妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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皆様、いつも読んでいただきありがとうございます!

今回は待ちに待った花火大会回です。

浴衣、屋台、人混み、そして“はぐれる”という夏祭りの定番イベント。
騒がしくも楽しい時間の中で、それぞれの距離感や想いの変化を書けたらと思いながら執筆しました。

特に今回は、
誰と誰が一緒になるのか、
どんな空気になるのか、
そこを楽しみながら読んでいただけると嬉しいです。

それでは──
『はぐれた夜と、繋いだ手』
どうぞお楽しみください!




19.はぐれた夜と、繋いだ手

「さて、時間もまだあることだし、屋台を回ってから二乃が予約した場所に向かうか」

「っすね。何から食べやしょう」

 

花火が上がるまでには、まだ少し時間がある。

せっかく祭りに来たのだ。ただ場所へ向かって花火を待つだけでは味気ない。

僕の提案に、全員が自然と頷いた。

──祭りは、始まったばかりだ。

提灯の明かり。

屋台から漂う甘い匂いと香ばしい匂い。

人の笑い声、呼び込みの声、下駄の音。

その全てが、夏の夜を少しずつ非日常へと変えていく。

 

「お祭りに来たら、アレを買わないとね」

 

腕を組みながら、二乃が堂々と言い放った。

 

「アレ?」

 

僕が首を傾げると、なぜか他の姉妹たちも同じように反応した。

 

「そういえばアレ買ってない……」

「もしかして、アレの話してる?」

「アレやってる屋台、ありましたっけ……」

「早くアレ食べたいなー!」

 

……全員、同じ単語を使っている。

なのに、妙に会話が噛み合っていない。

 

「ふむ。その“アレ”とは一体何なのかな?」

 

清治が代表して問いかける。

五つ子は一度顔を見合わせた。

そして──

 

「「「「「せーの」」」」」

「かき氷」

「りんご飴」

「人形焼き」

「チョコバナナ」

「焼きそば」

『……』

 

沈黙。

……揃うわけがなかった。

 

「いや揃わんのかい!」

「むしろなんで揃うと思ったのよ」

「揃う方がおかしい……」

「皆さん、それぞれ食べたい物が違っただけですね」

「えへへ、でも全部おいしそうです!」

 

本当にこの五つ子は、顔以外の部分がとことんバラバラだ。

 

「ホント、変わった五つ子だな……」

「今さら?」

 

一花がくすっと笑う。

その瞬間だった。

 

「じゃあ全部買いに行こ!」

「賛成……」

「それが一番早いわね」

「異論ないよ!」

「焼きそば行きましょう!」

 

──早い。

判断が早すぎる。

 

「よし来たぁぁ!焼きそばぁぁ!」

「お前は落ち着け!」

 

政樹が真っ先に走り出し、清治がそれを止めに入る。

一方で──

 

「かき氷どこかなぁ」

「りんご飴はあっちね」

「人形焼き……あった」

「チョコバナナも捨てがたいですねぇ!」

 

五つ子はすでに“散開”していた。

 

「おい、待てって!」

 

完全に統率が崩壊する。

人混みの中へ、それぞれが好きな方向へ向かっていく。

 

「……はぐれるぞ、これ」

 

ぽつりと風太郎が呟く。

その言葉は、正しい。

──けど。

 

「まあ、楽しそうだからいいか」

 

僕は小さく笑った。

視線の先では、浴衣姿の彼女たちが、それぞれの“好き”に向かって駆けている。

 

黒。

青。

緑。

赤。

黄色。

 

それぞれ違う色が、人混みの中で揺れていた。

その背中は──どこか、少しだけ。

いつもより眩しく見えた。

 


 

~かき氷屋台~

 

「いやぁ~、夏って感じするよね~♪」

 

黄色の浴衣を揺らしながら、一花が楽しそうにメニューを眺めている。

屋台の明かりに照らされた横顔は、いつもの飄々とした笑みを浮かべているのに、どこか大人びて見えた。

 

「で、何味にするの?」

「うーん……悩むなぁ」

 

ちらり。

 

「カズキ君は?」

「僕?無難にいちごかな」

「ふーん……じゃあ私もいちごにしよっかな」

「真似かよ」

「違うよ?偶然♪」

 

くすっと笑う一花。

どう考えても偶然ではない。

──受け取ったかき氷は、屋台の光を受けて赤く透けていた。

 

「はい、あーん」

「は?」

 

当然のようにスプーンが差し出される。

 

「一口くらいいいじゃん」

「いや、自分のがあるでしょ」

「同じ味でも、人が食べてる方って気になるじゃん?」

「理屈になってない」

「いいからいいから♪」

 

……面倒だな。

仕方なく、一口だけ食べる。

氷の冷たさと、いちごシロップの甘さが口の中に広がった。

 

