妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回は練習試合編、「その背中を追う視線」です。

先鋒・和樹と大将・清治。
あえて“真逆の戦い方”で描いてみました。

・圧で動きを封じる剣
・崩れない型で押し切る剣

同じ「強さ」でも、見え方や感じ方が変わるように意識しています。

そしてもう一つ。
今回は“戦っている側”だけではなく、
それを見ている側──五つ子たちの視線や心の動きも大事に書いています。

この試合を通して、それぞれが何を感じたのか。
そこも一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ。




10.その背中を追う視線

「ん?戻ったか和樹」

 

ちょうど練習を終え、タオルで汗を拭っている清治に声をかけられた。

 

「お疲れさん。気合い入ってんじゃないの?」

 

僕が右拳を差し出すと、清治もそれに応え右拳を当ててきた。

 

「三年の先輩が引退しての初めての練習試合でもあるからな。それにお前の前で至らないところを見せられんしな」

「いちいち大袈裟な……あ、恒一さんが見にきてるよ」

「何!?」

 

清々しい顔で真っ正面から言われれば照れるものだ。

その照れを悟られない様に、外に恒一さんが来ていると話題を逸らした。

 

「政樹が呼んだんだってさ」

「全くあいつときたら……」

 

清治は呆れたようにため息をつくが、その口元はわずかに緩んでいる。

 

「とはいえ、見られる以上は下手な試合はできんな」

「別に見られてなくてもやることは同じでしょ?」

「それはそうだがな」

 

タオルを肩に掛け直しながら、清治は軽く首を回す。

骨の鳴る音が、小さく響いた。

 

「……調子はどう?」

「悪くない。むしろ良いくらいだ」

 

短い返答。

だが、その一言に迷いはない。

 

「そっちは?」

「同じくだね。今日は体が軽いよ」

 

そう言って、軽く竹刀を握り直す。

握りの感覚を確かめるように、ゆっくりと振る。

ヒュン、と空気を裂く音。

 

「……やっぱり違うな」

 

ぽつりと清治が呟く。

 

「何が?」

「お前の振りだ。無駄が無いというか……余計なものが削ぎ落とされている」

 

真っ直ぐな視線。

評価ではなく、純粋な感想。

 

「剣道っていうより、やっぱり“実戦”だな」

「まあ、そういうのしかやってこなかったからね」

 

軽く肩をすくめる。

 

「でも、清治の剣道も十分通用するでしょ」

「当然だ」

 

即答だった。

 

「剣道には剣道の強さがある。型があるからこそ、崩れない強さがある」

「なるほどね」

 

考え方の違い。

だが、それを否定する気はお互いにない。

 

「……どっちが上か、って話でもないしね」

「そういうことだ」

 

一瞬、静かな間が生まれる。

 

道場の中では、まだ部員たちの掛け声が響いている。

竹刀のぶつかる音。

足さばきの音。

息遣い。

その全てが、試合前の空気を作っていた。

 

「和樹」

 

清治が、少しだけ真剣な声で呼ぶ。

 

「ん?」

「今日は……勝つぞ」

 

それは確認ではない。

宣言だった。

 

「当たり前だろ」

 

それに対して、即答する。

 

「負けるつもりで来てないし」

「ふっ……違いない」

 

清治は小さく笑う。

 

「それに」

 

僕は視線を外へ向ける。

五つ子たち。

政樹。

風太郎。

聖奈。

らいはちゃん。

そして──恒一さん。

 

「見に来てくれてる人達もいるしね」

「……ああ」

 

清治も同じ方向を見る。

 

「期待に応えないわけにはいかん」

「別に応える必要もないと思うけどね」

 

軽く言う。

 

「自分のやることやるだけでしょ」

「……それが一番難しいのだがな」

 

ぽつりと漏らす。

 

「まあね」

 

短く返す。

 

「でも、お前ならできるだろ」

「お前もね」

 

視線が交わる。

言葉はそれ以上いらない。

 

「さて──」

 

僕は軽く腕を回す。

 

「そろそろ時間だね」

「準備するか」

 

清治も竹刀を持ち直す。

その時──

 

「おーい!兄貴ー!」

 

外から政樹の声が響く。

 

「もうすぐ始まるってよ!」

「了解」

 

軽く手を上げて応える。

 

「……騒がしい応援団だな」

「嫌いじゃないだろ?」

「……まあね」

 

少しだけ、口元が緩む。

 

