妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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今回は、いつもの賑やかさの中に
少しだけ“心の揺れ”を混ぜた回になっています。

独り占めしたいと思う気持ち。
理由もなく胸がざわつく感覚。
見たくないものを見てしまった時の、説明できない違和感。

それはまだ恋とは呼べないのかもしれない。
けれど、確かに何かは動き始めている。

そんな変化を、それぞれの視点で描いてみました。

四葉、三玖、五月。
小さく芽吹いた感情を楽しんでいただけたら嬉しいです。

少しでも面白いと思っていただけたら、
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第九話
『それは嫉妬と呼ぶには早すぎて』

どうぞお楽しみください。


13.それは嫉妬と呼ぶには早すぎて

「ふわぁぁーーー……」

「大きなあくびですね。また夜更かしで勉強ですか?」

 

剣道の試合に勉強会と行われた日の次の日。

僕と聖奈は、途中で風太郎と合流して学校に向かっていた。

普段は、清治が部活の朝練に出ているため、政樹はそれに乗っかって、トレーニング室を朝から使っているので、朝の登校は基本この三人である。

 

「ただでさえ和樹の試合観戦で時間が無くなったんだ。その上にあいつら五つ子の勉強会。俺の勉強する時間が減っている」

「それで体調崩したら本末転倒でしょうに」

「ぐっ…!」

 

ちなみに、風太郎の寝不足原因であるその五つ子とはマンションで会っていない。

先に行ったか、まだ出てなかったか…

まあ、一緒に行く約束もしてないし別に良いのだが。

 

「そういう聖奈は朝から何か爽快な感じだな」

「それはもう、昨晩はぐっすりと眠れましたから」

 

嘘つけ!

昨晩は大いに求めてきて、一人満足してんだろ。

お陰で僕も寝不足だよ…

 

そんな愚痴を言いたいが言えずで、学校近くまで着いた。

すると、学校前に立派な黒の高級車が停められた。

まさかな─

 

ガチャッ…

 

「あれ?三人ともおっはー♪」

「なんで朝からいるのよ!」

「おはよ…カズキ…」

「おはようございまーす!」

「おはようございます。和樹君、聖奈さん、上杉君」

 

案の定五つ子達が車から下りてきた。

 

「すげぇーな。この車百万円くらいするんじゃないか」

「阿呆。数千万はするだろ、普通に考えて」

「す、すうっ…せんまん!?」

 

風太郎は頭は良いが、何しろ頭の中は教科書や参考書の内容が詰め込まれてる様なものだ。アルバイトをしていてある程度の常識はあるが、関係ないものについての情報力は皆無である。

 

「おはようございます、皆さん。朝から車での送迎なんて凄いですね」

 

聖奈の挨拶を機に、八人の大所帯で校内に歩き出す。

 

「普通は使わない…」

「今日は一花が中々起きてくれなかったので、仕方なく利用させていただいたんです」

 

三玖と五月の話によると、普段は歩きなのだが、寝坊した場合に限り父親に頼んで送ってもらうそうだ。

 

「一花は中々起きてくれませんからねぇー」

「たははは…」

 

特に文句があるような言い方ではない四葉の話し方ではあったが、一花も一花なりに反省はしてるようである。

 

「それよりお前達!昨日の復習はしてるんだろうな!」

 

女子六人の後ろから僕と風太郎がついていく形の中、風太郎が参考書を読みながら確認する。

 

「「「「「………」」」」」

 

五つ子全員視線があちこちである。

 

「ま、すぐに日常生活が変わる訳ではないからね」

「あら。あんたは中々話がわかるじゃない」

 

一応フォローを入れると二乃がご機嫌な声で答えた。

 

「そもそも和樹が家庭教師の中心でしょ。あんたに指図される理由はないわ」

「ぐぬっ…!」

 

核心を二乃につかれた風太郎はぐうの音も出なかった。

 

「とは言え。兄さんも甘いところが多々あります。そういったところを、私と風太郎さんでカバーしていくつもりですので、悪しからず」

「「「「「はーーい……」」」」」

 

しかしそこは聖奈。

冷静に自分と風太郎で僕のカバーをするポジションであると牽制する。

それには、五つ子も流石に従うしかなかったのだった。

 

・・・・・

 

「そういえば、私はカズキの課題終わらせてるよ。これ」

 

