Re:ToLoveる~第4世代トランス兵器の俺、デビルーク第2王女に恋をする~   作:であであ

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第7話 Hand in Hand~感じてたくて~

●彩南高校・2年廊下

 

「段ボール足りなくなったんだけど、誰か貰いに行ける人いる~?」

「コーヒー一杯700円って、ぼったくりじゃね?」

「後夜祭、お前も出るべ?」

 

 今日の彩南高校は、いつもより騒がしい。否、今日だけではない。ここ最近、ずっとだ。

 文化祭当日を明日に控えた彩南高校は、その全体が活気に満ちていた。既に準備はラストスパート、校門に掲げられた『彩南祭』のアーチがそれを物語っている。

 

「ついこの前体育祭終わったばっかりなのに、あっと言う間だね~」

「なんか、久しぶりな感じがする」

 

 廊下で、その熱量の高さを俯瞰しているのはララと春菜だ。もちろん、彼女らも当事者ではあるのだが。

 それに、2人の間に立つリトが軽く頭を掻きながら―

 

「ハーレム計画やらダークネス計画やらで、それどころじゃなかったからな~……」

「あはは、確かに……」

 

 ともすればこれは、幾多の苦難を乗り越えてきたリトたちへの、細やかな褒美とは言えないだろうか。

 とその時、教室からララを呼ぶ声が響く。

 

「ララちゃ~ん!壁にポスター貼りたいから、あのくっつく発明品貸して~!」

「はいは~い!」

 

 快く返事し、トテトテと教室に駆け入るララ。

 その女子生徒が口にした『くっつく発明品』という文言に些かの不安を覚えたリトだったが、春菜の横顔を見ることでそれを消し去る。

 

「俺たちも、準備再会しよっか」

「うん、そうだね」

 

 きっとただの勘違いだと自分に言い聞かせ、リトと春菜の2人はララの後を追うように教室に入っていった。

 

●彩南高校・1年教室

 

「ナナちゃ~ん、椅子が少し足りないんだけど~」

「3階の空き教室に少し余ってたから、そこから持って来てくれ~!」

「ナナちゃ~ん、テーブルの配置これでいいか見て~」

「あ~、そっちの机もう少し右に寄せられるか?」

 

 ナナちゃん、ナナちゃん、ナナちゃん、ナナちゃん—名を呼ばれるたびに、右へ左へ東奔西走。時には1階から3階まで階段ダッシュ。今の時期の彩南高校校内で、一番振り回されているのはナナである、と言っても過言ではない。

 そんな彼女を、イオは目で追っている。何故なら、先ほど話しかけた時、忙しさを理由に後回しにされたからだ。故に、今のイオには忙しなく駆け回るナナを目で追うことしか出来ない。見る人によってその速度は、戦闘時のイオの速度をも上回っていただろう。

 

「イオさん、手が止まっていますよ?」

 

 隣でテーブルクロスを整えるモモが、イオの視線に気づいて薄く微笑む。

 

「ナナは、何をしているのだ?」

「仕方ないじゃん。ナナちゃん、クラスの出し物代表に選ばれちゃったんだもん」

 

 そう言って、不愉快そうに頬を膨らませるのはメアだ。彼女の言う通り、クラスでの出し物を決める際、その一切を仕切る係にナナが選ばれてしまった。ナナは本意ではなく、その過程自体はちょっとした事故ではあるのだが、大したことではないので割愛する。とにかく、それが今のナナの多忙さの原因なのだ。

 その事実に、メアがまたしてもボヤく。

 

「私だって、最近ナナちゃんと帰れてないんだから……」

「今は同じ家に住んでいるだろう」

「そう言う問題じゃないの!」

「張り切っていますね、プリンセス・ナナ」

「えぇ、実は本人も楽しんでいますから」

「でもさ、クラスの出し物だけであんなに忙しいって、おかしくない?」

「確かに、いくら何でも多忙すぎるような気がします……」

「実は、風紀委員の出し物の代表とも被っているみたいで、それで余計に忙しいみたいですよ」

「風紀委員……、何をするのだ?」

「校内で起きたハレンチ事件を、数値化して廊下の壁に張り出すとか……」

「それは……、面白いのか……?」

 

 まだ広く物事を知らないイオでさえも戸惑うほどには、それの文化祭における存在価値には疑問が残る。ハレンチした側はもちろんのこと、された側も当時を思い出して不快な気持ちになること請け合いだ。風紀委員中で、誰かこれを止める人物はいなかったのだろうか。

 しかしヤミは、それに意外にも好色を示し―

 

「結城リトの悪行を白日の下に晒す良い機会ですね。ついでに、あの校長も……」

 

