人工天使は祈らない   作:謎の通行人 δ

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人工天使はちょっと迷う

アインさんのところで色々話をされた時からとうとう一ヶ月くらい経った。

あ、結局アインさんの所にはあのまま三日くらい泊まって、それからは帰ってそれまで通りに過ごしてたよ。

いや、ちょっと前まではそろそろここを出ようとか考えてたんだけどね……どうにもそんなことしてる場合じゃなくなっちゃったからさ。

…さて。これまでは特にそんなに変わったようなことはなく、久々に平穏な日々を送れてたわけなんだけど…今はまたアインさんの教会の方に来てまして。

 

「…今日中央神殿の使いの方が来られると言ってましたよね?」

 

「そうだねぇ。もうちょっとかな?」

 

「ん……わたし、かくれ、とく?」

 

「……うん、お願い。ごめんね?」

 

「…んん」

一応首を振って謝る必要はない、って意思を示しておいて奥に引っ込む。

今日、あの会議の使いの人が来るらしくてね。

アインさんも付き添いっていう体でついて行くらしいけど、さすがに私が表に出てるとバレちゃうから隠れておくことにした。

 

会議は三日間行われて、その間にいろいろ話したりするらしい。その間各国の教会に聖女さんとか牧師さんがいなくなっちゃうから代理の人を立てるらしいけど……なんかあの、フローリオ教会のほうの代理が私になっちゃったみたいでね。アインさんの推薦で。

 

いや、駄目でしょ。私聖女でも牧師でもないって。アインさんの秘匿のブレスレットのおかげでバレてはないけど人工天使とかいう敵国の兵器なんだよ私。アインさんの教会にはアインさんの知り合いの牧師さんが派遣されたらしいけど…それならこっちにも派遣してほしかった!

 

まあセリシアさんが言うには、エレボスの巣穴を破壊したことでそこまでやることはなくなっちゃったらしいし、村の人達とのある程度のマニュアルも作ってくれはしたけど…対人コミュニケーション能力の死んでる私に対人役職与える?普通。

 

『やっぱなんか企んでるんじゃない?あの人。やーらし』

 

(やっぱ読めないよねぇ…あの人。何考えてんのかさっぱりだよ。…もしものときは助けてね、カラ)

 

『言われなくてももちろん。もしもの時じゃなくてもバリバリお手伝いするよー』

 

(ふふー、ありがと)

その言葉がとてつもなく頼もしい。

なんて考えていたところ。

 

本当に、一切の前触れもなく壁越しに気配が二つほど表れた。

 

(!?)

 

『……いきなり、現れたね。高速で移動とかじゃない。ほんとにそこに出現したって表現が正しいかな。いったいどうやって…』

 

ちょっとびっくりした。カラも驚いたみたいで一瞬絶句してた。いやてっきり馬とかそれこそ汽車とかで来るものだと思うじゃん。何あれ瞬間移動?研究所の方でもなんかそんな感じのやつの研究してるみたいな話は聞いたことあるけど、それでも完成なんか出来てなかったのに。もしかしてそんな奇跡あったりするの?

 

……ありえるなぁ。奇跡って割と何でもありっぽかったし、治癒とか認識阻害とかできるなら瞬間移動もできそう。まあでも、それならセリシアさんが使ってないのが変だから一部の特殊な人だけが使えるとかかな。

そんな事を考えていると、壁越しに低めの女の人の声が聞こえてきた。気配を散らしつつ話を盗み聞く。

 

「本日は急な召喚に応じていただきありがとうございます、セリシア聖女様」

 

「い、いえ。それだけ大変なことですからね」

 

「ええ。……弱冠18にして1年もの間エレボスの巣穴を封鎖し続け、その後破壊──凄まじい功績ですよ」

 

「ねーそろそろ行かない?立ったままそんなお堅ーい話するの疲れなーい?僕もう準備終わっちゃってるよぉ」

 

……すごい真面目な話のトーンだったのに、合いの手みたいにアインさんの声が聞こえてきた。あの人やっぱ誰が相手でも素であれなのか…

 

『余計に分かんなくなっちゃうね…』

 

(ほんとそれ)

 

と、低い女性の声が鋭く、苦言を呈するように変わった。

 

「……アイン牧師様、ご存知でしょうが、会議に向かうのは原則各国から1名ずつ…グラウヴ公領から向かうのは、今回はセリシア聖女様一人だけです」

 

「そーんな事知ってるって、今までは僕が出てたんだし。けどまだ彼女は若いし勝手も分かんないでしょ?会議に出るのは彼女だけでも、付き添いで行くのは別に良くないー?」

 

「…………こちらで手配している宿は一人用です。加えて今回渡されている転移の聖石は三人用ですので……ついてくるのであればご自身で移動され、かつ野宿をするかご自身で今から宿泊施設をお探しください。できるのならば、ですが」

 

冒頭にえらく長いため息をついて、呆れたようなそんな声が聞こえてきた。…なんか、心なしかすごいめんどくさそうな感情が聞いて取れる。まあそうなるよね……これじゃ向こうからしたら変な注文つけてくるクレーマーだよ。

 

『くれーまー?』

 

(あーえっと……いちゃもんつけてくる人?)

