人工天使は祈らない   作:謎の通行人 δ

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人工天使は協力する

しかい、が、ゆれる。

 

おとが、とおい。

 

きもち、わるい…

 

『シス!シスっ!っ……高度急降下!権限を、ッ…奪う…!』

 

くら、といっしゅんしかいがかるくゆれて、すこしずつ体のかんかくが戻ってくる。

頭にひびいてくる、カラのなきだしそうな声が…だんだん、はっきりと認識できるようになった。

 

(っ!か、カラ!大丈夫!?)

『っ──!大丈夫はこっちのセリフ!無茶ばっかりしてっ…!あぁもう動かしづらいっ…』

 

今は…多分カラが私の体の操作権限を一部奪って無理やり動かしてるんだと思う。

カラもカラでなかなか器用だよね…前に言った通り、これ2つ以上の全く違う行動を頭で考えてやってる事になるし。

 

(…多分、大丈夫。だいぶ頭もスッキリしてきた)

『っ、なら、良かった。…グラビティドライブ以外一旦返していい?ちょっと大変』

(あ、分かった。ありがとね)

『正直けっこう危なかった。で…どしたの?』

(いや、まあ、よく考えてみればというか、失念してたというべきか…)

 

前々から何となく分かったことだけど、肉塊の中でも生き物の形を持ってるやつってのはその形の元ネタとなる生き物の能力に近い能力、もしくはそれを強化した能力を持ってることが多い。

例えば魚類型やクラゲ型なんかは水の中を泳ぐように空中を飛ぶし、クラゲは体内に毒を持ってることがある。

猿は手先が器用だったりするし、鳥はものによってはすごい高速で飛ぶことができる。

その中で、蝶型のモンスター的なやつの持つ能力と言えば…鱗粉。

現実の蝶の中に鱗粉に毒を持つものは居なかったはずだけど、能力の派生的なものとして鱗粉自体に何かしらの毒素が混じってる可能性はあった。

 

上から俯瞰しつつずっと羽ばたいてたのは…もしかすると鱗粉を空気に混ぜつつ下に溜めて、ゆっくり体を蝕む予定だったのかもしれない。

搦め手も得意とかやめてくれぇ…カラが居なかったら死んでたかもしれないんだよ。

でも、タネが割れれば大したことはない。

 

『つまりは、蝶型の鱗粉を吸わなきゃいいってこと?』

(多分ね。それか吸っても問題ない濃度まで散らすか)

ただ、私自身の体の対毒性もかなり高いはずなんだけどそれでも意識が朦朧とするくらいには効いてた訳だし、多分一般人が吸い込むとそれこそ即死とかあり得るんだよね…

散らさずに速攻で片付けるか。

 

でもなぁ…もう蝶型動けるようになっちゃってるんだよなぁ…

 

どうやらカラが蝶型からの探知を振り払って安全なところまで連れてきて隠してくれたみたいで、視線の先では蝶型があっちこっち飛び回りながら私達を探してるのが見える。

…どうしたものか…同じ手はそう何度も使えないだろうし、そもそも見ない間に蝶型またデカくなってるし。まああんだけ隙を晒してたら成長する余地もしこたまあっただろうし。

 

と。

 

『背後に魔力反の…いや、違うか。』

(ん?)

カラが何か言おうとしたけど、何かが近づいてきたのは私も気づいた。

振り返ると…

 

「!シスちゃん!」

セリシアさんだ。

…そうか、それがあったか!

 

「だ、大丈夫!?」

「だい、じょぶ。えと…セリシア、さん。てつだって、ほしい」

ボディランゲージも使いつつ、蝶型の持っている能力と現状、それと今蝶型を追い詰めようとしてることとそれを手伝ってほしいことを伝える。

 

「…うん、分かった。なんか息苦しいのは感じてたんだけど、あれのせいだったんだね…じゃあ、私が風で巻き上げるからそれに乗って。それと…あの蝶型の異教徒の動きを制限できたら良いかな?」

「…ん、おねがい」

久しぶりの…いや、初めての?協力体制。これまでは基本的に一人で…いや、実質は二人だけど、肉体的には一人で戦ってたからね。雑に戦況に投入したらそこの戦況が勝手に有利に傾くようになる便利な駒みたいな立ち位置だったんだろうか。

…というか今セリシアさん「ちょっと息苦しい」って言った?アレが?ちょっと?

