幼馴染のアーモンドアイが勝負を仕掛けて来た!!   作:グリザイユの牢獄

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アーモンドアイ…完全体へのラストピースが揃いました


希望と絶望と祝福の神…魔誕

「アーモンドアイ!アーモンドアイが…出ない!」

 

アーモンドアイが上がって来ない…思わず会場が騒然となる。冬夜の代理としてアーモンドアイを見ていた沖野も分かっていた…という顔をしてもここまでとは思ってなかったようだ。

 

(あのアーモンドアイが…出て来ないだと!?)

(嘘でしょ……)

 

 

爆発的な加速で上がったシュヴァルとリスグラシューが思わず一目見て唖然としてしまうも加速し続ける。

 

「な…なんでアイさんが上がって来ないんですか!?」

「あの人の本気を私は知ってます!でも…あんな苦しそうに」

 

冬夜が致命傷を負い、アーモンドアイを代わりに見ていた沖野は察したように難しい顔をしていたが、あの様子を見て思わず唖然としているアイの仲間やクラスメイトの生徒は様々な反応をしていた。

 

 

「アイちゃん……トレセンにいる時は痩せ我慢をしてたけど」

「─ものすごく苦しかったんだろうね」

「アイさんが、トレーナーさんが入院した後に全く練習しなかったのは…例え練習しても苦しくなるだけだから…それを1番知ってたのは…間違いなく彼女自身」

 

「病院にいる時はそんなのを隠さず…ずっと冬夜の手を握ってずっと泣きじゃくって苦しそうだったからな。生物ってのは…心に深く傷を受けるとそれが大きな影響を与えちまう。あの事故は…彼女の心に深い傷を与えちまった」

 

 

「多くの生徒にはまだ早いかもしれないが覚えててくれ…目の前で自分が愛する本当に大事な物を失うってのは…だいぶ堪えるぞ」

 

 

沖野がそう告げた時の顔は、とても辛そうだ。

 

 

 

 

…………………………………………………

 

 

(はぁはぁ……っ!あれ?)

 

 

体が動かない……こんな事は初めてだ。痛い…苦しい……いつもは余裕があるのに…ゼェゼェと荒い呼吸をしてしまう。

 

 

(なんで……なんでこんな……力が出ないの!?)

 

きつい……苦しい、足が上がらない……前に進まない。

 

 

「………………!!!」

「─!?!?」

「!!!!!!!」

 

 

多分観客の誰かが何かを言ってる……でもそれは何も聞こえない。

 

 

それだけではない……目の前で塗りつぶされていく……私とお兄ちゃんの思い出も全て壊れていく。

 

もう一度踏み込もうとした瞬間それは起きてしまった。

 

 

「え─」

 

踏み込もうとした左足が僅かに滑り体勢が悪くなる。このままいけば間違いなく転ぶ…いや気づくべきだった。

 

 

前にお兄ちゃんが言っていたはずだ。前日に大雨が降るから地面のコンディションが最悪だと。実際有マの前日に大雨が降ったことで地面が湿り切ってるままだ。

 

お兄ちゃんが居ないことに傷ついてばっかりでこの事を完全に忘れてしまった。このままの勢いで転んでしまえば間違いなく大怪我だ。

 

いやだ…負けたくない…こんな終わり方したくない。

 

でも……もう……わたしは…

 

 

「助けて……お兄ちゃん!!」

 

 

………………………………………………

 

 

突如として視界の空間が変わった。 

 

 

「あれ……ここは?レースはどうなったの!?」

 

わたしは思わず混乱してしまうが仕方ない…自分はさっきまで走っていたはずだから。

 

「よく見てるとここって…公園?」

 

思い出した─この場所は幼い頃からお兄ちゃんと遊んでいたアイの家の近くの公園。ここでサッカーしたり遊具で遊んだり色々教えてもらった思い出の場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く…お前もここに来てしまったか」

 

思わず懐かしさを感じてゆっくりと歩いていると、かつん、かつんとブーツの心地よい歩いてくるような音と……大好きな声がしたため振り向くとそこには本来いるはずのない人がそこにいた。