それぞれのクラスに別れ、四組の教室の席につくと三玖から課題プリントを渡された。

 

「お、本当に終わらせてるね。あそこで言っても良かったのに」

 

プリントの内容が埋められているのを確認しながら伝える。

 

「あの場で言えば諍いが起きるの必至…」

「まあね……うーん……三玖は英語がなぁ…」

 

三玖の答えを聞きつつ、受け取ったプリントの中身を見ると間違いはまだまだ多いものの、英語の正解率の低さを指摘した。

 

「仕方がない。私は日本人…」

「うん、そうだねぇ…ここにいる生徒が皆そうだね」

「むうぅぅ~…」

 

三玖の言い訳などなんのその。

スルーしながらプリントを眺めていると、頬を膨らませてこちらを見てきた。

怒ってるんだろうけど、その顔でされても可愛いだけなのに。

そう思わざるを得なかった。

 


 

~四葉side~

 

その日の放課後。

 

「て、なんで一人しかいないんだ!」

「あははは…みんな用事があると…」

 

ここは図書室。

何故風太郎が憤慨しているかと言うと──

 

時は昼休みに遡る。

恒例となったのか、いつもの五人に五つ子が加わった十人の大所帯で昼食を食べていた。

 

「土日のみの勉強では間に合わん!放課後も勉強会を行うぞ!」

 

そこで突如として風太郎がそう宣言したのだ。

 

「はぁぁー!?普通に嫌なんですけど!!」

「俺もトレーニングがあるしなぁ…」

「うーむ…俺も部活があるからな。試験前なら良いのだが…」

「………」

 

二乃を筆頭に風太郎の提案はあまり芳しく無いようである。

 

「私も毎日という訳にはいきませんし…生徒会の仕事もありますしね」

「すごっ!セナちゃんって生徒会の人なんだ!?」

「ほぼ無理やりという感じで副会長をしてます…」

 

唯一賛成しそうな聖奈も、生徒会の仕事で抜けられないと返答をする。一花は初めから参加する意思は無いようだ。

 

「ま、最初は自由参加で良いんじゃない?僕も今日は()()()()があって参加出来ないしね」

「む。そういえば、そうだったな」

 

和樹の言葉に、風太郎は勢いよく上げた右拳をゆっくりと下げる。

 

「では、参加できる方だけ図書室に集合という事でいきましょう」

「まあ、結果は見えてる様なものだがな」

「確かに…」

 

という風に聖奈が纏め、清治と政樹の一言があった訳なのだが──

結局揃ったのは、風太郎と四葉の二人であったのだ。

 

「えっと…一花と二乃は普通に帰りましたよ。三玖は和樹さんのお手伝いとか。五月も最初は来る予定だったんですけど……何故か来ないんですよねぇ。何故でしょ?」

「うっ…」

 

四葉にあらかた説明された風太郎であったが、五月の来ない理由については心当りがあり言葉を失う。

実は教室で自習をする五月の姿に褒めた風太郎であったが、あまりにも馬鹿という言葉を使い過ぎ、五月を不機嫌にさせてしまった経緯があるのだ。

 

「ま、まあ良い。一人でも来たのなら儲けものだ。しっかりやってくぞ!」

「はい!」

 

こうして始まった二人の勉強会であったが──

 

「綴りが違う!それだと違う意味になるだろ!」

「ひぃぃー!ごめんなさーい!」

 

五つ子一のお馬鹿な四葉。風太郎も悪戦苦闘しながら、間違える度に、四葉のリボンを引っ張っては綺麗に戻すを繰り返していた。

そんな中──

 

「ふふふっ…」

「怒られているのに何が可笑しいんだ?」

 

不意に四葉が笑みを溢したので、風太郎が疑問を投げかける。

 

「いえ。何だかんだ言いながらも、こうやってわたしの勉強に付き合っていただけて嬉しく思ったので」

「和樹に頼まれたからな!」

「それでもです…」

 

四葉が笑みを向けるが、風太郎は恥ずかしさから顔を逸らしてしまった。

 

(やっぱり楽しいな~、()()()()と二人で勉強するの♪この時間だけは、風太郎君が私だけを見てくれている気がする♪)

 

そんな考えのもと四葉は風太郎との勉強会を楽しんでいるのだった。

 


 

「で?何で五月はこっちに来たのさ。勉強会に行くんじゃなかったの?」

 