「どう?」

「普通にうまい」

「でしょ?」

 

満足そうに笑う一花。

そのまま彼女も、自分のかき氷を一口食べる。

 

「……同じ味なのにさ」

 

ぽつり。

 

「なんか違う気がしない?」

「気のせいでしょ」

「そっかぁ」

 

軽く流すように言って、一花はまた笑った。

でも、その目は少しだけ楽しそうだった。

まるで、こちらの反応を確かめているように。

 


 

~りんご飴屋台~

 

「……これ、どうやって食べるのよ」

 

りんご飴を前に、二乃が眉をひそめる。

艶のある赤。

見た目は綺麗だが、明らかに食べにくい。

 

「かじればいいだろ」

 

横から政樹が何気なく言う。

 

「無理に決まってるでしょ!こんなの!」

 

ガリッ。

 

「……いけるぞ」

 

言った本人は、何の躊躇もなくりんご飴にかじりついていた。

 

「はぁ!?アンタ顎どうなってんのよ!」

「鍛えてるからな!」

 

ドヤ顔。

 

「意味分かんないんだけど!」

 

呆れながらも、二乃の視線はちらりと政樹に向かう。

 

(……普通に食べてるし)

 

少しだけ悔しい。

そして、それ以上に。

政樹があまりにも楽しそうに笑うものだから、つい目が止まってしまう。

その様子を見て、聖奈が静かに口を開いた。

 

「二乃さん。少し割って食べればよろしいのでは?」

「……なるほど」

 

二乃はりんご飴を軽く屋台の縁に当てる。

 

コン。

パキッ。

 

「あ、割れた」

「ほらな」

 

政樹が笑う。

 

「……」

 

その顔に、ほんの一瞬だけ、また目が止まった。

 

(……なんでちょっと嬉しそうなのよ、あいつ)

 

「……ありがと」

 

ぼそっと。

 

「え?」

「な、なんでもない!」

 

即座に顔を逸らす。

 

「つーか、別にアンタのおかげじゃないし!」

「いや今完全に俺の──」

「違うって言ってんでしょ!」

 

バシッ、と軽く叩く。

 

「いってぇ!」

 

そのやり取りを見て、聖奈が小さく息をついた。

 

「……仲がよろしいですね」

「どこがよ!」

 

即反論。

けれど。

 

「……ほら」

 

二乃は割ったりんご飴を一つ、無言で差し出した。

 

「食べなさいよ」

「お、いいのか?」

「別に余っただけ!」

 

そっぽを向く。

 

「……サンキューな」

 

政樹は素直に受け取って食べる。

 

「うまっ!」

 

満面の笑み。

──その瞬間。

 

「……っ」

 

ほんの一瞬だけ。

二乃の頬が、わずかに緩んだ。

 

「……うるさい」

 

小さく呟く。

でもその声は──さっきより、少しだけ柔らかかった。

 


 

~人形焼き屋台~

 

「……これ、可愛い」

 

三玖が小さく呟く。

手のひらの上には、丸く焼かれた人形焼き。

屋台の灯りを受けて、少しだけ温かそうに見える。

 

「食べ物だぞ、それ」

 

隣で風太郎が呆れる。

 

「……分かってる」

 

三玖はじーっと人形焼きを見つめる。

 

「……でも、ちょっとだけ」

 

一つ取って──

 

「……はい」

 

差し出した。

 

「なんだ?」

「……一個、あげる」

「……」

 

風太郎は少しだけ目を瞬かせ、それを受け取った。

 

「……ありがとな」

 

小さく一口。

 

「……甘いな」

「うん」

 

三玖が少しだけ笑う。

その笑みは控えめで、けれど確かに嬉しそうだった。

 

「……カズキにも、あとであげる」

 

ぽつり。

風太郎は聞こえていないふりをした。

ただ、参考書を読んでいる時とは違う顔で、少しだけ空を見上げていた。

 


 

~チョコバナナ屋台~

 

「おおお~!見てくださいこれ!」

 

四葉がテンションMAXで跳ねている。

屋台に並ぶチョコバナナは、カラフルなトッピングがされていて、まるで小さな宝石みたいだった。

 

「全部食う気か?」

「いけます!」

 

即答。

 

「じゃあ勝負するか?」

 

政樹がニヤリと笑う。

 

「いいですね!負けませんよ!」

 

──結果。

 

「む、無理です……!」

「勝ったぁぁ!」

 

完全敗北。

 

「食い過ぎだ、お前ら……」

 

清治が冷静にツッコむ。

その横で、らいはが小さく笑っていた。

 

「四葉さん、はい。これ半分こしましょ?」

「いいんですか!?」

「はい♪」

「やったー!」

 

四葉は一瞬で元気を取り戻す。

──単純だな。

でもその笑顔は、間違いなく本物だった。

 

