というわけで前話投稿から一か月近く空いたので初投稿です。
とりあえず何とか日が暮れるまでに目的地には到着した。人目につかないところで停止して地面に降下、路地のようなところに降り立って翼を格納する。
さて…こっからどうするんだろ。とりあえず宿泊所?
「じゃ、こっちだね。付いてきてねぇ」
…なんて思ってたけど、アインさんは路地から出て迷うことなく歩いていくものだから慌てて私もその後ろをついていく。
え、これどこに向かってる?
『向かってる先は人の多い場所っぽいけど。この国の中央地みたいな感じかな?』
(ほえー)
一応お街に出るって事かな?
と、ふとアインさんが振り向いた。
「うん、秘匿のブレスレットはちゃんと着けてるね?ここから中央街に出るよ。ここ、世界一の大宗教国家なんだけど、それより宗教国家全体の中心地でもあるから人がかなり多いんだよねぇ。どうする?手でも繋いどく?」
「んー………ん」
一瞬別に良さそうだけどな、と思ったけどよく考えると私たちは正規ルートを通ってないタイプのよそ者な訳で、はぐれた方が問題になると気づいて速攻で手を伸ばす。
…身長差の関係上もう手を上にしてないと繋げないけどね…アインさんめっちゃ背高いもん。180はあるんじゃないのこれ。
『だいたい184cmってとこかな。ちなみにシスは132cmってとこだから、だいたい50cm差。ちっちゃいねぇ』
(やーかましい。骨格が金属になってる時点でもう成長しないのは明白でしょ。あと肉体はカラの自前)
『今の私は天冠だもーん』
そうなるとカラの身長は天冠の厚さってことになるから身長が数センチとかになるんだけど、という言葉は飲み込んでおく。これ以上いじると拗ねちゃいそうだからね。
「やっぱり中央街はだーいぶ発展してるねぇ。見たことのない物がゴロゴロしてるよ」
見たことのない果実みたいな何かを売ってる八百屋っぽいのとか、魚とかを売ってる鮮魚店みたいなの、普通のレストランみたいなのもあれば占い市みたいなのもある。
あ、あそこなんかパワーストーンみたいなの売ってる露店みたいなのない?
『あれは……聖石売場っぽいね。魔力…じゃないけど、反応がある』
あ、聖石売ってるところか。…そんな貴重なもの露天形式で売って良いのそれ?もうちょっとちゃんとした感じで売るべきでは?
ちょっと気になって目を凝らしてみると、赤い丸っこい石…多分火の聖石と思われるやつが大量に入れられた箱の下に20000って書かれてる。
………まさかとは思うけど一つ二万円とかじゃないよね。いや、というかそもそもお金の単位が違うか。えーとなんか基準になりそうなの無いかな…あ、あそこなんかリンゴみたいなの売ってる。えーと…一つ200って書いてるか。ってことはだいたいお金の価値は日本円と同じくらい。……ん、あの火の聖石、一つ一つバラして売ってるね……ってことは火の聖石一つ二万円……いやいやいやいや。
「ん?どうかした?……あぁ、火の聖石だねぇ。んー…でも質は微妙っぽいかな?2万は相場よりちょっとだけ安めだけど、あの質で売るならちょっと高いね。僕なら買わないなぁ」
いやいやいやいやいや。違うそうじゃない。
アインさん、そんなもの普通にばらまいてるの?正気?SAN値チェックとかしときます?
「アイン、さん。…ひの、せいせき…くばってる、って、きいた。けど…しょうき?」
「ん?あぁそんなこと?まあ原材料はそこら辺に落ちてるから実質タダだしねぇ。僕自身火の奇跡はそこまで得意じゃないし、そんな専門家って訳でもないヤツの粗悪品だから配ってるだけだよ〜」
『別にそれならそれなりの値段で売り飛ばしたほうが国益にも繋がりそうだけどね』
(あ、確かに)
言われてみれば確かに。国民全員分の聖石を作れるくらいなら実質量産できてるんだろうし、それ売ってたら相当な収入になるんじゃ…
「あいにくそこまで効率のいい量産方法じゃないからねぇ。国民全員分で手一杯なんだよぉ…よよよ」
よよよ、じゃないですよ。そもそも国民全員に配るのを前提として考えてるのがおかしいことに気づいて下さい。あとしれっと思考を覗かないでください。怖いです。
そんなことを話したりもしながら街の中を歩いていると、ふとカラが声質を変えて注意を飛ばしてきた。
『前方右手の灰色の服着た瘦身の男の人、様子がおかしい。…多分シスが狙われてる。注意して』
(うぇ、まじ?)
気取られないように一瞬視線で探ってみると確かに一人、妙な視線を放つ人がいる。灰地に少しの黒刺繍がされているコートを羽織った…まあ仮称不審者。手元は見えないようになってるけど、視線の向きとか雰囲気、歩き方とか動き方…そういった情報からある程度の推測はできる。……スリの類か誘拐の類か、はたまた別の何かか。まあでもどうにせよ、気持ちのいい視線じゃないのは確か。
とりあえずこっちからは気づいてないように装いながら変わらず歩いていくと、向こうから進行方向を斜めに切り替えて近づいてきた。…黒かな?
