人工天使は祈らない   作:謎の通行人 δ

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人工天使は考える

アインさんのところに来て1時間くらい経った頃合い。

 

「ま、流石に来てもらうだけ来てもらってすぐにとんぼ返りさせるわけにいかないしさ、街とか見にいかないかい?」

と、アインさんからそんな提案があった。

いや、気にかけてくれるのはすごいありがたいんだけど…それ良いのかな。外をこんなのが練り歩くことになるんだけど…

なんて思ったけど、そこらへんはちゃんと考えてくれてたみたいで。

 

「はい、じゃーん!これなーんだ?」

 

「…?うでわ…?」

アインさんがローブのポケットから取り出したのは、なんというか…光沢のある黒い石みたいなのが着いた腕輪…いや、ブレスレット?ぱっと見た感じ黒曜石みたいなので出来てるように見える。

 

「そ、名付けて秘匿のブレスレット!今命名したから名前は気にしないでねー」

どうやらこれも魔石の一種らしくて、“秘匿の奇跡”を籠めた聖石をブレスレット状にしたのだという。

アインさんがこのブレスレットで神聖力を流しながら触れたものを周囲から認識させづらくする…らしい。ただし、あくまでも認識しづらくするだけらしくて、見えなくなったり消えたりするわけじゃないっぽい。

そして効果はこの聖石が触れている間のみ続く、とのこと。聖石から神聖力が無くなったりブレスレットが外れたりしたら効果は解けてまた最初からかけ直さなきゃいけないらしい。

 

ま、要するにこのブレスレットが付いてる間は周りに気付かれにくくなるって感じかな。

 

「これを君の頭の上の天冠に使えば…?」

 

「てんかん、だけ…みえなく、なる?」

 

「大正解っ!」

ぱちぱちーと言いながら大げさに手を叩くアインさん。

…な、なんかわざとらしい…

 

『んー、やな感じはしないんだけど…なーんか隠してそうな気はするね。』

 

(同感。まあでも悪意がないなら別にいっか)

 

『一応ちょっとくらいためらおうよ…今更だけどさ。相手は他人だよ?ちょっとシスは危機感なさすぎ』

 

(う…ごめんて)

 

カラからのお説教もほどほどに、アインさんが腕輪のかぎを外して歯車型の天冠に巻きつけた。

…けど…?

 

「…あ、れ?」

…消えてなくない?あれ?普通にあるんだけど。天冠に黒いブレスレットがかけられただけになってるんだけど。

 

「…?あそっか。ごめんごめん、言ってなかったね。本人には見えるんだよ、これ。さっきも言ったけどこれはあくまでも認識しづらくする奇跡だからね、元々体の一部になってる本人に関しては効果がないんだ。ちなみに僕にはもう意識して見ようと思わないと見えないよ」

ほえー。

ちなみにカラ、なんか違和感とかない?

 

『ないね。全然。…これほんとに消えてるんだよね?騙されたりしてない?』

 

(…多分…)

いやまあ内心ちょっと信じきれてないけども。

と、ドアがノックされた。誰だろ、と思う間もなくアインさんがどうぞ~、と返事をすると、セリシアさんが入ってきた。

 

「失礼しまー…ん?あれ、シスちゃん?あー、あの頭の上の歯車どうしたの…?」

 

「お、セリシア君。良かった良かった、これで効果は実証されたろ?」

 

(………大丈夫そうだね)

 

『…だね』

 

「ど、どういう状況で…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

セリシアさんにブレスレットの詳細を話したあと、アインさんと私で街に出た。セリシアさんはちょっと用事があるみたいでアインさんの教会でお留守番してる。アインさんに何かすごい頼み込んでたみたいだけど…まあそこら辺は一旦置いといて。

 

「り、領主さーん!ちょっ、手伝ってもらって良いっスかー!?」

「おー?あぁ壁面の塗り直しか…まっかせなさぁい、それっ!」

「うお、いやー…助かります、ありがとざっす!」

 

建物の壁の塗り直しをしてるっぽい男の人の塗料を浮かせて手助けをしたり。

 

「りょーしゅさんだー!」

「ん!しらないこがいる!!」

「最近こっちに引っ越してきたシスちゃんだよ〜」

「しすちゃん!!よろしく!」

「え、あ、う、あう、ん」

 

保育園みたいなところの前で大量の子供に群がられたり。

 

「ありゃ領主さん、こんなところに何か用ですかいね?」

「いやいや、別にそんな大した用は無いんですけど、見回りと…この子の案内を兼ねてねぇ。何か、変わったこととかないですか?」

「おかげさまで安心して暮らせてますよ。それにしても…あっらまぁかわいい子じゃないの〜。はいこれサービス」

「へ、あ、わわ、」

 

商店のおばちゃんに声をかけられたり。

まあいろんなところで人に話しかけられ、またアインさん自身も積極的に話しかけてと色んなことをしてた。

私もそのついでみたいに話しかけられたりしてた。商店のおばちゃんからは飴をもらった。食べれないけど…

 

『ろくに喋れてなかった気がするけど?』

 

(口が!動かないんだってば!!)

