Re:ToLoveる~第4世代トランス兵器の俺、デビルーク第2王女に恋をする~ 作:であであ
●結城宅・リビング
「今日から、家の新しい仲間になるイオくんで~す!」
「イオです」
「ちょっと待ってください!」
結城家のリビングに、景気の良い声と、それに待ったをかける声が響く。
彩南の面々―高校を除く—が一堂に会し、新たに加わる仲間を紹介する。が、同じく顔を合わせたヤミがそれに溜息をついた。紹介されたイオは直立不動で、彼を紹介したララはそれにポカン顔だ。
「そんな、転校生が来ましたみたいなノリで言われても困ります……」
「お姉ちゃん、転校生知ってるんだ」
「あなたはどうなんですか、結城リト?美柑の命を狙った彼と一つ屋根の下で過ごすことに、抵抗はないんですか?」
ヤミは多少狼狽えながら、対面に立つリトを指さす。しかし彼は、何てことないという風に頬を掻きながら―
「確かに、それを聞いたときは驚いたけど……。でも、みんながいるから大丈夫かなって」
「楽観的過ぎます……」
「それにしても珍しいよね~。ナナがこんなに頼み込んでくるなんて~」
「そういうこと」
「ちょ……、姉上、それは言うなって~!」
慌てて、微かに頬を赤らめるナナ。そう、イオを紹介したのはララだが、彼を結城家に招き入れることを提案したのはナナだったのだ。
イオは、そんな彼女の反応を横目でチラと見た。
「ヤミ、美柑を助けてくれたんだろ?本当に、ありがとな」
「……全く、お人好しですね」
優しく微笑んでくるリトに、ヤミは思わず視線を逸らした。
ヤミがリトに告白した後も、彼のヤミに対する態度は何ら変わらない。それはヤミにとって、安心材料であるのと同時にもどかしくもあるのだが。
そして、その光景を見てニヤニヤと顔を覗き込んでくるモモとメアを無視して、ヤミは至って平然を装う。
「ですが、彼はどこに寝泊まりするのですか?この家には、もうそれほどの空間はないでしょう。まさか、同じ部屋で寝るとでも?」
「私たちの空間をさらに拡張したから、それは大丈夫だよーっ!」
「なるほど。至れり尽くせりですね」
「もし心配なら、ヤミさんもメアさんも泊まってくれればいいよ!」
「確かに、俺たちもそっちの方が心強いし」
美柑のその提案に、微かに目を見開くヤミ。ふと思案する彼女を差し置いて、メアは表情を綻ばせる。
「やった、お泊りだ~!」
「……そうですね。その方が、不測の事態にも対応できますし」
「じゃあ決まりだな!メア、今夜からは夜更かしだ!」
「うん、ナナちゃん!」
「ヤミさんは、私と一緒に寝ようね!」
「はい、美柑」
ナナと美柑が、それぞれの仲良しペアに寄り添う。彼女らの仲の良さは、言わずもがな健在だ。
そして、リビングを和やかな空気が満たし始めた時、それまで口を噤んでいた—というより、何を話せばよいか分からず黙っていた青年・イオが言葉を発する。
「第4世代トランス兵器、イオだ。改めて世話になる、よろしく」
(第4世代……?)