僕にはこの曜日にある用事が放課後にあるために、ある場所に向かっていた。

その際、手伝うと申し出た三玖を連れてきたのは良いのだが、何故か五月までここにいるのだ。

 

「あんなデリカシーの無い人に勉強を教えてほしくありません!」

 

あー…風太郎の奴何かしたな…全く。自分で状況悪くしてどうすんだよ。

まあ、今日は二人が来てくれて助かるけど。

 

「それで…どこに向かってるの…?」

「社会準備室だよ。そこの掃除……というか、片付けかな」

「何故それを和樹さんが?」

 

当たり前の様に五月から質問がされる。

 

「うちのクラスの担任である鷺浦先生がその教室を使ってるんだけど、その鷺浦先生とは結構仲が良くてね。それでお願いされてるんだよ。貴重な歴史的資料とかもあるから、他の生徒には頼めないんだってさ」

「歴史的資料……」

 

説明すると、三玖が歴史的資料という単語に反応する。

 

「……随分親しいのですね?」

 

しかし、歴史に興味ない五月は僕と鷺浦先生の仲の方が気になったのか、多少温度感が上がったような音色で聞いてきた。

 

「僕は歴史に興味があってね。五月も鷺浦先生の授業受けたでしょ?あれくらいのマニアなんだよ。それでね」

「な、なるほど……あれくらいなのですか……」

 

社会の授業を思い出したのか、五月の表情は少し引いている様に見えている。

 

「しかもあの先生って結構な人見知りだからさぁ。あまり他人と関わらないんだよ。一応、他の教師に頼むように言ってるんだけどね」

「なるほど」

 

そこで五月は納得してくれた様である。

そこで社会準備室の前に着いた訳なのだが…

 

「二人とも。状況を見ても嫌わないであげてね」

「「?」」

 

僕の言わんとしてることが分かっていない様子の二人を無視して、教室の戸を叩く。

 

コンコンッ…

 

「鷺浦先生?樋口と中野の三名で来ました」

『うーん?ど~ぞ~…』

 

力の無い返事があったので戸を開く。

 

「「うっ…!!」」

 

その瞬間、三玖と五月は表情を強ばらせた。

その教室には、散乱された着替えや食べたお弁当のゴミや空のペットボトル等々が床一面に広がっているのだ。

一応、換気の為に窓を開けてるが、不衛生にも程がある。

当の本人。鷺浦先生はというと、机に向かって座っており、いくつもの資料を広げ、パソコンのキーボードをカタカタと動かしている。

 

「いつも悪いわね、()()。助かるわ」

 

キリが良かったのか、タンッという音を立ててクルッとこちらに椅子を回し、眼鏡を外しながら、足を組んでこちらを見て微笑んだ。

研究に寝食を忘れるくせに、妙な色気だけは隠せない人──それが鷺浦文乃だ。

 

「また週末帰ってないんですか、鷺浦先生?」

「二人の仲じゃない。いつものように文乃って呼んでよ」

「中野さんの二人の前なので、控えさせていただきます」

 

そこでようやく三玖と五月の存在に文乃は気づいたようだ。

 

「あら。三玖さんと……えっと…」

「五月です」

「ごめんなさいね、五月さん。二人も一緒だったのね。助かるわ。私って、どうしても家事全般が壊滅的で…」

 

テヘッと舌を出しながらウィンクする文乃。

僕がいる時は大抵こんな感じのテンションなのだ。

 

「あ、あのー……よく見ると、し、ししし、下着も落ちてるのですが!」

「ああ…先生!下着は洗濯機に入れる様に言ったでしょ!」

「だって時間がないのだもの。別に和樹に見られても減るもんでもないし」

 

そう言いながら、また作業に戻る文乃。

 

「悪い。五月は洗濯お願いできるかな。ちなみに僕は聖奈のを洗濯で普段見てるから、どうとも思ってないよ」

「そ、そういうものなんですね……というか、この教室洗濯機もあるのですね…」

 

五月は流されるまま、床に散らばっている洗濯物の衣類を拾っては、ネットなどを使って洗濯機に入れていった。

ふむ。洗濯については、二乃だけが担当してる訳じゃないのか。

五月の慣れた手つきを見ながらそう考えに至った。

 

「三玖は本棚の埃を落としてくれる?マスクは、これ使って良いから」

「…わかった…」

 

