夕方、ライブハウス地下の闘技場で今月の催し物が開催された。
実際に戦う参加者はここでは『闘士』と呼ばれている。『闘士』達は様々で、腕に自信のある者、地下の栄光が欲しい者、金が欲しい者達…そしてここを調べるために忍び込む者。
「さぁさぁ!賭けた賭けた!!今回は実に16組が参加しているよ!まもなく締め切りだよー!」
観戦料のほかに、観戦者用に賭博も行われており、更に金子を搾り取ろうというのだが、主催側の思惑はそう上手くいかない。ここ数回は連覇者のある男に皆が賭けを投じ、そして勝ってしまうものだからディニーの回収率が悪いのである。
貼りだされた今日のオッズ表を眺めながら、観戦者の男たちが予想を立てる。
「なぁ、お前は誰に賭ける?」
「あん?決まってんだろ、あの『ライトの元相棒』にしてここでの無敗の王者、『マグナムキック』!!これに限るぜ」
「でもよぉ、勝ちすぎて今日のオッズなんて1.02倍だぜ…?しかも掛け金上限は50000ディニーまで、なんてなぁ……マックスで賭けても1000ディニーしか得しないじゃん?」
「そうだよなぁ…ここいらで『マグナムキック』を倒せる逸材とか…来ねぇかなぁ…」
「ま、でも手持ちがマイナスになるよりかはいいや…今日も『マグナムキック』に50000っと……?あれ?知らない名前の奴がいるな」
男たちは新たな挑戦者の名前に目を向ける。オッズ表の一番下に書かれたチームの名前は…
【白と黒の女王】
「…なんだぁ?オッズの倍率がえらく高いじゃないか。3.41倍でしかも掛け金上限なしだとよ」
「にぎやかしだろうよ。『ピアスマン』もついに人を呼べなくなってきたか…」
「ちげぇよ、『マグナムキック』が強すぎて出たい奴が減ってるんだよ」
「ま、どっちにせよいいぎやかしになって欲しいもんだな…試しに20000ディニーくらい賭けとくか」
「マジかよ…じゃあ俺も…10000だけ…」
◆◆◆
新参者の【白と黒の女王】に集まった掛け金は30000ディニー。やはり掛け金のトップは『マグナムキック』となっており、運営側の『パンキィズ』もまたか、と頭を抱えていた。
「さぁ!時間だよォ!本日の第一回戦第一試合!【ハンマー男・パイソン】対【白と黒の女王】!!【白と黒の女王】は今回が初出場!!サディスティックで妖艶なその二人はどんな試合を見せてくれるのか!!」
スタッフのDJのアナウンスと共に、リングに繋がる鉄格子が開き、それぞれ闘士が対面する形で現れる。一方は大柄な男で、その手には大きな槌が握られていた。
「けっ!なぁにが女王だ!ぶっ潰してやる!」
躍起になっている大槌の男に相対するは、白と黒のボンテージ姿に仮面を被った女性と少女。黒のボンテージの女性の腕には棘のついたトンファーが握られており、白のボンテージの少女は棒の先に長い鎖のついた鞭を携えていた。
「さ、行きましょ『ミレディ』。見た感じ大したことなさそうだしさっさと降参かダウンさせちゃいましょ」
「………ん…」
『ミレディ』は慣れないボンテージ衣装に窮屈そうに手足を動かしストレッチする。
「動きにくい?大丈夫?」
「…ん、背中の部分が衣装の材質的に引っ張られて動きが少し阻害されてる」
「ん~…まぁボンテージ衣装は確かに動きづらいわよね…いいわ。『ミレディ』、この試合をあげるから動きの練習をしていらっしゃい?」
「分かった」
