妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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いつも読んでいただきありがとうございます。

今回は試合後、中野家での勉強会を中心にしたお話になります。

賑やかなやり取りの中で、少しずつ動き始めるそれぞれの想い。
まだ恋と呼ぶには早い、けれど確かに胸に生まれ始めた“何か”。

今回のタイトルは**『名前のない感情』**。

本人たちすら気づいていない小さな揺れや、視線の意味、言葉にならない違和感を描いてみました。

四葉、三玖、そして周囲から見た和樹との距離感にも、少し変化が出てきています。

試合の熱とはまた違う、静かに動き出す心の熱を楽しんでもらえたら嬉しいです。

少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、
感想や評価、お気に入りで応援いただけると励みになります。

それでは本編、どうぞ。



12.名前のない感情

~マンション・中野家~

 

「♪~♪~」

「うーーー……」

「えっとー……」

 

現在、中野家のリビングでは、上機嫌な鼻歌と、苦悩に満ちたうめき声が奇妙なハーモニーを奏でていた。

 

「一花! そこは昨日言ったところだ!」

「うーー……そうだっけぇ~?」

「政樹さん。そこは先月の夏休みの課題で教えました。まさか復習をなさっていなかったとは……」

「あ、(あね)さん! そこはどうかご勘弁を!」

 

苦悩に満ちた声の発生源は、一花と政樹。

三玖と五月はきちんと課題を進めていたため、風太郎と聖奈の指導からは辛うじて逃れている。

そして二乃は、皆のおやつを作るため、ひとりご機嫌な様子でキッチンに立っていた。

 

「はぁぁ~、いい匂いですぅぅ♪」

 

甘い香りに誘われ、五月がふらふらとキッチンへ漂っていく。

 

「もう少し待ってなさい!」

「は、はい……」

 

二乃にぴしゃりと制され、五月は名残惜しそうに引き返す。

一方、三玖はソファーに座り、和樹から借りた本を静かに読んでいた。

そんな時だった。

 

ピンポーン……

 

「あ、私が行きますね」

 

インターホンが鳴り、五月が玄関へ向かう。

ほどなくして──

 

「お邪魔する。……むぅ」

 

私服姿の清治が現れた。

そして、苦悶する一花と政樹。監督する風太郎と聖奈。その光景を見て、若干引いたように眉を動かす。

 

「何とも言い難い光景が広がってるな」

「否定はしない」

 

風太郎が真顔で返す。

 

「和樹と……四葉さんがいないようだな」

「お二人でしたら、そろそろ来られるかと」

 

聖奈が答えた、その時。

五月達のスマホが震えた。

 

「兄さんからです。もうすぐ着くそうですよ」

「あら、ちょうど出来上がったところだし、ナイスタイミングね♪」

 

二乃が嬉しそうにシュークリームを並べていく。

 

「ほら、たくさん作ったからじゃんじゃん食べなさい!」

 

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、五月と政樹が真っ先に手を伸ばした。

 

「うんめぇぇ!!やっぱ二乃は料理うめぇな!」

「そ、そんな大げさよ……」

 

そう言いながらも、二乃の顔は分かりやすく緩んでいる。

 

「和樹の分、残しておきなさいよ」

 

二乃が何気なく口にした。

一瞬、空気が止まる。

 

「……へぇ?」

 

一花がにやっと笑った。

 

「べ、別に深い意味ないわよ!せっかく作ったんだから食べさせるの普通でしょ!」

「ふーん?」

「うるさい!」

 

二乃の顔が一気に赤くなる。

 

「……二乃、分かりやすい」

 

三玖がぽつりと呟く。

 

「言うな!!」

 

リビングに笑いが起こる。

 

「む?風太郎、らいはちゃんはどうした?」

 

清治が尋ねると、風太郎は小さく肩をすくめた。

 

「藍華さんに預けてる。頼んだら攫われていった」

「ふっ、藍華さんらしいな」

 

そんな和やかな空気の中──

 

「……遅くない?」

 

二乃がふと呟いた。

 

