「えーっと…ごめん、つまり?この子…ツヴァイはジェーンさんの…恋人ってこと???」
ビデオ屋『Random Play』内で、2人の店長が床に正座をしていた。
「そうね、ってなんで2人とも正座してるの?足、痛くない?」
「いや、なんか…その、見ちゃったから申し訳なくて…」
「気にしなくていいのよ、アタイたちが…アタイが口寂しくて勝手にやってただけだし」
「…そういうことなら…リン、立とう。ちょっと痺れてきた……それで、今日は…あぁ、ありがとうトワ……ん?幼児教育系のビデオ?」
兄であり、ビデオ屋『Random Play』店長のアキラが立ち上がり、18号のボンプ、トワから倉庫で発掘されたビデオを手渡される。
「あ痛たた…どれどれ…うわぁ懐かしい!もしかしてツヴァイの為だったりする?」
よろめきながらも立ち上がったもう一人の店長、リンが覗き込んで声を上げる。「書き方の歌とかあったよね、懐かしいなぁ…」と感慨にふけっている。
「あったあった…でもリンはいつもどこか間違えてたな…」
「アハハッ、店長ちゃんらしいわね?」
「そ、そうだっけ?…ってそんなことより!レンタルの手続き!」
レジでアキラが入力をしていると、ツヴァイが「店、長…?」と首を少し傾ける。
「そうよ、この子たちはこのビデオ屋さんの店長ちゃんたちなの」
「朱鳶が、好き、な…?」
「ぷっ…そうね、ふふっ、そうよ」
ジェーンは笑いをこらえながらツヴァイの頭を撫でる。と、ここで一応情報収集を行うことにした。
「あ、そうだ。店長ちゃんたち、最近このあたりで変な噂とか聞いたりしない?」
「変な噂…?うーん私はないかなぁ…お兄ちゃんはどう?」
「僕も…あ、いや、そういえば3日前だったかな…ほらリン、お昼なのにチョップ大将のところで3倍増しの激辛ラーメンを食べた後に141でアイスを買ってその場で食べてる時に横でサラリーマンの人が愚痴ってた…」
「あー!思い出した!えっと…その人が住んでる十七分街の治安が悪くなっていってるって話だったよね」
それを聞いてジェーンはピクリと耳を動かした後、「詳しく教えて?」と兄妹をカウンターの中の椅子に座らせる。
「えっとね、最近十七分街に粗暴な若者が増えててゴミのポイ捨てとか地域の人たちへの迷惑行為がひどいらしいんだ…」
「あと、確かその愚痴を話してたサラリーマンは近くに新しく出来たライブハウスのせいだ…とも言っていたね」
「ライブハウスね…ありがと」
ジェーンは頭の中で地下違法闘技場の位置を思い出す。違法闘技場に通じているとされていたバーは確かに十七分街にあり、報告書ではそのバーにいたのは粗暴の悪い若者たちで、ジェーンがひいきにしているあのバーとは内装も雰囲気も雲泥の差であることが資料からも読み取れていた。
(今回の件と関係あるかもね…調べておきましょ)
「ありがと、今度ご飯でも奢らせて?」
「そんなのいいよ!ただでさえジェーンさんにはものすごくカードにチャージしてもらってるのに…」
「そうだね、逆に僕たちから何か返さないといけないレベルかもしれない…あ、レンタル手続きが終わったからこちらをどうぞ」
アキラは手続きが終わったビデオをツヴァイに手渡す。横からジェーンが「ツヴァイ、ありがとうは?」と頭を撫でると、小さく「あり、が、と…」と返す。
「どういたしまして…そうだ、今度来る時のために同じような教育系のビデオを倉庫から出しておこうか」
「あら、いいの?」
「賛成賛成!もしかしたら他にも借りてくれる人がいるかもしれないしね!」
「よかったわね、ツヴァイ。あ、そうだわツヴァイのカードも作る?」
「ん…」
ツヴァイがコクリと頷いた後、ツヴァイ用のRandom Playの会員カードが作られ、ジェーンがまたもチャージ額の上限までチャージして、ビデオ屋二人を驚愕させた。
「さて、そろそろ行くわ。待ち合わせしてる人がいるの」
「はーい、それじゃジェーンさん、それにツヴァイもまたね!」
ツヴァイの手を引きながらドアを開けて「じゃあね」とビデオ屋を二人で去った後、『STAFF ONLY』と書かれたドアの向こうのテレビの画面が複数ある部屋でリンは「ねぇ」と兄であるアキラに声を掛ける。
「多分…だけどさ?ツヴァイもジェーンさんと同じで本名とかに関する情報が完全に処分されてたり…?」
「あるだろうね…」
すると、それを肯定する合成音声が流れる。
【肯定。ツヴァイ・J・ドゥという名称に関する情報は一切なく、ジェーン・ドゥ同様情報が消されている。もしくは存在しない可能性があります。ただし、ツヴァイ・J・ドゥと特徴がすべて一致する同一人物と推測される少女の情報が2つ存在します。】
「え、なにそれ、本当?Fairy」
Fairyと呼ばれた彼らの【優秀な】AIアシスタントが主人に情報を提供するか否かを問う。
「Fairy…勝手に人のことを調べるのは良くないと思うぞ…はぁ…リンからもちゃんと注意しておいてくれ…」
「あはは……そ、それよりも!お兄ちゃんだって気にならない?手札を増やす分にはいいと思うけどなぁ」