そう言うと『レベッカ』はリングの入り口付近の壁に背中を預けて観戦の体制となる。それを見ていたハンマー男のパイソンは『ミレディ』に向かってキレ散らかす。
「てンめぇ!!オレ様をナメてやがるな!?たった小娘一人とはなァ!?オレ様のハンマーでミンチにして後悔させてやるぜ!!!」
「………」
そんなパイソンを『ミレディ』リングの中央で黙って見上げる。
「ッ!!ケッ!!一瞬でケリを付けてやる!おい!開始のブザー鳴らせ!!さっさとしろ!!」
そんな様子を見たスタッフのDJが「そ、それじゃあ!」と手元のボタンに手をかけて試合前のお決まりの言葉を放つ。
「レディィィィ……ゴゥ!!!」
「ペシャンコになっちまいなァ!!」
ブザーと共にややフライング気味の大槌が振り下ろされ、地響きと砂煙を巻き上げる。
「ヘンッ!!一丁上がりだぜ…!おい、次はお前だ!そっちの端に居やがる黒の女ァ!!」
「あら、なにかしら」
「なにもクソもあるか!次はテメェがペシャンコに」
「アンタがその子を倒せたら、ね?」
「へ…?がっ……!」
突如砂煙の中から鎖が伸び、パイソンの顔面と上半身にぐるぐると巻き付き、収まっていく砂煙の中から振り下ろされた大槌の真横に1人の少女の姿があらわになる。
「…慣れない」
「あら、やっぱりボンテージは苦手?」
「…それもある。けど、武器が思ったように曲がってくれない。いつものがいい」
「好き嫌いはダメよ?アタイだって今日は非殺傷用にトンファーなんだから」
呑気にコンディションの話をする2人を前に、会場の客はおろか、顔を縛られているパイソンでさえも唖然とする。
「お、おがげらばぁ!ごのオレざまを…ががにじでぇ…!!(お、おまえらぁ!このオレ様を馬鹿にしてぇ…!!)」
怒りに任せて鎖を引きちぎるか、白い少女を力任せに引き寄せようとするも、びくともしない。
「…あ、『ミレディ』、今気づいたけど後ろのファスナー変な位置で噛んじゃってるわよ?動きにくいのってそれも原因じゃない?」
「…そう?」
「サクッと終わらせて一回衣装を着なおしましょうか」
「分かった」
少女がそういって軽く手を上にあげた次の瞬間、パイソンはふわりと体が宙に浮いていた。
「ひょ?」
一瞬の浮遊感の後、パイソンは頭からリングの中央に自らが叩きつけた大槌に叩きのめされ、そのままピクピクと痙攣を起こしたかのように動かなくなってしまう。
「ねぇ、審判さん?これってダウンじゃない?」
「え、あ、あぁあ!だ、ダウーン!!なんとパイソンがダウンです!カウントが…………テ、10カウント!!勝負ありです!!」
『レベッカ』が『ミレディ』の肩を抱きながら退場する中、あっけにとられる審判やスタッフたち。しかし、観客たちは新たな強者に歓喜の声をあげる。
「うおぉぉぉ!すっげぇ!あのパイソンをやっちまった!しかもあの小さい嬢ちゃんが!!」
「こりゃあすげぇ…!新しい時代だぜ!」
「『マグナムキック』の奴に勝てるかな!?」
「どうだろうなァ…確かに強かったが…」
一方その様子を、現チャンピオンである『マグナムキック』はVIPルームでコンパニオンの女性2人を左右に抱きながらその様子を眺めていた。
「……フン…確かに強いじゃねぇか…だがあのパイソンごときを倒したくらいで息がってんじゃねぇぜ…!」
だが、そういった彼のスキンヘッドにイナズマのイレズミが入った額には汗が滲んでいた。
(冗談じゃねぇ!『ピアスマン』のやつ…!!ついに俺を!!)