「じゃ、行くか」

「ああ」

 

二人並んで歩き出す。

床板を踏む音が、規則正しく響く。

一歩。

また一歩。

道場の中央へと向かうその足取りに、迷いはない。

その背中を──

いくつもの視線が追っていた。

 

・・・・・

 

「それでは──これより、練習試合を開始する!」

 

審判の声が、道場に響き渡る。

 

ざわり──

 

それまでざわついていた空気が、一瞬で引き締まった。

 

「関係者以外、畳の上には入らないように!」

 

試合前の注意が飛ぶ。

武道場の外周。

木の床の観覧スペースへと、応援の生徒達が下がっていく。

五つ子や政樹達も、その流れに従って端へと移動していた。

 

「ここから見るんですね……」

「ちょっと遠いけど……よく見える」

 

五月と三玖が、試合場へ視線を向ける。

 

「先鋒戦、両者前へ」

 

その声に応じて、一歩踏み出す。

床を踏む音が、やけに大きく響いた気がした。

 

……先鋒か。

 

悪くない。

むしろ、都合がいい。

軽く竹刀を握り直し、定位置へと歩み出る。

対する相手も前に出てくる。

体格は平均的。

構えも、特別崩れているわけではない。

……だが。

 

──止まったね。

 

間合いに入る直前。

相手の足が、わずかに止まった。

 

「始め!」

 

審判の声。

同時に──

 

スッ……

 

僕は竹刀を下げた。

 

「……え?」

 

小さく、相手の声が漏れる。

下段。

通常の剣道ではあまり見ない構え。

竹刀の切っ先を低く落とし、相手の中心を制する形。

その構えを見た瞬間──

 

「な、なんだあれ……」

「下段……?」

「先鋒であの構えかよ……」

 

観覧スペースからざわめきが広がる。

 

「……来ない」

 

三玖が、小さく呟く。

 

「え……?」

 

五月がその横で目を瞬かせる。

だが──

一番反応しているのは、目の前の相手だ。

 

来ない。

 

間合いは、既に入っている。

普通なら、踏み込んでくる距離。

仕掛けてもおかしくない。

なのに──

 

踏み込めない、か。

 

相手の喉が、小さく動く。

 

「……っ」

 

一歩、出そうとして──止まる。

 

「なんで行かないのよ……!」

 

二乃が思わず声を漏らす。

 

「……圧だね」

 

一花が、少し真面目なトーンで呟いた。

 

「空気、変わってるもん」

 

理由は分かっている。

圧だ。

構えでも、技でもない。

もっと単純な──“気配”。

 

見えてる。

 

相手の呼吸。

重心の揺れ。

踏み込みの予兆。

全部、分かる。

だから──

動く前に、止められる。

 

「くっ……!」

 

相手が、声を上げる。

だが、その足は前に出ない。

 

どうする?

 

こちらから動くこともできる。

だが──

 

まだいい。

 

一歩も動かず、ただ構える。

それだけで、相手の選択肢を削っていく。

 

「……なんだよ、あれ」

 

観覧スペースのどこかで、誰かが呟いた。

その言葉が、妙に的を射ていた。

そう。

これは“構え”じゃない。

“待ち”でもない。

 

……詰みだよ。

 

相手が、動く前から。

勝負は、もう半分終わっている。

 

「──っ!!」

 

耐えきれなくなった相手が、踏み込む。

その瞬間──

 

遅い。

 

視界が、静かに狭まる。

世界が、少しだけ遅くなる。

 

「はぁっ!!」

 

振り下ろされる竹刀。

その瞬間──

 

「来た……!」

 

四葉が思わず前のめりになる。

 

「でも……遅い……」

 

聖奈が、小さく呟いた。

一歩──半歩。

ほんのわずかに体を外す。

 

「え──?」

 

相手の視界から、僕の姿が“ズレる”。

そのまま──

踏み込む。

 

ドンッ!!

 

床を強く踏み抜いた音が、道場に響く。

 

「……速っ!?」

 

一花が目を見開く。

 

「入った……!」

 

五月が息を呑む。

低く構えていた竹刀が、一瞬で跳ね上がる。

下段から──

一直線。

 

「──面ッ!!」

 

パァンッ!!

