人工天使は祈らない   作:謎の通行人 δ

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第二章 各国代表聖人会議編
人工天使は呼び出される


「…エレボスの巣穴の、破壊」

 

シスやカラが調査を終え、更に少し時間が経った頃…グラウヴ公領からかなり離れたとある国の中の中央地、まさに神殿のような場所の奥の一室にて。

 

一人の女性が何やら思案するような目を書類に向けていた。

銀の髪は椅子に座った彼女の身長を優に超えており、地面の上で広がっている。アメジストのような紫紺の瞳は鋭く、一見するとかなりきつい印象を受ける。

彼女の名はシビュラ。全世界に存在する聖女や牧師を束ねる最高責任者のような立ち位置である大聖女の名を持つ聖女だ。

 

そんな彼女は、ぽつりと声を溢したあと深くため息をついて上を向き、目に腕を押し当てた。

 

「…あれがあったのは……グラウヴ公領。最寄りの教会は、フローリオ教会。所属聖人…セリシア聖女」

一つ一つ丁寧に記憶を掘り起こすように声に出しながら、彼女は思考を続ける。

 

「…エレボスの巣穴、彼女単独で撃破は可能か……否、不可能。彼女がいかに優れた聖女とはいえ、あそこには()()がいる…なら助力者…領主?アイン牧師の助力があるならば、あるいは…不可能では、ない?………いや、埒が明かない」

一度深呼吸を挟んで上を向いていた顔を前に戻し、手に持っていた書類を隅に寄せて便箋を取った。

 

「…招こうか」

 

“各国代表聖人会議への招待状”と書かれた便箋に指を文字をなぞるように動かすと、透き通る青い文字がサラサラと書き込まれていく。

 

書き込みが終わると彼女はその便箋を折り紙のように鳥の形に折っていく。折り終わり、それを手のひらに置いてフッ、と息を吹きかけると──たちまち命が宿ったように便箋が動き出した。便箋の鳥は一度首にあたる場所を傾げて羽ばたき、窓から外に出た瞬間二、三の青白い火花を散らして消失した。

 

「…さあ、どう来るかな」

そう呟きながら、彼女は目元に黒い目隠しを当て…一緒に耳をふさいだ。

それとほぼ同時にその部屋のドアが蹴破られた。…正確には、蹴破られたと思うほどの勢いで開け放たれた。

 

「だ、っ、だだだ、大聖女様!」

「どうしましたか…一旦落ち着いてください。そんなに息の上がった状態ではまともに話すこともできませんよ」

入ってきたのは…彼女の側近として勤めているシスターの服を着た少女だった。

シビュラにゆっくり背中をさすられ、上がっていた息をゆっくり整える。

 

「…落ち着きましたか?」

「は、はい…って、そうです!エレボスの巣穴が破壊されたって本当ですか!?」

あぁやっぱりその話題か、と彼女は弱く息を吐き、本当のようですよと伝えた。

やたらとドアの向こうがお祭り騒ぎになっているのも、おそらくその影響だろう。こんな騒ぎになるくらいこれはとんでもない事なのだ。

初めてあの巣が観測されたのはおよそ30年前、それから幾度となく掃討作戦が行われるもその尽くが失敗し、最終的には最低限の戦闘を除く巣への干渉、作戦を全て凍結するに至っていたのだ。

情報を集めることすら難しく、生きて帰ることができた聖人すらほとんどおらず、通信を繋いでみても途中で必ず途切れる。

辛うじて得られた情報は「おびただしい数の異教徒」、「象のような形をした異教徒」、そして「蝶のような形をした異教徒」が存在しているという事。

その中でも特に恐ろしく強いのが蝶のような形の異教徒。情報はほとんどないが、アレが出てきた時点でほとんどの聖人が葬られる羽目になったらしい。

そんなものを踏み倒して撃破したとなればそりゃあ凄まじい騒ぎにもなるだろう。

 

…本来ならば、彼女も不安材料が消えて安堵するべきなのだろうが…少し引っかかることがあるようだ。

 

「エマ、各国へ通達を。代表聖人会議を前倒しで開催しましょう。グラウヴ公領へは既に私から、セリシア聖女を名指しで招待しておきました」

 

「な、名指しでですか?」

本来各国代表聖人会議の代表はその国が決める。まあそりゃそうだ、他の国に内政状況にまで干渉されるいわれはないはずだ。

だからこそ、普段冷静で通例を重んじる彼女が行ったこの行動は異質としか言いようがなかった。

 

「ええ。…恐らくですが、想像以上の()()があると思いますよ」

 

黒い布で覆われた彼女の目が、淡く光った…ような気がした。

気のせいかな、とエマは見なかったことにしてシビュラに確認を取る。

 

「わ、分かりました。では…送るのはいつもの場所からグラウヴ公領を引いた、19カ国で良いんですね?」

「ええ。…それと、文書に「エレボスの巣穴の崩壊とそれに貢献したセリシア聖女についての連絡」の項目を入れておいてください」

「うえぇ!?こ、公文書に個人名出して良いんですか…?」

「それだけの大事ですからね」

()()()()と笑いながら、彼女はそう言って窓の外を向いた。

 

「…ええ。大事なのですよ、セリシア聖女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「…え、えっ?」

「…ん?」

巣の跡地での調査が終わってから数日経った。

今私達は何をしてるかというと…いやまあ別に何もしてないというか。

火急の問題だった大規模な肉塊の侵略が解決したことで、教会の修復作業も捗って二日くらいで終わらせられたし、正直やることが無くなったんだよ。こんな見た目だから下手に街にも行けないし。

