワール』改め―――」

 

「ジェーン先輩じゃないっスかあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 今日一番の大声を出してセスは膝から崩れ落ちた。その声はルミナ分局中に響き渡ったという。

 

 

◆◆◆

 

 

「で?なんで俺にだけ黙ってたんスか?」

 

 ほどなくしてセスは机に突っ伏してふくれっ面をしていた。その様子を青衣が「ほっほっほ」と笑う。

 

「笑い事じゃないっスよぉ…!山獅子組の時とほぼ同じ感じじゃないですか…」

「ごめんねセス君。今回も例によって極秘の潜入だったのよ。知っていたのは上層部と私と先輩だけよ」

「残念ねセス。いい声だったわよ」

「然り。いやはや先ほどの叫びは良かったぞ、セス坊よ。山獅子組の時を越えてきたな」

「勘弁してくださいよぉ……」

 

 顔を赤くするセスだったが、「あれ?」と顔を上げる。

 

「え、じゃあその子は一体?俺たちと同じ…治安官…なんですか?」

 

 ツヴァイを見て疑問をぶつけると、朱鳶はこめかみをおさえてため息をつき、青衣はニヤリと笑う。

 

「そこなのよね…ジェーン、その子は誰なの?先輩からは『まいはにー』としか言われないし…」

「あら、その言葉通りの意味よ?【黒鳶会】がどこからか手に入れてきた子だけど、『最終兵器』っていう割には劣悪な環境にいたからアタイが貰っちゃった」

 

 「ね?」と言いながらツヴァイの頬にキスをして、またも朱鳶にため息をつかせる。

 

「その子、どうするつもり?」

「言ったじゃない。アタイが貰っちゃったって、名前はツヴァイ・J・ドゥ。『二人目のジェーン・ドゥ』よ」

「はぁ…もう……えぇと、ツヴァイ…ちゃん?貴女はそれでいいの?」

 

 朱鳶はジェーンに少し呆れた顔をした後、ツヴァイに歩み寄り、目線を合わせて確認する。無いとは思うのだが、何か弱みがあってジェーンに捕縛されているのではないかを確かめたかったのだ。

 

「…ん」

 

 コクリと頷いた後、ジェーンにぎゅっと抱き着くとジェーンは嬉しそうに「ね?」と朱鳶に自慢するように胸を張る。

 

「分かった、分かったから……でも『二人目のジェーン・ドゥ』なんて…」

「あら、アタイだって一応治安局所属って感じだけど犯罪行動『外部』顧問よ?ならこの子もいけるんじゃない?…そ・れ・に、この子ちゃんと強いわよ?ね?セス?」

「うぐっ……そ、その話も勘弁してくださいよぉ…」

 

 あの時のことを思い出して耳がヘニョンと垂れ下がり、セスがバツが悪そうな顔をしていると、すかさず青衣が「ほほう」と横槍を入れる。

 

「ぜひともお聞かせ願いたいものだ…ジェーンの『まいはにー』殿の強さは我も共闘して間近で見たが手合わせはしておらなんだからな…なぁ?セス坊?」

「負けは…確かに認めますけど…今度は負けるつもりはありません!」

「ふむ。その意気があれば良いだろうよ…時にジェーンよ、昨日の件だが…ぬしは倉庫についてはどこまで関与している?」

 

 その質問を皮切りに途端に場の空気が張り詰める。 倉庫、と言われて確かに昨日そのまま放置はしたが、とジェーンは考える。

 

「ふむ…その様子では知らぬようだな…【黒鳶会】の倉庫が無くなっていたのだ」

「無くなる…?あれだけ大きな倉庫が?中身も?」

 

 朱鳶が横から「これを」と資料を手渡す。その資料には写真が添えられており、倉庫のあった場所がまるでアイスクリームを丸くくり貫かれた後の様に綺麗に何もなくなっていたのである。

 

「…これは…」

「俺も周囲を確認したんですが…その場と近くに構成員は一人もいませんでした」

「…さらに悪い知らせがあるの。ゼンダーが護送中に何者かに狙撃されて…死亡したわ。犯人はまだ不明よ」

「…………ふぅ、お似合いの最後とはいえ、あからさまに裏があるわよねぇ…」

 

 ジェーンは顎に手を当てて考える。

 確かに【黒鳶会】は現状恨まれることだらけなことを最近頻出してきただろう。だから狙撃されるのは可能性が無いわけじゃない。そして、恨みだけでなく情報の流出を抑えるための口封じと考えられる。【黒鳶会】が急成長したのはおそらく裏から手を引いていたものがいたからだろう。となると後者の口封じが有力となる。

 

 続いて倉庫の一件。あの巨大な倉庫を丸く綺麗にくり貫く所業はおそらくエーテリアスの仕業と考えていいだろう。だがそうなるとかなりのレベルの脅威が存在するということになる。それこそつい最近ポート・エルピスであった『サクリファイス事件』の様な驚異の何かが……。

 

「…ジェーン…?」

「あら、ごめんなさいね?ちょっと考え事をしてたの」

 

 首を傾げたツヴァイに微笑み返して頭を撫でる。その様子を見ていたセスが「ジェーン先輩ってあんな感じでしたっけ?」と言うと青衣が「言わぬが仏という時もあるぞ」とつぶやく。

 

「聞こえてるわよ?…あ、そうだ青衣。名札の件はどうなったの?」

「名札?私も初耳ですが…」

「うぅむ……その件であるが…」

 

 珍しくなんとも歯切れの悪そうな顔をする青衣にジェーンは嫌な予感が走る。

 

「…それぞれ同姓同名の人物が何人かいて、そのすべての人物のデータを照合してみたが第31研究部という名前、またはそういった部がありそうな企業『には』属しておらなんだ」

「………」

 

 「その…」とセスが手を挙げる。

 

「…じゃ、じゃあホロウレイダーとかが偽の名義を語ってとかじゃないんですか?」

「待って。青衣…企業『には』よね?」

「………」

「え?ちょ、もしかして治安局内部…とか…!?」

「いや、もっと悪いぞ」

 

 そう言って青衣は2つの名札のほかに1枚のA4サイズの紙を取り出し、静かに告げた。

 

 

「防衛軍だ」

 

 

 そう聞いてジェーンは「嫌な予感って想像を超えるときがあるわね」とため息をついた。

 

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