ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

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第十六話 取引

 ビデオ屋を出た後、ジェーンとツヴァイは今回の情報提供者から話を聞くために六分街の道路の高架下へと来ていた。

 高架下は地面や壁にスプレーアートが描かれており、見事な物だが、治安官側から見て気の良いものではない……ジェーンとツヴァイを除いて、だが。

 どうやら情報提供者は先に到着していたらしく、ジェーンたちを見つけると 頭にかぶったハットの位置を直しながら、「やぁ」と声を掛けてくる。

 

「アンタがインターノットで俺に声を掛けてくれた情報を欲しがってるやつか?」

「えぇ、そうよ」

「オーケー、じゃ、自己紹介させてもらおう…俺は『羊飼い』。独立情報仲介業をやってるもんだ。おたくらは?」

「アタイは『レベッカ』…こっちの子は『ミレディ』。フリーのホロウレイダーよ」

 

 あらかじめ2人で決めておいた偽の名前の『レベッカ』と名乗ったジェーンはブーツの仕込み刃をギラリと『羊飼い』に見せつける。一方ツヴァイ…『ミレディ』はそんな『レベッカ』の動きを目で追っていた。

 

「おおっと…ちょっとビックリしたじゃないか…」

「そう?プロキシや他のレイダーたちとお話しする機会が多いみたいだからこういう挨拶の方がいいのかと思っちゃったわ」

「………ん」

 

 その言葉を聞いて『ミレディ』は懐から蛇腹剣を取り出すと、『レベッカ』に「この人はあんまりそういう挨拶は嫌いみたいだから、今はしまっておいて」と言われ、再び懐にしまう。

 

「ふぅ…ひやひやさせるなぁ…情報提供、と行きたいが…君たちの名前はここらへんじゃ聞いたことないな…どっからの流れ者だい?」

 

 『羊飼い』独立情報仲介業をやっている以上周辺のホロウレイダーやプロキシの名前、そして同業者や治安官の名前や見た目な度はリスク回避のために覚えているのだが…今目の前のこの2人は名前も知らないし聞いたことも無い。もし治安官だった場合、お縄につながれるのは避けたいのだ。

 

「…ま、それもそうねアタイたちはまだまだ駆け出しだもの。もとは【黒鳶会】ってとこにいたんだけど…治安局に潰されちゃってさ…さらにボスは狙撃されて死んじゃったって噂だし?帰るとこが無いからホロウレイダーをやることにしたのよ」

 

 この設定についてもここに来る前にツヴァイと示し合わせたもので、【黒鳶会】の末端であれば無名でもおかしくはない。

 

「な、なるほど…【黒鳶会】の…話は聞いているとも…分かった。これからホロウレイダーとしてやっていく中で仕事が欲しかったら遠慮なく言うといい!いい仕事やいいプロキシを紹介してやろう!」

「ありがと。で、聞きたい情報なんだけど…十七分街あたりに地下闘技場があるって聞いたの、知らない?」

「ふむ、なるほど…そういう系の情報が欲しいのか…じゃあ1つ仕事をやってもらいたい。昨日入ってきたやつがあってな…内容が簡単そうだからその報酬として教えよう」

「ええ、いいわよ」

 

 「交渉成立だ」と『羊飼い』は手持ちの鞄から赤いテープレコーダーの写真を取り出して手渡す。

 

「仕事は簡単だ。バレエツインズのホロウの中にこのテープレコーダーが置いてある。こいつの電源が入るか確かめてきてくれっていう変な依頼でな…電源が入ったらしばらく鳴らして電池が切れそうにないかビデオに撮って確認しろってさ…」

「なにその依頼…ま、いいわ。バレエツインズのホロウのキャロットは?」

「あるとも、最新のやつだ受け取ってくれ…あぁ、あと録画用のカメラと…俺のアドレスだ。依頼が完了したら連絡してくれ」

 

 キャロットとカメラを受け取り、『仕事用』の端末に『羊飼い』のアドレスを登録すると、『羊飼い』は「それじゃ頼んだぞ」と、次の仕事へ向かっていった。

 

