ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

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第三話 ドレスアップ・ガール:ウェイクアップガール

 治安局の作戦決行まであと2日の昼前、ジェーンはルミナスクエアで衣服を買い漁っていた。昨日少女を触った感じから大体のバスト、ウエスト、ヒップのサイズを把握していたのであとはタグに書かれた数字と合う服を探す。

 一通り買い漁って戻ろうかという時にある店の前で足を止める。

 

「…あ、そうそう。女の子だもの、一番これが必要よね」

 

 ジェーンが足を止めたのはランジェリーショップだった。色とりどり、デザインも控えめなのから攻めたきわどいデザインのものまで上下合わせて10セット程購入し、店を出ると、見知った顔に偶然出会う。

 

「あら、店長ちゃん」

「えっと…?その声は…もしかしてジェーンさん?どうしたの?そんな恰好して…イメチェン?」

 

 金髪のロングヘアでライダースーツ姿のジェーンは青みがかったショートヘアの『知り合い』に挨拶する。

 

「ヒ・ミ・ツ。それよりぃ…店長ちゃんも背伸びしたいお年頃なのかしら?」

 

 尻尾の先でランジェリーショップをツンツンと指し示しながらクスクスと笑うと、その『知り合い』は目を開いて驚く。

 

「うぇ!?ち、違うよ!さっきまでエレン…じゃなくて友達と向こうでティーミルクを飲んでたの、その帰りだよ」

「ふぅん…?せっかくだしアタイがいいもの選んであげよっか?」

「だーかーらー!違うってぇ!!」

「アハハッ!ごめんね、店長ちゃんが可愛くてつい悪戯しちゃった」

「もー…でもすごい荷物…いくつか持とうか?」

 

 今のジェーンは両手いっぱい、おまけに尻尾でも荷物を持っている状態だった。

 

「んー大丈夫よ。それに人を待たせてるのすぐ行かなきゃ」

「そっか、無理しないでね」

「ありがと…あぁそうそう、また今度ビデオを借りに行くわね」

「うん!お兄ちゃんと待ってるよ!」

 

 「バイバイ」と荷物を持った手を振り、歩き出す。ジェーンの思う一通り必要なものはイイ感じに手に入ったので自然と足取りが軽い。

 

 

◆◆◆

 

 

「ただいま子猫ちゃん。いい子にしてた?」

 

 倉庫の地下に戻ってきたジェーンは大量のショッパーを身綺麗になった少女の前に並べる。

 

「お着替え、しましょうか?その前に…はーいそこの趣味のイイアンタたち?ちゃあんと持ち場に戻りなさい?」

 

 趣味のイイ数人は「ヤベッ!バレてる!!」「押すなって!」「ンナァ!ンナァ!」と我先に逃げ出していった。

 

「ふぅ…全く…気を取り直して…子猫ちゃんにはちょっと着せ替え人形になってもらうわね?さぁ、」

 

 「立ち上がって?」とジェーンが言う前に少女は自ら立ち上がっていた、

 

「……………」

「…あら」

 

 相変わらず少女から表情による反応は無いが、ジェーンは軽く驚いていた。

 

(…まるっきり表情には出ないけど…これから何をされるかは理解しているみたいね…なら、ますます分からないことが多いわね…)

 

 ジェーン自身、この少女について仮説を立てていた。【黒鳶会】のボス、ゼンダーが『最終兵器』と呼んで鎖で拘束する以上、何かしらの破壊能力、殺傷能力を保有してはいるが、何も行動を起こさない少女を見て、少女自身ではその能力を使用できない。又は行動すらできないものと思っていたのだ。

 だが、「立ち上がれ」という前に立ち上がっているのはその先のことを自分で考えて、自らその行動をしたということで、意志はあるのだろう。

 もっとも、同じようにしなければならない状況が過去にあって、その状況に応じた行動がインプットされていたのなら、また別の話だが。

 

「じゃ、お着替えタイムね…まずは…」

 

 ジェーンはあらゆる服を着せた。できるだけ羞恥心をくすぐるようにきわどい服や、かわいらしさがあるフリルのついた服、途中で道行く大きなチェーンソーを持った少女を見て思いついて買ったメイド服など様々。

 そして着せ替える度、ジェーンは少女の心音を確かめる。が、依然として心音は一定で羞恥心や嬉しいなどが無いことを改めて再認識させられるだけだった。

 

「…これなんかはどう?アタイの数少ないお気に入りのブランドの黒い革ジャケットに、中はスリット入りな膝丈の白のレースワンピース。動きやすいし、似合うと思うわよ?」

 

 すると少女はジェーンの「お気に入り」の言葉に初めてピクリと反応し、ジェーンもまたそれを見逃さなかった。

 

「あら?あらあら…フフッ…ふぅん?じゃあこれにしましょうね?」

 

 そこからの行動は早く、あっという間に少女にちょっと背伸びした下着と先ほどの服を着せ、ナードたちに運ばせておいた鏡の前に立たせる。

 

「よく似合ってるじゃない。『お気に入り』、そんなによかった?」

「…っ」

 