 

『いちゃもん…言いがかりとか難癖ってこと?』

 

(そうそう)

 

「ふむ……じゃあそうさせてもらうよ。セリシア君、ちょっと遅れちゃうかもだけど許してねぇ」

 

「え?あ、はい…えっ?」

 

「行きましょう」

困惑するようなセリシアさんの声と一緒に、かつ、かつ、と靴の音が二、三回した。

 

「…アイン牧師様、あまり下手な隠し事や策略は慎まれるようお願いします。万一何かあれば……」

 

「わーかってる分かってるって。わざわざそこまで釘刺されないと理解できないほど僕幼児じゃないってば」

 

「…貴方の生まれは知っています。大聖女様に認められたとは言え、私はどうしても貴方を認められません。そもそもの問題、貴方が──」

「へメルス、時間だ」

 

と、何やら口論になりそうになったところで、今まで聞いたことのない渋い声が聞こえた。…多分、転移してきてた二人のもう片方の人かな。

 

「ッ……では、行きましょう」

と、その声と同時に壁の向こうから3人分の気配が消えた。向こうに残った気配は一つだけで、その一つがこっちに向かってきた。

 

『もう気配散らさなくていいと思うけど』

 

(一応ほら…ね)

 

と、扉がノックされて、返答する前に開けられた。ノックの意味よ。

 

「や、終わったよ。っていうか君すごいね。話してる間ホントに全然気配感じなかったんだけど」

まあ…慣れかなぁ。

 

「ってなわけで、だ。どうせ聞いてたんでしょ?…これから君には二つ選択肢がある」

選択肢?何の話だろ。

と、アインさんは右手の人差し指を立てた。

 

「まず1つ目。ここ、もしくはフローリオ教会の方でお留守番をしておく。5日くらい暇になるけど、まあ安全ではあるかねぇ」

そして追加して中指も立て、Vサインを作った。

 

「そして2つ目。僕と一緒に中央神殿まで向かう」

 

「!」

『へぇー?』

 

「ふふふ…実はフローリオ教会の方のためにもう一人分の代理は確保してはいるんだよ。けれどここからどうするかは君次第。君の安全、延いてはセリシア君の心配を取ってこっちに残るも良し、セリシア君の安全、そして僕との共同戦線を取って中央に向かうも良し。さあどうする?」

 

嘘でしょこの人、何を言い出すかと思えば……けど多少分かってきたこともある。多分この人……

 

「…ひとつ、きいていい?さっきの、おはなし…どこまで、が、そうてい、ない?」

 

「……まー、だいたい全部かな」

顎の下に人差し指の腹を添えて、アインさんはあっけらかんとそう答えた。

…やっぱり。

この人はこの人なりに何かをやろうとしてて、ちゃんとした考えがある。

さっきの話の中でもふざけつつ、茶々を入れつつ、それでも結果的に自分の欲しい条件は呑ませてたし。

 

…うん、敵にはしたくないタイプの人だね。

さてどうしたものかな…まあ中央神殿なんて私からしてみたら魔境みたいな状態でしょ。人工天使を敵視する集団みたいなものなんだし、その中にわざわざ自分から飛び込んでいくような馬鹿な真似はしたくない。

けど……正直このままここでのんびり帰りを待ってて良いのかと聞かれてもそれはそれで喉に小骨が引っかかる感覚がする。

そもそもあの巣穴を破壊する案を出したのは私だし、実際先に行動を起こしたのも私。なのに、一応やることは終わったからってじゃあ後始末は任せますね、ってのは無責任が過ぎやしないだろうか。

……けれど私が行って何ができると言われればそれまで、実際私にできることなんてそう多くはない。

うーん…………

 

『別に良いと思うけどなぁ。実際やる事はやったんだし。後はその場所の責任者の行動に委ねるのが妥当じゃない?』

 

(んー…そうなんだけど……)

………駄目だ、ごちゃごちゃ考えてると頭が痛くなってくる。

よし、やっぱりこうなったらいつもの方式だ。

 

とりあえずなんとかなる(いつもの)ってこと?』

 

