ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

12 / 22
第十二話 空白の1ピース

 

 名札にある『第31研究部 研究員』たちが防衛軍の人員であると分かり、腕に抱いていたツヴァイの頭に顎を乗せて、またため息をつく。

 正直どこかのヤバそうな研究員だろうなとは予想していたが、まさか天下の防衛軍様とは思いもよらなかったのだ。

 

 【黒鳶会】の根城の外で戦った際に見つけた『第31研究部 研究員ミシジマ・キョウ』と書かれた名札は、あのエーテリアスの体に引っかかっていたもので、そのエーテリアスは青衣からの話では裂け目から急に現れたとのことだ。であれば、最初に倉庫付近で見つけたあの名札はあのタナトスの変異種が持っていた…いや、持ち主だったのだろうと推測される。

 

 そしてジェーンは少し迷ったが、2つのエーテリアスと戦った件に関してどちらの戦いについても一緒だったツヴァイのことを潜入中と作戦中の時を含めてすべて話した。

 

 その後すべてを聞いて、あることを質問したそうで気まずそうにする朱鳶を前に青衣が口火を切る。

 

「ジェーンよ。気分を悪くせんで欲しいが1つ我の質問に答えてはくれんだろうか?」

「…………どうぞ?」

「ツヴァイ殿は一体何者なのだ?」

 

 事ここにおいては当然の質問なのだろう。

 現状どこから湧いてきたのかが分からないパズルのピースは裂け目から出てきたエーテリアスとツヴァイである。

 エーテリアスに関しては今回、変異種といいキマイラといい妙な点しかないのだが、名札から防衛軍絡みだろうと推測が出来るし、ホロウ内ではエーテリアスに遭遇することがあるため、この問題は次点。という形でいいだろう。

 一方のツヴァイは【黒鳶会】のゼンダーが『どこからか』連れてきてさらにエーテリアスの弱点が『視える』ということしか分からない。ゼンダーは何かに対して焦っていてツヴァイを『最終兵器』だとも言っていた。もし、倉庫がくり貫かれるように無くなったことに対する対抗手段がツヴァイだったとしたならば、確かに資金源の倉庫を守るための『最終兵器』とは言えるだろう。

 

「……………さて、何者かしらね?」

 

 膝に座らせているツヴァイを対面するように向けて手を握る。

 

「ごめんね?ツヴァイ1つ聞かせてね…貴女は一体何者なの?」

 

 その質問の後、応接室に沈黙が訪れた。途中セスがツヴァイを心配して助け船を出そうとしたが、朱鳶に止められる。

 

「…わたし、は…」

「…大丈夫。ツヴァイが何者でもアタイはツヴァイから離れたりしないわ」

「…っ…」

 

 その後、ツヴァイはポツリポツリと自分が憶えていることを話しだした。

 

「…気づいたら…そこに、いて…ずっと痛くて…『だれか』分からない人に…戦わされて…いろんな、ばしょで……そのばしょがなく、なったら…『だれか』に、別のばしょにつれていかれて、また、戦って…ずっと、戦って……」

 

 その言葉に嘘偽りはなかった。ぼんやりと『誰か』が目覚めさせ、次々と色々な組織を渡り歩かせた記憶こそあるが、それが誰だったのか、どこで目覚めたかはなぜか曖昧で覚えていない。あるのは孤独と戦いの記憶のみだった。

 

「最後に来たばしょで……ずっと、うごけ、なくて……でも、ノワー、ル……ジェーンが、わたしを…助けてくれて…」

 

 話すたびに頭がぐわんぐわんと痛み、思考を乱していく。

 

「…いいわ、ありがとう…よく頑張ったわね…」

 

 優しくツヴァイを抱き留め、応接室は再び静まり返った。

 

「青衣、これで満足?」

「…ふむ、満足だ。とは言い難いが致し方あるまいな…だが、分かったことはある」

「…えぇそうね」

「で、でもそれって…ジェーン、その…大丈夫なの?」

 