「四葉、まだ戻らないわね」

 

その声には、ほんの少しだけ心配が混じっていた。

その時。

 

ガチャ……

 

玄関が開く。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

四葉だった。

 

「遅いわよ!」

「ご、ごめんごめん!」

 

ぱたぱたと慌ただしくリビングへ入ってくる。

 

「ちょっと中国拳法教わってて!」

「中国拳法?」

 

五月が目を丸くする。

 

「すっごいんだよ!?こう、ばばばって!」

「雑すぎる説明だな……」

 

風太郎が呆れたように言う。

すると四葉が、何かを思い出したように二乃を見た。

 

「あ、そうだ二乃!」

「ん?」

「二乃の特製ドリンク、和樹さんすっごく褒めてましたよ!」

 

空気が止まった。

 

「……え?」

「うまいって、結構飲んでました!」

 

二乃が固まる。

 

「……ほんと?」

「はい!」

 

その瞬間、五月がハッとした顔になった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

全員の視線が五月へ集まる。

 

「それ……四葉が飲んでいたものでは?」

「……え?」

 

四葉の動きも止まる。

 

「つまり……」

 

一花がにやりと笑った。

 

「間接キスでは!?」

「ええええ!?」

 

四葉の顔が一気に真っ赤になった。

 

「い、今言う!?」

「私も今気づいたんです!」

 

五月まで慌てている。

そして、なぜか二乃まで赤くなっていた。

完全にカオス。

その時。

 

「何騒いでんの?」

 

当の本人が現れた。

和樹である。

 

「……」

 

全員が固まった。

 

「え、何この空気」

「兄貴ぃ……」

「和樹さん……」

 

政樹と五月の視線から、和樹はなぜか責められているような圧を感じた。

 

「何した僕」

 

四葉は完全にオーバーヒートしていた。

 

「な、なんでもないです!!」

 

勢いよく顔を逸らす。

 

「?」

 

意味が分からない和樹。

その光景を見ていた一花が、ついに吹き出した。

 

「青春だねぇ~♪」

「意味分からん」

 

そこへ。

 

パンパンッ。

 

聖奈が手を叩いた。

 

「はい、騒ぐのはそこまで」

 

空気が凍った。

絶対零度と言っても過言ではない。

 

「勉強会、再開します」

『ええええ!?』

「当然です」

 

五つ子と政樹の絶叫にも、聖奈は容赦しない。

 

「班分けは昨日通りだ」

 

風太郎も追撃する。

 

「一花、四葉、席につけ」

「はーい……」

「政樹さん」

「うっす……」

 

全員が沈んだ。

そんな中、和樹だけは苦笑する。

 

「帰ってきて早々すごいな」

「兄さんのせいです」

「理不尽だな……」

 

席につこうとした四葉が、そっと自分のボトルを見る。

 

(……間接……)

 

ぶわっと顔が熱くなる。

 

「四葉?」

「な、なんでもないです!」

 

風太郎の問いに、四葉は明らかに挙動不審だった。

その様子を──三玖が静かに見ていた。

 

「……」

 

何も言わない。

ただ、少しだけ目を細める。

賑やかな勉強会は、まだ終わらない。

試合は終わった。

けれど、本当に火がついたのは──

竹刀ではなく、まだ名前も持たない感情の方だった。

 

・・・・・

 

勉強会が再開してしばらく。

部屋にはノートをめくる音と、時折飛ぶ風太郎と聖奈の指導の声だけが響いていた。

 

「一花、そこ違う」

「えぇ~またぁ?」

「“また”ではない」

 

いつものやり取り。

その横で──

 

「四葉さん、さっきの公式をもう一度」

「は、はいっ!」

 

今日は班分けこそ昨日と同じだが、清治もいるため、余裕があれば他の班も僕達で見ることになっている。

 

「……四葉」

 

三玖がぽつりと言った。

 

「ん?」

「……さっきから三回、同じところ間違えてる」

「え!?ほんと!?」

 

わたわたする四葉。

 

「珍しいな」

 

そう思いながら、僕は少し笑った。

 