 

 

「お兄─ちゃん……」

「アイ」

 

 

黒のコートを肩掛けで羽織りゆっくりとベンチに座りながら優しく手を振ってるお兄ちゃんの無傷の姿を見て思わず驚くが、それ以上に体が勝手に動いた。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい…わたしが…わたしが!!」

「謝るなよ─お前は何も悪くねぇ」

 

 

抱きつき胸の中で泣きじゃくるアイをお兄ちゃんは受け止めて優しく撫で続ける。

 

 

 

……………………………………………………

 

 

「懐かしいな。ここで俺たちはずっと遊んでた」

 

ここで…昔はずっと遊んでいた。かなり広い公園だから…2人でサッカーやストリートバスケとか遊具で遊んだりもしてたし、いろんな事を教えてくれてすごく楽しかった。

 

住んでいた所がウマ娘の同年代の子が少なくて…友達は多かったけれどちょっとばかり寂しさや思うところはあったけど…お兄ちゃんと遊んでいた時が1番楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんごめんなさい─わたしがもっと早く動いてたらあの事故に巻き込まれなかったのに…」

「お前は…あの時体が勝手に動いてたんだろ。ならそれでいいんだ。むしろ誇るべきだぜ」

「でも……」

「でもこうだのねぇ…俺からしたら自分よりも、未来ある命を守れたならそれでいいんだよ」

 

わしゃわしゃと頭を撫でて、もう片方の手でアイの背中をトントンと優しく叩いて落ち着かせる。

 

この心地よい暖かさ、ここから離れたらもう暖かさが永遠に消え去るのではないかと涙が流れてしまう。

 

「うぅ……やだ、死んじゃいやだよ…アイから離れないでよ…」

「昔から…悔しがったり寂しがるとすぐ泣いちまう泣き虫だったな…うちの危なっかしいおてんば娘は」

 

おてんばじゃないもん…負けず嫌いだもん。いつも毎日お兄ちゃんに甘えてるから関係ないもん。

 

昔からわたしはお兄ちゃんと色んな勝負をしたけれど、走りやスポーツ系統以外は全く勝てなかった。スポーツなら幼くてもウマ娘の方が身体能力は凄まじいし当然なのかもしれないけどお兄ちゃんの発想力には勝てなかったわ。

 

 

 

「お前は戻れ、お前にはまだやるべきことがあるだろ」

「…お兄ちゃん」

「……………………まぁもう少しくらいは許すか」

 

お兄ちゃんに離れず、カルガモの雛のようにくっつくわたしを見て不器用に頭を優しく撫でる。

 

 

「お兄ちゃん…」

「どうした?」

 

「好き─大好き」

「あぁ…知ってる。昔からずっと好き好き好き言ってたら、例えアニメのクソボケでも気づく」

 

いっつもそうだ。お兄ちゃんって自己肯定感がないから好きって言ってもはぐらかしちゃうし曖昧な反応しかしてくれない。そんなお兄ちゃんもあの事故が原因で目覚めないし、起きるかも分からないのに。

 

だからちょっと爆発してしまった。

 

「うぅ…あーもう!!好き、好きなの!幼い頃から!大好きなの!お兄ちゃんもアイの事大好きなの知ってる!誰にも見せない小さく綺麗な笑みも!不器用な優しさも!本当は寂しがり屋なとこも!お兄ちゃんの好きな女性のタイプがまんまアイなのも!人とデートに行った事なんてないのにアイを楽しませたいからって頑張って計画してた所とか全部知ってるもん!!」

「ここまで言われたら……俺の負けか」

 

 

『お兄ちゃんとずっと一緒に居たい、ずっと大好きなのよ!!レースが終わったらすぐにでもお兄ちゃんのお嫁さんになりたいの!でも…もう!お兄ちゃんがこのまま帰ってこなかったらって…不安で…怖くて!!うぅ……馬鹿ぁ…!アイの方が好きって気持ちが強いのに!!だから…だから…アイの事…好きって言え!!』

 

 

ぐちゃぐちゃにまるで子供のように泣きじゃくってしまう。もう…涙が止まらないわ…でもずっと好き好き言ってるのにちょっと好きって言ったかと思えばはぐらすような返事をするお兄ちゃんも悪いもん!

