人工天使は祈らない   作:謎の通行人 δ

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一応言っておきますが、この小説には残酷な描写タグが付いています。つまるところ今話はちょっとグロ注意です。


人工天使は調査する

あの蝶型の肉塊を…というよりあの超巨大な巣を撃破したその次の日。

 

念の為肉塊の撃ち漏らしがないかの確認と、あとは個人的にはちょっとした調査をするためにまたあの巣のあった場所に向かうことになった。

…のは良いんだけど。

 

「うーん…うん、何も無いね」

「…ん」

ほんとに何も無い。

強いて言うなら巣があったところらへん、肉塊がめっちゃひしめいたところらへんの所が裸地になってるくらいだろうか。まあでもあんだけいたら、そりゃ踏まれ引きずられで草も生きていけないと言われればそれまでと言った程度。

カラに探知を頼んでもみたけど…

 

『んー、ほんとに何も無いね。肉塊がいた形跡はあっちこっちに残ってるけど魔力反応はゼロ、普通の動植物は残ってるし…』

 

とのこと。

まあ逃がした肉塊が居ないことは分かったけど、それより…

 

(正直肉塊があんな集まった群れを作ってるのが偶然とは思いにくいよねぇ…。なんか分かるかとは思ったんだけど…)

 

『これじゃ手がかりすらゼロだよ。偶然とは考えにくいし…』

 

そもそも肉塊は他の肉塊の巣の近くに巣は作らない。まあ単純に獲物の量が減るしね。

だからといって同族を襲うケースも聞いたことはない。ほんとに稀に巣が吸収合併したりするのは聞くけど、それもあんまりある事じゃなかった。

でも今回は巣の形跡が三つに、リーダー格は二体。つまり三つ寄り合った巣が合併して一つの大きな群れを形成したって事になる。多分リーダーは蝶型で副リーダーみたいなのが象型だったのかな。

 

まあどうにせよ。二つの巣が近くにあったくらいならまだあり得たかもしれないけど、今回は三つ。しかも近くにそこまで大きな人の街があるわけでもなく、一つの教会と小さな村があるだけ。

念の為教会と反対の方にも何かないか探ってもらったけど、そっちは一つ小さな廃村があった以外は本当に何も無し。ほとんどずっと森が続いてただけっぽい。

 

(…カラ、地下とか探れない?)

 

『ちょっと厳しいかな…どっかに入り口とかあったらできるけど、地上から地下を直接調べるのは無理』

 

そっかぁ…いやまあそうだわな。カラのしてる探知って魔力を使ったソナー的なやつらしいし。

けどそうなるとなぁ…もしかすると地上の魔力反応は無くなってるけど地下とかにはまだ潜んでましたみたいなケースもあり得る。実際似たような事例が無かったわけじゃないし……

 

「…うん、奇跡で探ってみても反応は無いかな。たぶん大丈夫だと思うよ」

「…んーー……」

セリシアさんいわくそういう事らしいけど…どうにも腑に落ちない。そもそも、あの蝶型が前線にも出ずにこんなところで居座って何をしてたのかも気になる。

戦況を鑑みる能力と自身の能力を十全に理解したうえで相手を罠にはめたりする戦い方を組み立てられるくらいの知能を持ち合わせてたわけだし、ただ()()()()とこんなところにいたわけじゃなさそうなんだけど…

 

『もうちょっと調べてみよっか?』

 

(うん…あ、いや、カラばっかりに頼ってると申し訳ないし、私の方でもちょっとフラフラしてみてみるから、カラはもうちょっと探ってみて)

 

『やーいさほー』

元はと言えばここに来たいと言ったのは私の方。なのにその当人が動かないんじゃ本末転倒、というわけで…

 

「セリシアさん、ちょっと、まわり、みてくる」

「えっ、あ、うん分かった。気をつけてね?」

「…ん」

保護者役のセリシアさんへの報告もしておいて…いざ行くか。

地面から少し浮いて加速、森の中へ潜って高速で迫ってくる木々をかわしながら地上偵察をする。

 

…うん、まあそんな風に飛び回ってるわけですが。

 

ほんとに何も無いな…いやむしろ無さすぎて不自然。肉塊は確かに優先的に人を襲って食べるけど、その他の動物だって食べることはあるしなんなら草を食べるやつもいるくらいだ。人間だけ食べるとかいうのはあんまりない。まあ人間を食べると力を得られるのかなんなのか、特に人間を好んで食べようとはするけどね。

とはいえそんな何百もの肉塊を満足させられる人の住む街は近くに無いし、教会の近くの村で人が減ってるみたいな話は聞いてない。なのにここは木も草もかなり生い茂ってるし、動物も私からは見えないけどかなり残ってるらしい。

あ、ほらあそこにも熊が…熊!?