…えぇ…

 

『…シス、集中。グラビティドライブ起動、行くよ』

「…準備できたよ。巻き上がれ…!」

と、カラの声と同時に慌てて思考を現実に戻すと、私達を中心に辺りに疾風が吹き荒れた。

その風は竜巻みたいに渦巻きながら、蝶型に向かって勢いを増しながら滑っていく。

 

「!!」

と、蝶型も流石に気づいたらしい。こっちに向かってくる…けど素直に相手はしてやらない。

 

地面から土の壁がすごい勢いで隆起してきて、蝶型と私を目の前で分断する。それは知ってたから上へ急加速して壁を乗り越え、その速度のまま下へ急降下。上から既に起動させていた主砲を突き立てる。

風で鱗粉はもう全部吹き飛んでる。一応念入りにカラに頼んで調べてもらったけど、もう問題無しとのことだった。

 

蝶型はいきなりのことにフリーズしたのか対応が若干遅れた。

 

隙としては上々、でも仕留めようと思うには少し足りない。撃ち抜いたのは…右羽の下部。でも十分だ。

 

『プラズマミサイル斉発!』

(畳み掛けるよ!肘部機銃機構斉発開始!)

青紫の電撃が縦横無尽に暴れ回るその隙間から蝶型を見失わないように移動しつつ、右肘に機銃機構を展開して弾幕を張る。

 

しかしその程度ではものともしないとしたものか、またもや亜音速飛行で弾丸を避けはじめ、一瞬で視界から気配が掻き消えた。

同時に、背後から気配。

 

死角に入って蝶型は体勢を整え、羽を丸めてまた風を起こそうとした…んだろうけど、その一瞬の硬直を狙って空からピンポイントで雷が落ちてきて蝶型を撃ち抜いた。

それが最大の隙となった。

 

『疑似魔力瞬間集約!抑制機構を強制シャットアウト!』

(メインコード、【ゲイボルグ】!!突っ込めッ!!)

本来のコードの使い方。

0.5秒にも満たない隙を狙い撃つ神槍はものの見事に蝶型を貫き、空間を打ち壊しながら地面を暴れ回った。

 

轟音の後には…蝶型の肉塊だったものの一部の残骸が灰をばら撒きながら地面に落ちていくだけとなっていた。

いや、というかむしろ…

 

(……威力は元より結構落ちるし魔力消費も増えるとはいえ…)

『直撃して形が残るかぁ。これ相当だよ。』

 

もう一人の(エナス)機のあの子なら跡形も残さずやれそうだけど、とはいえ私も(エナス)の番号を与えられてる身。主力コードを直撃させて、それでも多少とはいえ原型を留められるとちょっと自信無くす。

 

『なんでこんなところにこんなのがいるんだか…あ、周辺200m圏内の魔力反応…いや、400m圏内の魔力反応無し。よし、戦闘状態を解除、翼以外の機構を格納。おつかれー』

 

(ん、おつかれー)

 

そのままゆっくり高度を落としながら、セリシアさんのところに向かう。

 

「シスちゃん!おつかれ!」

「…ん、セリシアさん、も…あ、ほか、にくかい、は?」

「あ、全部やっつけちゃったよ」

 

(えぇ…)

 

『えぇ……あ、そうだ。魔力反応一切ないんだった…』

 

そういやそうだ、魔力反応無しって言ってたわ…セリシアさん……やばいね。

いやまあよく考えればあんな天変地異を一人で起こせる人だし…なんだろう、やっぱすごいね。色々と。

 

「おかげでもう村の人達も異教徒たちを怖がったりする必要も無さそうだよ。本当にありがとう」

「…ん、セリシアさん、も…わたし、あぶなかった、とこ…たすけ、くれた。…ありがと」

(カラもね、ほんとに色々ありがと。あと心配かけさせてごめんね?おかげで助かったよ)

 

『…んっ。どーいたしまして』

 

なんか、カラが満面の笑み浮かべてうきうきしてるのが想像できた。

いやまあカラの顔って常に無表情な私の顔か歯車かの二択なんだけど、なんというか…声がね。

 

「じゃあ、一旦帰ろっか。ここの調査とかはとりあえず明日に回そう。シスちゃんも休まないと」

まあ現状疲労はそこまで溜まってるわけでもないんだけど…一旦言われた通りに教会の方に帰ることになった。

わざわざ疲れてるであろうセリシアさんをここに引き止めて私だけ飛び回るわけにもいかないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

(そういえばカラ、お風呂って入ったことあるっけ?)