(そ、後は未来の私に任せた(いつもの)ってこと)

 

「……いく。わたし、も、ちゅうおう…に、いく」

「ぃよーし来た!んじゃ……」

よっ、とアインさんは伸びをしつつ、顔をこっちに向けた。……どこかバツが悪そうな顔をしてる気がする。

 

「早速で悪いけどさ、場所とか方角は教えるから…僕も連れてってくんない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

『どうする?処す?処す?』

 

(だから処さないの。……まあ、私もまさかこっちの力を()()にして向かうつもりだったとは思わなかったけど…)

上手いこと私も策略にはめられたってところなんだろうか。私が断ってたらアインさん行く手が無くなっちゃうし。

 

「いやーごめんね?汽車で向かおうとするとどうしても数日かかっちゃうからさー。他の国と比べて比較的近いとはいえ国を跨ぐとなると遠いからねぇ」

というわけで今私は翼だけ展開してアインさんを抱えて空を飛んでる。

力は強いとはいえ体格は圧倒的に向こうのほうが大きいわけで、両腕でアインさんのお腹を抱えるという飛び方をせざるを得なかった関係上、少しでも手が滑ったら地面に向かって真っ逆さまに落とす事になるとかいう紐無しバンジーの一歩手前みたいな状況になってる。

よくアインさんこれに乗ろうと思ったね。むしろ私のほうが怖いんだけどこれ。

 

『あ、そっち?私としてはシスを便利な移動手段としてみてるのが良い感じしないんだけど』

 

(あーまあ、それもそう)

私はタクシーじゃないって部分もあるはある。当然魔力も食うし、人一人抱えてる関係上重量も増えるから負担がかなりかかる。これで無賃乗車は割に合わないってのは事実。

 

それに、そもそも私の飛行ってブースターとかそういうのじゃなくてグラビティドライブ…自分にかかってる重力の向きとか強さを調節する機構の働きで成り立ってるんだよ。だから、アインさんにかかってる重力は操作できないの。

そのせいで自分にかかってる重力をいつもより上向きに操作して、かつ更に増強させつつ前にも動かさないといけないとかいうやらなきゃいけないタスクがいちいち増えてる状況。複雑な手順を踏むためには魔力も余計に必要だし…あれ、これよくよく考えるとアインさんこんな事を無償でさせてるとすると割とやってる事やばいのでは?

 

「にしてもすごいねぇ。それこそ汽車とかみたいに熱機構で動いてる訳じゃないのにここまで速度出るのか…」

まあ頑張ってるんでね!

今はアインさんへの負荷も考えてそこまで速度上げずに飛んでるんだけど、もういっそのこと最大まで上げてぶっ飛ばしてやろうかしら。この速度でここまで余裕そうに喋れるこの人なら、なんかどれだけ速度上げても結局ピンピンしてそうな気がしてきた。

 

「…アイン、さん。そくど、あげる…から、した、かまない、ように、っ!」

「え」

忠告はしたからヨシ!

ってなわけで更に魔力を蒸して最大速度まで加速して飛ぶ。

いや、この加速にもちゃんとした理由はあってね?たぶんこのペースで行くと日が暮れるのよ。あの二人の使者さんが来た時点でお昼過ぎてたし、この程度の速度でノロノロ飛んでたら真夜中になる。

そうなると到着したとしても「じゃあここからどうするの?」って話になっちゃうから、急ぐ必要があるのよ。

 

決して憂さ晴らしじゃないよ。決して。

 

……にしても意外とアインさん丈夫だなぁ。速度引き上げた瞬間音を上げるかとも思ったんだけど。

 

「う、お、おぉ…!す、すごいねっこれ…!?」

しかも喋れるんかい。割と余裕そうだな…いやまあさすがにこれ以上速度出すとこっちに影響出るからやらないけど。

 

「いま、やれる、さいだい、そくど」

 

「はは、っ!こりゃ、想定外だねっ!」

 

そんな感じで飛ばしつつ、途中なんか目に映ったはぐれたっぽい肉塊をミサイルで爆破していくと、およそ一時間くらいで目的の国に着いた。

 

「ここだ!もう少し行ったら大きな神殿が見えるはず!」

「りょう、かい…!」

 

『んー……ん、見つけたよ。ここからまっすぐ、大体20キロくらい?』

 

(あれ、遠くない?)

もう少しとは。私たち基準でもう少し、ってことでよかったのかな…空飛べないはずの一般人からすれば直線距離20キロって相当じゃない?道の状況とかにもよるだろうけど、汽車とかで行こうとすれば1時間弱くらいかかると思うんだけどなぁ…

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