”神は賽を振る”   作:あるふぁせんとーり

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一の目:幸神神楽と云う女

 幸神神楽は『異常(アブノーマル)』である。彼女がその認識を得たのは十歳の十月。五年生の秋、『転校生』と出会う少し前の出来事だった。

 

「はじめまして、かな?うん、そうだ。こうして僕が直接訪れるのは初めてだからね」

 

 ごく普通のクリスチャンの家に産まれ、天秤とサイコロ、トランプが好きなだけの、ごくごく普通の少女だった神楽。そんな彼女がいつものようにサイコロを重りにして天秤を釣り合わせているところに、見惚れるような美少女が姿を現した。彼女は神楽の遊びを見るなり、「まさか『悪平等(ノットイコール)』からこんな平等な子が生まれるなんてね」と少し興味深そうに微笑み、神楽のベッドに腰掛ける。

 

「……お姉さん、誰ですか?」

「よく聞いてくれた。僕は安心院(あじむ)なじみ。きみのパパみたいなものでもあり、ママみたいなものでもあるんだぜ。だから親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」

 

 そして彼女は神楽の手元の、積み上がったサイコロや散らばったトランプを見て「きみ、ギャンブルは好きかい?」と尋ねる。神楽はこくりと頷いた。

 

「へえ、そうか。どういうところが好きなんだい?」

「……全部、おんなじになるところ。強い人も、弱い人も。サイコロ、トランプ、ルウレツト……そんな道具があれば、みんなおんなじになるんです」

「『おんなじ』?いや、違う。サイコロは振り方によって狙った目を出せるし、トランプとなればほぼ実力ゲーって言っても良い。ルーレットなんて腕利きのディーラーなら狙ったポケットに入れるのは朝飯前だ。()()()()()()()()()ギャンブルってのはむしろ人の強さが出る遊びなんだぜ」

「どうして?サイコロの目も、次に出るカアドだって、()()()()()()()()()()

「そう。それこそがきみの持つ『異常(アブノーマル)』さ」

 

 そう言って、彼女は神楽と指先を優しく合わせる。それと同時に発動された、彼女の持つ『7932兆1354億4152万3222個の異常性』と『4925兆9165億2611万0643個の過負荷』、合わせて『1京2858兆0519億6763万3865個のスキル』の内の一つ、『秘破壊検査(アンブレインカブル)』が神楽の持つ『異常』を暴き立てた。

 

「……私、『異常(アブノヲマル)』なんですか?」

「ああ。「あらゆる物事を『幸運』と『不幸』に変換して、それを常にプラマイゼロにするスキル」、要は『全ての実力ゲーを平等な運ゲーにする力』さ。これなら間もなくきみが出会うことになる『過負荷(マイナス)』ともいい勝負出来るぜ」

「『幸運(ラツキヰ)』……『不運(アンラツキヰ)』……」

 

 「僕の助けもいらなそうだな」と彼女はベッドから立ち上がり、そしてもう一度神楽と目を合わせた。神楽は「でも、良かったです」と微笑んだ。

 

「ギヤンブルって、結局最後はみんな『打消(ゼロサム)』になるんです。勝ちも、負けもなく、ただ最初に元通り。そういうのが、私は好きですから」

「リスクもリターンもない勝負を望むなんて、そんなのギャンブラーとしては下の下だな。そうだな……なら、そんな『人類最悪の遊び人(ギャンブラー)』に安心院さんからプレゼントだ」

 

 そう言って、彼女は神楽に一つのお面を渡す。一般的にイメージされるような、狐の面。「ファンサービスだ、何の意味もないけどな」と渡されたお面を神楽はひどく気に入ったようで、それをぎゅっと抱き締めると、「ふふっ、『幸運(ラツキヰ)』です」と呟いた。

 

「あ、だったら……」

 

 神楽はヴェールのような髪飾りの上から半端に狐の面を被ると、傍らに散らばった、裏も不揃いの何百枚のトランプへと手を伸ばす。そして彼女は、まるで続きの決まった小説のページを捲るかのように、指に触れた五枚を徐ろに裏返した。

 

「『スペヱドの3』、『クラブの5』、『クラブのK』、『ダイヤの2』、『ダイヤの10』……ああ、『無役(ブタ)』。『不運』、ですね」

 

 数百枚のカード。当然いくつものデックが偏りを伴ってそこでは混ざり合っている。にも関わらず、神楽はまるでそうなることが分かっていたかのように、感情の波を現さない。直球に「知ってたのかい?」と彼女が問いかけると、神楽は少し不思議そうに首を傾げた。

 

「『知っている』と言われれば、知っていたような気もしますし、『分からない』と言われれば、分からなかったような気も。でも……ある意味、そうなってほしかったのかもしれません。『幸運』と『不運』は、おんなじだけ在ってほしいですから」

「その答えを聞けただけでも、今は充分な収穫だな。……そうだ、せっかくなら聞かせてくれよ。きみの『異常』の名前」

「私の、『異常』……」

「そうさ。悩む必要はない、きみの持ってる感情をそのまま『言葉』にすればいいんだ」

「なら……」

 

 神楽はしばらく考えた後、小さく笑って、それを口にした。

 

「──『当禍神観(ゼロサム・ゲヱム)』」

 

 彼女は「良いじゃないか」と笑い、「スキルを記録する」スキル、『千変万科辞典(ノーザイセルフ)』によってそれを記録する。それが終わると、彼女はゆったりとベッドから立ち上がった。

 

「じゃあな、神楽ちゃん。次に会うのは生徒会戦挙編の後くらいだろう」

「……?まあ、楽しみにしておきます。さようなら、安心院さん」

「うん、よろしい。……いや、最後に一つ聞きたいことがあったな」

 

 神楽の目の前から姿を消そうと、背を向けていた彼女は、ふと思い直し、再び向き直る。

 

「きみは、『神』を信じるかい?」

 

 問いかけられた神楽は表情を変えること無く、敬虔な信徒、あるいは傲慢な背信者のように答えた。

 

「もちろん、いるとは思います。けれど、信じてはいません。『観客(オヲヂエンス)』は好き勝手に評価を決めますけど、結局のところゲヱムの結果に関わることはありませんから」

「同感だぜ。あんなもん、打ち切りが決まってからアンケートを送る読者みたいなもんだ」

 

 神楽の答えに満足そうに笑うと、「きみの『打消』を祈ってるよ」、そう言い残して彼女は1京分の1の、「帰路に着く」スキル、『遺影に還るまでが遠足(ドリームズカムホーム)』によって姿を消す。そして彼女の名残が消えた頃、神楽は一人でトランプを捲った。

 

「ああ、トヲタルだと……ふふっ、『不運』、でしょうか」

 

 現れた『スペードの3』を見て、神楽は幼く微笑んだ。




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