本棚を三玖に任せ、僕は他のゴミを種類別に拾っては袋に入れていく。

後は、簡易ベッドの布団を窓にかけてはたくだけか…

 

「後はやっとくから、悪いけど二人はゴミ捨てお願いできるかな?」

「わかった…」「はい」

 

三人でやればあっという間に終わらせる事が出来た。

これから二人にも協力してもらうか。

などと考えながら、窓にかけた布団をはたいていると、文乃が後ろから抱きしめてきた。

 

「何?時間が無いんじゃないの?」

「もう……ちゅっ…♡なんで、一人で来なかったのよ?」

 

質問を質問で返す文乃。文乃は僕に抱きしめながら、首筋などにキスをしてきている。

 

「この量を一人でやって、()()()()()をするなんて、いつ帰れるか分かんないでしょ」

「いけずなんだから…ちゅっ…ちゅっ…♡そういうところも好きよ、和樹…♡あいたっ…!」

 

文乃の手がだんだんと僕の体を撫で始め、下半身へと伸びようとしたところで、僕は文乃から離れて頭にチョップした。

 

「いつ二人が帰って来るか分かんないでしょ。大人なんだから時と場所と節度を考えな」

「はーい……ふふふ…ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…♡」

 

叩かれた頭を撫でながら反省していたのもつかの間、文乃は僕の唇にキスを何度かするとまた机に戻っていった。

 

文乃の態度で分かる様に、文乃とは流れで体を重ねた事がある。しかも、文乃の初めてを僕はもらった。

それからは、時間があれば体を重ねる、名前をつけるなら、きっと健全な関係ではない。

それでも突き放せない理由を、僕はまだ言葉に出来ない。

最低な人間だと自分でも分かっているが、文乃の状況を考えるとどうしても流されてしまう。聖奈と一緒だ。

ちなみにこの関係を聖奈はおろか、誰も知らない。

 

「戻りました」

 

そんな考えをしながら布団を元の状態に戻すと、二人が帰ってきたので、今日はここまでにしてそのまま三人で帰ることにするのだった。

 

そして帰り道。

珍しく二人とも静かだった。

さっきまで賑やかだったのに、妙に沈黙が続く。

 

「……どうした二人とも」

 

僕が聞くと、先に口を開いたのは三玖だった。

 

「……さっきの先生」

「鷺浦先生?」

 

こくり。

少し迷ってから。

 

「……距離、近かった」

 

思わず苦笑する。

 

「そこ?」

 

すると今度は五月が口を挟む。

 

「“そこ”ではありません」

 

妙に真面目な声。

 

「教師と生徒にしては……近すぎます」

「おや」

 

二人揃うとは思わなかった。

 

「仲がいいだけだよ」

 

そう流そうとしたが──

 

「……違う」

 

三玖。

 

「普通の“仲がいい”じゃなかった」

 

ぐさりと来る。

 

「私も……そう思いました」

 

五月まで同調した。

 

「え、何この尋問」

「尋問ではありません」

「……確認」

 

三玖まで乗る。

何だこれ。

少し歩いてから、三玖がぽつり。

 

「……ちょっと」

「ん?」

「面白くなかった」

 

どきりとした。

今度は五月が、少し視線を逸らしながら言う。

 

「……私も、落ち着きませんでした」

「……え?」

 

二人とも黙る。

言った本人たちも、

なぜそう言ったのか分からない顔をしている。

夕陽だけが長く影を伸ばしていた。

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回は“大きな事件”ではなく、
感情が静かに動き始める瞬間を描いた回でした。

独り占めしたい四葉。
理由もなく胸がざわつく三玖。
説明できない違和感に戸惑う五月。

まだ本人たちは、その感情に名前を付けられていません。

だからこそ――
今回は『それは嫉妬と呼ぶには早すぎて』というタイトルにしました。

恋になる前の、
曖昧で不器用で、でも確かに熱を持った感情。

個人的に、その時間がとても好きです。

そして和樹と文乃の関係を見て生まれた波紋は、
この先少しずつ広がっていく予定です。

「あの反応はこう見えた」
「誰の感情が一番気になった」
など、感想いただけるととても嬉しいです。

面白かったらお気に入り・評価で応援いただけると励みになります。

次話では、この“名前のつきかけた想い”が
少しだけ前へ進むかもしれません。

また次回もよろしくお願いします。
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