「ケッ……!」
イライラしながら立ち上がった『マグナムキック』にコンパニオンが驚く。
「ど、どーしたのマグナムさん…」
「そーよ、どうせあんな小娘たちマグナムさんの相手じゃないわ」
「うるせぇ!トイレだ!ビビッてねぇ!!」
バタンと部屋から出たマグナムはそのまま人目につかない階段裏へと移動し、ポケットからある注射器の入ったケースを取り出す。
「ッ…!俺は悪くねぇ…!俺は悪くねぇ…!!」
◆◆◆
『マグナムキック』…マグナムはやさぐれていた。喧嘩の腕はここらじゃ強い。負けなしの最強だった。だが、両親は暴力的で早々に縁を切り、学校は行かずで学が無く、働き口もなく、更にはエーテル適性が低くホロウレイダーにすらなれない。そんなときに出会ったのが『パンキィズ』だった。
『パンキィズ』の話に乗せられて地下の違法闘技場で暴れて優勝し、名声を受けた時、彼はやっと認められた、居場所が出来たと思った。闘技場の外に出れば彼のファンを名乗る人物に握手やサイン、写真をせがまれる。有名人になった気分だった。嬉しくて嬉しくて。今まで出会ってきた人間と違い笑いかけてくれる。話しかけてくれる。一緒に遊びにも行ける!だからファンには良くしてあげた。
そんなファンたちのためにもとマグナムは自分を鍛えた。鍛えて鍛えて、次の戦いに赴いて、気づけば自分で言ったわけでもないのにあのカリュドーンの子の「ライト」の元相棒だっていう根も葉もない噂が立つほど強くなっていた。だが、強くなった先でマグナムが見た景色は…。
「まーた『マグナムキック』の圧勝かよ…いい加減飽きてきたぜ」
「賭けてもあんまし金にならねぇもんなぁ…つまんねぇ」
「負けてくれねぇかなぁ…ワクワクしねぇんだよなぁ…」
偶然聞いてしまったその言葉にマグナムはショックを受けた。
そして『パンキィズ』の元締め『ピアスマン』からは…。
「あー。うん。お前が強いのは分かるんだけどさ?いい加減次の時代っていうの?が来てもいいと思うんだよねぇ?こっちに入ってくる金も最近少なくってさぁ…?」
やっと手にした居場所だと思ってた。
「よっし!マグナム!お前をボコせるつえー奴をさ?探してくるわ!大丈夫だって、チャンピオンの座から降りても俺らの用心棒として雇ってやるからさ?ま、それまではチャンピオンの席でせいぜいケツあっためときな?」
みんなから、祝福されいるんだと、本当にそう思い込んでいた。
だが、それは全部…ただの…
気づけば雨が降る夜に公園のベンチに座って、びしょぬれでボーっとしていた。そこに傘を差した青いふちの眼鏡の男が現れた。
「……どうした?雨が降っているぞ?」
「誰だよ……オッサンには関係ねぇ」
「…『マグナムキック』だな?」
「だとしたらなんだ?」
「風の噂で君のことを聞いてね…境遇は聞いているとも。奴らを見返す力が欲しくないか?」
「ハッ…バッカじゃねぇの?」
力が欲しいか、そんなのあったってどうせ疎まれる。状況は変わらないじゃないか。そう思った。
「君が今の状況なのは君が周りから脅威と思われていないからだ。いくら強くとも、君は恐れられていない…恐れられていたとしてもそれはリングの上で。対戦相手からだけだ」
「っ……」
「恐れられる人間になれ。恐怖を与えてやれ。お前に逆らえなくしてやるんだ」
「で、でも、俺、そんな…」
「安心しろ、そのためにお前にこれをやる」
そう言って男は注射器の入った透明のケースを渡してきた。中に入っている液体はオレンジ色で、不気味に光っている。
「これは…?」
「試作品だ。お前の力を高めてくれる」
「ど、どうして俺なんかに?」
「…エーテル適性が低く、なおかつ身体能力が高い者に投与したくてね」
「………」
「今すぐ使わなくていいんだ。だが、使う気になれば…君が強者だと支配者だと知らしめたくなったらまたは耐えられなくなったら…使うといい」
そう言って男は「幸運を祈っているよ」とだけ言い残し去って行った。
◆◆◆
「フーッ……!!フーッ……!!!俺は…俺は……!!!」
そう言ってマグナムはケースから注射器を取り出した…。
ンナ…百合要素が少なくてつらいンナ…増やすンナ……