しょうがないじゃん!人を前にすると普段にも増して口が動かなくなるの!多分人の前で喋らないようにしてたのが関わってるんだろうけど!

 

そんな話をカラとしながら、街並みを流し見に歩いていく。

と、アインさんがふと振り向いた。

 

「ど、いい街でしょ」

「…ん。…みんな、わらって、た」

さっきまでみたいな胡散臭そうな笑顔を浮かべたまま聞かれたものだからそう答えた。実際そう。というか今の私の基準で見たことのある人って研究者たちかセリシアさんくらいしかいないんだよ…前者はにこりともしなかったし。

だから、こうして久しぶりに幸せそうにしてる人達を見るのはなんか新鮮に感じた。

と、アインさんは両手を広げてくるくると回りながら気伸びした、それでいて少し胸を張るような声で話し始めた。

 

「ふふ、実はねぇ…ここ、元々はほとんど瓦礫の町みたいな状態だったんだよ」

 

「…へ?」

 

『…ほんとだ、確かに。人の住んでるところは整備されてるけど、そこから離れてちょっとすると荒廃した場所が多いみたい』

 

(そうなの!?)

カラの補足もあってさらに驚く。

…ほえぇ…一見するだけじゃ全然わかんないね…

 

「僕がここに来たのが…だいたい20年弱くらい前かなぁ。元々は広さに見合わずすごい発展した街だったらしいんだけど…エイボスの巣穴に棲む肉塊の異教徒たちからの侵攻に疲弊しきって、大聖堂はこの地を捨てる決定を下した。そこに最後に送られたのが僕だった…懐かしいねぇ、あの時は領民の人達からも不信感にまみれた視線を投げかけられたっけねぇ…」

浮かべてた笑みが薄くなって、アインさんの糸目が遠い昔を想起するように少し開いた。藍色に少し黒を混ぜたような、深海のような目がじっと遠くを見つめていた。

…その広く深い目に落ちていくみたいに、アインさんの話がゆっくりと頭に染み入るような感覚がした。

 

「ほとんど死に物狂いだったねぇ。必死に結界を張って異教徒たちを侵入できないようにしたり、街中飛び回って人を襲ってる肉塊を見つけ次第ぶっ飛ばしたり…日に一秒も休まないなんてザラだったよ」

……?

なんだろう、なんというか…何を見てるのかわからない目をしてる…気がする。

いきなりなんか過去の話しだすし…それを聞かせて私にどうしろと…?

 

「まあ…なんだかね、僕は色々事情があって最後までしがみついた結果なんだかんだでうまく行っただけなんだよ。でも別にそれを恥じたりはしてない。…いやまあ誇ってもないけどね。自分のために動いた結果領民の人達も助けられた──そんな感じなんだよ」

目尻から蒼い虹彩と瞳孔が覗いた。

…!と一瞬驚いた隙に、アインさんはまた糸目に戻ってあの胡散臭そうな笑顔を浮かべていた。

 

「だから君がどんな理由で動いた、とかどこの生まれだ、とかより何をしたか、それで誰が救われたかをよく考えてみると良いよぉ。確かに教会信仰者からしてみれば人工天使はむしろ忌むべき存在だけどね、僕としては領民が第一で…結果的に皆を守ってくれた君には本当に感謝してる。確かに良く思わない人もいるかも知れないけど、少なくともこの領地内なら君も羽を伸ばして良いんじゃないかなぁ?も、じ、ど、お、り、っと」

アインさんは五文字を区切って言いながら、それに合わせてたつたつと小さく跳び、言い終わると同時に体ごとこっちに向けた。

そこには…

 

「わ…これ…?」

一つの鐘があった。

装飾や色合いからかなり古びているように見えるのに、状態はすごい良好でよく光を反射している。日頃から丁寧に磨かれているのか酸化防止の何かが施されてるのかは分からないけど…手入れがよくされてるのが分かる。

 

