ジェーン・ドゥは2人笑う。   作:ネムスギボンプ

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第八話 治安局VS【黒鳶会】VS………

 

 

 午前6時、【黒鳶会】根城内部――

 

「ふあぁ……今日も飯は栄養食かぁ」

「文句言うなよ。明日はホロウの外での活動だからそん時に美味い飯食いに行こうぜ……って、ふあぁ……おい、あくびが移っちまっただろうが」

 

 見張りが早番の構成員たちがそれぞれ食糧庫の前で食料当番から水と栄養食と侵蝕抑制剤を銀のトレイで受け取り、持ち場に戻って食べ始める。

 

「暇だなぁ…この栄養食も最初は美味かったけどずっとこればっかりだから味に飽きてきたしなぁ…たまにはハンバーガーが食いてぇよ…」

「おい、ボスに聞かれたらどやされるぞ」

「分かってるよ…でも、最近のボス…なんか変じゃないか?ちょっと前までは『うちは小さくても少数精鋭のマフィアなんだ!俺とお前たちがいれば怖いもんはねぇ!』って言うのが口癖なくらいだったのに…それになんか優しくなくなってピリピリしてるっていうか…それに何か変な奴らと――」

 

 見張りの男はとっさにもう一人の男の口を「おいバカ!」と慌ててふさいで誰にも聞かれてないか焦りながら周りを見渡す。

 

「…ふぅ…誰もいないか………それより!お前知らないのか!?それこそボスから酷い目にあわされるぞ!?」

「えぇっ!?ど、どう言うことなんだよ?」

「チッ…しゃねぇなぁ…いいか絶っっっ対に!!誰にも言うなよ?実はな―――ってアレ?」

 

 耳元でこっそりと話そうとした見張りの男は二人の間に警棒が挟まれていることに気づき、後ろを見ると……

 

「治安局だ。さ、おとなしくして貰おうか」

 

 そこには大きな盾を持った猫のシリオンの治安官と、複数の武装した治安官が立っていた。

 

「ち、ちちち、治安局ゥ!?いいいいつのまに!?」

「そんな!ノワール先生の話じゃ倉庫の方が狙われてるんじゃなかったのか!?」

 

 びっくりして飛びのいた見張りの男たちがそう言うと猫のシリオンの治安官は耳をピクリと動かす。

 

「お前たち、おとなしく治安局で知っていることを話すんだ。場合によっては情状酌量の余地はある!それと、ノワール先生ってのは『レディ・ノワール』の事か?」

「そ、そうだ…先生が【黒鳶会】の倉庫の方が狙われてるって言うから…!だから人員だってあっちに大勢…」

「お、おい!そんなこと治安官に話すなよ!今根城に80人くらいしかいないってばれちまうだろうが!!」

 

 少し沈黙があった後、二人の見張りは「「あ」」と声をそろえてやってしまったという顔をする。

 

「…なるほどな。よし!C班!この2人を捕縛後、ゼンダーの逃走に気を付けつつ内部に突入するぞ!!」

「「「了解!」」」

 

 その後二人の見張りはちゃんと見張っておけばよかったと後悔したという。

 

 セスが率いるC班が突入するころとほぼ同時に青衣が率いるB班と朱鳶が率いるA班もそれぞれ内部に突入を開始していた。

 その様子を離れた高台から見下ろす二つの影は抱き合った後、足場を飛ぶように移動して、これもまた【黒鳶会】の内部に潜り込んだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……えっと、俺が言うのも変な話なんだが…な、なぁ大丈夫…か?」

「う、うるせぇ!だだだ、大丈夫な訳ねぇだろ!!」

 

 内部に突入したセスは妙な光景を目の当たりにしていた。

 【黒鳶会】の構成員が複数人トイレに並び、それぞれ苦痛な表情を浮かべていて、「神妙にしろ!」と突入してきたセスを相手に構成員たちは腹痛と格闘するのに精一杯で武器を握ることさえ困難となっていた。今も見ていてちょっとかわいそうになって声を掛けてしまった。

 