 

視線の先では熊が四つん這いの状態で向こうの崖っぽいところを向いて地面をだんだん叩きながら低い声で唸りながら地面に何かをしていた。何やら興奮してるみたいに見える…けど。

 

…ん?

 

(カラ、あの熊の前にあるの、穴じゃない?巣穴?)

 

『あ、ほんとだ。』

 

よく見てみると熊が何かしてる向こうの崖と地面の境目あたりに、小さい穴…それこそ私が這ってようよう入れるくらいのサイズの穴があった。

 

『んん……探りづらい、けど…進んでちょっと戻りながら降りたあと、結構広いところに出る…っぽい?広いところは…ごめん、詳しくはわかんない。けど少なくとも巣穴とかじゃないし、魔力反応はなさそう』

 

(いや、それが聞けただけでも助かるよ。入ってみよう)

 

まあでもとりあえずあの熊をどうかしなきゃいけない。

別に麻酔鍼刺してもいいんだけど、できれば別に敵対してない相手にわざわざ攻撃するのは避けたいところ。そもそも人とか肉塊用に生成されてる麻酔が効くのかどうか、逆に効きすぎないか否かも不明だし。そこら辺は全然詳しくないから…

あー……もう良いや、ステルスと両用しちゃえ。

 

『えぇ…まあシスがそれで良いなら良いけど。ステルスドライブ起動、消耗早いから気をつけてね』

 

(まあ穴に入ったらすぐ切るからそんなにでしょ)

ということで、探知を中断してカラがこっちの手伝いをしてくれるみたいなので。

体がちゃんと透けたのを確認して、熊の上に移動してタイミングを見計らう。

…何か熊はあのちっちゃい穴に入ろうとしてるみたいだけど、それは無理じゃないかな…ちょっと熊が後ずさったところで加速して、頭から穴に飛び込む。

 

穴に入ってすぐに方向を変えて進み、ある程度距離を取った時点でステルスを解く。…のは良いけど。

 

(えーと…うわ前見づらっ)

 

『しょうがないよ、ほぼ洞窟だし光源もないもん』

 

視界は真っ暗だし狭い上に何か見えても岩肌しか見えないもんだから大した情報が得られない。

細かく位置を調整しながら岩肌に体を引っ掛けないように細心の注意をはらいつつ、ゆっくり進んでいく。

少し進んだところで折り返すように下に降りていくと…カラの言った通り、かなり広い空間に出た。…のは良いもの。

 

『うわ、なにここ…?』

 

(う、っ…酷い臭いがする…何、これ)

 

何と言うか…得体の知れない臭いがする。例えるなら…例えるなら?例えられない。というかもう嗅ぎたくないから息止めて口呼吸してる。何かよほど酷い何かが腐ってるみたいなにおいしたんだけど。そのせいかなんかちょっと体調に支障きたしてそうな感じがする。…一旦、咳をする。なんかしたくなった。

 

『ライトつける?それか暗視?』

 

(んー……ライトの方にしよう。別に何かいる気配は感じないし、暗視は詳細には見づらい)

 

『はーい』

 

通路はまだ入り口の方からの光があったから、強化された視覚でかろうじて認識できてたものの、もうなんにも見えてない状態だもんね。

と、いうわけで右手薬指の先が細い懐中電灯みたいになる。そこに魔力を送り込み、どんどん光量を上げてこの広いところ全体を照らせるように調整する。そのおかげで視界が確保できた…けど。

 

「ぃ…っ!!?」

『な、何っ、これ…っ!?』

 

空間は大体直径30メートルくらいのドーム状になっており、その床の部分には地下水であろう水が薄く、とはいえ赤黒く濁っていた。

そしてその水から上がった場所では、岩に貫通させられていたり、そこら辺に打ち捨てられたりしている大量の肉塊や…人間の遺体が確認できる。明らかに攻撃されたように、手足や頭部の欠損が見られるものもあった。

…よく目を凝らしてみれば水場の中からも手みたいなのが飛び出てたりするから…多分水中にもだいぶ沈められてる。

でも、見る限り人間以外の動物は見当たらない…?

 

…これ、まさか…

 

(速贄…?)

 

『はや、にえ…?なにそれ?』

 

(一部の鳥とかがやるんだけど、捕まえた虫とかを木の枝に刺したりして保管することがあるんだよ。…状況は、それに似てる)

エサの保管庫とでも言うんだろうか。…ってことは、この臭い…タンパク質の腐乱臭か。さっきの体調不良の予兆は吐き気?生憎もう体には吐くものもなければ吐く器官も働いてないから違和感として処理されただけ、ってことか。

……正直、見たくもないから必死に目は背けてるけど…下手に感覚が鋭敏なせいで喉とか色々影響が出そう。

 

…いや、でもよく考えると…というかよく考えなくてもおかしい。どう考えてもおかしい。これを肉塊がやったって…?