 ジェーンと青衣と朱鳶が話を進める中、セスは頭に「?」を浮かべる。

 

「えっと…?どういう、ことっスか?」

「うむ。ツヴァイ殿は今回の【黒鳶会】の様に様々な組織に戦うために籍を置いていたことがある」

「そう、っスね?」

「そしてその組織は都度無くなっているという」

「そう……っスね」

 

「…その後、『誰かが』またツヴァイ殿を別の戦いに赴かせるという。して、現在【黒鳶会】が無くなった今ここにおいて、その『誰かが』ツヴァイ殿を…回収して別の組織に送ろうとするのではないだろうか?」

 

「…ってことは…」

 

 ジェーンを除いたその場にいた全員がツヴァイを見る。この空気が何を意味しているのかが分かっているのか、ツヴァイは表情が無いながらも俯き、手にぎゅっと力を入れる。

 

「ま、そういうことね~。とりあえず今のところアプローチは無いし、いいんじゃない?」

「そうは言っても…」

「大丈夫よ。アタイはみすみすこの子を渡すつもりは無いわ。基本的には外部顧問助手ってことにしてアタイがずぅっと一緒にいるようにするし、厳しい場合は……何か考えるわ」

「はぁ…やり方は任せるわ…その代わり私たちにも何かできるなら遠慮なく言って」

「考えとくわ。じゃ、そろそろ次の用事があるから失礼するわね」

 

 立ち上がって金髪のウイッグを被りなおして整えた後、「さ、行きましょ」とツヴァイの手を引きながら応接室を出ていくジェーンを、朱鳶たち3人は黙って見送った。

 

「…その、本当に良かったんですか?」

「む?どうしたセス坊」

「あ、いや…なんか、ジェーン先輩が一人で抱え込んで無理してないのかって思って…」

「うむ…」

「…大丈夫よ」

「で、でも…」

 

 朱鳶は苦い顔をしながらため息をつく。

 

「…アレ、単純にあの子に対する独占欲と思うから…」

「え?」

「ほっほ…ツヴァイ殿もかわいそうに。時機にジェーンにぱくりと食べられてしまうだろうな…いや、もしかするとすでに…」

「食べ…!?ジェーン先輩って人を食べるんですか!?」

「…そういう意味じゃなくて…えーと…セス君は知らない方がいいわ…」

「そんな!また俺だけ何も知らないじゃないですか!」

 

 しばらくセスの端末の検索履歴に『ネズミのシリオン 食生活』『人を食べる やめさせ方』『人 食べる 意味』などの履歴が並んでいたという…。

 

 

◆◆◆

 

 

 治安局から出た時には辺りは夕日が沈んで青紫の空に星がきらめき始めていた。

 ジェーンは今日最後の用事がある場所にツヴァイをお姫様抱っこをして歩いていた。

 

「………」

 

 周囲に気を配るが、特に怪しい気配はない。青衣が言ったように『誰か』がツヴァイを連れて行くような兆候もない。

 

(…接触は無し…この今の状況も『誰か』に謀られてるのでしょうね…どうにかなる前にこちらとしても手を打ちたいわね…ま、とりあえず3つほど考えてあるけど)

 

「ジェー、ン」

「ん、どうしたの?」

 

 腕の中のツヴァイがジェーンを見上げる。表情は変わらないはずなのにツヴァイのその目はどこか悲しさと寂しさを帯びているように見えた。

 

「わた、し…のせいで危なく、なる?」

 

 その言葉を聞いてジェーンは思わず「ぷっ」と吹き出して笑ってしまう。

 

「アハハッ…ごめんね、笑っちゃって…でもね?ツヴァイのせいでアタイが危なくなるなんてそんなの些細なことよ?アタイの方がもっと危ないもの…むしろツヴァイの方が心配になっちゃうわよ?」

「?」

「そのうち教えてあげるわ……ツヴァイの体に直接、ね?今は…そうねぇ…」

 

 そう言うと立ち止まってツヴァイに顔を近づけて軽く首筋に口づけした後、少し歯を立てて吸い付く。

 