「今日は集中切れてる?」

「き、切れてませんっ!」

 

やけに慌てている。

怪しい。

 

「怪しいなぁ」

 

それを見た一花が、にやにやと笑う。

 

「ち、違うってばー!」

 

空気がまた少しだけ和らいだ。

 


 

~三玖side~

 

そんな中。

三玖はノートに目を落としている──ように見えて、ほんの少しだけ四葉と和樹のやり取りを見ていた。

 

(……なんだろ)

 

胸の奥に、小さな引っかかりがあった。

ちくり、と。

痛いほどではない。

けれど、無視できないくらいには確かにそこにある。

 

「三玖?」

 

五月に呼ばれる。

けれど、ほんの少しだけ反応が遅れた。

 

「……あ、ごめん」

 

珍しい反応に、五月が不思議そうな顔をする。

 

「三玖、疲れましたか?」

「……違う」

 

違う。

でも、何が違うのかは自分でも分からない。

その時──

 

「和樹さん!ここ出来ました!」

 

四葉が問題を見せる。

 

「お、正解してるじゃん」

「えへへ♪」

 

褒められて笑う四葉。

その笑顔を見た瞬間、三玖の指先が、持っていたシャーペンを少し強く握った。

 

(……なんで)

 

分からない。

ただ、少しだけ──面白くない。

 

「……三玖?」

 

今度は和樹に呼ばれた。

 

「この問題、歴史好き代表としてどう思う?」

「……っ」

 

ふいに振られて顔を上げる。

目が合った。

 

「ぼーっとしてた?」

「してない」

 

即答。

けれど、少しだけ拗ねたような声音になってしまった。

 

「あれ、珍しい」

 

和樹が笑う。

 

「三玖、機嫌悪い?」

「……別に」

 

そっぽを向く。

 

「怒ってるように見えるけど」

「怒ってない」

 

短い。

ぶっきらぼう。

その反応に、一花が目を丸くし──すぐににやりとした。

 

(あ、これ……)

 

気づいた顔。

けれど、口にはしない。

だって、面白そうだから。

 

「兄さん、三玖さんをからかわないでください」

 

聖奈が助け舟を出す。

 

「え、僕何かした?」

「無自覚が一番たち悪いです」

「ひどくない?」

 

理不尽な評価に和樹が眉を下げると、リビングに小さな笑いが起きた。

その空気に紛れながら、三玖は小さく息を吐く。

 

(……何やってるんだろ)

 

自分でも意味が分からない。

けれど、さっき四葉が見せた笑顔だけは、妙に頭に残っていた。

そして。

その感情には、まだ名前がない。

ただ──小さな波だけが、静かに生まれていた。

 

「……何やってるんだろ」

 

小さく息を吐いたあと、先ほど頭をよぎった言葉が、そのまま口からこぼれた。

三玖はノートに目を戻す。

だが──集中できない。

理由は分からない。

ただ、胸のどこかが少しだけ落ち着かなかった。

そんな時。

 

「じゃ、少し休憩にするか」

 

和樹がペンを置いた。

 

「やったー!」

「助かった……」

 

一花と政樹が即座に反応する。

風太郎と聖奈も小休止に入った。

それぞれ飲み物を取ったり、ソファーへ移動したりして、部屋の空気がふっと緩む。

和樹は何気なく、三玖の近くに置かれていた昨日貸した本へ視線を向けた。

 

「昨日貸した本、どこまで読んだ?」

 

自然に三玖へ問いかける。

 

「……ここ」

 

三玖はページを見せた。

 

「お、そこまで読んだんだ」

 

距離が近づく。

自然に。

ほんの少しだけ。

 

「この辺、面白いよね」

「……うん」

 

また歴史談義が始まりそうな空気。

すると──

 

「和樹さん!」

 

四葉がやってきた。

 

「さっきの拳法、もう一回教えてください!」

 

無邪気な笑顔。

その瞬間、三玖の指先がぴたりと止まった。

 

「……」

 

まただ。

あの感覚。

小さな違和感。

和樹は笑う。

 