 

乾いた音が、道場中に響き渡る。

 

「一本!」

 

審判の旗が、鋭く上がる。

 

ざわっ──

 

観覧スペースが一気にどよめく。

 

「はぁ!?もう終わり!?」

「なに今の……!」

 

二乃と一花が同時に声を上げる。

 

「……見えなかった……」

 

三玖がぽつりと呟く。

 

「す、すごいです……!一瞬でした……!」

 

五月が思わず前に出そうになり──

 

「五月、線から出るな」

 

風太郎に軽く止められる。

 

「あっ……す、すみません……」

 

慌てて下がる五月。

 

「やっぱ兄貴やべぇって!!」

 

政樹が大声で叫ぶ。

その横で──

 

「……理に適ってる」

 

風太郎が小さく呟く。

 

「無駄がない。最短だ」

 

その分析に、聖奈が小さく頷いた。

 

「ええ。相手に“選ばせた”上で刈り取りましたね」

 

一方──

少し離れた位置。

観覧側から試合を見ていた恒一が、口元を緩める。

 

「ちっ……やっぱりな。だから言っただろ。いい教材だって」

 

その言葉に、後ろの部下二人は完全に見入っていた。

 

「い、今の……何が起きたんですか……」

「踏み込んだ瞬間に……もう終わってたような……」

 

恒一は軽く肩をすくめる。

 

「“遅れた”んだよ」

 

短く、それだけ言う。

 

「動いた時点で負けてたってことだ」

 

──試合場。

その後も同じ様な展開でまた一本取る──

 

「……ありがとうございました」

 

相手が呆然としたまま頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

こちらも軽く礼を返す。

そのまま場外へ戻ると──

 

「兄貴!!今のやばすぎるって!!」

 

観覧側から政樹が叫ぶ。

 

「うるさいって」

 

軽く手を振る。

 

「……カズキ」

 

三玖が少し前に出て、小さく声をかける。

 

「……すごかった」

 

その一言。

 

「ありがとうございます!本当に見事でした!」

 

五月も続く。

少し距離はある。

だが、その分──

視線と声が、まっすぐ届いていた。

 

次鋒、中堅、副将と続くが──

 

「……最後は清治だな」

 

視線を試合場へ向ける。

 

「……先鋒であれか」

 

恒一が小さく呟く。

 

「最後、どうなるか見もんだな」

 

そんな声が僕にも小さく届いていた。

 

・・・・・

 

その後、次鋒、中堅、副将と試合は進んでいった。

 

こちらの部員達も善戦はした。

だが、相手校も流石に練習試合を組むだけの実力はあり、簡単には勝たせてはくれない。

 

一本を取り、取り返され、また粘る。

そんな拮抗した流れが続き、気付けば勝負は大将戦に委ねられる形になっていた。

 

「思ったより、競ってるわね」

「ええ。でも……それでいいんだと思います」

 

二乃の呟きに、聖奈が静かに頷く。

 

「兄さん一人が強くても、団体戦は勝てません。だからこそ、大将まで繋げた意味があります」

「なるほどねぇ~……」

 

一花が感心したように息を漏らす。

 

「じゃあ、その最後を決めるのがキヨハル君ってことだ」

「はい……まさに大将って感じです」

 

五月が胸の前で手を組みながら、少し緊張した様子で試合場を見つめる。

そこに立っていたのは、既に竹刀を握り、静かに相手を待つ清治の姿だった。

 

「……カズキと、全然違う」

「ですね」

 

三玖の言葉に、聖奈も小さく頷く。

 

和樹の剣が“獣”なら、清治の剣は“城”だ。

正面から見れば隙が無い。

動けば形が崩れそうに見えて、その実、どこにも綻びがない。

 

「大将戦、両者前へ!」

 

審判の声が響く。

清治が一歩、前へ出る。

その足運びは静かだ。

和樹のような、見る者の心臓を掴むような異様さはない。

だが──その代わりに、見ているだけで“隙が無い”と分かる安定感があった。

対する相手も、大将らしく堂々としている。

長身。しっかりとした足腰。構えも深い。

ここまで勝負を繋いできた男だけあって、顔つきに弱さは見えない。

 

「始め!」

 

両者が同時に動く。

清治は正眼。

教科書のように真っ直ぐな構え。

だが、その真っ直ぐさが妙に重い。

 

「わ……」

「なんか……空気違わない?」

 

四葉と一花が思わず声を漏らす。

 

「兄さんの時は、怖くて動けない感じでしたが……」

「今度は、動いても崩せなさそうですね」

 