「セスさん、他のところも一緒です…その、一部を除いて腹痛を訴えて戦闘どころではない感じが多いようで…」

「…な、なんか腐ったものでも食べたのか…?それとも食中毒…?」

「さ、さぁ…?あ、ただ、ボスのゼンダーや側近とその他10人ほどは無事なようでして反発を強めていますが…どうやら武器が枯渇しているようでそっちも時間の問題かと…」

「そう、なのか…これってその特殊行動班の仕業だったり…するんだろうか…」

「ど、どうなんでしょう…?」

 

 その時、防具を付けるために肩に巻き付けていた無線機が鳴り、朱鳶が緊急を伝える。

 

『こちらA班朱鳶!ゼンダーと数名の親衛隊が脱出路を使って1階へ逃走!C班!警戒態勢!』

「っ!!C班!警戒態勢!来るぞ!」

 

 周囲を警戒し、ゼンダーがどこから出てくるか警戒していると根城の外から「ぐあっ!」と声が聞こえる。

 

「しまった!外か!」

 

 セスと数名の治安官が根城の外急ぐと、スモークが焚かれており、視界が不明瞭となっていた。セスにはこの煙に心当たりがあった。

 

「くっ…!この煙…!まさか!」

 

「うわあぁぁぁ!!」

「!?」

 

 突如煙の中から【黒鳶会】のボスであるゼンダーが顔面蒼白で逃げ出すように飛び出してきて、セスたちの目の前に倒れこむ。それを治安官たちは一瞬で囲い込む。

 

「【黒鳶会】のボス、ゼンダーだな?逮捕する!」

「ま、待て!そ、そんなことよりあの二人が…!さ、『最終兵器』が…!」

「あの二人…?それに『最終兵器』って何のことだ?」

 

 その時、スモークの中からヒュンッという音と共にワイヤーに刃が付いた武器の一閃が鞭のようにしなってゼンダーの両足の間を打つ。

 

「ひぃぃ!」

「な、なんだ!?」

「アイツだ!『最終兵器』が私を殺しに来たんだ!」

「だから『最終兵器』って何なんだ!?」

「それは…!き、来た…!アイツだ!!」

 

 怯え震えた手で指差した先には、ボロボロのつぎはぎの布を着た…いや、身につけているだけの140センチほどの無表情の少女の姿があった。

 

「…女の、子???」

「違う!アイツは戦闘能力だけで言えば『レディ・ノワール』をも上回るかもしれない殺戮マシーンだ!部下の親衛隊もこいつにやられたんだ!!」

「恨まれるようなことでもしたのか?」

「ぐっ…そ、そりゃあ地下に鎖でつないだりしたが…」

「それが原因じゃないか?…うわっと!?」

 

 少女が布の下から右手を振るうと同時に先ほどの刃がセスの前髪スレスレを横薙ぎに飛ぶ。

 

「待て!俺たちは敵じゃない!それに君は…!幼いのに戦う必要なんてないんだ!」

「……敵、ゼンダー1、その他武装治安官6。ノワールからの作戦、『治安官とちょっとしたダンス』、開始」

「え、は?ダ、ダンス?」

「セ、セスさん!来ま―グッ―!?」

 

 銃を構えていた治安官が言い終わる前に一瞬の瞬きの隙に少女はその治安官の背後を舞っており、後頭部を蛇腹剣の柄で殴り、一撃で気絶させる。

 

「は、早い―!?」

「ぐあっ!」

「クソッ!伊達に『最終兵器』って名前じゃないな!」

 

 次々と他の治安官がたった一人の少女の消えては現れの縦横無尽からの襲撃に倒れる中、セスは盾を巧みに使い、何とか防いでいた。

 

「ぐっ…!聞いてくれ!俺は…!」

「知ってる」

「なっ!?」

 

 いつの間にか懐に潜り込んでいた少女に、下からボディブローを受けるように柄での一撃を受け、そのまま仰向けに倒れこむと少女に首に刃を添えられる。

 

「治安局都市秩序部捜査課・特務捜査班のセス・ローウェル巡査。熱血で、正義感あふれる未来の優秀な治安官。単純で素直すぎて空回りすることもある。」

「その言い回し…!まさか!『レディ・ノワール』か!?」

 

 そう言うとスモークの中から「ご名答!」ともう1人が現れる。長い金髪にライダースーツの上に黒い革ジャケット姿の『レディ・ノワール』だった。

 