「最初はここまで異教徒たちが来てたんだよ。結界の起点としてこの鐘を定めて防衛線を張って…徐々にそれを押し戻した。でも決定打は打てなかったからフローリオ教会で蓋をして機を待つ羽目になった。…そしたら、君が来てくれた」

そして何より目を引くのは、その鐘を吊るす土台から伸びている、枯れ枝のような、複雑な幾何学模様で構成された一対の翼だ。

 

「さて、湿っぽい話はここでおしまいっ!こういう空気は嫌いなんだ、そろそろ戻ろう!セリシア君が言ってた事もそろそろ終わってる頃だろうしねぇ」

と、パチンと手を叩いたアインさんの声がまた完全に気伸びした声に戻った。

…そういえばセリシアさん、アインさんに何か頼んでたんだっけ。

 

「…セリシアさん…なに、たのんで、た?」

 

「ふっふっふ…それは帰ってからのお楽しみ、ってやつだよ〜?」

口元に人差し指を当て、いたずらっぽく笑いながらアインさんが言った。

…?何かまた隠してそうな気がする。

 

『ちょっと判断材料が少ないけど、推測するにシスに何かしら関係あることっぽいのは確定だね。まあ悪いことじゃなさそうだけど』

 

(だよねぇ。何かな、なんか用意してくれてたりするとか?)

 

『さあー?………まあ、正直心当たりはあるけどね』

 

(へえっ!?)

えっ心当たり…!?

待て待て…何かあったっけ……な、何も思いつかない…!?で、でもカラが心当たりあるってことは私の周辺関連のはず…なに…駄目だ、新規兵装とかくらいしか思い浮かばないけど…帝国ならともかくここじゃまさかそんなわけないし。

え、えぇ…?ホントに何だ…?

 

『え、ほんとに気付いてない?』

 

(ほんとに気付いてない…え、何?)

 

『えぇ…まあ、私から教えちゃうのはナンセンスだろうし、楽しみに待ってなよ。私の推測も当たってるか分かんないし』

 

(はーい)

 

えー何なんだろ。…もしかして私、理解能力とか推測能力低い…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

「帰ったよぉー」

「もどっ、た」

ということで一旦教会に戻ってくると、奥の部屋の方からセリシアさんが出てきた。

 

「おかえりなさい、アインさん。シスちゃんも」

「やーいろいろ案内してきたよ〜。で、どうなったかなぁ?」

「はい、ちゃんとできました!」

わお。ちゃんとできたんだって。私は何ができたのかさっぱり分かってないけど。

 

「じゃあ…シスちゃん、こっち来てくれる?」

「ん」

聖堂から奥の部屋に進む。作り自体はセリシアさんのいた教会と似たような感じだからだいたいどこに何があるかの推測はつく。と、セリシアさんが一つの部屋の前で立ち止まった。

 

「ここだよっ」

そう言ってドアを押して開けると…

 

「あ、え?」

 

『あー、やっぱり』

 

(え、えっ?これ…)

部屋の真ん中に置かれた机の上にあったのは、白い布生地で作られた大きめのワンピースみたいな服。

 

『シスもボロ布みたいだなって思ってたでしょ?私だって思うもん。多分それを気にかけてくれたんだと思うよー』

 

あー…言われてみれば確かに。もうずっとこれ着てたからもう全く気にしてなかったや。

でかい白布を切り張りして辛うじて袖を付けることでシャツみたいにしました、みたいな服だけど慣れるとこんなもんなんだよね。

 

「ほら、着てみて着てみて」

セリシアさんに促される…けど、これどうやって着るの?被るみたいにして着る感じ?チャックとかそういうのは無いし…

とか思ってたら背中の部分にボタンがあった。それを外して、今着てるやつを脱いで着替える。

ん?羞恥心?いや無いよ、だって隠すようなものがそもそも無いし…不必要と判断された部分全部そぎ落とされてるからさ。

だからそこら辺の感情も私にとっては無縁な物になっちゃったんだよねぇ。

ま、それはともかく。

 

「うん!似合ってるよ」

 

『良いじゃん。かーわいい』

 

(ありがと。けど、まさかわざわざ手作り…?なんで?服飾店とかも普通にあったのに)

 

『ふ、ふくしょく…?あー服とか売ってるお店ってこと?まあ、多分だけど服自体は買ってきてるやつだよ。値札が付いてた痕跡がある』

 

そういうのは探さないの。…ってか、そうなの。

じゃあセリシアさんはここ残って何してたんだろ…?

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