五月と聖奈の言葉が、的確に状況を表していた。

そう。

和樹の剣が“踏み込ませない”のに対して、清治の剣は“踏み込んでも届かない”のだ。

相手が小さく竹刀を揺らす。

誘いをかけているのだろう。

だが、清治は一切それに乗らない。

 

「動かない……?」

「ううん、違うね」

 

一花の言葉を、僕が小さく否定する。

 

「清治は、動いてないんじゃない。動く必要がないんだよ」

 

ほんのわずかな重心移動。

竹刀の先の揺れ。

前足への圧。

それだけで、相手の攻め筋を潰している。

 

「なるほどな……」

 

恒一が、今度ははっきりと感心したように呟いた。

 

「先鋒があれで、大将がこれか。すげぇな、この学校……」

 

部下の一人が、息を呑みながら言う。

 

「タイプが真逆だ」

 

もう一人も、目を離せない様子で続けた。

 

「でも、どっちも前に出にくい」

 

その通りだった。

 

「……行け」

 

相手校の応援席から声が飛ぶ。

それを受け、相手の大将が一気に踏み込んだ。

鋭い面。

だが──

 

パシィッ!!

 

清治の竹刀が、真正面からそれを受け止める。

 

「おおっ!」

「止めた……!」

 

四葉と五月が同時に声を上げる。

だが、驚くのはまだ早い。

受けたのではない。

制したのだ。

竹刀を合わせたまま、清治が半歩前へ出る。

圧が増す。

 

「っ……!」

 

相手の顔が歪む。

鍔迫り合いに持ち込みたいわけではない。

押し込まれたくない。

だが、下がればその瞬間に主導権を失う。

迷い。

その一瞬を──清治は逃さない。

 

「──面ッ!!」

 

鋭い一閃。

 

パァンッ!!

 

乾いた音が、道場の空気を切り裂いた。

 

「一本!」

 

旗が上がる。

 

「入ったぁ!!」

「キヨハル君すごっ!!」

 

一花と四葉が立ち上がりかける。

 

「まだだよ」

「うん……一本だけ」

 

三玖が小さく言う。

 

その通りだ。

一本は一本。だが、勝負はまだ終わっていない。

相手も大将。

ここで折れるような男ではない。

 

「……ありがとうございました」

 

仕切り直し。

再開後、相手は明らかに攻め方を変えてきた。

面ではなく胴。

いや、それも囮か。

崩しを入れて、清治の真っ直ぐさを乱そうとしている。

 

「今度は、細かく揺さぶってきますね」

「ええ。ですが……」

 

五月の言葉に聖奈がそこで言葉を切る。

 

「通じないでしょうね」

 

その一言の直後だった。

相手がフェイントを入れ、体勢を低くする。

次は胴──そう見せて、実際には小手か。

だが、清治の竹刀は微塵もぶれない。

 

「うそ……」

「全然引っかからない……」

 

二乃と五月が呆然と呟く。

僕は小さく笑った。

 

「それが清治だよ」

 

奇策に強いわけではない。

むしろ、奇策を“奇策のまま終わらせる”のが上手いのだ。

構えが崩れない。

呼吸が乱れない。

相手のリズムに呑まれない。

だから、最後に苦しくなるのはいつも相手の方だ。

 

「はぁっ……!」

 

再び相手が仕掛ける。

今度は正面からの勝負。

だが、その踏み込みは僅かに浅かった。

 

「そこだ」

 

僕が小さく呟くのと、ほぼ同時。

 

「──小手ッ!!」

 

バシィッ!!

 

鋭い音。

相手の竹刀が跳ね、手元が浮く。

 

「一本!」

 

二本目。

それで決まった。

 

「勝負あり!!」

 

道場がどよめく。

先鋒の和樹。

大将の清治。

最後を締めたのは、まさに“王道の剣”だった。

 

「す、すごい……」

「和樹さんとは全然違うのに、同じくらい強い……」

 

五月と四葉が感嘆の声を漏らす。

 

「……きれい」

 

三玖がぽつりと呟いた。

 

「ああいうのが、剣道って感じするわね」

「うんうん。カズキ君が異質すぎるだけで、キヨハル君も十分おかしいよね♪」

 

一花と二乃の言葉に、政樹が力強く頷く。

 

「そりゃそうっすよ!清治は去年も今年も個人全国一位っすから!」

「改めて聞くと化け物ですね……」

「和樹の周り、どうなってんだ本当に……」

 

