ヘタレでいくじなしで、そして覚悟なし
言った直後にビビる男です。
そんな小林と女神の会話を見てみましょう。
閑話 覚悟を決めろ小林雄一
「これからユウと呼んでいい?」
いきなりルビが話してきた。現在、午後20時くらい、そして、民宿の俺の部屋である……勘弁してほしい。
なぜ、まだこの民宿から旅立ってないかと言うと、ここを一時の拠点としたからである。
旅をすると言っても、渡り鳥みたいに街を転々とするわけではない。とりあえずマッピングをしながら、街周辺を改めて調査しつつ……戦闘経験を重ねながら行動範囲を広げようと言う事になった。そこで、その拠点をこの民宿にしているというわけである。
しかし、この家の家主は遠慮がなくなりつつある。こうやって俺の部屋に上がり込んでは話をしにくるのだ。どうやら「コミュニケーション」をとるためらしい。
……正直やめてほしい。俺にとってパーソナルスペースは大事だ。1人の時間を大切にする俺は、その時間を妨害される事にものすごく嫌悪感をもつ。
「呼び名ですか?なんでもいいですよ。ユウでも」
なげやりなその答えに満足できないルビはさらに詰め寄る。頼むからその顔を近づけないでほしい。
「だ、か、ら!その敬語をやめてくれって言ってんの!」
また言い出した……なんであって数日の女性に馴れ馴れしく話ができるのだろうか。そんなの非常識だろ。……非常識だよな?
「これは時間と共に、そうだな、慣れたら砕けますよ。だから、それまで我慢してと何度も言ってるじゃないですか!」
「私は今すぐ砕けてほしいの!戦闘の生死をわける中で、敬語なんて無駄になるよ!」
……なるほど?そう言う理由なのか……それなら納得する。言葉が少なく済めばそれは効率がいいもんな。
「わかっ……た、なるべく善処しま……する」
そう応えるのがやっとだった。
もう、お気づきですか?
女性とそんなに砕けて話せるわけないだろぉぉぉ!
しかも美人!美女!俺とは住む世界が違う(実際違ったし)。お付き合いなんて……こんなにドギマギするんだからきっとしなかったのだろう。記憶にない自分よ!なぜ付き合わなかった!
おれは自問自答していると、ルビが首を傾げて話を続ける。目の前でそんな仕草をしないでほしい。俺の精神力はとはやゼロに近づいている。
「とりあえず、私はルビってよんでね?様はいらないから、もちろん「さん」もいらないから」
……マジか、また難問を……
「さあ、呼んでみて?」
しかも、今すぐとご所望する目の前の美女に、顔に全身の血液が上がってくる思いをしながら、絞り出すように呼んでみると
「……ルビ……」
その時、満足したのかルビは微笑んでいた。その笑顔を見た時、時間が止まった気持ちになる。女神だからか、その美貌からか、視線の全てを持って行かれたような気持ちになった。すごく、胸の奥におもりがついて、その笑顔を縛りつけてるようにずーーんと居座った。
「……ユウ?どうしたの?」
あまりに俺がルビを見続けたからか、ルビが語りかける。その顔は……俺の記憶、と言うか、そんなに覚えていることはないのだが、少なくとも……今は心のど真ん中にいる。
「いや………………なん……でもない」
なんだ、こんな気持ちにどんな名前がつくのだ。
小林雄一の呼び名なんて、二の次だ……この苦しい気持ちは何なんだ。
「ともかく、明日は装備を整えなきゃね。ユウは武道してたんだよね?剣道を生かす?合気道?」
そうか、明日は装備を購入しにお出かけすると言うのか……そうだな、
「刀……なんてあるかな?」
それは剣道をしている男の子なら、一度は夢見るものだ。真剣でやってみたい。
「……それって日本の剣だよね?わからないけど、明日鍛冶屋で聞いてみよっか」
まあ、そうなるよな。日本特有なんだから、あるわけがない。しかし……武器か、本当に命のやり取りをするのだな。緊張してきた。
「危険な事がたくさんあるけど、私もいるからね!」
俺が言うべきセリフをルビに言われた。ほんと……ヘタレで、小心者で、度胸もない俺に……この女神を救う事ができるのだろうか。
「ルビ……あの、もし、めちゃくちゃ強い人が現れたら、その人を頼ってくれ……俺は役不足だよ」
そこまで言い切ると……ルビはその両手で俺の頬を挟んだ。
「!?!?!?」
何が起こった?なんでこんなことになっている?
「あのね、ユウ。あなたは私のためにその命、運命を使ってくれると言ったよね?」
確かに言った……それには間違いはない。
「その言葉だけで、嬉しいんだよ??きっとユウは大丈夫。大丈夫だから……」
一呼吸おいてルビは言葉を絞り出した。
「世界ではなくて、私を救ってくださいね?」
その時、目の前にいる人は女神と認識できた。今まで、逃げてきた自分はどこへやら……俺はいつのまにか
「すまない。わかった。ルビを救う」
また柄にでもない言葉をルビの手で頬を覆われたまま語っていた。
ユウよ
それを人は恋というのではないだろうか。
ヘタレには難問みたいですね。