兵装ももう修繕完了したし魔力も完全に回復済み。そろそろここを出て何処かに行こうか…と思ってた頃合いに、セリシアさんが何か読みながら固まった。

 

「どした、の?」

「……あー…あのね、領主さんに呼ばれちゃった」

「?」

よく聞いてみたところ、あの壊滅させた肉塊の巣…エレボスの巣穴って名前がつけられてたらしいんだけど、そこを破壊した報告が今になってやっと領主さんに届いたみたいで。あーいや、正確に言うと数日かかって伝わった後そのお返事が今になって返ってきたみたいで。

領主さんから褒賞とかお礼とか謝罪とか連絡とか色々したいから一回来てー、って招集をかけられたとのこと。まあここまでなら全然分かる。何の問題も無いしむしろ喜ばしいことなんだけど……

 

…うん、まあその追伸で…ね。まあ書かれてたことを意訳すると、「多分だけど君一人であそこの巣を壊せるわけないよね!たぶん協力者とかいたんでしょ?連れてきてよ!」って事らしい。

…うん、マジかぁ。宗教国家の中に人工天使がいるとか知ったら絶対面倒なことになるやつじゃん…

 

「まあ領主さんはすごい優しいし、そんなすぐ何か嫌なことをされるような事にはならないと思うけど…シスちゃんとしては大丈夫?」

 

(大丈夫だと思う?カラ)

 

『逆に聞くけど大丈夫だと思う?』

 

(無理そうだよねぇ…こんなナリだし)

 

『よねー』

 

けど行かないとどうにもなんないのよ。

行かなかったら行かなかったで「なんかやましい事でもあるんかワレ」って思われるだろうし、最悪領主さんがこっち来ちゃう可能性すらある。

 

『まあでもそれなら行っても良いんじゃない?最悪敵対しても制圧くらいはできるはずでしょ』

 

まあ人工天使だし、しかもその中のⅠ機だしね。まあ何とかなるか。

んー…うん!こういうケースで行く前からうだうだ考えるのは性に合わないや。根拠のない自信って大事だよ。

 

「ん、だいじょう、ぶ」

「分かった。じゃあ準備してくるから…ちょっと待ってて?」

……え、あれ、今から行く感じ?

ちなみにカラ、ここから領主さんのいる場所までってどれくらい…っていうか領主さんがどこにいるか分かんないか。

 

『探してみる?多分5分くらいあったら探せると思うけど』

 

(…いや、良いや。わざわざ探るほどのことじゃない気がしてきた)

 

『一応参考までに、この国自体はそんなに広くないみたいだよ。直線距離で200キロくらい行ったら端から端まで行ける。だから多分言うほど大した距離じゃないね』

 

そっかぁ…領主さんがこの国の真ん中に居たとしても100キロくらい…それが大した距離じゃないかぁ……いやまあ仮に100キロだとしても全力で飛べば30分かからずに行けるけどさ。けどセリシアさん抱えて移動するわけにいかないし…まさかとは思うけど、馬車で何日もかけてとかじゃないよね?ここの文明レベルは詳しくないけど流石にそんなこと無い…よね?大丈夫だよね?

 

 

 

 

 

なんてまあ色々心配してたけど。

 

(流石に汽車くらいはあったか)

 

『良かった良かった』

 

(ほんとにね)

まあ駅まで30分くらい歩く事にはなったんだけどね。

汽車の中は窓を背にした長ーい座席があって、途中から前向きの座席がずらーっと並べられてる感じのやつ。私たちは前向きの席で、私が窓側、セリシアさんが通路側で座った。

セリシアさんいわく半日くらいで着くらしいし…うん、半日だ。半日我慢すれば良いんだけど……

 

『めっちゃ見られてるねー』

 

(ほんとだよぉ…)

当然汽車なんだから他の人も乗ってるわけで、めっちゃ周りの目を引く。セリシアさんが壁になってある程度の視線を遮ってくれてるけど、座席の背もたれがそもそも結構低いし、まあなにせ頭の上になんか錆びた歯車みたいなの浮いてるからね…そりゃ目立つわ。

でもだからといって誰かと目があったら速攻で視線外されるんだよ。そっちが見てきたんやろがい。

 

「何かしら、アレ…」

「隣にいるのは聖女様よね?だとすると…教会の装飾品か何かかしら」

「いや、だとしてもあの歯車動いてない?」

「あの子も人形みたいにピクリとも表情動かないし…ちょっと気味悪いわねぇ」

あとそんな話も聞こえてくる。

本人達は聞こえないようにしてるのかも知れないけどね、人工天使の聴力は要らない音も拾っちゃうから…

 

『どうする?処す?処す?』

 

(やめなさい。どこで覚えてきたのそんなの…)

時々過激派になるのなんなのこの子。

と、セリシアさんが少し周りを確認したあと顔を近づけてきた。

 

「大丈夫?ごめんね、皆が皆シスちゃんのことを悪く思ってるわけじゃないはずだから…」

…あ、もしかしてあれ普通に周りにも聞こえる声で言ってた?じゃあただの嫌味じゃんそれ。

まあでも…

 

「…ん、べつに、なれて、る。けんきゅうじょ、でも、にたこと、は、あった」

まあアレはどっちかって言うと研究対象に向ける視線に近かったんだろうけどね。まあそういうのを向けられつつ実際にいろいろと追加で弄られたりもしてたわけだし、それと比べたら大したことない。実際に危害加えてくるわけでもないし、どうせそんな何回も会うわけでもない人の印象がちょっと悪くなる程度、どうってことない。

 

『……シス、頭の中で言い聞かせてまで誤魔化す必要は無いと思うけど』

 

(正直おちゃらけてないとやってらんないの)

 

早く半日過ぎてくれぇ…!

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