聖奈と風太郎の声は、どこか呆れ混じりだった。

恒一はそんな様子を見ながら、深く息を吐いた。

 

「なるほどな……」

 

その声は、和樹の時よりも低かった。

 

「先鋒は異質。大将は王道」

「で、どっちも“本物”ってわけですか……」

「そういうことだ」

 

部下の問いに、恒一は短く答える。

 

「見ただろ。和樹のは、“踏み込んだ時点で終わる剣”だ」

「はい」

「清治のは、“踏み込んでも崩れない剣”だ」

 

少しだけ笑う。

 

「嫌な相手だろ?どっちも」

 

部下たちは真剣な顔で頷いた。

試合場では、清治が礼を終えて戻ってくるところだった。

 

「お疲れ」

「お前もな」

 

近くまで来たところで、僕が声をかける。

清治は汗を拭いながら、小さく息を吐いた。

 

「……どうだった?」

「らしかったよ」

 

そう言うと、清治は僅かに目を細めた。

 

「お前こそ」

「そりゃどうも」

 

短いやり取り。

だが、それだけで十分だった。

 

「加藤さん、すごかったです!」

「ありがとうございます、四葉さん」

 

四葉のまっすぐな称賛に、清治が珍しく柔らかい声で返す。

 

「流石でした」

「五月さんにそう言っていただけると光栄です」

 

五月にも丁寧に返す。

 

「……綺麗だった」

「……そうか。ありがとう、三玖さん」

 

三玖の一言に、一瞬だけ清治の表情が緩む。

その様子を見て、一花がくすっと笑った。

 

「和樹君もキヨハル君も、今日は大人気だねぇ」

「兄貴はいつも人気っすよ!」

「そこ、威張るのお前なんだな……」

 

僕が呆れると、政樹はけろっと笑う。

その時──

 

「おい、坊主ども」

 

恒一がこちらに歩いてきた。

 

「二人とも、期待以上だった」

「珍しく素直じゃないですか」

「うるせぇ」

 

僕の返しに、恒一は鼻で笑う。

 

「だが、来た甲斐はあった」

 

その言葉には、本音が滲んでいた。

 

「どうでしたか、部下の方々から見て」

「勉強になりました!」

 

即答だった。

 

「正直、剣道ってもっと形式的なものかと思ってましたけど……」

「全然違いました。あんなに相手を追い詰めるんですね……」

 

その感想に、僕と清治は顔を見合わせる。

 

「まあ、追い詰め方は違うけどね」

「うむ」

 

僕が言うと、清治も頷いた。

 

「でも、勝つために積み上げた結果という意味では同じだ」

 

その言葉に、恒一が少しだけ目を細めた。

 

「……なるほどな」

 

それだけ呟いて、口元を緩める。

 

「ますます面白ぇじゃねぇか」

 

その言葉を聞きながら、僕は軽く天井を見上げた。

勝った。

清治も、きっちり締めた。

そして、見に来た人間の目にも、それぞれ違う形で何かを残せた。

悪くない一日だ。

そう思った時──

 

「和樹さん!加藤さん!」

「写真撮ろうよ写真!」

 

一花と四葉が元気よく手を振る。

 

「ほらほら、せっかくなんだし!」

「皆で撮ったら記念になります!」

 

その明るい声に、思わず笑いが漏れた。

 

「……騒がしいな」

「嫌いじゃないだろ?」

「……まあな」

 

さっきと同じやり取りを、今度は清治と交わす。

それから僕達は、賑やかな応援団のもとへ歩き出した。

その背中を追う視線は、もう試合前とは少し違っていた。

強さを見た目。

惹かれた目。

興味を深めた目。

そして──譲るつもりのない目。

いくつもの想いが交差しながら、練習試合の一日はまだ終わらないのだった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!

今回は「強さの対比」と「視線の変化」を軸にした回でした。

和樹は“異質な強さ”
清治は“王道の強さ”

どちらが上というよりも、
「違うからこそ際立つ」関係にしています。

そしてタイトルにもある通り、
この回で少しずつ“視線”が変わり始めています。

ここからは日常パートに戻りつつ、
関係性が一気に動いていく流れになる予定です。

もし「ここ好きだな」と思ったシーンやキャラがいれば、
感想やリアクションをもらえるとめちゃくちゃ励みになります!

それでは、次回もよろしくお願いします!

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