「今?」

「はい!」

 

四葉は楽しそうだった。

すると──

 

「……その前に」

 

ぽつり。

三玖が口にした。

全員が少しだけこちらを見る。

 

「え?」

 

本人も、言ってから少し驚いた顔をした。

けれど、続ける。

 

「その本の話……途中」

 

一瞬、空気が静まった。

 

「……まだ聞いてない」

 

珍しく、自分から引き留めるような言葉。

 

「おぉ?」

 

一花がにやける。

四葉もきょとんとした。

 

「そっか」

 

和樹は特に気にせず笑う。

 

「じゃ、先こっちだな」

 

そのまま三玖の横へ戻る。

 

「この辺りは武田と上杉の駆け引きが──」

 

話し始める和樹。

 

「……うん」

 

三玖が頷く。

そして──ほんの少しだけ、口元が緩んだ。

 

(……なんだろ)

 

さっきより落ち着く。

胸のざわつきが、すっと消えていく。

その感覚に、自分でも少し戸惑った。

一方、四葉はその様子を見て──

 

「……あれ?」

 

一花はもう肩を震わせていた。

 

(始まってる始まってる♪)

 

完全に楽しんでいる顔だ。

 

「何笑ってるんだ?」

 

風太郎が怪訝そうに尋ねる。

 

「青春だなぁって♪」

「意味が分からん」

 

その間も、三玖は珍しく自分から質問していた。

 

「……それで、上杉謙信は?」

「食いつくねぇ」

 

和樹が楽しそうに説明する。

それを見て、聖奈がふっと目を細めた。

 

(……なるほど)

 

面白くなってきた。

静かにそう思う。

そして三玖は、まだ自分でも気づいていない。

今したことが──少しだけ、“独り占め”だったことを。

 


 

シュークリームで一息ついた後、再び勉強会が再開された。

 

「一花、そこ違う」

「えぇぇ、また~!?」

 

一花の悲鳴。

 

「政樹さん、それは一次関数ではなく壊滅です」

「壊滅って何!?」

 

聖奈の追撃。

リビングは相変わらず騒がしい。

その横で──

 

「……これはこう解くと楽だ」

 

清治が五月の問題用紙を指していた。

 

「え……そんな解き方が?」

「公式を丸暗記するより、構造で見ろ」

 

理詰め。

無駄がない。

 

「す、すごいです……」

 

五月が素直に感心している。

 

「キヨハル君って教えるの上手いんだねぇ」

「意外でした」

「失礼だな」

 

珍しく清治が少し困った顔をする。

その様子に、場が和む。

四葉はぼんやりとそれを見ていた。

すると──三玖が自然に和樹へ寄っていく。

 

「……ここ、教えて」

「ああ、それは──」

 

そして、和樹は当たり前のように質問の内容を説明し始めた。

 


 

~四葉side~

 

距離が近い。

自然に。

本当に、何でもないことみたいに。

それを見て、四葉の胸がちくっとした。

 

(……え?)

 

自分で驚く。

何、今の。

 

「四葉さん?」

 

今度は清治からの指摘だった。

 

「顔赤いぞ」

「ええっ!?」

 

さらに慌てる。

 

一花がにやっと笑った。

 

(あー、始まってる♪)

 

それは全部見えている顔だった。

 


 

「休憩にするか」

 

その一言で、清治が立ち上がった。

 

「少し体が固まった」

「賛成」

 

僕も同じ意見だったので立ち上がる。

 

「じゃ、軽く型でも見るか?」

「ここで?」

「テーブルとソファを避ければ出来る」

「見たいです!!」

 

四葉が勢いよく食いついた。

家具を寄せ、リビングにちょっとした即席演武空間ができる。

僕が中国拳法の流れるような型を見せる。

静。柔。流。

 

対して──清治は剣道由来の重い体捌き。

剛。直線。圧。

真逆だった。

 

「……すご」

 

四葉が思わず漏らす。

 

「全然違う……でも、両方強い」

 

三玖も小さく呟いた。

 

