2日後、治安局ルミナ分局。特務捜査班事務室―――
黒のショートジャケットに白のへそ出しニットシャツ、黒のプリーツスカートに黒のブーツというジェーンのセレクトした服を身にまとったツヴァイは特務捜査班班長の朱鳶から、IDカードを受け取っていた。
「―――以上。ツヴァイ・J・ドゥを特務捜査班犯罪行動外部顧問『助手』として任命します……これからよろしくね」
ツヴァイは特務捜査班の朱鳶、青衣、セス、そして『レディ・ノワール』ではなく、『いつもの服装』のジェーンの拍手を受けて正式にかつ、内密に犯罪行動外部顧問『助手』に任命されることとなった。
任命に関しては、主にジェーンが昨今の犯罪組織の規模の増大化や、人員補充の面から上層部に昨日打診し、あっさりと了承を得てきたのである。
「ま、特務捜査班所属になってもツヴァイはほとんどアタイと一緒に行動だからアンタたちと行動するのは稀だけどね」
「そうね…次の任務はもう決まってるの?」
「一応、ね…次は潜入もあるにはあるけど調査がメインになりそうね」
そう言ってジェーンはヤヌス区の地図を取り出す。地図には様々な店の名前が手書きでメモされており、その中の1つに今回のターゲットの地下の違法闘技場に通じているバーがある。最近そこで武器の流通や薬物の違法取引が活発に行われているという噂があるのだが、立ち入り調査を行っても目立った証拠を見つけることが出来なかった。
故に今回のジェーンの役割は『物的証拠』を挙げて、治安局が大手を振って捜索を行うことが出来るようにお膳立てをするのが今回の『主な』役割となっている。
「ヤヌス区…そういえば最近六分街に行ってないわね…」
覗き込んできた朱鳶が一緒に地図を確認しながらつぶやく。その目は主にあるビデオ屋に当てられている。
「あら朱鳶ってば店長ちゃんみたいな子がタイプ?」
「なっ!?ちがっ!!」
「ほっほっほ…朱鳶よ………ほっほっほ」
「先輩まで!なんなんですか!!ほほえましく見ながら白湯を飲まないでください!!」
「へぇー…班長は店長のことが好きなんですね!ん?あれ?どっちの店長っスか?リン店長?アキラ店長?」
「セス君!!!!」
朱鳶が愉快な仲間たちに茶化されていると、新しい仲間に下からじーっと見上げられていることに気づき、ハッとなって訂正する。
「………」
「ち、違うのツヴァイちゃん!これは皆ふざけてるだけで好きとかそういうんじゃ…!」
「じゃ、あ…きらい、な、の…?」
「へっ!?いえ、その…そういうわけではなくって…」
わたわたとしながら顔が赤くなる朱鳶の横で、ジェーンが「くすくす」と笑う。
「ツヴァイ、なかなかやるわね。さすがアタイのハニーね」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁあ!!ジェーン!!ツヴァイちゃんに悪影響のある教育してないでしょうね!!?」
「さあ?この子はとぉってもいい子よ?ねぇツヴァイ…いらっしゃい」
「ん…」
手を広げるジェーンの元にパタパタと走り、ぎゅっと抱き着いたツヴァイの頭を「いい子ね」と優しく撫でる。
「ね?いい子でしょう?」
「わ、分かったから……はぁ、とりあえずそれぞれ今日の予定を確認、と行きたいけどジェーンたちはもう出発する?」
「そうね、情報収集したい場所があるからツヴァイと行ってくるわ」
「分かりました。では…ジェーン・ドゥ、ツヴァイ・J・ドゥ、これより任務を開始してください」
「了解よ、ツヴァイ、行きましょ」
「ん…」
流れるように腕を組み、部屋から出ていく様子を見送りながら、朱鳶はジェーンとツヴァイが腕を組んでいるのをずっと見ていた。そしてさらにそれを見ていた青衣がにやりと笑う。
「…こほん…『いいなぁ、私も素直になれたら店長さんと腕を組んで』…」
「…ッ…先輩!!!」
「ほっほっほっほっほ…」
後日セスがその様子について「あの時の班長は耳まで真っ赤だったなぁ」と語ったという。
◆◆◆
昼前、ヤヌス区六分街地下鉄改札前―――
「さ、着いたわよ。ここが六分街よ」
ツヴァイの目の前にはルミナスクエアと違って建物がそれほど高くなく、それでいて独特の雰囲気の漂う街が広がる。ジェーンと共に歩いていると、ホビーショップの前で「なんでなのよ!」ピンクの髪の少女が財布からディニーを取り出しては機械に入れて出てきた景品を見て金切り声を上げていた。
