Re:ToLoveる~第4世代トランス兵器の俺、デビルーク第2王女に恋をする~   作:であであ

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第1話 Star drops~彩南な日常~

 永遠の闇が広がる、無の空間。匂いも、湿度も、視界もない。立っているのか座っているのか、それとも何かに触れているのか—体の感覚さえない。意識も、あるのかどうか分からない。

 ただそこに、ふと声が聞こえる。

 

「―ぼせ」

 

 少年のような、高い声。まだ声変わり前の、幼さの残る声。それが、執拗に語り掛けてくる。憎悪を込めた声で、刷り込んでくる。

 

「地球を、滅ぼせ」

 

 刹那、カッと見開かれたのは瞳だ。金色の瞳が、闇の中に開眼する。その瞳に映るのは—

 

結城宅・2階廊下

 

 チュンチュン、小鳥のさえずりが聞こえる。まだ薄暗い廊下に、窓から暖かな陽の光が差す。階下からは、ジュージューと何かを焼く音。芳しい香りが、こちらまで登ってくる。

 そこに、トントンと足音。ナナ・アスタ・デビルークが起きてきた。欠伸をしながら、長いピンク髪を二つに結う。まだ口の中がむず痒く、八重歯をカチカチと合わせる。ふと、鼻腔を擽る香りに、思わず口角が上がる。今日の朝ご飯は何かな、なんて心を躍らせる。細やかだが、確かな幸せの一つだ。

 その時、ふと通り過ぎる部屋が一つ。扉には「リトの部屋」の飾りがかかっている。チラと横目で見て、ナナは思案する。起こすべきか、起こさざるべきか。部屋に入ったら、またいつもの騒ぎが起きるのではないか?でも、入らなかったら彼は寝坊してしまうのではないか?いや、例えそうなったとしても、そんなのは知ったこっちゃないが—

 

「……はぁ~、起こしてやるか」

 

 溜息を一つ吐き、扉を開ける。そして、その先で見た光景は—

 

「あっ、リトさん……っ♡激しっ、んんっ……♡」

「ましゅまろだ~、んま~……」

 

 ベッドの上でまぐわう二人の姿。否、モモが一方的に攻められており、当のリトに意識はない—眠っている。

 四つん這いのモモに覆い被さり、片手で乳を、片手で尻尾を揉みしだく。唇は彼女の耳たぶを甘噛みしており、腰は無意識の内にヘコヘコと動いている—決して何かを突いているわけではない。満更でもない様子のモモは、顔を赤らめ喘ぎが我慢できない様子。扉を開けたナナには、気づきもしない。

 毎朝の光景、なぜこうなる。彼らは、眠っているだけのはずなのに。それもこれも、全て、リトがハレンチでケダモノなのが悪い。だから―

 

「朝っぱらから何やってんだ、このケダモノーッ!」

「え、ナナ……!?って、ふごぉっ!」

 

 声を荒げ、拳を一振り。それがリトの頬にめり込み、大きく吹き飛んでいく。

 そんないつもの喧騒が、早朝の晴天に景気よく響いた。

 

結城宅・食卓

 

 頬を押さえ、食卓にやってくるリト。先程、ナナの拳が炸裂した箇所がまだ痛む。ついでに、背中に突き刺さる彼女の鋭い視線も痛い。

 

「リト!みんな!おっはよー!」

 

 そこに、これまた景気の良い声が響く。バッと手を上げたララが、食卓に入って来た一行を屈託のない笑みで迎え入れる。しかしリトは、彼女のその姿に瞠目。

 

「ってララ、何で裸で食ってんだ!?」

「あ~、そう言えば忘れてた!」

「ララさんも中々だよね……」

 

 バスタオル一枚で食卓に座るララに、流石の美柑も苦笑いだ。

 

「そいや美柑、今日は学校休みなんだっけ?」

「うん、創立記念日でね。だから、サチたちと遊んでくる」

「そっか、気をつけてな」

「うん、リトもね」

 

 微笑を交わし合う二人。暖かな兄妹の信頼関係が、傍から見て取れる。

 それを横目に、ナナが気怠げに腕を組んで―

 

「美柑はいいな~。学校休みとか羨ましい~」

「あなたは勉強サボりがちなんだから、周りより頑張らないと」

「テ、テストの時はちゃんと一週間前からやってるよ!」

「ふ~ん。お姉様はいかがですか?」

「私はやってないかな~。ちょっと確認するだけで」

「ほら見ろ、姉上だってあたしと—」

「だって、授業ちゃんと聞いてれば全部覚えられるでしょ?」

 

 あっけらかんと言ってのけるララ。その笑みには、一ミリの陰りもない。それに、ナナは返す言葉もない。ついでに流れ弾を喰らったリトも、眉をピクピクとさせている。

 

「ほら、あなたもお姉様を見習って、今日からは授業中に寝ないことね」

「む~……。そう言うモモはどうなんだよ」

「さ、そろそろ学校に行きましょうか、リトさん♡」

「お、おう……」

「こらモモ、逃げるな!」

 

彩南高校

 

「メア~ッ!」

 