朴訥に告げ頭を下げるイオに、ヤミは微かに目を細めた。そして、いつかの殺気を幾分か取り戻した声音で―
「あくまでも、あなたの記憶が戻るまでの処置です。彼らの、あなたへの対応を鑑みて感謝を感じているのならそんなことはないと思いますが……。もし下手な行動をすれば、私は今度こそあなたを殺します」
「私も、容赦しないからね~」
トランス兵器姉妹の殺害予告に、しかしイオは表情を崩さず、コクリと頷くだけだった。
その時、ララがパチンッと手をひと叩きして—
「ってことで、イオくんの歓迎パーティを開催したいと思いま~す!」
「今日は腕を奮って、何でも作るよ~!」
「おっ、そりゃ楽しみだ」
「じゃあ、あたし買い出し行って来るよ!あたしが言い出しっぺだからさ」
「ありがと~、ナナ!」
そう言って、ナナは一人駆けだし華やかな空気を後にした。
× × × × ×
玄関を出て、タッタッタと駆け出すナナ。瞬間、目の前にとある人物が現れた。
イオだ。先程まで、家の中にいたはずだが。驚いて足を止めたナナに、彼はまた朴訥に告げた。
「俺も、一緒に行く」
ナナはそれが意外で、刹那返す言葉に戸惑うのだった。
●彩南町・スーパー
「何買えばいいんだろうな~……。ま、美柑が何とかしてくれるだろっ」
そう言って、ナナは手当たり次第に食材を籠に入れていく。いつの間にか、その籠はパンパンに膨れ上がっていた。今後の結城家の財政状況が心配になってしまう。だが、金銭感覚が庶民と異なっているのかいないのか、そんなことは気にせぬ様子。
一方のイオは、食材の並ぶ棚が物珍しいのか、興味深げにジッと見つめている。それに、ナナがフッと微笑んで―
「イオは、何が好きなんだ?何か食べたいものあるか?」
「……食べたことがない」
「え?」
「食事という一連の動作を、今まで行った記憶がない」
「そっか……。ま、ヤミも地球に来た時はそうだったのかな。あたしはあんまり関わりなかったから分からないけど、今もたい焼きばっか食べてるし。メアはメアで、お菓子ばっかりだもんな~。イオも、好きなもの見つけられると良いな!」
そう言って、ナナはニカッと笑う。キラリと光る八重歯に、イオは不思議な感覚が胸に走ったことに気付いた。その正体は分からない。ただの違和感—不具合かもしれない。ただ一つ、彼女の顔を改めて見て、気になったことがあった。
「どうして、俺を助けた」
「え?」
「どうして、俺を庇った。ナナには、何の利点もなかったはずだ。どうして、見ず知らずの俺を……」
真っ直ぐに見つめてイオは問う。その表情は人形のように揺らがず、何を考えているのか分からない。感謝しているのか、それとも余計なお世話だったと糾弾しているのか。
それに、ナナは「ん~」と暫し喉を鳴らしてから—
「そりゃ、目の前で泣いてる人がいたら、誰だって放っておけないだろ?」
「……情けか?」
「っていうか~……、ヤミもモモも—あぁ、あの短いピンク髪のやつな、二人ともあぁ見えて手厳しいからさ。だから、あたしがやらなきゃって思って……、って、これ答えになってるか?」
言い淀みながらも、とりあえず結論を出すナナ。本人も、その問いに対しての的を射る回答は持ち合わせていないようだ。考えるよりも先に、体が反応したと言ったところか。
「優しいんだな、ナナは」
「へへっ、そんなことないって」
無表情且つ朴訥だったが、イオのその声音は先ほどまでよりは幾分か和らいでいた。
それに、ナナは照れたように鼻を擦る。
「何かあったら、あたしに何でも言ってくれていいからな!記憶が戻るまでの短い間かもしれないけど……。あたしは別に、記憶が戻った後もいていいって思ってる。部屋は、姉上に言えばまだまだ作れるし!」
無邪気な笑顔を向けてくるナナ。それに、イオは何と返せばいいのか分からなかった。
× × × × ×
帰り道—既に日は落ち、辺りは暗くなっていた。
道を並んで歩くナナとイオ。その時、イオがふと思い出したように—
「なら、俺の願いを聞いてもらおう」
「イオの願い?」
「記憶が戻るまで、一日……、一つ」
「あたしに出来ることならいいけど」
ナナが了承すると、暫しの沈黙が落ちる。イオは、言い淀んでいるのか。否、彼にそこまでの気遣いはない。彼に、出会ったばかりのナナに対してそれほどの感情もない。故に、淡々と告げる。