 

 

うぅ…恥ずかしい。久しぶりにこんなに泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイ……本当にありがとうな」

 

お兄ちゃんがわたしをやさしく、そして強く抱きしめる。

 

「そうだな…もし、おばあちゃんや兄貴や斉藤さん…そしてアイやおせっかいなアイツらと出会わなければ…多分俺は、生きようとも思わなかったかもな」

 

 

「─え?」

 

 

「育て親は毎日俺に鬱憤ばらしで暴力を振り俺をゴミだと吐き捨ててさ、クソだと思ってもやっぱりきつかった。クソみたいな育て親と別れておばあちゃんと出会って楽しく過ごせると思っても、今度は自分の命と引き替えに両親が死んだ事を知った。その事に気づいたおばあちゃんも病気が悪化して、苦しい状態のまま死んだ」

「っ!!」

 

「俺は生まれてきても良かったのかと何度も思った。親やおばあちゃんに恨まれててもしょうがないって昔はずっと思ってたんだよ」

「俺に残ったのは虚しさと数多の後悔だった。夢が出来ても、成すべきことが出来ても…感じるのは最終的には自分の存在意義だった。悪い…嫌な話だっただろ?」

 

 

「やっぱりさ…肉親でなくても俺の幼馴染で唯一の妹分には、ちょっとだけカッコつけたかった」

 

お兄ちゃんの過去は詳しく教えてくれなかったけど、時々ポツリと話してくれたのを覚えている。

 

だけどここまで辛い思いをしていたのは知らなかった。多分幼い頃のアイでは意味が理解出来ず分かんなかったかもしれない。

 

 

アイにとってのお兄ちゃんは…不器用ながらも頼りがいはあるし、色んな勝負してくれるし、理解もあって強くてかっこいい一緒に居て楽しい凄い人だ。でもそんな風に悩んでいたなんて分かってなかったのにわたしは…

 

 

 

 

 

 

 

「お前のおかげなんだよ…アイ」

「─────え?」

 

「昔からお前は危なっかしくて、俺が居なくなったらすぐワンワン泣いててさ。目が離せなかったけど、それでも後ろをピョコピョコついてきて色々試してみたけど本当に楽しそうにして…俺も放っておけなかった。兄貴が大学に受かって1人遠くに行って、斉藤さんともまだ出会ってなくて、寂しさがあった俺に妹が出来た感じがして…少し嬉しかった」

 

「…覚えてるか?俺達が出会い立ての時、2人で遠くに出かける事になって、アイが迷子になった時、あちこち探して俺を見つけた時、俺の服が君の涙と鼻水まみれで…」

「うっ!?アイはそんなに泣いてないもん!寂しかっただけだからね!」

 

 

 

 

……………………………

 

「うぅ……お兄ちゃん!アイから離れたらダメ!」

「とりあえず顔を拭くから、少し離れてくれないか?」

「や!!アイはこのままくっつく!はなれないもん!うぅ……」

「ほらほら泣くな。お前は強い子だろ?」

 

 

「だって寂しかったもん!」

「───!」

「ひとりぼっちはさびしいもん!パパとママはおしごとでいそがしいからアイはさびしさは知ってる!1人になるのはころぶより痛い!!お兄ちゃんははなれちゃやだ!アイと一緒にいて!!」

 

「お前………俺が居たら辛くないのか?」

「うん」

 

「お前………俺と一緒にいて楽しいのか?」

「うん!アイ楽しい!お兄ちゃん!すごくて!つよくて!カッコよくて!楽しい事教えてくれて!アイはお兄ちゃんといっしょにいるのだいすき!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前は俺に…生きててほしいのか?』