 教室に着いて早々、ナナは走り出す。

 窓の外を見て黄昏る、華奢な後ろ姿。赤毛の三つ編みを揺らし、こちらに振り向く一人の少女。メアが、ナナを見てニッコリと笑う。

 

「ナナちゃん、おはよっ」

「おはよっ、メア」

 

 パンッとハイタッチ。毎朝の挨拶だ。

 

× × × × ×

 

「おはよ、結城くん」

「あぁ、おはよう。西連寺」

「なんか、久しぶりな感じするね」

「まぁ、土日挟んだからな」

 

 他愛ない言葉を交わしながら、ふと見つめ合うリトと春菜。しかし、互いに頬を赤らめてすぐ目を逸らしてしまう。両思いであるというのに、こればかりはいつまでもぎこちない二人である。

 その時、背後からタッタッタと足音。直後、リトに飛びついてくる少女が一人。

 

「リトく~ん、おはよ~!」

「ル、ルン!?こんなとこで抱き着くなって……!」

「え~、いいじゃ~ん!久しぶりに会えたんだし~!」

「ちょっとルンさん!たとえ朝でも、異性とそんなに密着するなんて許しません!ハレンチです!」

 

 これまた、どこからともなく現れた一人の少女。古手川が、こちらにビシッと人差し指を指す。それに、ルンは不貞腐れた様に頬を膨らませ—

 

「じゃあ、夜だったらいいの~?」

「そ、そんなこと言ってないでしょ!」

 

 口の減らないルンと、それに馬鹿真面目にツッコミを入れる古手川。こうなると、彼女らのやり取りは中々終わらない。

 何とか仲裁しようと、リトがあたふたしていると—

 

「ルンさん。それより私、ルンさんとお話ししたかったの。教室行こ?」

「え?う、うん……。珍しいね」

 

 リトに絡む腕を解き、春菜がルンと歩き去って行く。本当に珍しい、と言わんばかりにリトは口をポカンと開けてしまう。

 

(私、結城くんと両思いだから……。これくらい、我がまま言ってもいいよね……?)

 

 密かに、心の中でそんなことを考える。ともすれば、彼本人に伝わっていないかと鼓動が速まる。チラと後ろ目で見た感じ、平気そうだが。それはそれで何だかなぁ、と春菜は微笑んだ。

 その時、胸元に強い違和感を覚える。これは、確かに揉まれているのだ—自分の胸を。

 

「春~菜っ、おっはよ~!」

「おっはよ~!」

「きゃあっ!ちょっと、里紗!?」

「いいじゃん、減るもんじゃないんだし」

「ないんだし~」

 

 そう言って、籾岡と沢田はニカッと笑う。その笑顔を見ると、怒るに怒れない。春菜は、仕方ないなぁと溜息をついた。

 一方、その一連の光景を遠目に眺めていたリトは赤面だ。春菜のハレンチな事象を目にするのは、いつだって彼には刺激が強い。

 

「いつか、リトさん自身が揉むことになる胸、ですよ……」

「モモ、何言ってんだ……!」

 

 ふと、そんな声が耳にかかった。背中からヒョコッと姿を現したのはモモだ。小悪魔的な笑みをリトに向け―

 

「まぁ、私は私で、リトさんに一番揉んでもらえるよう努力しますけど」

「またそんなこと……。ってか、何でここにいるんだ?教室に行ったんじゃないのか?」

「あぁ、今逃亡中なんです」

「逃亡中?」

 

 小首を傾げるリト。

 その鼓膜に、轟音が響いてくる。一瞬、何かしらの事件でも起きたのではないかと思うほど大きい。

 廊下を走る、大勢の足音だ。それは、何人もの男子生徒の束で—

 

「モモ様~!我々、モモ様の好きなところを一万個挙げたので、ぜひ聞いていただきたく~!」

「ではリトさん、また♡」

「あ、あぁ……」

 

 そう言ってウィンクをすると、モモは颯爽と廊下を駆ける。それをなぞるように、VMCの面々が目の前を通り過ぎていく。まるで、獲物を群れで追いかける肉食獣のようだ。その獰猛な肉食獣たちは、モモという甘美な獲物を求めて校内中を駆け回る。

 

「モモちゃん、今日も大変だね~」

「ったく、風紀委員の権限でどうにかできないかな」

「いんじゃない?なんか楽しそうだし」

 

× × × × ×

 

 屋上。

 微かに吹き抜ける風が、金髪を揺らす。入り口の屋根に佇むヤミが見つめるのは、VMCの隊列と逃げるモモ。さらには、それを追いかけ始めたナナと古手川。痺れを切らしたナナが、古手川に言いつけたのだろう。

 

「あなたたち、廊下を走るのは風紀違反です!」

 

 なんて声が、微かに聞こえてくる。リトと春菜は、それに苦笑いを浮かべている。ララだけは、楽しそうな満面の笑みだが。

 そんな、いつもの光景を一人で静観する。この時間が、ヤミは嫌いではない。もちろん、輪の中に入るのもいいが。

 そして足元に、騒がしいのがもう一人。

 

「ヤミちゅわ~ん!そんな高いところに立っていたら、おパンツが丸見えですぞ~!」

 