「手を繋いでくれ」
「はぁ!?」
突然のカミングアウトに、ナナは赤面する。ナナは、ある程度の知識はあれど、そういうことについては疎いのだ。
「いぃ、いきなり何言ってんだ!?」
「ナナ、俺はお前が気に入った。だからこれは、友好の証だ」
そう言って、イオはスッと手を差し出す。
「……そういう、ことか。何か上からだな~、別にいいけど」
照れ隠しか、フイとそっぽを向きながら、ナナは差し出されたイオの手を取る。イオの大きな手に、ナナの小さな手が包まれる。この部分だけを切り取ってみれば、親子のように見えなくもない。
それから、そのまま暫く歩いて、再びイオが思い出したかのように口を開く。
「金色の闇、と言ったか」
「あぁ、ヤミ?」
「随分と、目の敵にされているようだが……。俺は、お前らに何かしたのか?」
「……覚えてないのか?あたしたちと戦ったこと」
「あぁ、何も。俺が覚えているのは、俺の名前と、この力のことだけだ……」
イオの問いかけに、ナナは幾分か驚きを示す。しかし、彼の表情に嘘をついているような色はない。ただ静かに、繋いでいない方の掌を見つめている。
ナナは、暫し沈黙した。何と言えばいいのか、考えた。そして、現時点においての結論を出したナナは笑顔を作って―
「覚えてないなら、思い出さなくていいよ。それより、みんなで何食べるか考えようぜ」
「……それも、役に立てそうにないがな」
●結城宅・リビング
イオの歓迎パーティは、滞りなく進んだ。ナナとイオが家に着いた時、部屋は豪華な飾りつけがなされていた。それを見て、微かに目を見開いたイオが印象的だ。ナナも、何だか自分が歓迎されているみたいだ、と笑っていた。
料理担当は美柑とヤミ、そしてナナとメアだ。時折、トランスを駆使して料理をする二人を見て、イオは不思議な気持ちになった。殺す以外の有用性は認められたが、果たしてそれでいいのか、と。
そして、座卓に並べられた豪勢な料理をみんなで頬張る。和気藹々とした雰囲気の中、イオは初めて食事という行為を行った。それは、周りの空気も相まって心地よいものだった。料理も、自分の口に合った。
この会を以って、イオは結城家に馴染めたと、傍から見ればそんな感じがするのだった。
●結城宅・脱衣所
歓迎パーティが一段落してから二時間後。ガヤガヤとした雰囲気が落ち着いた中、脱衣所にやってくる少女が二人。
一人は、ピンク髪のツインテールを解き、ブラジャーを外す。いつか大きくなるであろうそれに想いを馳せながら、今日もそっと撫でてやる。
もう一人は、長い赤髪の三つ編みを解き、パンツを下ろす。そのロングヘアの三つ編みは、毎度どのようにセットしているのか気になってしまう。いつか、その光景を見てみたいものだ。
女の子の甘い香りをいっぱいに漂わせながら、浴室の扉をガチャリと開ける。すると、既に浴室に入っていた二人の青年と目が合ってしまった。
「ナナ……!と、メア……!」
「あれ~、リト先輩だ~」
「な、何でお前が入ってんだよ!」
頬を赤らめ、体に巻いたバスタオルをさらにグイッと巻き上げるナナ。それを見て、リトは自分の失態を思い出す。
(そういや、使用中の札つけるの忘れてた……!)
しかし、ナナの意識が向いたのはもう一人の青年の方だ。湯船の中、お湯に浸かりながらこちらを凝視するイオの姿があった。
(イ、イオに、いきなりこんな……!しかも、さっき手も繋いじゃったし……!あれ、今思うと結構恥ずかしい……!)
何度も見られているリトならいいのか、なんて疑問は無粋だ。ただ、ナナにとって今の状況は、これまでのイオとの関りを考慮して、目を覆いたくなるほどのものなのだ。しかし直後、肌に感じた違和感でナナは目を開く。
「イ、 イオ、どうした!?」
見れば、湯船に浸かるイオはその鼻から大量の血を流して失神していた。真っ赤に染まったお湯の中に沈んでいくその様は、まさに地獄絵図。さながら、溶岩に沈んでいく未来のアンドロイドを思い出す—今の彼に、親指を立てる余裕はないようだが。
そして、そんなイオを見たメアは、興味深げに彼の特徴にこう結論付けた。
「ハレンチ耐性、無っ!」