幼馴染のアーモンドアイが勝負を仕掛けて来た!!   作:グリザイユの牢獄

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あっけない…あまりにも

現在……俺たちは中山レース場に居る。

 

「アイ、ここだ…ここで一気に押し上げる」

「分かったわ!はぁぁぁぁ!!」

 

 

決してレースに来たわけでは…いやある意味でレースのために来てはいるな。

 

「足の筋肉の動きが硬い…力みすぎてるぞ」

「っ!つまり……こうね!」

「そうだ。それでいい、そのままなら万が一湿地だろうとその足が奪われることはない。後は踵の付け方……その走りだと足首にかなりの重負荷がくる。いくら爆発的に強化した肉体といえど単的なフォームを間違えれば詰むぞ」

「内出血になったりするのよね…体ってのは本当に難しいわ」

「ウマ娘のレースってのはある種体をボロボロにするものだからな。それに耐える強靭な肉体は必要だ。それで…曲がる時のカーブについてだが…」

 

 

 

何故、中山に居るのか…実は中山レース場含めて全ての大半のレース場はある一定の期間-特にG1レース場の舞台になる場所は開催前1週間は制限があるが練習することが出来る。

 

アーモンドアイと冬夜は『6日前』というなんとも微妙な場所で練習してるが何故か?

 

 

それは有マ記念の当日に合わせていた。

 

 

「この日の有マの前に……大雨と雪が降る。確かに当日の天気は満天の青空だがバ場はそうは行かない。むしろ真逆…良バなどと程遠い。こんなクソみたいな地面の状態で走るのはいささか文句は言いたいが…有マを延期だなんて愚行は出来ないからな」

 

 

実は今走ってる状況もほぼ同じに近い…酷い雨が降った後の雨上がり。ある意味で彼があらゆる物から計算し演算も加えて想定される本番に最も近い状況で予行練習として走っているのだ。

 

 

「しかし…走る場所としての地面にしては本当酷いな…諏訪さんどころか嵐山さんすらクソマップ認定するレース場だろこれ」

「そのネタ知らない人は訳わからないわよ。でも仕方ないわ…レースはどんな状況だろうと関係ない。お兄ちゃんだってかなり前から雨雲レーダー見てて計算してたじゃない」

「ここまでやってシチュエーションしないとやってらんねぇ。ったく……さて、有マのメンバーは誰だったか」

 

冬夜はあらかじめコードリールで繋いで起動したパソコンで調べるとシュヴァルグランやリスグラシューとメンバーが出てくる。

 

「ざっとこんなもんか…警戒すべきなのはリスグラシューとサートゥルナーリアの2人だ。まぁ……リスグラシューだろう。宝塚とコックスプレートで勝ち上がったから調子が良い。走りを3Dで通して、分析して見ても明らかに調子が良い。ラストランというのもあるんだろうな」

 

冬夜はたった1人警戒するならリスグラシューだと断定する。そのままデータを使ったシミュレーションのついでにあらゆる計算に取り掛かる。

 

 

「…肉体の調子99%、調子は絶好調と仮定してで…、しかもアイが中山に出た回数がそんなにないのもデバフだと考えて…後は他のウマ娘のデータを打ち込みさえすればリスグラシューのタイムは…なるほど」

「ん?なるほどって……」

「もしもリスグラシューが最高に調子が良ければタイムは…」

 

 

 

『2分30秒』

「このくらいだ」

「ロブロイさんの出してる最高記録と1秒差!?」

「まぁさっきみたいに2分26とか25秒を普通に出せてれば勝てるぞアイ」

「単純だけど地力で上回って勝てばいいのよね」

「本当に単純なことだけどな…これが真理だ」

 

明らかにイカレたタイムが出てくるがこんな所で止まってたら自分達が望む境地に至らないし全く満足してない。

 

「いつも通り走ればなんとかなる。為すべきことは自分を信じることだ」

 

どんなに相手が調子ついても、どんなに相手の心が踊っていても、……地力が某野菜人のように急激に伸びることはない。肉体の成長とはミルフィーユみたいなものだ。己の肉体に適正のあるトレーニングをこなして、自分の走りに特化したフィジカルを作り上げるのが良い。