「っ!?」

 

 その行動に驚き、痛みに身をよじろうとしたが、がっちりとジェーンに固定されて動けない。

 はじめは痛みを伴ったが、次第に立てられていた歯は納められ、吸い付く唇の柔らかいふわふわと何故か心地がいい感覚へと変わる。

 

「ふ、ぁ……んっ!」

 

 唇が離されたかと思えば、にゅるりとした感覚が首筋を撫でた後、ジェーンが顔を離す。目が合ったジェーンの舌からは光に反射して銀色に光る糸が妖しく垂れていた。

 

「………ん…ふふっ…コ・レ、見てごらん?」

 

 地面にツヴァイを降ろして、口をハンカチで拭ったジェーンはコンパクトを取り出して鏡で首筋を見せると襟でも隠し切れず見えてしまう位置に濃く赤い痕が付いていた。

 

「これでツヴァイはアタイのものって他の人に見せつけるの…」

「ん………」

「…痛かった?」

「最初…だけ、あと、は…ふわふわ…して…」

「ふふっ…癖になっちゃう?」

「う、ん…」

「じゃあ…また、してもいい?」

 

 少し熱が回り始めたツヴァイがコクリと頷くと、今度は耳元で「ね?アタイの方が危ないでしょ?」と優しく囁いた。

 

「ツヴァイに空白があるのなら…その空白全部をアタイで埋めてあげるわ」

「ぁ…」

 

 その後、2人は腕を組み、尻尾に太ももを巻き付かれながら、次の目的の場所がある路地裏へと消えていった。

 

 

◆◆◆

 

 

 時は少しだけ遡り――

 

「じゃあママはレジに並ぶから先にお外で待っててね」

「うん!分かった!」

 

 ある親子が買い物に来ていて、レジ付近の混雑から少女は店の外で母親を今か今かと待っていた。

 ふと、見ると道路を挟んで向こう側で金髪でライダースーツに革のジャケットを着た女性が、眺めている少女よりかは少しお姉さんの白いワンピースの少女をお姫様抱っこしながら歩いているのを発見する。

 

「うわぁ…!本物のお姫様みたい…!」

 

 その美麗な光景に目が釘付けになっていると、ふと金髪の女性が立ち止まり、抱きかかえている少女の顔に自らの顔を近づけようとし始めた。

 

「えっ、えっ?えっ!」

 

 急な展開に小さな心臓はばくばくと高鳴り、ますますその光景に目が離せず、首筋に口が触れようと――

 

「ンナ(おっと)」

 

 直後少女の視界には、白い百合の花が遮るように映る。下を見ると1匹のボンプがその花を持っていた。

 

「ンナン、ンナナン『ナナ』ンナンナ(失礼、でもお嬢ちゃんには『まだ』早い世界だよ)」

「へ…?」

「ンナンン…ンナーンナナナ。ンナナンナ『ンナナナ』ナンナ…(お詫びに…これをあげよう。いつか君が『百合の花』を咲かせられるように…)」

 

 ボンプはそのまま百合の花を少女に手渡す。

 

「あ、あり、がとう???」

 

 少女が困惑していると後から「リリちゃぁーん、おまたせー、帰るわよー!」と少女の母親の声が聞こえる。

 

「あ、ママだ!行かなきゃ……ボンプさん、お花ありがとう!大事にするね!」

「ンナナンナ、ンナナ…『ンナナナ』ナナナンナン…(いいのさ、いつか…『百合の花』を咲かせておくれ…)」

「…???うーん…分かった!」

 

 受け取った花を抱えて、母親の元へ戻り、「ママー!ボンプさんからお花もらったの!」「そう!綺麗な百合の花ねぇ」という会話が聞こえる。

 その言葉を背に、『彼』は今まさに道の対岸に咲いている『百合の花』を見て感慨にふける。

 

 

「ンナ……ンナ『ンナナ』ン…(フッ…いい『百合』だ…)」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。