「…子は親に似るって言うけど、まさしくFairyはリンに似てきたのかもしれないな…AIと人間って違いはあるけど…どうせ止めたって見るんだろう?しょうがないな…」
「そんなこと言って~見たかったんじゃないの?さ、Fairy、その情報を教えて!」
リンがそう言うとFairyが【再生。中央のモニターに映し出します。】という音声と共にモニターにある少女の市民データを映し出す。
データ上の少女の写真ではさっき見たツヴァイと違って目に光があり、どこか微笑んでいた。
だが、その市民データには…真っ赤な電子印で『死亡者』と表記がされていた。
「え………これ…」
「…Fairy、このデータはどこから?」
【回答。このデータは11年前の旧都陥落後より半年以内に死亡した市民データのファイルから抽出しています。】
「そん、な…でも、だってツヴァイは私たちの目の前に…Fairy、このデータとツヴァイが本当に一緒だっていう証拠は?」
その問いに対してFairyは【回答】と、市民データの写真と先ほど録画した店内の監視カメラのデータを合わせてデータを2人の眼前に提示する。
【この少女のツヴァイ・J・ドゥとの一致率98.08%。概要:顔の輪郭、目の網膜、鼻筋などその他11の項目で完全な一致が見られます。ですが】
「ですが?」
【店内の監視カメラからツヴァイ・J・ドゥの頭頂部付近に巧妙に隠された手術痕が見られます。これは唯一市民データと外見が一致しない部分となります。】
「それって…つまりえっと…一度死んじゃったけど…生き返ったとか…そういう?」
「待った。リン、さっきFairyは『11年前の旧都陥落後より半年以内に死亡した市民データ』と言っていた…仮に生き返ったとしてもおかしくないかい?」
アキラからの指摘に「え?えっと?」とリンは首をかしげる。
「つまり、生き返ったのだとしたら10年以上成長していないのではないか、ということさ」
「な、なるほど…あ、いやもしかして最近生き返ったとか?」
「もっと無理がある…10年もの間遺体をどうやって維持する?冷凍保存は人体の組織が壊れるかもしれないから得策ではないし…」
「じゃあ…ほら!SF映画みたいに液体の入った大きなガラスの筒みたいなのに入れてずっと治療してきた!とかは?」
「可能性は高いかもだけど…死亡届を出した意味が分からない…それにそんな技術が成功したのならもっと世間で大々的にニュースなんかで取り上げられるはずだ」
案を出しても出しても否定されるリンは「もー!」とソファに寝転がっていじけ始めた。
「じゃあお兄ちゃんは何だと思うわけ?」
「…それは…分からないけど…」
「散々私の案をつぶしといてそれはないよぉ…」
「ごめんごめん…あ、そうだFairyは2つの情報があるって言ってたっけ」
「あー…言ってたっけぇ…Fairy、よろしくー」
すっかりとやる気を失くしてしまったリンはそのまま近くのテーブルに合ったポテトチップスをつまんで食べながら再びソファへと寝転がる。
【報告。もう1つのデータは防衛軍の廃棄データで、意図して消されており、修復しましたが閲覧ができるのは写真データと一部の文字のみとなります。】
「防衛軍だって?」
「えっ!?ちょっ!!Fairy!?」
そうして表示されたのは、見るも無残なボロボロの状態で液体の入った大きなガラスの筒中で浮いた状態の少女の姿と『HE-P』という単語のみだった。
それを見たアキラとリンはしばらく言葉を失った。
「…ごめんよ。リンの推測通りだった…でもこれは…」
「そ、それよりも…このこと、ジェーンさんは知ってるのかな…ごめんFairy…もう情報を表示しなくていいよ…さっき食べたポテチ、吐いちゃいそう…」
その言葉と共に画面からツヴァイの情報が消されて、いつもの待機状態の画面が映し出される。
「ジェーンさんが知ってるかは分からない…困ったな…これを伝えるべきなのか…それとも…」
「知らなかったら…こんなの見たらショック受けちゃうよね…」
「…仕方ない。リン、このことは秘密にしよう。知ってたとしたら傷口をえぐるだけだし、知らなかったら…辛いだろうし…」
「…本当に辛いのは…ツヴァイかもね…」
「……………」
完全に重苦しい空気になってしまい、周りの3匹のボンプたちも心配そうに見上げていると、そんな空気をぶち破る声が聞こえてきた。
「やったわよ!!!プロキシ!!見なさい!このニコ様が30万ディニーの引換券を手にしたわよ…って…なに?どうしたの?」
その手にシークレットキャラの人形のクリスタルボンプ君人形を持った邪兎屋のボス、ニコ・デマラを目にして2人で深くため息をついた後、ゆっくりと立ち上がった。
「なんか、ある意味ニコに助けられたかもしれないな…」
「そうだね…はぁ…で?ニコ、うちへのツケをその30万で払ってくれるの…?」
「う、うぐっ…!なんか来ちゃいけないときに来ちゃった…?つ、ツケは、ちゃんと払うからぁ!!」
そんなニコの悲痛な声が店内に響き渡った。