 

 

冬夜自身…チームを作ることをやりたがらないのは単純に忙しいのもあるが、チームトレーナーがどう考えても適性が違うウマ娘に適性外かつ彼女の肉体に全く適さないトレーニングというお前トレーナーとして何を学んだ?というような事をしていたのを見ていたからだ。

 

それ以前に「ウチのお転婆娘だけでも苦労してる俺に2人目は無茶だろ」と言ってるのは……うん。

 

 

「さて……もうすぐ出る時間だ。2時間以内が規定だからな」

「え?もうこの時間なの!?」

「時間は過ぎるものは早いものさ。そんな短い時間の中で大切に過ごせばいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事にアイが着替え終えてのをレース場の玄関の中央入り口のドアの前で待っていた冬夜はアイと合流後はゆっくりとするつもりだった。

 

 

「………………………」

「お兄ちゃん?」

「……………っ!どうした」

「なんか……変だよ?」

「いや……なんでもない

 

冬夜はずっと……変な感覚を感じていた。異質な感覚……今日この時、とんでもない予感がすると。そんな感覚をずっと感じていた時、ふと上空からうるさいテレビの音が聞こえる。テレビ…いやビルに設置されてるスクリーンか。

 

「あっ、有マの特集よ!」

「ったく…こんなとこでせんでもいいだろ。テレビで何十回特集されてると思ってんだ」

「お兄ちゃん地上波見てないじゃん」

「………うっせ」

 

スクリーンに映っていたのはシュヴァルグランや冬夜が注目していたウマ娘の1人であるリスグラシュー……そして大画面に大きく映るアーモンドアイの姿。

 

大特集だと言わんばかりにアナウンサーどもやレーサーの専門家なる博打人間どもが好き放題色んな予想や調子の良さなどをあれこれを語り合い姿を見て冬夜は呆れたように鼻で笑う。

 

 

「つまんねぇな……誰が勝つだのの予想も、注目のウマ娘など…も関係ねぇ」

 

新しい世代…有力ウマ娘…正直言ってまだそこまで関心はない。新進気鋭など言われても俺とアイで関係ないとマジレスすればいい。

 

自分達の狙いは有マのその先…間違いなく自分達と同じくらいにレースでブイブイ言わせているスティルインラブとぶつかり合うからだ。スティルも好きなだけ喰らえるだけ喰らい尽くしながらあらゆるレースを満足するまで暴れ散らかせばいい。

 

自分達が望む境地はそんな物ではないから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

「「!?!?」」

 

突如として遠くから女性の恐怖の悲鳴が聞こえる。その悲鳴はただの悲鳴ではなくて本気で恐怖した悲鳴。それだけでなくナニカ…不味いものがぶつかっていくような音が聞こえる。

 

そして……凄まじい轟音で突っ走る車。

 

「…………え」

「っ!?まさか!!」

 

思わずアイはウマ娘の聴覚を察して何か来てるのか察してその方向を見ると…

 

 

そこには真っ赤な液体をあらゆる所に引っ付けて悍ましい勢いでぐにゃぐにゃと走り出す大型の車だ。

 

しかも見渡すと一般人の男女どころかウマ娘の人すら巻き込まれて大怪我を負ってる様子が伺える。つまり…頑強なウマ娘だろうと巻き込まれれば致命傷なのは間違いない。

 

 

「暴走運転!?つーか速度どんだけ出てんだありゃ……なっ!?」

「運転手が…頭から血を流して…」

 

何故か運転手が頭から血を流して朦朧としていた…いや、あれはもう死んでるかもしれない。

だが何故?もしも建物にぶつかっていれば車は簡単に止まるし、あそこまで血が流れていたら死んでいてもおかしくない。なら何故あの死に体の状態で暴走をしている?自暴自棄?いやまるで突発的に感じる。

 

 