 珍しく表情の動くヤミ。しかし聞き耳半分のイオは、未だにナナを目で追っている。

 やがて、ナナが教室を出て行ったのを見てイオも歩き出した。

 

「イオさん、どこへ?」

「……トイレだ」

 

 そう言って、1人教室を出て行くイオ。トイレがある方向とは逆に曲がった彼に、しかしモモはあえて何も言うことなく、密やかな微笑を浮かべるのだった。

 

●彩南高校・1年廊下

 

 事実、イオはトイレなどには向かわずナナの元へ何の躊躇いもなく歩いて行った。

 そうして見えたのは、ナナの後ろ姿だ。椅子に乗り、背伸びをしてポスターやら装飾やらを付けている。手元の謎の機械が放つ微弱な電気が、紙と壁とをくっつける糊の役割を果たすというお手軽仕様だ。恐らく、ララの発明品の1つだろう。

 などとぼんやり考えていると、ふいにナナが振り返る。イオにではない、足元のポスターを取ろうとしてだ。振り返り際、ヒラリと舞ったスカートから絶対領域の裏側をチラと覗かせながら、イオに気付いたナナが声をかけてくる。

 

「イオー、ちょっとそこのポスター取ってくれー」

 

 ナナが指すのは、足元に置かれたA4サイズのポスター—彩南祭の宣伝用。

 特に文句もなく—むしろ出自の分からない微かな胸の高まりを感じながら、イオがナナにポスターを手渡す。ナナは、発明品を持った方の手で、それを受取ろうとする。

 そして、ビリッ—

 

× × × × ×

 

「なんか、物凄いデジャヴを感じる……」

「まさか、あの不快な記憶を思い出すことになるとは……」

 

 戸惑いに眉を上げるリトと、不愉快に眉を下げるヤミ。その2人の視線の先にいるのは、紛れもなくイオとナナだ—互いの右手と左手がくっついてしまってはいるが。

 ギュッと恋人つなぎをする形になっており、いくら引っ張っても離れない。なぜ紙切れを手渡そうとしてこのつなぎ方になったのかは甚だ疑問ではあるが、そこは御愛嬌ということで不覚は触れないでおく。

 

「『ピタピタくっつくん』を使う時は気を付けなきゃだめだよ、ナナ~」

「うぅ、完全にあたしのせいだ……。ごめんな、イオ。あたしが、ポスター取ってなんて言わなかったら……」

 

 反省した子犬のように、目を潤ませながらイオを見上げるナナ。それを見ると、とても彼女を責めるような気はイオには起きなかった。否、元よりナナを責める考えなど、イオは持ち合わせていない。むしろ、この状況に心が満たされるという不可解な感覚を覚えているくらいだ。先程までの、空虚な胸の内が嘘の様である。

 ただ1つ気掛かりなのは、先程からメアの殺気をヒシヒシと感じることだ。まるで、自分がナナとそうなりたいとでも言うかのように—きっとそうなのだろう。

 

「取り敢えず、今日は帰ったら?そんな状態じゃ、準備も出来ないでしょ?」

「……確かに。でも……」

 

 モモの真っ当な提案に、しかしナナは不安げに目を伏せる。

 その時、廊下の向こうからナナを呼ぶ声が聞こえてきた。クラスメイトの女子の1人が、切羽詰まった様子でこちらに走ってくる。

 

「ナナちゃ~ん!」

「どうしたんだ、慌てて?」

「さっき先生に、うちのクラスのテーブルクロスを全部交換しろって言われちゃったの!」

「テ、テーブルクロスを!?」

「あのハートいっぱいの柄がエッチすぎて、教育に悪いって……」

「どんなの使ってるんだ……」

「え~、私は普通だと思うけどな~」

「それを指摘する教師も教師ですね……」

 

 総ツッコみを入れるリトたちに対して、その報告を受けたナナの表情は途端に陰りを見せる。

 

「どうしよう、今から全席分のテーブルクロスを揃えるって……。通販じゃ、明日に間に合わないし……」

 

 不安げに眉を下げるナナ。さらに、トドメを刺すかのように鳴り響いた最終下校時刻を告げるチャイムが、ナナの不安と焦りを加速させる。

 その直後、しかしイオは特に躊躇いもなく、そして平然とこう口にした。

 

「俺も手伝う」

「……え?」

「俺も、ナナを手伝う。いつもの礼だ」

「イオ……!」

 

 ふと表情を綻ばせるナナを見て、イオもふいに心が軽くなるのを感じた。

 

「何をする?どこに行けば良い?」

「……今から行ける、インテリアショップってどこに—」

「分かった」

 