『!?………!!あたりまえよ!アイはお兄ちゃんの事大好き!ずっと一緒だもん!』

「………そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

「アイにとっては覚えてないかもしれないけど、何気ないその言葉が救いだった。自分なんか必要ないって思った時に、幼いお前が言ったその言葉が俺にとっては凄く嬉しかった。アイをずっと見てて…どんな道を歩むのか見たくなってしまった」

 

「アイにとってはものすごく些細な言葉かもしれないけど、俺は救われた…心の支えだった」

 

「アイや兄貴やみんなと出会ってから楽しかったんだ。アイと出会わずにトレーナーになっても、きっと俺は誰にも肯定されずに、空虚になってたかもしれない。今の俺にとっては、前人未到のウマ娘を育てる事だけじゃなくて、お前の旅の果てを隣で見るのが夢なんだよ」

「お兄ちゃん…わたし」

「ずっと俺の隣に居てくれてありがとうな。その……な」

 

わたしをゆっくり抱きしめながらも、お兄ちゃんはなんかちょっと恥ずかしそうに顔を赤くしだすと、一呼吸して強く抱きしめて言った。

 

「1人ぼっちの俺を見つけてくれてありがとう。俺を好きで居てくれてありがとう。ありがとう……ありがとう……俺もアイが…大好きだ。」

「……………っ!!」

 

 

お兄ちゃんは幼い子供のようにポツポツと涙を流し出す。

 

わたしも今どんな顔してるんだろう…泣いてるのか、笑っているのか分からない。

 

 

 

 

「もう……!ほんっと…やっと…やっとよ…!!」

 

「好きだったら、最初から好きだって言えばよかったのに!!馬鹿…バカバカバカ!アイも好き!!ずっと!ずっと!ずっと!…あなたのことが大好き!大好きなの!!」

 

 

わたし達はただひたすら…思い出の公園のベンチで抱き合って泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべぇ…久しぶりに泣いた」

「お兄ちゃんがあんなに泣いてるの初めて」

 

手を恋人繋ぎしながらわたし達は2人で座っていた。わたしは離れたくないのかお兄ちゃんの手をギュッと握り続ける。

 

「そろそろ時間だ…お前も前に進まないと」

「やだ…お兄ちゃんと離れたくない。離れたら、お兄ちゃんが居なくなっちゃう」

「フッ…俺は死なねぇよ」

「…本当?」

 

 

「俺を信じろ。腐っても、昔からずっと魔王と言われた男だぜ?」

 

お兄ちゃんは立ち上がると、まるで片翼の天使が如く美しい漆黒の…魔王の右翼を翻すが如くアイを優しく包むように抱きしめると、その翼はアイの中に入っていく。

 

 

「お前へのピースだ。コイツはアイの力になる。持ってけよ全部、俺の思いの全てだ。だから…立ち止まるな。俺はずっとそばに居る」

「お兄ちゃん!待って!!」

 

 

「挫けそうになったら…誰かがお前の名前を呼ぶ。お前の名前を呼んだ存在を信じろ。そこに…望んだ存在が居る。だから─」

 

 

俺もお前と一緒に戦う…俺達が一緒なら誰にも負けねえさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

「アイィィィィ!!!!!」

 

 

「下を向くな!!諦めるな!!!!止まるな!!俺を信じろ!!」

 

 

いつの間にか場所が変わりレース場…転ぼうとしていた時、わたしの名前を呼ぶ1人の声がする。

 

その声は…誰よりも会いたかった。ここに来るはずがない人の声。

 

偶然にも見えた……ゴール先の地下バ道の入り口付近でで会いたかった人が。

 

 

苦しそうな表情をしながらも、仲間2人に肩を組んで支えてもらいながら歩いてくる…大好きなお兄ちゃんの姿

 

 

「アイィィィィィィ!!!」

 

 

