ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

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第十八話 協和音

 舞台に立つ2体のバレエダンサーの優雅な一礼に、『レベッカ』は冷や汗をかく。

 

「参ったわね…この体力お化けの相手をしながらまたダンスのお誘いってワケ?」

 

 連戦に次ぐ連戦でさすがに疲弊し始めているこの状況で、数的にも戦力的にも不利となってしまった以上、撤退を考えているが、先ほどとは違ってバレエダンサーのエーテリアスは地に伏しておらず、足の速さは通常通りだろう。

 どうにかして今抱いている『ミレディ』だけでも、と考えていると奇妙なことが起こる。

  

 なんと、バレエダンサーのエーテリアス達に向かって、座席の残骸が投げつけられたのである。

 

「は…?」

 

 その投擲を皮切りに、白と黒のバレエダンサーは4本足のエーテリアスへと襲い掛かる。だが、その姿はあくまで優雅に。気品を忘れない様を見せつけていた。

 

「…ジェーン……ちがった。『レベッカ』、あのエーテリアス達は縄張り争いを始めてる」

「な、縄張り争い?」

「ん、バレエダンサーのエーテリアス達は、あの4本足のエーテリアスが嫌いみたい…」

 

 それを聞いて『レベッカ』は「なるほど」と思考を巡らせる。あくまでもバレエダンサーのエーテリアス達は、『あの騒音』が許せないのだろう。自身らがいるホロウという舞台から無粋な共演者を排除することを、あの演者たちは選んだということだ。

 

 しかし驚きは止まらない。4本足のエーテリアスは一応『レベッカ』達の方も警戒しているらしく、座席の残骸を改めてこちらにも投げてきた。すると、何と白のバレエダンサーが間に割って入り、こちらに飛んで来る残骸を蹴とばして、撃ち落してしまう。

 

「どう、なってるのよ…」

「ん…不明………『視る』?」

「えっ…『視る』って…エーテリアスの考えてることも分かるの?」

「考えてることまでは、わからない。けど、うまく言えないけど敵対心があるかは、分かる」

「………なるほどね」

 

 現在の状況的にバレエダンサーのエーテリアス達はこちらと敵対していないと思いたいが、エーテリアスに対してそれはアテにならない。4本足のエーテリアスを倒した後、すぐにこちらを刺してくるかもしれない。その時、立ち位置的にも情報的にも少しでも有利に立っておかなければならないのだが、相手が人間でなくエーテリアスなため、打っておける手段がツヴァイの『視る』。ということになってしまう。

 

 『視る』ということに反動が無ければもちろんすぐにでも使用してもらいたいが、そうではない。また高熱にうなされて横たわるツヴァイを目にしなければならないのだ。いい気分にならない。だが、今の状況となっては…。

 

「……『ミレディ』、いえ、ツヴァイ。『視て』しまった場合の活動限界時間は?」

「ん、その時によるけれども…今日の体調はいい方だから5分くらいは大丈夫、だと思う…」

「…オッケー…………ふぅ…」

 

 ツヴァイからのタイムリミットの提示は5分。しかし、あのバレエダンサーたちを倒すことも含めた上で、不測の事態を考えて4分ですべて終わらせる必要がある。果たして、それが可能か。その思考を察知したのか、ツヴァイはそっとジェーンの手に自身の手を重ねる。

 

「…ジェーン」

「ん、なぁに?」

「わたしは、大丈夫。ジェーンが、そばに、いて…くれるなら…」

「…っ……ん、ありがと……」

 

 およそのプランを瞬時に立て、ツヴァイに向き直り、手を握る。

 

「…ツヴァイ。アタイがちゃんとお家で看病するし、ずっと一緒にいる。だから………お願い。『視て』」

「わかった」

 

 そこからツヴァイは即座に斬り合い、殴り合うエーテリアス達を『視る』。

 ツヴァイには敵対心を持つエーテリアスが少し赤らんで見える。今は4本足のエーテリアスはこちらに敵対心を持っているようだが、あの2体のバレエダンサーのエーテリアスには、まるで敵対心が無い。

 

「…ん、大丈夫。2体のエーテリアスはこちらを敵と認識していない。もう一方のうるさいエーテリアスはわたし達とあの2体を倒す気でいる。弱点は…さっきわたしが貫いた音楽プレイヤーと頭のコアのちょうど真ん中」

「オッケー…じゃあアタイ達も行くわよ、エーテリアスと共闘になるかもだけど一応背中は預けないで。あくまでアタイ達はアタイ達で連携するわよ!」

「了解」

 

 走り出した2人はバレエダンサーのエーテリアス達とは反対側から攻撃を開始する。弱点の部位を攻撃するためにもまずは妨げになるであろう2本の足から変化した腕を落とすことにしたのだ。幸いにもバレエダンサーのエーテリアス達は時折こちらを一瞥することはあったが、ツヴァイ曰く「こちらに攻撃する意思が見られない」という状態が続いているため、腕の破壊に集中することが出来る。

 

「ツヴァイ!ほんの少しの間でいいから右腕をワイヤーで拘束出来たりする!?」

「できる!!」

 

 伸ばされた蛇腹剣は今まさに次の座席を掴んでいたエーテリアスの右腕に巻き付き、ギリギリと音を立てる。

 ツヴァイが身体に似合わぬ力で自分の何倍もの大きさのエーテリアスの動きを封じる中、ジェーンは縛り上げられている右腕に持てる刃をすべて使って切り刻む。だが、太く硬い剛腕を切り落とすには持ち合わせの刃では少しづつしか削れない。

 

「ッ!このッ!!」

 