百歩譲ってこの規模の洞窟を作ったとかだけならまだ分かる。物によってはこういうのを造るやつもいるし。実際、モグラ型の肉塊とかもやってた事がある。潜伏用として活用したとかでも理解はできる。

けど、洞窟自体が自然のものであれ恣意的に作ったものであれ、獲物を保管しておく知能なんて肉塊にはなかったはず…こんなの、今まで見たことも聞いたこともない…!

まさか、向こうの方にあった廃村を襲ったのもこの連中だったりする…?

 

『…少なくともこの中では生体反応ゼロ…あの蝶型、やっぱり何かおかしいね。こんな事考える肉塊なんて初めて見た…』

 

…これを見た後だと、あの熊の興奮しようもある程度の予想はつく。

確か熊の嗅覚は犬の6~7倍…これの臭いも嗅ぎ取れたはず。

 

『ってか、これどうするの…?』

 

(…流石にほっとくわけにいかないし…どうしよ、これ)

 

ほんとにどうしよう。

できれば丁重に弔ってあげるべきなんだろうけど、これ多分100や200どころの話じゃないし…かと言って放置するのもちょっと、衛生的にもよろしく無い気がする。

 

(…焼こう。火葬だ)

 

『この量を?』

 

(ちょっと手荒にはなるけど…放置よりはマシと思ってもらって許してもらおう)

そういうわけであんまり私も気は乗らないけど左腕に主砲を展開。

あ、一応言っとくけど流石にそのまま撃ち込みはしないよ。今集中するのは弾丸生成。

 

前にも言った通り、私の体に備わってる機構は基本的に全て魔力で動く。飛行やステルス、生命活動すら魔力が元で、当然弾丸の生成なんかも魔力から作り出してる。そして当然それを作ってるのは私自身。つまり弾丸もやろうと思えば自分の好きなようにカスタマイズできる。効率クッソ悪いからあんまりしないけど。

 

(えー…ここがこうで…こう…かな?)

 

『なにこれ』

 

(焼夷弾もどき)

 

『うっわ』

 

しょうがないじゃん…思いつくのこれしか無いんだもん…ミサイルは燃えてはいるけどどちらかと言うと爆発のほうが近いし、プラズマミサイルは電撃だから火はつくかもだけど明らかに火力足りないし。

他の兵装もどちらかと言うと重火器とかの方が近いし、火葬しようとすればこうなるの。

私だってご遺体に焼夷弾なんか投げつけたくないよ…!

 

けど変に躊躇ってズルズル何もしないわけにもいかない。

腹を括って左手を下に向けて…

 

(…てっ!たっ!)

 

『うわやった』

 

ちょっと反動ガン無視で二連砲撃してすぐさま退避。一拍遅れて背後から焼夷弾もどきが炸裂した音が聞こえた。

もちろん威力はかなり抑えて設計したから大変なことにはならない。強いて言うなら一酸化炭素がめっちゃ出るからこんなところに長くいたらこっちが中毒になる可能性が高いこと。

 

急いで穴を戻って入り口の穴から外に出る。

 

(…とりあえずこれで火葬は完了…火が消えたら中に十字架でも立てとこうか)

 

───じゅうじか?…あー、お墓に建てるんだっけ。わざわざそんなことしなくても…誰も見ないでしょ、こんなとこ。

 

(それでもだよ。誰も見ないからこそ私達が弔わなきゃ)

 

適当なものになったのは否定できないし、実際かなり雑な火葬ではあったけど…せめてお葬式もどきぐらいはね。

ほら、村八分にされた家ですら火事と葬式の時は面倒見てくれるらしいしさ。

…まあ、火事起こしてるのはお前じゃない?って言われたらぐうの音も出ないんだけど。

 

それはそうとして、蝶型がこの巣から動かなかったのはこの貯蔵庫があったからか。この量の貯蓄があれば当分他の村を襲う必要はなさそうだし…そもそも、肉塊は人を食べるとは言え1体につき何人も食べるわけじゃない。並の肉塊なら手一個あれば一週間くらいは持つ。まあ格が上がればまた別だけど…それでもほとんど誤差だ。

 

(もしかしたらまだ他にもこんな感じのやつがあるかもしれない。重点的に探るよ)

 

『分かった』

 

その後森中を飛び回った結果、これと同じようなものは他には無かった。

不幸中の幸いと取って良いのか、まだ見つからない場所に隠してる危険があると取るべきなのか…そこの判別は、まだつかなかった。

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