「えぇ!?」

「嘘だろ!?!?」

「生きてたのかよ!?」

「冬夜ぁぁぁぁぁぁ!!!」

「どっから出てきた!?」

「あれ、アーモンドアイのトレーナーじゃね!?なんかあの人仲間の肩組んでこっち来てるんだけど!?!?」

「何が何だか分からねぇ!!ゾンビかありゃぁ!!」

 

観客一同は大困惑。沖野やスピカどころかゴールドシップすらニカの如く驚く始末。解説者の細江や武さんも目ん玉が飛び出て絶叫して驚く。

 

「な…なんとあそこに意識不明のはずのアーモンドアイのトレーナーが!?嘘でしょ!?目覚めたなんてニュース聞いてないわよ!?!?」

「あれは……幽霊でしょうか??」 

 

驚愕の叫びの中で、観客が見ていなかった。

 

 

アーモンドアイの目の光が……取り戻す瞬間を。

 

 

「そう…そこに居るのね」

 

その目は光り輝いていた…彼女の瞳は光り美しく…そして漆黒に禍々しく輝く。

 

崩れかけた体勢を一瞬で踏み込むことで整えて…ゼロスタートで駆け抜ける。

 

「大丈夫よお兄ちゃん」

 

 

 

もう負けない…2人一緒なら!!

 

 

白く光り輝く翼と禍々しい黒き翼を広げ飛び出した。

 

 

『アーモンドアイ!アーモンドアイが飛び出した!早い…早すぎる!!リスグラシューを!ワールドプレミアを!!シュヴァルグランを狙う!!」

 

「「「っ!?」」」

 

レース場に居るウマ娘は皆思わず心の底から震え上がる。

 

(な…なんだこの感覚!)

(おかしい!?どうなってんのよこれ!なんでこんなに体が震えるの!?この空気を与えてるのはやっぱり!!)

(アイさん…やっぱり速い!!でも何かおかしい!まるで…)

 

「あそこに…2人いるような!」

 

シュヴァルグランは感じていた…まるでアーモンドアイのそばに誰かがいる事を。それが……異常な悪寒の正体だということを。

 

 

 

 

 

 

(なんだろう…この感覚…温かい。誰かが共に居てくれる、わたしの背中を押してくれる。これは……っ!!)

 

『アイ…持ってけ…全部』

 

 

「そう…分かったわお兄ちゃん。お兄ちゃんも一緒に走ってくれるんだね……うん!」

 

 

 

一緒に行こ!!

 

 

その瞬間…大嵐がアーモンドアイを中心に吹き荒れる。

 

思わず観客席に居た人々も目をつぶってしまうほどの凄まじい漆黒の風。コキュートスの牢獄のような地獄の嵐が短い時間で吹き荒れた。

 

 

だが見えていた人は居た。

 

目の前に居たシュヴァルグランとリスグラシュー、観客席で見逃さないと偶然にも瞳を開けた沖野トレーナーとシンボリルドルフとマルゼンスキーは見えていた。

 

そして見えた一同は……心から恐怖した。なんだアレは…

 

 

そこに居た…

 

 

「やるよ…俺の全てを持っていけ」

 

 

沙条冬夜は気付いている…彼女が領域(ゾーン)に入った事に。

 

そして沖野も、マルゼンスキーもシンボリルドルフもすぐ理解した。あれは自分達が知る領域などではない。

 

 

誰かが言った…

 

 

 

 

絶望…その言葉の意味を誰よりも体現した存在。絶望…誰もがその言葉の意味を実感した存在。

 

 

走っているウマ娘達は…無理やりにでも魅せられた。

 

 

 

アーモンドアイを守護するように『黒き絶望の神』が降臨した瞬間を

 

 

『アーモンドアイまた加速!!止まらない!!さらに引き離す!前に!前に進み続ける!私たちは見届けるのか!?新たな伝説を!新時代の創設を!!希望と絶望が降臨する瞬間を!!』

 

実況の細江も興奮が止まらない。トップを独走する少女がこのレース環境を掌握し全てを定義した。沙条冬夜の帰還が…アーモンドアイの更なるステージを昇華させた。

 

 

「嘘……なんなんですか、この感覚」

「アレが…アイさん?」

「ナニカが…見える」

 