 ついには手持ちのナイフの刃が欠ける。一度体制を立て直すために、後ろに飛びのき、スペアのナイフをポーチから取り出していると、白と黒のエーテリアスが先ほどまでジェーンが切り刻んでいた場所を攻撃し始める。

 

「…ふぅ、まるでこっちのやりたいことを見透かしてる感じね、いいわ。乗ってあげる!」

 

 白と黒のエーテリアスは優雅に、鮮やかに。舞台の上でくるくると舞い踊るように刃となった足で右腕を切り裂いていく。4本足のエーテリアスが残ったもう一方の腕で抵抗すれば、そちらへジャンプし、そのもう一方の腕に足の刃を突き立てて着地する。当然4本足のエーテリアスはけたたましい叫び声と騒音を鳴らすが、クラシックの音楽がそれを許さなかった。

 2体のエーテリアスが右腕をボロボロにしてくれたおかげか、あと少しで斬り落とせそうな状況で、再度ジェーンは右腕に前転しながら飛び掛かり、回転の勢いに任せてブーツの仕込み刃で切り刻み、ついには右腕を落とすことに成功する。

 

「よし…!ツヴァイ!左腕はあのエーテリアス達が抑えててくれてるみたいだからアタイたちはもう弱点を狙っちゃいましょ!」

「わかった」

 

 弱点を貫くのをツヴァイに任せたジェーンは、片腕を落とされ、もう片方の腕はざっくりと突き刺されて地面に固定され、じたばたと抵抗を見せるエーテリアスの足に向かって刃と突き立て、追い打ちをかけていた。

 

「ツヴァイ!こっちは抑えとく!好きなタイミングでやっちゃって!」

「了解…!」

 

 ツヴァイはワイヤーを納めながら、4本足のエーテリアスの弱点に向かって走り出した。

 

◆◆◆

 

 4本足のエーテリアスが足すらも動きを阻害される中、向かってくる少女を見据える。こちらに走りながら蛇腹剣を構え、今にも伸ばして突き刺してきそうな少女に、ふと、何かを感じ、動きを止める。

 

【縺ゅ≠縲√″縺ソ縺ッ繧ゅ@縺九@縺ヲ】

 

 その一瞬だった。少女にとってはこの上ない隙で、弱点を貫くにはその一瞬が全ての決め手になった。が、少女も何かを感じたのか、少しあっけにとられた顔をするが、蛇腹剣を握りなおして振るい、その刃を伸ばす。

 

 4本足のエーテリアスは突き刺された蛇腹剣の感覚から、自身の自壊の運命を悟った。薄らいでいく意識の中、バレエダンサー達から解放された左腕を少女に伸ばそうとしたが、その左腕の先から自壊が始まる。

 

【縺斐a繧薙↑縺輔>】

 

 最後の最後に言葉にならない言葉を吐いて、どしゃりと力なく地面に横たえたエーテリアスは程なくして塵となった……1つの名札を残して。

 

◆◆◆

 

 塵となって消えたエーテリアスがいた場所にはジェーンにとって3つ目の見慣れた名札が落ちていた。

 

(…どこかでそうかもって気はしてたけどね…やっぱりこれも…)

 

 だが、拾いに行く前にまだ鳴っているクラシックの音と、4本足のエーテリアスを倒した後ずっと舞台の上で優雅に舞う白と黒のエーテリアスに注意を向ける。

 

「さ、どう動いてくれるのかしらね?………ツヴァイ?」

 

 横を見ると、ツヴァイが伸びた蛇腹剣を納めずに、ただ消えたエーテリアスの方をぼーっと眺めていた。

 

(もしかして『視た』ことによる反動!?まずいわね、今バレエダンサーたちが来たら…!)

 

 が、バレエダンサーのエーテリアス達の反応は意外なものだった。くるくると回って見せたり、片方がもう片方を持ち上げながら片足立ちして見せたり、一通り優雅なバレエを見せたかと思うと、クラシックの曲が終わるとともに、一礼し、その姿を消したのである。

 

「え」

 

 これにはさすがにジェーンも驚いた。

 敵対行動が無いのはあの4本足のエーテリアスが倒されるまでだろうと思っていたので、これでは本当に4本足のエーテリアスを倒すためにお互いが手を貸したということになる。縄張り争いで、自分たちの嫌いな相手を協力して倒したことに感謝している。とでも言うのか?果たしてエーテリアスにそのような感覚、意志があるのかは分からない。

 脅威が思ってもみない方向でなくなり、急いでぼーっと突っ立っているツヴァイの元へ行き、その身を抱きしめ、熱を確認する。幸いにもまだ熱は出ていない。

 

「よかった……ねぇ、ツヴァイ、大丈夫?どうしたの?」

 

「…さいご、敵対心が…なかった」

 

 ツヴァイは、ジェーンの方を見てぽつりとつぶやく。

 最後にエーテリアスがこちらを向いた時、ふっと敵対心が消えたのをツヴァイは感じ取っていた。だが、それがどうしてなのか知る由もない。

 

「…………そう。さ、帰りましょ!そろそろお熱が出るでしょ?抱っこしてあげるわ」

「…ん」

 

 お姫様抱っこされたツヴァイは塵となったエーテリアスのことを考えたが、戦闘が終わっていつものように思考が阻害され始め、だんだんとその身に熱を帯び始める。

 一方ジェーンは尻尾で名札を回収し、自身のポーチにそっとしまい、熱を出し始めたツヴァイを抱えて、急ぎホロウを後にした。

 

 今回拾った名札には、『第31研究部 研究員キリナ・メイセン』と書かれていた。

 

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