 またピクリと動いた少女の肩と腰を掴み、お互いの顔を見合わせ、尻尾で少女の顎をクイッと上げさせ優しく妖しく少女に微笑み、顔を近づけ、唇を――――

 

「ノワール先生!!大変です!!……!あ、いやその!!しししし、失礼しましたァ!!」

 

 ドアを蹴破られる音と共に『そういうムード』は崩れ去った。

 火急を伝えに来た見張りはヘルメットの目の部分を手で覆うが、視界の端にはレディ・ノワールが少女を我が物にしようとするしぐさがまだ映っていた。そして心なしか、無表情のはずの少女の頬がほんの少し色付いているようにも見えた。

 

「…なぁに?せっかくのこの子のファーストキスよりもよっぽど大事な要件なんでしょうね?」

 

 少し怒気を含んだ声でジェーンが用件を伝えに来た見張りを睨み、少女を椅子に座らせた。

 

「あ、あぁいやその!!エ、エーテリアスが急に現れて!ソイツが結構強くて!ナードの兄貴がノワール先生を呼んで来いって!」

「チッ…なんてタイミングなのよ…ごめんなさいね子猫ちゃん、いい子にして待っててね」

 

 懐からナイフを取り出し、少女を一人残して見張りと共に不届き物のエーテリアス退治に向かった。

 

「……………」

 

 上からの喧騒が聞こえる中、少女はそっと自分の唇に触れて人知れず少し頬を染めた。

 

「ノワール…」

 

◆◆◆

 

 

 倉庫前では複数のエーテリアスが【黒鳶会】構成員と戦っていた。その中でも次々と構成員を切り伏せ、エーテルの弾丸を放つエーテリアス、通称タナトスが暴れまわっていた。

 

「ぐあぁ!」

「た、助けてくれ!あ、あぁぁぁ!」

 

 タナトスの刃がまさに1人の構成員に振り下ろされようとしたその時、その刃に横から鋭いナイフの一撃が入り、目標がズレて構成員は真っ二つにならずに済んだ。

 

「ノ、ノワール先生!!」

「生まれたての小鹿じゃないんだからさっさと立って!下がってなさい!」

「は、はいぃぃ!」

 

 わたわたと大の大人が情けなく逃げた後、ジェーンはタナトスのコアを睨み、両手にそれぞれナイフを握り締めて真正面から突っ込む。

 

「手加減しないわよ!今すっごいイライラしてるんだから!」

 

 正面からの攻撃に合わせるようにタナトスはエーテルの弾を撃つが紙一重で躱され、逆にジェーンから手痛い連撃を受ける。その後の斬撃も踊るように躱され、これも連撃でその身に帰ってくる。

 

「残念、これでもアンタみたいなの、狩りなれてるのよ…ねッ!!」

 

 着地、からのバネの様に繰り出した蹴りの一撃はタナトスの腹部に命中し大きくその身を仰け反らせ地面に膝をつかせる。

 

「さっすがノワール先生!」

「そんなエーテリアスなんかやっちまえ!」

「アンタたち声援を送るぐらいなら倉庫の物資を守りなさい!」

「あ、あぁ!ノ、ノワール先生!!アイツ!」

「…?ッ!?」

 

 タナトスの方を見ると、それまで頭に1つだったコアが左右に分離し、それに伴いタナトスの上半身だけがそれぞれのコアを支えるように真っ二つに裂け、それぞれの上半身から新たな腕が生え、4本の腕すべてにタナトスの刃が握られていた。

 

「…変異種ってこと?今まで見たことないけど…ッ!!」

 

 変異したタナトスの体が揺らいだかと思えば瞬間移動で間を詰め、四本の腕で斬撃を飛ばし、ジェーンに迫る。咄嗟のことに左手に握っていたナイフで防ぐもさすがに4連撃は受け止めきれずに手から弾き飛ばされてしまう。

 

「くあっ…!早いっ!」

 

 今度は先ほどと違い、ジェーンが地面に膝をつかされることになった。

 

「あわわわ…!ナ、ナードの兄貴!ノワール先生でも歯が立たねぇよ!どうしたらいいんだよ!」

「お、落ち着け!…そうだ『最終兵器』!おい!『最終兵器』を呼んで来い!ノワール先生と2人でなら何とかなるかもしれねぇ!」

「わ、わかりやした!!」

 

 息を切らしながら構成員が地下に走り、少女を…『最終兵器』を呼びに行くと、地下は誰もいなかった。

 

「は…?え、嘘だろ…!!どうすんだよ!!」

 

 居なかったことを急ぎ伝えるために地上に戻ると、変異したタナトスとジェーンの間におよそ70センチほどの蛇腹剣を携えた少女が立っていた。

 

「子猫ちゃん…?今、どうやって…!?いえ、それより…!」

「ひとりじゃ、無理」

「へ?」

 

 少女のしっかりとした言葉に驚いたジェーンは思わず力のこもってない声を出してしまう。

 

「今のわたしじゃ、勝てない。一緒に戦って」

 

 再びはっきりと聞こえた声にジェーンは笑みを浮かべる。

 

「…いいわよ、でも子猫ちゃん」

 

 立ち上がって少女の横に並び、残ったナイフを構える。

 

「終わったらさっきの続き、しましょうね?」

 

 

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