ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

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第十七話 不協和音

 バレエツインズホロウ内、タワー内部のダンスホールにて―

 

 はじめに仕掛けたのは一礼を終えた2体のエーテリアス達だった。2体で手を取り合ってくるくると回り始めたと思ったら、白のエーテリアスが黒のエーテリアスを投げ飛ばして、攻撃する。『レベッカ』は『ミレディ』を手繰り寄せるように手を引きながら跳躍し、その攻撃を躱す。

 

「大したスピードね…!『ミレディ』!エーテリアスはあのテープレコーダーを陣取って真ん中から動かないつもりよ…音楽が止まったらこいつ等もどうにかなるだろうから…もう依頼のことはいいから壊してもいいわ!テープレコーダーを止めましょう!」

「分かった」

 

 着地した後、二手に分かれて中央のテープレコーダーを目指す2人にエーテリアスも同じように二手に分かれ、あくまで中央のテープレコーダーの元にすぐに戻れる距離で迎え撃ってくる。

 それに対して『レベッカ』は速さで翻弄して距離を詰めながらするりするりと回避し、『ミレディ』は黒い方のエーテリアスを伸ばした蛇腹剣で絡めとり、動きを封じる。

 ワイヤーに縛られ、動けない相方に気づき、白いエーテリアスが踵を返して『ミレディ』へと迫る。しかし…

 

「どこ行くの?アンタはアタイと踊るの…よッ!!」

 

 そのエーテリアスは例え相方が動けなくともこのネズミのシリオンから目を離すべきではなかった。踏み出したはずの足には刃が刺さり、バランスが崩れる。かといって今更ネズミのシリオンに気を向けてやり返そうとしたとて、バランスを失ったその身は慣性に従って相方の方へ届く前に地に落ちる。

 

「貰った!」

 

 『レベッカ』はその隙にテープレコーダーに辿り着き、それを思い切りナイフの柄で叩きつけてその音の根を止める。

 音が止まる最後までそちらに手を伸ばしていた2体のエーテリアスは音の停止と共にだらりと力を抜き、戦闘の意欲を失わせる。

 

「…『ミレディ』!もういいわよ、コイツらは放っておいてさっさとこのホロウから出ちゃいましょ」

「了解」

 

 縛り上げていた黒のエーテリアスを開放し、立てかけていたカメラを回収して2人のバレエダンサーをホールに残したまま退出しようとした、その時だった。

 

 

 どこからか、小さな音楽が鳴り始めた。

 

 

「!?まさかあのテープレコーダー!?…違う!」

「『レベッカ』…!上!」

 

 見るとダンスホール中央上部の空間に裂け目が出来ており、そこからこの空間に侵入しようと手を伸ばすモノがいる。その姿がこの空間にあらわになればなるほど音楽は…いや、音は大きくなっていく。

 

「なにこの音…!耳がおかしくなっちゃうわよ…!」

 

 それは音楽と呼ぶにはおおよそ無理がある不協和音で、「奏でる」というよりもありとあらゆる大量の楽器を使い方を全く知らない子供たちが好き勝手に乱暴に音を出している。という表現が正しいだろう。

 

「『レベッカ』…エーテリアス達が」

「え…」

 

 『ミレディ』に促されて、地面に力無く伏せていた白と黒のバレエダンサーの方を見ると、どうにも苦しそうに頭部や胸部を抑えている。

 

「どういうこと…?もしかしてこの音が嫌ってこと?」

「可能性はある。アレが出てき始めてから、様子が…おかしい」

 

 確かに耳を覆いたくなるほどの音で、多くの人間は好き嫌いで言えば嫌いの部類に入るだろう。それがエーテリアスにもあるのが少々驚かされた。

 

 直後、ドシャリと裂け目から音の主が落ちてくる。その姿は侵蝕された音楽プレイヤーを体の核として、まるでトランペットを裏返したかのような形の6本の足に頭部にコアが付いている大きなエーテリアスだった。

 そのエーテリアスは『レベッカ』と『ミレディ』を見つけると、不協和音の爆音を奏でながら、突進してくる。

 

「『ミレディ』!相手のあの速さじゃアタイ達に追いつくのは無理よ、カメラも回収したし、撤退しましょ!」

「了解」

 

 苦しむ2体のエーテリアスと、ドシリドシリと猛進するエーテリアスを背に、走り出す。当然、6本足のエーテリアスは相変わらず爆音を響かせながら迫ってくる。

 その迫り方はまさに猪突猛進。壁や柱にぶつかって壊してもまるでお構いなしで、ただひたすらに力押しをして無理やりこちらへと迫ってくる。

 

「ッ…!あんまりやりすぎるとこのタワー自体が…!しょうがないわね…『ミレディ』!!やっぱりあのエーテリアスを何とかしましょう!」

「ん、分かった………前方に裂け目。キャロットによれば裂け目の先は大きな吹き抜けがある広い空間に繋がってる」

「分かったわ、そこでこの脳筋のおバカさんを沈めちゃいましょ!」

 

 2人が飛び込んだ裂け目の先は演劇などを講演するための舞台と、その客席がある広いホールでどうやら2人は2階のアリーナ席部分へと出てしまったようだ。

 