 最低限の情報量で—ナナ自身も結論が出ていないまま、しかしイオは了承の意を示した。

 刹那、イオとナナの姿が消える。寸前まで2人がいた空間はいびつに歪み、微かなエネルギーの残滓を迸らせている。

 

「え、消えた……!?」

「あれ~、2人ともどこ行ったの~?」

 

 驚き声を上げるリトと、思わず辺りを見回すララ。ヤミとメア、そしてモモの3人は、この光景—能力と言ったほうが良いか—に心当たりを覚え目を細める。

 そして、僅か10秒も経たぬ間に、今度は教室の方から叫び声が聞こえてきた。

 リトたちが急いで駆け付けると、そこにはイオとナナの姿があった。

 

「え……、あ、どうなってるんだ……?」

 

 平然と佇むイオの隣で、ナナ自身も何が起きたのか理解できていないようだ。しかし、そんなナナの腕には、洒落たテーブルクロスが抱えられている。つまり、この僅かな時間で2人は店まで行ってテーブルクロスを購入し、そしてここに戻ってきたということになる。

 

「時間がない。貸せ、ナナ」

「え?あ、あぁ……」

 

 そう言って、イオはナナからテーブルクロスを受け取る。

 直後、白銀に輝く自身の短髪を展開。無数の毛の束がテーブルクロスを掴み、そして丁寧にテーブルにかける。そこには、一点の汚れも皺もない。

 その後、クラスの賞賛の中、改めて教師からの許可も貰い、こうして文化祭前日の最終準備を無事に終えることができたのであった。

 

●結城宅・ナナの部屋

 

 夜も更け、文化祭当日を残り数十時間後に控えた頃、イオとナナは同じベッドに身を寄せていた。未だ、ララの発明品の効力が切れないので、こればかりは致し方ない。

 

「でも、リトとヤミが色々教えてくれたから、あんまり苦労しなくて済んだな」

「まさか、前例があったとは思わなかったがな」

「あはは、あの時は2人とも大変そうだったからな~」

 

 リトとヤミという先駆者の教えのおかげで、イオとナナは帰宅してからも、極力普段と変わらない日常を送ることができた。

 トイレや風呂の時は、またイオが鼻血を噴き出して気絶するという懸念があったが、それを自覚しているイオが自分の顔面を髪の毛で縛っているのが印象的だった。

 カチカチと時計の針が時を刻む中、感慨に耽るようにナナがしんみりと—

 

「明日は文化祭か~。メイド喫茶、楽しみだな」

「……俺も、楽しみだ。メイド喫茶が何かは分からないが」

「今日は手伝ってくれてありがとな。まさか、あんな短時間で会計まで済ませちゃうんだもんな~」

「いや、そこまではしていない」

「……え?」

「商品を持ってきただけだ。金は払っていない」

 平然とそう口にするイオに、ナナはもはや頭を抱えるほかない。

 

「明日、ちゃんと会計してこなくちゃ……」

「……ナナ。1つ、頼みがある」

「ん?あぁ、最近忙しくて聞けてなかったからな。3つくらいなら、聞いてやるぞ?」

「……いや、1つで構わない」

「そっか?イオって案外欲深k―」

 

 そう言いかけたナナの体が、グイと引き寄せられる。硬くて心強い、それでいて暖かくて心地の良い感覚に、全身を包まれる。後頭部を優しく撫でるその手付きには、思わず眠気を誘われる。

 しかし、今のナナの脳内は戸惑いばかりでそれどころではなかった。

 

「な、なな、何してんだ……!?」

「しばらく、こうさせてくれ……。それだけでいい」

「それだけって、こんな……!」

 

 ナナの体を優しく抱きしめるイオ。2人の身長差的に、ナナの顔がイオの胸辺りに来て、抱き心地としても丁度いい。

 最初は狼狽して顔を熱くさせていたナナも、時間が経つにつれて落ち着きを取り戻す。抱かれる覚悟が出来た、とも言えるかもしれない。

 ふいに、イオが繋がれているナナの手をギュッと握って―

 

「……心地良い」

「え?」

「ナナを感じる……、心が満たされていく。今まで冷たかった胸の奥から、ほのかに熱が昇ってくるんだ……。不思議な感覚だが、悪い気はしない」

 

 イオの低く落ち着いた声音が、ナナの鼓膜にスッと入り込んでくる。

 ナナは、そのイオの言葉に「それって—」と言いかけたが、すぐに唇を噤みイオの背中に腕を回し返してみる。彼女が、その小さな胸の内で何を思っているのか、今はまだ分からないまま。

 こうして、互いに抱き合いながら眠った2人の手は、明け方には離れ離れになっているのだった。

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