「さぁて…バレエツインズね……ま、変な依頼だけど気を引き締めていきましょ?『ミレディ』?」

「ん…」

 

 こくんと頷く『ミレディ』に『レベッカ』が手を差し伸べて手を繋ぎ、歩いて行った。

 

 

◆◆◆

 

 

 バレエツインズのホロウの入り口付近――

 二人はホロウに入る前に侵蝕安定剤の確認や武器の手入れを行っていた。コツコツとつま先を地面に鳴らして隠し刃の調整を終わらせた『レベッカ』が蛇腹剣のワイヤーを手入れする『ミレディ』に後ろから抱き着く。

 

「ね、いつも自分でお手入れしてたの?」

「ん……して、た」

 

 『ミレディ』の持つ蛇腹剣は刃の先から柄、ワイヤーに至るまで銀色で、よく磨かれていた。握る柄の部分に伸縮をさせるためのスイッチがあり、これをうまく使ってワイヤーを伸縮させ、獲物へと向けるとのことだが、『レベッカ』……ジェーンには気になることがあった。

 前回【黒鳶会】の治安局の突入作戦時に現れたエーテリアスに『ミレディ』……ツヴァイが攻撃していた際にこの蛇腹剣のワイヤーが曲線を描く曲がり方でなく、直角などの急激な曲がり方をしていたのを視界の端に捕らえていたのである。この蛇腹剣に機械的な要素は取り込まれておらず、ワイヤーもこうしてみ見ている分には強化ワイヤーにしか見えない。となると原因はツヴァイにあると予想される。

 

「…手入、れ…もう、ちょっと…かか、る…」

「ん、大丈夫よ…終わるまでアタイがぎゅーってしてあげる…もちろん終わってもしてあげるわよ?」

「……ん」

 

 ツヴァイの全てをジェーンは知らない。逆にジェーンの全てをツヴァイは知らない。ジェーン自身ツヴァイに執着する理由は、最初は単純に哀れみや気まぐれ……それに近しいものからだったが、何よりも…

 

「好きになっちゃったものはどうしようもないわよね」

「?」

「ん、アタイが『ミレディ』……ううん、ツヴァイが好きって話よ」

「……?」

「ん~…色々解釈があるけど…アタイ的にはその人が大事で、ずっと一緒にいたいなってことよ」

 

 そう言ってツヴァイの頭を撫でていると、ふとツヴァイの手が止まる。

 

「ん、お手入れ終わった?」

 

 そう聞くとツヴァイはふるふると首を横に振り、すこしもじもじした後に剣を置いて、ジェーン抱き着いてきているジェーンの腕にそっと自身の手を添わせる。

 

「わた、…わたし、も…ジェーンと一緒…がいい。ジェーンが、大事…」

 

 精一杯震える声で絞り出したのは、ツヴァイ自身の今までもやもやとして自分でも分からなかった『感情』の1つだった。

 

「…そう。ふふっ、じゃあアタイとツヴァイは相思相愛ね?」

「ん…」

 

 さらにぎゅっとツヴァイを抱きしめ、ゆらゆらと揺れながら少しの間お互いの体温を感じ合った。

 

 『レベッカ』と『ミレディ』がホロウに足を踏み入れたのは1時間ほど後だった。

 

 

◆◆◆

 

 

 バレエツインズホロウ内部―――

 かつての高層商業タワーはその影を残してはいるものの、辺りにはエーテル結晶が突き出すように生えていたり、劣化や誰かの戦闘の後で階段が落ちたり、通路が瓦礫で塞がっていたりする。

 キャロットに従ってホロウ内部を進む『レベッカ』と『ミレディ』は持ち前の跳躍力を活かして崩れた階段であっても、足場を次々と飛び跳ねて階層を上がっていく。

 

「ふぅ…!目的の場所までもうちょっとね…でも変な依頼よね…」

「ん…」

 