(なんでだ…飲酒?いや飲酒にしてみればそれ以前に運転とか論外だろ!?しかもあの中年野郎の服装はリーマンでこの時間帯なら昼飯どき…酒は飲むわけねぇ……あ?あの野郎、頭から血を大量に流して手足が麻痺したように動いてねぇ…)

 

 

まさかと思いポツリと冬夜は咄嗟の回転力で結論づけた。

 

 

「くも膜下出血……これくらいしか想像つかねぇよ!」

 

 

くも膜下なら…高齢の年の人が突発的な状況で起きてしまうためある種不慮の事故…偶然になる。何故なら大半の人は予測出来ない人体の事故だから。

 

多分…あの感じは予想としては最初辺りは居眠り運転として処理されるかもしれないが。

 

 

「自分の体くらいちゃんと管理してろよ!馬鹿正直に社畜してるからそうなったんやろクソが!アイ!そこのテメェらもさっさと建物の中や隅に隠れろ!!あの車の運転手は死んでる可能性がある!どこかにぶつからない限り無差別に巻き込まれるぞ!!」

 

思わず咄嗟に荒っぽく冬夜は叫ぶと周りの人々はパニックになりながらも建物の中に入ったり全力で逃げたりと動き出す。冬夜とアイもすぐさま離れようとするがここで大きな誤算があった。

 

「なっ!?」

 

なんと別方向に爆走してた暴走車が突如としてこちら側に方向転換して来た事と……そこ方向には。

 

「えっ…」

 

 

 

 

 

小さな…幼稚園生くらいの小さな子供が怯えたまま尻餅をついたまま動けなかった。しかもそこに駆けつけた母親らしき人が子供を抱きしめて守ろうとする。

 

それを見逃さなかったのがアイだ。彼女はすぐさまそこまで走り出し子供と母親を抱き抱えて守りそのまま逃げようとするが。

 

 

(っ!……もう目の前に車が!!)

 

 

間に合わない…このままでは2人ごとアイが跳ね飛ばされる。しかも車の進み先は壁であるため彼女は子供ごと壁に叩き潰されてどうなるか分からない。しかも…体格的に間違いなく子供は死んでしまう。

 

 

 

そんな中で……冬夜は飛び出していた。

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛たたた………」

 

 

あれ、私はどうなってるの?車に轢かれてたと思ってたのに…見た限り無傷?体を車に叩きつけられてないの?それにあの子供は……お兄ちゃんも見えない。

 

 

「……お姉ちゃん」

「っ!!」

 

そこにはわたしが庇った子供が涙目になってわたしの方を見ていた。その姿は無事なようだ。

 

 

「良かった!無事だったのね!!良かった…良かったわ!!」

「お姉ちゃん……ごめんなさい」

「謝らなくていいわ!あなたが無事なだけで嬉しいのよ!お母さんは!?貴方のお母さんは無事!?」

「お母さんは無事だった。だけど…ごめんなさい…ごめんなさい!!」

「…………え?」

 

なんで……なんでここまで謝ってるの?わたしも無事なのに…お母さんも無事だって言ってるのに……あれ?

 

 

「お兄ちゃんは?」

「っ!」

 

お兄ちゃんは何処なのか男の子に聞くと思わずビクリと何か怯えたようにして…本気で申し訳なさそうな顔をする。

 

嫌な予感がしていた。さっきから不自然なまでにお兄ちゃんの姿が見えないし…何よりすぐそこの建物付近に野次馬が集まっている。

 

「僕のお母さんが様子を見て、何度も何度もずっと呼びかけても、反応しないの」

 

 

その言葉を聞いたわたしは男の子の手を繋いで走った。そこはたくさんの人々が誰かを呼びかけてる場所。嫌だ……嫌だ……もしこれが現実だったらわたしは…わたしは!