 パンツ一丁で飛び跳ねる校長も、相変わらずだ。こちらに関しては目もくれず、トランスで一掃する。

 

「今日も、騒がしい人たちですね」

 

 そう囁くヤミの口元には、微かな笑みがこぼれていた。

 

彩南高校・1階渡り廊下

 

 昼休み。

 ナナは、一人で渡り廊下をほっつき歩いていた。手を頭の後ろで組み、何となしに天井を見上げる。

 

(メアはどっか行っちゃったし、暇だな~。姉上たちのクラスでも行くか)

 

 そう心の中で決め、踵を返す。その時、中庭に何かを見つけた。シルエットは小さい、ストラップだろうか?否、それは微かにだが動いている。

 小首を傾げたナナが駆け寄ってみると、そこにいたのは一匹の子犬だった。

 

「何でこんなところに……」

 

 白い毛に、茶色の水玉模様が特徴的。掌に収まりそうなほどの矮躯を、懸命にフルフルと震わせている。

 その姿に、しかしナナは一抹の違和感を覚えた。その子犬は、後ろ片足を伸ばしたまま、一向に立ち上がろうとしないのだ。ズルズルと踏ん張り、顎を引き摺ってしまっている。

 

「……お前、もしかして怪我してるのか?」

 

 そっと抱き上げてみる。小さく真っ黒な瞳はウルウルと揺らぎ、今にも涙を溢しそう。苦しそうに、痛そうに鳴く声は、こちらも胸をキュッと締め付けられてしまう。見れば、子犬の後ろ足には小さな切り傷があった。

 

「大丈夫、あたしが直してやるからなっ!」

 

 そう言って、ニカッと笑うナナ。その笑みは、実に心強い。

 そして取り出したるはデダイヤル。そのモニターから光と共に現れたのは、何やら小さな瓶だ。その蓋を取り、中に人差し指と中指を突っ込む。ヒンヤリとして、それでいてヌルヌルとした液体が、ナナの指に絡まりつく。ともすれば、瓶から指を抜く時はいけない音がしそうだったが、その実そんなことはなかった。

 

「どんな傷も治る、宇宙の万能塗り薬だ。この前買っておいてよかったよ」

 

 そう言って、子犬の足に塗ってやる。念入りに、傷口を覆うように優しく。

 やがて、切り傷は綺麗さっぱり消えてなくなる。子犬は元気を取り戻し、ナナの周りをグルグルと走り出した。まるで、ナナに感謝を伝えているかのように。又は、大地を駆ける喜びを噛み締めているようにも見える。

 

「あははっ、元気になってよかったな!」

 

 再び、ニカッと笑うナナ。

 刹那、視界の端が閃光したことに気付く。それは、ナナと同じ高さにはない。空だ、青空の一点が、眩く閃光したのだ。しかも、真昼の明るさでも分かるほど。

 

「何だ、あれ……?」

 

 空を見上げるナナ。上空から、輝く何かが落ちてくる。まるで、夜空を駆ける流れ星のように尾を引きながら。しかしそれは、また空の彼方へ消えることなく、地面に向かって一直線に落ちてくる。そして—

 

「うわっ……!」

 

 届いたのは、轟音と衝撃波。凄まじい風が、ナナの体を薙ぐ。踏ん張らなければ、容易に飛ばされてしまうだろう。子犬は驚き、どこかへ行ってしまった。

 木々を薙ぎ、校舎さえ揺らすほどの衝撃。やがてそれが止んだ時、ナナは顔を上げる。そして、瞠目する。

 

「……これ、ヤバいんじゃ……?」

 

 遠方、黒く立ち昇る煙。それが、街の方から上がっていた。

 

彩南高校・2年教室

 

 ザワザワとどよめく教室。先程の衝撃を受ければ無理もない。

 

「何、今の……」

 

 思わず呟きを漏らす春菜。その声には、恐怖よりも困惑と動揺が感じられる。

 その時、背後の扉がガラリと開く。そこにいたのは、モモだ。緊迫した面持ちで眉を顰め—

 

「お姉様、今のは……」

「分かんない……。何かが落ちたのかな?」

「見に行った方が良いんじゃないか?」

 

 そう声をかけたのはナナだ。裏庭から二年の教室まで跳躍、窓越しにララとモモを見やる。

 

「結構ヤバめだったぞ」

「そうね。私とナナで行ってきます。お姉様は、ここにいてください。きっと皆さん、混乱していると思いますから」

「分かった、みんなを安心させる役は任せて!二人とも、気を付けてね!」

「はい!」

「あぁ!」

 

 頷いて、モモは教室の窓に飛び出す。ナナと視線を交わし、また跳躍。立ち昇る黒煙へと向かっていく。

 

「大丈夫なのか、ララ?」

 

 やってきたのはリトだ。見るからに心配し、眉を寄せている。ララは、しかしそれに力強く頷いた。

 

「あの二人なら大丈夫!それより、私は二人に任されたことをしなくちゃ!」

 

 ナナとモモ、二人の後ろ姿をララはただ見つめる。その瞳には、全幅の信頼が宿るのだった。

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