警戒しつつすれ違ったその瞬間、掴もうとするように目の前に手が伸ばされた。
…が、予測済み。先にその手を結構強めに払い飛ばして、同時に周りに気付かれないように膝裏を押すように蹴り飛ばす。慈悲は無い。
男の人は何が起こったかわからないまま膝カックンされてそのままどたーんと頭から倒れた。そしていきなりそんな事になったら当然周りからだいぶ視線を浴びるわけで、居心地悪そうにいそいそと立ち上がって走っていった。ざまーみろー。
『ざまーみろー。ふふ』
と、アインさんが小さく肩を震わせていた。
「……くくっ、やるねぇ」
「…みえ、た?」
「や、全然。でもタイミングがぴったり過ぎたからそうかなぁ、ってね」
マークしてたけど手出ししなくてよかったよ、と言いつつまた小さく笑ってた。なんだかなぁ。
「中央神殿のお膝元、神聖国家なんて言っておきながら犯罪率はうちの領地の方が低いしねぇ。こういうのも少なくないんだよ。気を付けてね」
んー…それはどちらかというとグラウヴ公領の治安が良すぎるだけなのでは?あの感じで見てみると全体的にそんなに大規模な事件とか起こらなそうな感じだしなぁ。……というかそういえば、グラウヴ公領…というかあのアインさんのいた教会の近くを見て回ってた時、警察的な役割持ってそうな組織が全然見当たらなかったんだったんだけど…実際どうなんだろ。
「ぐらうゔ、こうりょう…けいさつ、みたいなの…あった、っけ?」
「ん?あー、一応あるはあるねぇ。けどまあ、そもそもあんまりそんな事件みたいなのは起こらないからほぼあくまで形だけかなぁ。どっちかって言うと対異教徒の自警団みたいになってるよ」
えぇ…
『えぇ…色々イレギュラーすぎるでしょあそこ』
ほんとそれ。何なのその状況。領民の心が綺麗すぎるのか、そもそも犯罪を犯すところまで考えが至らないほど大変なのか……まあ前者かなぁ。セリシアさんのいた教会の近くの村みたいな状況ならともかく、あの街は流石に後者になるまで切羽詰まってはなかったはずだし。
まあそんなゴタゴタもありつつ更に歩いていっていると、少し街から外れたくらいのところにあった一つの大きな建物の前でアインさんが立ち止まった。
…建物…建物?というか、塔?時計塔かな…なんで?
「着いたよー。ここ、知り合いが管理してる時計塔でね。宿として部屋を貸してくれるって言ってくれたんだよ。さ、て……」
と、アインさんは繋いでいた手を離した。そして足を少し広げて踏ん張るように姿勢を正し、息を大きく吸って、吐いて、また吸って……
「ふ、ッ!!」
明らかに鉄製っぽい扉に掌底を叩き込んだ。
「…へ?」
『は、え?』
その衝撃音は多分中まで響いて、若干の静寂があった後。
「やぁやぁ、よく来たね」
ギギ、と油を注し忘れたブリキ人形みたいな動きで勝手に開いたドアの向こうから、快活そうなオレンジ色の髪の女の人が出てきた。腰には大量の工具のぶら下がったベルトを着けて、革製のポーチを下げてる。いかにも職人みたいな感じの女性だ。
「やほー、ミカニ。相変わらずだねぇ…あのさ、やめない?このシステム。なーんでわざわざ訪ねるたびに扉に掌底打ち込んでるの、僕」
「だってそもそもあんたが来たくらいでもないとこの扉開けないでしょ。じゃあ確認する手段で一番手っ取り早いのはこれじゃん」
「いや他にもあるでしょうよぉ…」
…??………???
なんの話してるのこれ…?
『えっと…ミカニ?っていうこの人がアインさんの知り合いで、この時計塔を管理してる人で、基本的にこの扉を開けることはなくて、アインさんが来たのか否かを確認するために掌底打ちを毎度強要してる…って感じ?…え、なにそれ意味分かんない』
(同じく…え、えぇ…?)
カラと一緒に仲良く頭をひねっていると、ミカニさん?はこっちを向いた。
「で、その子が件の子かい?」
「そそー。あ、この人はミカニコスって言うよ。僕は縮めてミカニって呼んでるし、多分それで良いんじゃない?この時計塔の整備技師ね。あ、それと、この人出身が工業帝国でね。君の事情は既に大体話してあるから心配いらないよー」
……ミカニ、コス?…あ、おっと。反応しないと。
「あ、えと、エナス…シス、カラム。シス、でいい」
『自己紹介は割と慣れてきた?ちょっと流暢になってきたね』
(まあこの短期間にこんだけ自己紹介してればね…)
「ふんふん…シス、ね。おけおけ、さっきそこのアインが言ってたけど、アタシはミカニコス。この時計塔の整備技師ね。よろしく。にしてもよく言うねぇ、あんたむうぃ」
と、ミカニコスさんが自己紹介したあとアインさんを指して何か言おうとしたみたいだけど、一瞬の隙にそのアインさんが彼女の口を塞いだ。反応速度とんでもなかったね今。
「むが…何さ、言ってないの」
「…こっちにも思う所があるんだよ」
「…ふーん。ま、良いや。まあともかくよろしくねー」
ミカニコスさんは一瞬不満そうな目をアインさんに向けたけれど、すぐ快活そうな顔に戻して私の方に手を差し出してきた。
一瞬何かあるかと勘ぐったけど…まあ別に何か仕掛けるようなことはしないでしょうと判断して私もその手を取った。
多分そのうちまた加筆します。