「なッんッでッ出ないのよ!!!もう100回以上回してるわよ!?ここの店仕組んでるんじゃないでしょうねぇ!!?あーもう!!シークレットが出たら30万ディニーで買い取るっていう奴がいるっていうのにぃぃぃぃ!!」
その様子を見ているとジェーンがそっとツヴァイの目に手を当てて、「こっちよ」とその前を通り過ぎていく。
「ジェー、ン…あの人は…?」
「アタイたちには救えないものよ」
「???」
雑貨屋141の前を通り過ぎ、軽トラックの上で寝転がる黒猫を横に歩いていると、ふわりとコーヒーの香りと、おいしそうなラーメンの香りが漂う。
「さて、約束の時間までは時間があるし……寄っていきましょうか」
「?」
「ふふっ、きっとツヴァイも気にいるわよ?」
その時のジェーンは朱鳶に対していい『土産話』ができるな、と心の中で笑っていた。
◆◆◆
少し前。ビデオ屋『Random Play』―――
オレンジのバンダナを巻いた3匹のボンプたちはお店にお客がいないため、ンナンナとレンタル品の再陳列や床の汚れを掃除したりしていた。
「ンンナ…ンナンナナナ!(ふぅ…こんなものかな!)」
「ンナナンンナナ、ンナナンナ?(リンとアキラ、遅いね?)」
「ンナー…ナ、ンナナ、ナナンンナ(だねー…あ、イアス、ゴミ袋取って)」
「ンンン…ンナ!(よいしょ…はい!)」
3匹揃って作業をしていると、3匹それぞれに合成音声のようなものが流れる。
【連絡。ビデオ屋へのお客が近づいています。1人は会員の中でとてもハブリのいい『ジェーン・ドゥ』。もう1人はご新規です。来店まで20秒】
「ンナナナ!?ンナ!ンナナナン!(ジェーンさん!?来るよ!トワはカウンターへ!)」
「ンーナ!(はーい!)」
「ンナ、ンナンンナナナ!(レム、僕たちは裏に居よう!)」
「ンナ!(分かった!)」
20秒後、ガチャリと扉が開かれ、ジェーンと一人の少女が入ってくる。
「ンナッナナンナー(いらっしゃいませー)」
「どうもー、今日は店長ちゃんはいる?」
「ナンナナン…ンナナンナナン(すいません…どっちも出かけてて)」
「あら、まぁそんなときもあるわよね…ツヴァイ、ここがビデオ屋さんよ」
「ビデ、オ屋……」
ツヴァイと呼ばれた少女はジェーンと手を繋いでいて、それを見た01号、イアスと06号、レムは「ンナ?(妹さん?)」「ンナナンナ(そうかもね)」と話し合う。
「ホントは店長ちゃんにも紹介しときたかったけど、いないんじゃしょうがないわね。ツヴァイ、見たいビデオとか、ある?ここで借りてお家で見れるわよ?」
「ビデオ…?」
「…えーっとね…例えばこの『ザ・カールズ』って書かれてるパッケージがあるでしょ?」
「………?」
「もしかして…ツヴァイ…字が読めなかったりする?」
「ん」
コクリと頷くツヴァイにジェーンは「盲点だったわ…」とこめかみを抑えて考える。そして何かをひらめいて、カウンターの18号、トワに話しかける。
「ね、教育関係のビデオとかあったりしない?子供向けの読み書きを教えるような…そんな感じの」
「ンナン………ンナ!ナナンナンナ!(えっと………あっ!倉庫にあります!)」
「よかった…じゃあそれをお借りできるかしら?」
「ンナ!ンナナンナンナナン!(はい!取ってきますのでしばらくお待ちください!)」
そう言ってトワがピョコピョコとカウンター横の扉に近づくと中のレムが扉を開けて、トワが入るとイアスがすぐに閉める。
3匹のボンプがビデオを探して、待っている間ジェーンはツヴァイの背中側から抱きしめてほっぺをむにむにと触ったり、耳の外側を撫でたりして時間を過ごしていたが、中々にビデオ探しが難航しているらしく、3匹のボンプは帰ってこない。
「…まだ時間はあるけど…待ってるのはヒマねぇ…」
「ん」
「………ね、ツヴァイ。こっち向いて」
「…ん…」
口寂しさを覚えたジェーンは、少ししゃがんでツヴァイの唇に自身の唇を重ね―――
「たっだいまー!!見てみて皆!今日はなんと!このリン店長セレクトのビデ、オをにゅう、か…………」
裏口から入ってきたこの店の店主の一人とジェーンは目が合う。
「リン、どうしたんだ?って……おっと……」
さらにもう一人の店長とも目が合う。
「ん…ふ……ハァイ、店長ちゃんたち?」
ツヴァイの唇から離れ、にっこりと挨拶するジェーンに、2人の店長は無言で目をぱちぱちとさせ、裏口の扉をそっと閉めた。