「…時機にあのエーテリアスが来るわね……ね、『ミレディ』?その剣のワイヤーであそこの天井から釣り下がってる照明設備まで届く?」

「…ん、ジャンプすれば届く」

「了解よ。じゃあ今からアタイの言うとおりにしてね…あいつが来たら…」

 

 そっと耳打ちされた『ミレディ』その作戦を了承し、2人でアリーナ席の吹き抜けの手すりに立つ。その数秒後に、6本足のエーテリアスが不協和音の爆音と共に裂け目を通って現れる。『ミレディ』達を視認したエーテリアスは勢いをそのままに階段の下り坂で加速を付けながらアリーナ席を下って迫り、その巨体が2人に触れるかとしたところで2人の姿が上へと移動する。

 急には止まれないエーテリアスは下り坂の勢いを殺せずに、2階のアリーナ席の縁から手すりをぶち破って落ちていく。2人はその様子を照明設備に蛇腹剣のワイヤーを巻き付けて空中にぶら下がりながら見ていた。

 

「ふぅ、ちょっとギリギリだったかしら……腕、痛くない?」

「ん、大丈夫」

 

 『レベッカ』は『ミレディ』に抱き着くようにして捕まっており、今2人の体重を『ミレディ』の右腕1本で支えていた。

 

 壊されたアリーナ席の2階部分に降り立ち下を見ると、落ちたエーテリアスの6本の足の内2本は先ほどまでの走り方からしておそらく反対の、つまり曲がってはいけない方向に曲がっているのが確認できた。

 が、その状況で驚いたのは折れた足を気にせず残りの4本で立ち上がり、相変わらず爆音を流しながらこちらを見据えているということだ。

 

「うっわ…結構タフね…まだやる気じゃない…」

「…『視る』?」

「…それは今は無し。どうしても手詰まりの時はお願いするわ…そうね、さっきテープレコーダーを壊したみたいにひとまずあの音楽プレイヤーを壊してみましょうか」

「了解」

 

 示し合わせたように2人でアリーナ席から飛び降り、1階の客席の背もたれを飛び交いながらエーテリアスに近づく。

 

「アタイが前に出て注意を引き付けるわ、狙える位置からやっちゃって!」

「了解」

 

 接近した『レベッカ』はエーテリアスから叩きつけられる足を1つ1つ丁寧に紙一重で避け、わざと注目を浴びるように遅く振舞ったり、早く振舞ったりと焦らしてやる。

 

「攻撃も大振りね…せいぜいアタイと踊りましょ?」

 

 その煽りのせいか、完全に『レベッカ』を潰すことに夢中になっていたエーテリアスは、背後から近づくもう1人の少女に気づかなかった。

 

「…そこッ!!」

 

 狙いすまして伸ばした蛇腹剣の一閃は振り上げた足の間を抜けて核となっている音楽プレイヤーに突き刺さる。やはりここが弱点だったのか、エーテリアスは大音量の騒音で絶叫して悶える。

 

「効果あり。でも…!」

 

 悶えて一度は倒れたエーテリアスだったが、ぐらりと体を起こす。先ほどよりかは騒音は少しマシになっただろうか。

 

「まだやる気!?タワーなんて放置して逃げればよかったかしらね!」

「…音楽プレイヤーは壊した…でも、ダメみたい」

 

 すると、先ほどまで折れ曲がって意味をなさなくなっていたエーテリアスの2本の足が変質し、手と丸太の様に太い腕のようなものを形成する。

 

「変異した…!?ホンット…ヤになっちゃう…!」

 

 エーテリアスは新たに手に入れたその腕で、辺りにある座席を引きちぎっては投げ飛ばしてくる。

 

「飛び道具を使うようになっちゃって…!」

「斬り落す…!」

 

 飛んできた木製の座席を『レベッカ』は足のグリップを効かせて横跳びで回避し、『ミレディ』はワイヤーで伸ばした蛇腹剣で斬り伏せ、叩き落して行くが、今度は中々に近寄りがたく、攻めあぐねる。

 

 そんな時に『ミレディ』が蛇腹剣で斬り飛ばした座席の残骸の1つが勢いよく宙を舞い、天井の照明設備に激突し、『ミレディ』の頭上に落ちてくる。『ミレディ』が気づいて見上げたころには蛇腹剣を落ちてくるそちらに向けるには遅かった。それを見た『レベッカ』が、「ツヴァイ!!」と叫び、走りこむ。

 

地面に重い金属が落ちる音と共にほこりが巻き上がり、ツヴァイと呼ばれた少女が『レベッカ』にしっかりと抱き抱えられていた。

 

「ジェーン…ごめん、なさい…」

「いいのよ。アタイはツヴァイが怪我しちゃう方が嫌だからね…怪我はない?」

「ん…大丈夫」

 

 そんな2人のやり取りなど気にしないエーテリアスは、近くの座席の残骸を投げようと振りかぶる。

 

 その時だった。

 

「…?音楽……ッ!?」

 

 6本足から4本足となったエーテリアスの騒音に張り合うように、客席ではなく、舞台の方からクラシックの音楽が流れてくる。

 

 その場にいた全ての『観客』が舞台の方に目をやると、そこには2体のバレエダンサーのエーテリアスが、客席に向かって優雅に一礼をしていた。

 

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