それが見えたグランアレグリアは恐怖で震え上がり、ラウズオンリーユーもクロノジェネシスは見えずとも実感していた。今のアーモンドアイは何かやばいと。

 

 

「領域…ゾーンだ」

「ゾーン?」

 

限界の先にある、時代を創るウマ娘達が必ず入ると言われてる"領域'。沖野はベテラントレーナーの六平トレーナーから知識として可能性1つだと聞いているからこそ知っていた。

 

「でもあれは…何かが変だ」

「どういう事です?」

 

沖野はアーモンドアイの気質を理解している。だからこそあの禍々しい神のような物は彼女の本質ではない。まるで誰かから貰った物…もしこの理論が通れば、本当にあり得ない事実を知る事になる。

 

沖野は違和感の正体に気づいて思わずゾッとした。

 

「もし…この理屈が通るなら…アーモンドアイは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーモンドアイは2つの領域を操っている」

「それ…本当なの?」

 

シンボリルドルフの発言に思わずマルゼンスキーは疑ってしまうも…走っているウマ娘達に容赦なく襲うあの凄まじい覇気に否定できなくなった。

 

 

普通の領域とは遥かに異なるほどに異常だ。

 

 

ルドルフがプラズマ…ミスターシービーが風のような物だとされていた中で、次に魅せられるのはアーモンドアイを体現するような白く美しい光と彼女とは程遠いあの禍々しい神と共に放たれる荒々しい闇のオーラ。

 

 

 

圧倒的に悍ましいのは後者。あのルドルフを持ってして、アレをぶつけられたら皇帝だろうと暴君だろうと恐怖し跪きざるを得ないだろうと考える絶望の鼓動。2種の異なる輝きをぶつけられるを同時にぶつけられるあり得ない様子。

 

 

「わたしは…あの禍々しい気配を持つ存在を1人知っている」

「まるで…アイちゃんに力を渡してるような物ね。しかもアイちゃんに合わせるように出力が自動で調整されてるの?……めちゃくちゃじゃない」

 

 

シンボリルドルフとマルゼンスキーは末恐ろしさを覚える表情を浮かべて目的の場所を見る。一心同体というには…アレは波長が合すぎた。

 

「末恐ろしいよ。彼は…とんでもないウマ娘を放ってしまったようだね」

 

シンボリルドルフは思わずゾクっと身震いし初めて理解した…これが恐怖だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだこれは……なんなんだあれは…)

 

リスグラシューは驚きしかいない。突如としてアーモンドアイが復活したと思えば、なんだあれは?まるでアーモンドアイを守るようにどこかで見たことあるような存在が私たちを威圧しているようだ。

 

(あの怪物…まるで誰かを…)

 

誰かに似てる…と言いかけた瞬間、突如として『それ』は2人になり姿を変化する。

 

 

 

 

 

 

 

『戯れはここまでだ』

 

『それ』がそう吐き捨てるような瞳でまるで奇術師を彷彿とさせる姿へと変化したように見えた。

 

(なんだ………あれは!!)

 

 

奇術師は無数のトランプをペラペラとめくった直後… 一瞬にして無限を彷彿とさせる数の数字をアイを追うウマ娘達に宣告した。お前らにとってのラッキーナンバーと一言も言ったのか?と嗤うように。

 

 

「?!?!?!?!?!?」

 

その瞬間…一瞬にしてシュヴァルグランもリスグラシューも…走ってるウマ娘は皆急激にスピードが落ちていく。

 

(!?!?……あっ…がぁ!?)

(な…なんだこれぇ!?)

(あ…足が!!)