 

『おふろ?』

 

あー反応で理解。そっかお風呂入ったことなかったか…

そりゃそうだ、研究所の方での「洗浄」はめっちゃ強い洗剤みたいなので洗われて水ぶっかけられて拭かれて終わりみたいな感じだったからお湯に浸かるっていう文化がそもそも無いもんね。

いやーアレは酷かった。確かに肌がボロボロになろうとどうなろうとそのうち直るから良いとはいえ、あれ工業用の洗剤とか研磨剤に近いやつじゃなかったんだろうか。素体人間の体に付けて大丈夫なやつだったのかなアレ。

 

教会に戻ってきてから、象型の破片とか一身に受けちゃったし、とりあえず体を洗おうかということになったんだけど、どうやらここ、グラウヴ公領は領主さんが火の聖石っていう聖女さんとか牧師さんが火の奇跡を込めることで作れる特殊な石を配ってくれてるおかげでこの国じゃみんな普通にお風呂に入れるようになってるんだとか。

まあその領主さんが聖女さんとか牧師さんみたいな聖人って言われる分類の人だからできる荒業というか何と言うか。

…とりあえずそこらへんの精神は研究所の輩もどうぞ見習ってもらって。

 

『お湯に浸かるの?』

 

(お湯に浸かるの。感覚ってリンクできたっけ?)

 

『できるよー。えーとちょっとまってね……こうか。よし、できたよー』

 

私の方から何かを感じ取れるわけじゃないけど、多分感覚をリンクしたんだろうということで箱みたいな形になってる浴槽から洗面器みたいなのでちょっとお湯をすくってかける。

あ、いつもまとってるボロ切れのシャツみたいな服は脱いでるよ。かろうじて袖部分があるだけのほぼ白布1枚みたいなやつなんだけど…あれを服と言い張るのはいかがなものか。

 

それとセリシアさんは外で待ってもらってる。うん…ちょっと個人的な問題が色々ありまして…何と言うか、落ち着かないと言いますか。

 

『?』

 

まあともかく。

ざぱ、とお湯をかけると、もう長らく感じてなかった体があったまる感覚が生じる。

 

『お、おぉおおー?』

 

(ふふ)

 

あとカラの反応が可愛い。

 

どうやらボディーソープとかシャンプーとかはないみたいだけど、まあ正直この身体、皮脂も出なければ汗も出ない、というかそもそも汗腺も死んでる体なもので、それこそ土とか肉の破片とかそれくらいを流せれば十分だから2回くらい体を流してお湯に浸かる。

私サイズならお湯の中で足も伸ばせるけど、何となく膝を抱えてると落ち着くからそうする。

 

『お、おー。あったかいね。』

 

(ねー。気持ちいい?)

 

『んー…気持ちいい、かは分かんないけど…あったかいねぇ』

 

(ふふ、なら良かったよー)

 

心做しかカラの声が溶けてる気がする。

まあでも私自身もお風呂なんて入るの…どれくらいぶりだろ?2、3年ぶりとかそれくらいかな。正直すっかり感覚を忘れかけてたけど、こうして感じるとやっぱりお風呂は良いねぇ…

 

『……シス、それはそれとしてお説教』

 

と、ふとカラに声をかけられた。溶けてた声とは少し変わっていつものお姉さんチックな声だ。そしてこの声の時のカラは…ちょっと怖い。

 

(………いやほら、今回も一応結果オーライだったしさ、目標は達成できたんだしというかなんというか)

 

『無理をしなきゃいけないことは出てくるかもしれないけど、無茶はしないでって何度も言ったよね』

 

……面目次第もございません…やっぱりバレてたか。

実際、あの鱗粉の効果は薄々感じてはいた。途中からどうにもちょくちょく集中が途切れる感覚はあったし、何より戦闘用として極限まで調整されたこの体が、この目が、距離感を誤ったりタイミングを間違うなんて本来あるわけがなかった。

 

『象型との戦いもそうだよ。あんな無茶苦茶な戦い方誰に習ったの?』

 

(習った通りにやるだけなら誰でもできるし、私なりの戦い方を──)

 

『それは教えられた通りの相手の状況じゃなかった場合。一応研究所で習った戦い方が一番安全な戦い方だってことは分かってるはずだよ。()もいるんだし、どうしても無茶するんだったらせめて私にも協力させて。あんまり、心配かけさせないで』

 

(うぐあ…)

 

おかしい。私のほうが確かに年上だったはず…なんで脳内年齢20歳近く下のカラに私が負けてるんだ…

どれもこれも帝国のイカれ改造が悪い。そうに決まってる。多分脳みそいじった時に私の年上成分も弄りやがったんだろう。

 

おのれ帝国めぇ!!




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