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃんは!!」

「貴方は…アーモンドアイさん」

「お母さん!僕たちを助けてくれたお兄ちゃんは!?まだ起きないの!?あの時お姉ちゃんとお母さんと僕を弾き飛ばしてくれたから!」

「……え?」

「アイさん。………助けていただいた身でこういう事を教えるのは酷だと思いますが、見ていただけると早いです」

「っ!!」

 

わたしは男の子のお母様に同行して連れられるとそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ………ぁ……お兄ちゃん…お兄ちゃん!!」

 

 

お兄ちゃんの体は…全身が血で真紅に染まっていた。左腕がよく分からない方向に曲がっており、壁に叩きつけられたのか目の前の壁が真っ赤に染まっている。ギリギリ意識があったのか救命士の方を無視してわたしの方を見た。

 

 

「ア……イ」

「無理しないでください!貴方は生きてるだけでもおかしい状態なんですよ!?普通は死んでるんです!」

「……え?」

 

どうにかして立ちあがろうとするお兄ちゃんを救命士は慌てて止めて応急処置を行う。

 

救命士や目撃者曰く…わたしや男の子が車に跳ね飛ばされかけた時にお兄ちゃんが凄まじいスピードで飛び出してわたし達3人を押し飛ばし、わたし達を事故から守るも回避が間に合わずお兄ちゃんは暴走車に凄まじい勢いで跳ね飛ばされ壁に叩きつけられたようだ。

 

幸いにも車の軌道がぶつかった時の衝撃によりずれたため、車ごと叩きつけられ爆破に巻き込まれるなんて悍ましい事態にはならなかったらしいが、それでも車の軌道がずれた時に装甲部に体に強く打ち付けられたためにお兄ちゃんの体は生きてることすら奇跡なレベルでボロボロだという。

 

実際、もしもお兄ちゃんが身代わりにならずわたし達3人が巻き込まれた場合3人とも死んでいた可能性があったという。

 

 

そして暴走車は軌道がずれた後、近くの建物にぶつかったようでその運転手の状態はもう─

 

 

 

 

「……ガハッ!ゴホッ!」

「不味い…呼吸が整ってない…このままでは!急いで病院に搬送します!」

「お兄ちゃん……なんで……どうして!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の……両親………これと同じような状況に巻き込まれて…死んでんだ…………れと違って、飲酒運転に巻き込まれだけど……な」

「「っ!?」」

「アイと……ガキンチョ見たら思い出した……昔の俺を……それ思い出したら……体が動いてた」

 

 

「だからと言って……自分が巻き込まれたら!!」

「バーカ………お前らはまだ未来があんだろ……なぁ……アイ…俺はなんとでもなる。お前らが無事なのが…最重要事項……そうだろ」

「っ!!お兄ちゃん……もう喋らないで……傷が!傷が開くわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「亡霊みたいな…生き方しか…出来ない俺と違って……お前らは…未来があるだろ………そっか………そうかぁ………見なくても…見えなくても………分かる」

 

 

 

 

 

 

 

「アイも……ガキンチョも…ガキンチョの母親も全員無事なんだな………良かった……良かったよ……父さん…母さん…」   

 

 

 

 

「ごめん……俺もそっちに行く」

 

お兄ちゃんは、何処か…安心したように小さく微笑み…少し無作為で…何かを探すように、真っ赤な手で…だけど優しく私の頭を優しく撫でる。お兄ちゃんは一滴の涙を流すとすぐに力を失ったように撫でていた頭から一気に地面に堕ちていく。

 

 

わたしが慌ててその手を掴んでもその手に力はない……お兄ちゃんは目を閉じたまま喋ることはなかった。

 

 

「要救護者…意識不明の重体!!急いでください!今すぐ救急車に!このままでは彼が!!」

「ダメです!要救護者が多すぎて救急車が!!」

「お兄ちゃん………お兄ちゃん!!やだぁ!!起きて……起きてよぉ!!」

「アイさん落ち着いて…落ち着いてください!!」

「お兄ちゃん!!やだ…やだよぉ!ダメ!!行かないで……行かないで!!」

 

 

わたしがどんだけ泣き叫んでも……手を強く握っても…お兄ちゃんの反応はない。わたしが泣き叫ぶ声が……辺りを響き続ける。

 

 

有マ記念まで後6日……お兄ちゃんは意識不明の重体になった。




日常とは……あっけないんです。

嫌というほどよく知ってることです。
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