 

足が急激に丸太のように重くなったのか、皆が急激に落ちていく代わりに、アーモンドアイは更なる爆発的加速を見せる。

 

 

「………………は?」

 

 

思わずシュヴァルグランはその様子を見て唖然とし絶望感すら覚えた。目の前でモーターでも積んでいるのか?とすら言いたくなる走りに魅了されたが同時に感じたのは絶望。

 

 

ここまで見れば走ってるウマ娘達でも気づく。

 

 

 

アーモンドアイから感じる、体の震えすら止まらない悍ましい気配は彼女の本質ではない…それを与えた『奴』の存在にウマ娘達は気づいた。絶不調の彼女が何故ここまで上がってきたか。彼女を復活させた引き金は誰が

 

 

 

「お前は…あの男はそんな体で、死に体ギリギリなのに…アーモンドアイにあらゆる物を捧げたのか…お前は!」

「……魔王」

 

 

 

『アーモンドアイがラストスパート! 大きくリードを6バ身くらい開いて直線を駆け抜ける!速い速い、最早独走状態!』

 

黒き絶望は役目を終えたようにアーモンドアイの中へ消えていく、残ったのは先陣を独走状態で駆け抜けるアーモンドアイだけだ。

 

 

『アーモンドアイ!アーモンドアイだ!止まらない!誰にも止められない!今ここで復活した希望と絶望!彼女の物語は終わらない!完璧なる光と闇が今!有マを熱く燃やす!今、大差でゴールイン!!無敗の10冠ウマ娘がここで誕生した瞬間です!!』

 

『タイムは…え!……2.25.4!?!?レコードタイム!会場から歓声が爆発しています!ゼンノロブロイのレコードを上回るこの記録!これは……まるで!』

「彼女のトレーナーに敬意を込めて表現するなら…『サガ』の再来ですね」

『アーモンドアイ復活!沙条冬夜無事帰還!これはまたしてもレースの台風の目になる予感……あら?』

 

 

アーモンドアイはゴールしても勢いは止まらない。勢いをゆっくり落としつつも地下バ場の入り口まで突っ走る。

 

この後の展開が見えていた冬夜の愉快な仲間達は、ニヤニヤしながら行ってこいと言わんばかりに優しく背中を押す。

 

「ちょ!?お前ら!」

「うっせ!大事な子を祝福して来い幸せ者が!」

「お前らいい歳したおっさんどもが若人の背中をいきなり押すのは卑怯だ『お兄ちゃん!!!』ぐぉ!?…く、苦しい」

 

アーモンドアイは大粒の涙を流しつつも、人目なんて関係ねえと言わんばかりに、押し倒し熱烈で情熱的なキスを冬夜に行う。んぅ!?と驚くも拒絶することも引き剥がすこともする気がない時点で冬夜もそういう事だ。

 

これには観客どころか目の前の愉快な仲間達もいいぞいいぞ!とノリノリだ。

 

 

「お前とうとう人生の墓場入りか」

「フッ…俺たち独身一同、まさか冬夜に先を行かれるとは」

「式の司会は俺に任せろ」

「2人とも感動じだぁぁぁぁ!!!!」

「俺たちいつ結婚出来るんだろ」

「全国に晒されてるけどタマモクロスも似たような事してるしいいか。こっちは有マで無限ナンバー唱えてるし」

「アイちゃん泣かせたら利根川に沈めるぞ」

 

「お前らふざけた事抜かしてねぇでなんとかしろ『良かった…』っ!」

 

「良かった…良かった…戻って来なかったら…わたし…わたしは」

 

先ほどの勢いはどこに行ったのか、決壊する勢いで冬夜の胸の中で泣きじゃくる。 

 

「……ごめん。約束を守れなくてごめん。また…お前を1人にしてしまった…ごめん…ごめん…約束したのに…したのにぃ!」

「戻ってきてくれて良かった!おかえり…おかえりなさい!お兄ちゃん」

 

胸の中で泣きじゃくるアイを見て、また1人にしてしまった後悔に飲まれるも、すぐさま優しくハグをしてゆっくりと背中を撫でる。冬夜は自分は何をすべきなのかを察知し、アイの額にキスをすると、彼女はほっぺと瞳を真っ赤にしながらお返しと言わんばかりに唇にキスしてギューとハグをする。

 