「兄貴は流して崩す」

「清治さんは押して断つ」

 

政樹と聖奈が解説する。

 

「真逆なのに成立してるんだな」

 

風太郎まで見入っていた。

 


 

~四葉side~

 

その時。

四葉はふと和樹を見る。

また、胸がざわついた。

その瞬間──和樹が振り返る。

目が合った。

 

「どうした?」

「な、なんでもありません!」

 

また動揺する。

その様子を見ていた清治が、ほんのわずかに口元を緩めた。

 

「……なるほど」

 

小さく、それだけ。

 

「え?」

「いや」

 

意味深なまま流される。

その違和感だけが、四葉の胸に残った。

型の披露が終わり、再び席に戻る流れの中。

 

「はい、休憩終了です!」

 

聖奈の一声で、それぞれが席へ戻っていく。

 

「兄貴、今の動きやっぱ意味分かんねぇって……」

「理解しなくていい」

 

政樹と和樹がそんなやり取りをしている横で、四葉だけは妙に静かだった。

 

(……あれ?)

 

自分でも分かる。

さっきから少しおかしい。

和樹の動き。

目が合った時のこと。

それが頭から離れない。

 

「四葉さん?」

 

不意に声をかけられた。

 

「ひゃっ!?」

 

思わず変な声が出た。

声をかけたのは──清治だった。

 

「か、加藤さん!?」

「どうした。心ここにあらずだぞ」

 

静かな声。

けれど、見抜かれている。

 

「そ、そんなことないですよっ!」

「そうか?」

 

じっと見られる。

その視線に、四葉は居心地が悪くなった。

 

「え?」

「いや」

 

席へ戻ろうとしたすれ違いざま。

小さく。

清治は、四葉だけに聞こえる声で言った。

 

「無自覚は厄介だな」

「……へ?」

 

意味が分からず、四葉はその場で固まる。

その時。

 

「清治、何言ったの?」

 

和樹が首を傾げた。

 

「いや、別に」

 

清治は何食わぬ顔で流す。

だが、そのまま和樹の隣に腰を下ろし──小さく呟いた。

 

「お前」

「ん?」

「相変わらず罪作りだな」

「は?」

 

和樹は本気で意味が分かっていない顔をした。

清治は呆れたように息をつく。

 

「自覚なし、か」

「だから何の話だ」

 

そのやり取りを、少し離れた場所から見ていた一花が、にやりと笑う。

 

(あー……見えてる人には見えてるんだ)

 

面白そうに頬杖をつく。

一方の四葉は──問題集を開いているのに、まったく頭に入ってこなかった。

 

(無自覚って……何が?)

 

ページをめくる手が止まる。

その時。

和樹が何気なく振り向いた。

 

「四葉、そこ解けてる?」

 

また目が合う。

 

「~~っ!?」

 

ぼんっ、と顔が熱くなる。

 

「ど、努力しますっ!!」

「返事おかしくない?」

 

和樹は困惑する。

その横で、清治が小さく笑った。

 

(やれやれ)

 

その目は──完全に気づいている者のそれだった。

 




ここまで読んでくださりありがとうございました。

今回はバトル回の余韻を残しつつ、
“恋になる手前”の空気を意識して書いてみました。

タイトルの**『名前のない感情』**は、

四葉の戸惑いも、
三玖の小さな独占欲も、
二乃の照れも、

まだ誰も恋だと認識していない──そんな段階を表しています。

そして今回は、清治に“先に気づかせる”ことで、
和樹本人だけが無自覚という構図にもしてみました。
個人的にここは書いていてかなり好きな部分です。

勉強会のわちゃわちゃした空気の中で、
少しずつ関係が変わり始めていく流れを感じてもらえていたら嬉しいです。

ここから先、五つ子それぞれの感情がどう動いていくのか、
和樹がそれにどう向き合っていくのか、
じっくり描いていければと思っています。

もし「ここ好きだった」「この掛け合い良かった」などあれば、
感想いただけるととても励みになります。

お気に入り・評価も、続きを書く大きな力になります。

それではまた次話で。

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