「クッ…!ノワール!こんな子まで使って!何を考えているんだ!」

「あら?アタイはゼンダーの逮捕に協力してあげただけよ?それとちょっとこの子の実力が見たくて殺しは駄目だから相手を気絶程度でちょっとダンスしておいでって言っただけ」

「何ィ…!」

 

 普段鍛えているはずの自分たちが見た目から油断していたとはいえ少女に負けて、悔しさを覚えたセスは歯を噛みしめる。だが、歯をギリッと噛みしめたのはセスだけではなかった。セスの横で少女に蹂躙されていく治安官を見ていたゼンダーもまた、『最終兵器』の実力に「もう少し待遇を良くしてやればよかったか」と思っていた。

 

「『レディ・ノワール』!貴様洗脳でもしたのか!?うちの『最終兵器』をどうするつもりだ!?【黒鳶会】を乗っ取るつもりか!?ええ!?答えろ!」

 

 焦った表情で糾弾するゼンダーをノワールは気にも留めず、優しい表情で少女に「その辺でいいわよ、戻っていらっしゃい」と声を掛けると、少女はセスから離れ、ノワールの元へとてとてと走り、抱きしめられる。

 

「おかえりなさい、マイハニー…大丈夫?ケガはない?」

 

 「「………まいはにー???」」とゼンダーとセスは声をそろえて口をぽかんと開ける。それとは対照的にノワールは少女を抱きあげ、クルクルと回るっていたが、ピタッと止まってゼンダーとセスの方に向き直る。

 

「あ、そうそう…アタイ、【黒鳶会】辞めるわ。元々用心棒での雇用だったし?」

「なっ…!?なんだと!?」

「ノワール…!やっぱり思い返してくれたのか!」

「あら、違うわよ。アタイはアタイの欲しいものを手に入れたからここに用が無くなったの」

「欲しい、もの…?」

「そ、この子よ」

 

 少女を後ろから抱きしめながらクスリと笑う。するとゼンダーはノワールの想像通り激昂する。

 

「ふざけるな!ソレはお前のモノでない!」

「…それ、やめてくれる?アタイのハニーに『ソレ』とか『アレ』とか…不愉快だわ」

「ぐっ……」

 

 ギロリとゼンダーを睨んで怯ませた後、「そ・れ・に」と少ししゃがんで少女の頬に自分の頬をすり合わせた後に、そっと少女の唇にキスをした。

 

「なっ…!?」

「はぁ!?」

 

「もうこの子はアタイの大事な大事なハニーだもの、ね?」

 

 ノワールの腕に抱かれた少女は無表情ながらも少し目をトロンとさせながらコクリと頷いた。

 

 あっけに取られていたセスの肩の無線機から、声が響く。

 

『こちらB班!巨大な見たことのないエーテリアスが!応援求――」

 

 無線は途中で乱雑にブツリと切れてしまい、事態が重大であることが容易に想像できた。

 

「っ!B班…!?青衣先輩の方か!」

「ふぅん、いいわ。セス、アンタはゼンダーを捕縛してベースの待機組に身柄を引き渡してきなさい。ハニー、アタイたちはもう一仕事よ…行ける?」

「大、丈夫…」

「ま、待て!なんでベースのことを知ってるんだ!」

「いいから、さっさと行きなさい。ゼンダーを逃がしてもいいの?」

「ぐっ…分かった。だが、あとで話がある!絶対に生きて戻れよ!」

 

 そう言ってセスはゼンダーに手錠をかけてベースの方向へと連行していき、残された気絶しているメンバーの無線を使ってノワールがA班に連絡を入れる。

 

「ハァイ朱鳶、こっちはゼンダーを捕らえたわ。今から青衣のところへ援護に行くわ」

『ジェ…!いえ、特殊行動班ね?了解したわ。こちらも捕縛した親衛隊と構成員をベースに連れて行ったら合流するわ』

「そ、じゃあ途中で伸びちゃってるC班のお友達も回収してくれるかしら?」

『……ねぇ、もしかして…また?』

「あら、今回はアタイがやったんじゃないわよ?ハニーにダンスしておいでって言っただけ」

『…どういうこと?でもとにかく了解よ。途中で回収するわ』

「よろしくね」

 

 無線を切り、少女の頭を撫でた後、2人はB班の元へと急いで走った。

 

 

 

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