「フフッ、お兄ちゃんってアイの事大好きだよね」

「……アイには言われたくねぇな」

「えへへ、顔真っ赤〜!言い忘れてたけど、わたしの方が大好きの気持ちは大きいんだからね!」

「しばらく…こうさせて、この暖かさが大好きなの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛…愛ですよ冬夜さん」

(おい実況者)

 

腕組んで涙を流してる実況者に内心うっせ…と思ったのは内緒だ。

 

 

 

……………………………………………

 

 

後日 トレーナー室にて

 

『配信中』

 

「全国のボッさんども、こんな朝10時に何してるんだ?暇か?俺はさっきまで論文書いて提出したぞ。事故の傷も完全に治癒して完全に戻った」

「お兄ちゃんリハビリ頑張ったもんね」

「有マの後、電話で看護師に無事に泣かれて、看護長にめちゃくちゃ怒られたがそんなに反省してねぇけど、全くあの看護師め…そんな怒んないでいいだろ全く。えー看護師に怒られてワロタってやかましいわ」

 

冬夜はすぐさまコメントを読み反応しながらも少し覚悟を決めたような表情をする。その様子にチャット民も気づいて問いかけたりするが、その反面アイは嬉しそうというかニヤニヤと反応する。

 

「え?お兄ちゃんもしかして緊張してる?」

「………してる。だって俺もこの未来に行くとは思わなかったし」

「……うん」

「まぁ、これを伝えてるのはロリ理事長とアイの両親だけだからな」

 

 

珍しい冬夜の神妙な様子が一変して決意した顔になるとアーモンドアイも隣に愛おしそうな顔をして腕を組む。

 

 

 

「俺たち…ある意味でウマチューブやってて良かったとずっと思ってるんだよ。視聴者のお前達に率直に言う、どうせ後々言うんだ。有マの後、俺とアイで病院戻ってた時に色々な事があった。それもあって、俺も今後の人生に覚悟を決めたし…腹括った。もうケツから今先に言うからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイが引退した時、俺たち結婚します」

「お兄ちゃん、アイの家に行ってお父さん達に頭を下げてたけど2人ともニコニコしてOK出してたわ。ふふっ、すごくかっこ良かったよ」

「年齢的に早いからあくまで婚約という形で話をつけた。人生の契約書も叩きつけたし俺といえど筋は通す所は通したぞ」

 

「だから…引退するまでいっぱい頑張らないとね!」

「海外レースもズタズタにしないとだな」

 

アーモンドアイの薬指に見えたのは光り輝く、アクアマリンの指輪。

 

 

この瞬間……赤スパと祝福の大嵐が朝っぱら10時から吹きまくった。

 

 

やっぱりこの2人はぶっ飛んでいるのである。

 




お兄ちゃん「結婚RTA?RTAとかじゃなくて、俺は筋通すために通したの」(マスコミに変な噂流れたり変なことが起きないように先に伝える決断したが)

反応の大半が
「いつ式を開く?私も同行する」「トレセン学園です、娘は入学致しますか?」「幸せにしないと祟るぞ!」「死ぬなよ!」「ファルコンさん?まだなんですかファルコンさん!?目を背けないでくださいスマートファルコンさん!?」「お前人生かけろよ!…掛けすぎぃ」「一生推します」「アンタらならみんな許す」

祝福100% 炎上0
↓↓
お兄ちゃん「えぇ………怖っ」(炎上覚悟だった)


アーモンドアイの領域

リスグラとシュヴァル曰く「なんか絶望神が見えた」だとか「奇術師が見えた」とか「奇術師が現れたと思ったら足がめちゃくちゃ重くなった」などと言われた。いったいどこの無限ナンバーなんだろうか。

ある意味で1番与えちゃいけなかった強化。

領域はシングレでも体力はかなり消費されるといわれてるが、元々体力お化けなのと領域を調整してること、領域分の体力消費を冬夜が賄ってるためデメリットが消し飛んだ。

だからデメリットがないクソ強効果ダメだと何度も!!

シリアスパートは終わったのでね…後は無敵です
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