 警報システムなどが生きているかの確認であれば理解は出来なくもないが、今回はこの写真の『赤いテープレコーダー』の再生。『羊飼い』がこちらを騙しているという様子もなかった。となれば依頼主の変な趣味ということになる。

 

「…なぁんか、裏があると思うのよねぇ…」

 

 渡されたキャロットデータに異常は無いし、手渡されたカメラも支障がない程度に分解してみたが盗聴器やGPS、その他こちらを監視、追尾するような細工はなされていない。ここに来るまでの間で尾行されている気配もない。

 何かあるとするならば今目指しているその『赤いテープレコーダー』に何かあるのだろう。

 罠にしても、変な依頼主の道楽にしても、最終的な目的が分からない。というのが一番厄介なパターンである。

 

「…『レベッカ』…」

 

 考え事をしていたらどうやら示された場所に着いたらしく、『ミレディ』が台に置かれた『赤いテープレコーダー』を指差した。

 

「あったわね……しっかし……はぁ…こうもあからさまなことある?」

 

 ため息をついたのには理由がある。『赤いテープレコーダー』を見つけたのはおそらく昔ダンスホールだったであろう広い部屋で、台はちょうどその真ん中に置かれていた。

 周囲に誰かが隠れているような気配は感じ取れないが、もし隠密がこちらの察知能力を上回っていて、仮に狙撃手が隠れているとするならば、テープレコーダーの起動に行けば360°遮蔽の無いあの台の近くでいい標的になるだけだ。

 

「『ミレディ』、蛇腹剣でテープレコーダーだけ回収とか…できたりしない?」

 

 その『レベッカ』の声を聞いて、『ミレディ』は脳を戦闘状態にして距離を確認する。

 

「……ワイヤーの距離的に届かない。届いたとしてもテープレコーダーの素材からして破壊してしまうと思う…あの台は地面に固定されてる。壊せるけどテープレコーダーの無事は担保できない」

「オッケー…行くしかないわね。警戒体制のまま行くわよ」

「了解」

 

 周囲を警戒しながらの前進であったが、結果としては無事にテープレコーダーに手が届く位置に辿り着いた。が、『レベッカ』がテープレコーダーのスイッチを押そうとして持ち上げようとしたが、接着剤か何かで固定されており、これも動かない。

 

「…呆れた…はぁ…『ミレディ』、カメラを起動して。見た感じ爆破とかの細工は無いけど、押したら離れるわ。いくわよ」

「了解」

 

 カチリ、とスイッチを押し、2人はすぐに飛ぶように離れる。が、見立て通り特に爆破は起こらず、5秒ほどの沈黙の後、クラシックのような音楽が大きな音量で流れる。

 

「…クラシック…?…ッ!そういうこと!!来るわよ!」

 

 『レベッカ』は以前耳にしたある噂を思い出した。バレエツインズの怪異現象として噂になっていた『かつてバレエツインズで行方不明になっていた天才ダンサーの怨霊』…その実態である双子のエーテリアス…マリオネットツインズ。

 

 ガラスと金属を擦ったような高い音を立てながら白と黒の2体のバレエダンサーのようなエーテリアスは部屋の隅の物陰からそれぞれ『舞台』へと登場する。鋭利な足先を軸にしながらくるりくるりと回転し、音源のあるテープレコーダーを2体で挟むように陣取り、『レベッカ』達に一礼して見せる。

 それを見た『レベッカ』と『ミレディ』はそれぞれ武器を構えなおす。

 

「…エーテリアス、2体確認…いずれも特殊個体と認識」

「厄介そうね…ちょっと逃げ切れそうもないし…頑張ってみましょうか」

「分かった」

「た・だ・し、『視る』のはナシね?約束、覚えてるわよね?」

「ん、約束は、守る…」

「いい子よ。じゃあ…マイハニー?お手をどうぞ?」

 

 ダンスのお誘いに、と『レベッカ』が手を差し伸べると『ミレディ』はその手にそっと手を添えた。

 

 

「さ、ダンスを始めましょうか」

 

 

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