「らいはちゃんは優しいですね!」

「四葉さんが楽しそうだからです!」

 

二人は顔を見合わせて笑う。

その光景だけを切り取れば、祭りの中でもひときわ眩しい場面だった。

 


 

~焼きそば屋台~

 

「やはり、これですね」

 

五月は迷いなく焼きそばを選んでいた。

 

「食うの早いね」

「冷める前に食べるのが基本です」

 

真顔。

その真剣さが、妙に五月らしい。

 

「……それもそうか」

 

僕は隣に立つ。

屋台の鉄板から漂うソースの香りが、祭りの空気と混ざって鼻をくすぐった。

 

「少し食べます?」

「いいの?」

「はい。どうぞ」

 

五月は箸で焼きそばを持ち上げ、こちらに差し出した。

 

「……じゃあ」

 

一口。

 

「……うまい」

「でしょう?」

 

五月は少しだけ誇らしげに微笑んだ。

 

「……こういうのも、いいですね」

 

ぽつりと呟く。

 

「こういうのって?」

「その……皆で来て、少し分け合って」

 

少しだけ視線を逸らす。

 

「……楽しいです」

「……そうだね」

 

短く返す。

でも、その言葉は──しっかり届いていた。

五月はもう一口焼きそばを食べると、少しだけ照れたように笑った。

 


 

──再集合。

それぞれの手には、違う食べ物。

違う時間。

違う距離。

けれど。

 

「……結局、全部揃ってるな」

 

そう呟く。

五つ子の選んだものが、全部そこにあった。

 

「そりゃそうでしょ」

 

二乃が笑う。

 

「私たちなんだから」

 

その言葉に──誰も否定しなかった。

夜は、まだ始まったばかりだった。

 


 

~二乃side~

 

──そして。

 

人の波に、飲み込まれた。

 

「ちょっと、みんなどこ……!?」

 

気づいた時には、すぐ近くにいたはずの姉妹たちの姿が消えていた。

浴衣の色も、声も、屋台の灯りと人の影に紛れて見えない。

人が多い。

多すぎる。

肩がぶつかる。

袖が揺れる。

知らない声が四方から押し寄せてくる。

 

「嘘でしょ……」

 

二乃は周囲を見回す。

だが、見えるのは人、人、人。

黒い浴衣の袖を握りしめた瞬間、横から人の流れに押された。

 

「っ……!」

 

足元がわずかに崩れる。

このままでは倒れる──そう思った瞬間。

 

「ほら、それじゃ倒されっぞ」

 

強い手が、二乃の手首を掴んだ。

ぐい、と引き上げられる。

 

「政樹君……!」

 

そこにいたのは、政樹だった。

いつも通りの明るい顔。

けれど、今はそれが妙に頼もしく見えた。

 

「おう。しかしヤベーな、この状態は……」

 

政樹は周囲を見渡す。

 

「とりあえず、俺らだけでも予約してるとこ行くぞ」

「う……うん……」

 

二乃は頷く。

 

(ピンチに颯爽と現れてくれるなんて……素敵すぎるんだけど)

 

手首を掴まれたまま、人波を進む。

普通なら文句の一つでも言うところだ。

でも今は──言えなかった。

言いたくなかった。

 

「場所はどこだ?」

「もう少し進んだら、人波を右に抜けて」

「オッシャッ、任せとけ!」

 

振り向きざまに、政樹がニカッと笑う。

それだけで、二乃の心はまた跳ねた。

 

(な、何なのよ……!いちいち格好いいじゃない……!)

 

政樹は人の波などものともせず、ズンズンと進んでいく。

不思議だった。

さっきまで怖かった人混みが、今は少しだけ平気に思える。

手首を掴む力は強い。

でも、乱暴ではない。

ちゃんとこちらの歩幅を見ている。

 

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ!」

「そっか。なら行くぞ!」

「……うん」

 

返事が、少しだけ素直になる。

やがて人波を抜け、目的のビル前まで出ることができた。

 

「ウッシ!後はこの屋上に行けば、みんな揃うだろ」

「そうね。早く行きましょ。もうすぐ花火始まっちゃうわ」

 

二人でビルの入り口へ向かおうとした、その時。

 

「政樹さん。ここまで案内ありがとうございます」

 

後ろから、静かな声がした。

 

「うおっ!?あ、(あね)さん!?」

 

政樹と二乃は、慌てて振り返る。

そこにいたのは、淡い紫の浴衣を揺らす聖奈だった。

 

「ふふふ。政樹さんは大きくて目立つので助かりました」

「あ、あんた、いつから!?」

「二乃さんが政樹さんに掴まったところからですが?」

 

当然のように答える聖奈。

 

(二人が良い雰囲気になってたの、絶対見てたでしょ!)

 

二乃は心の中で叫んだ。

だが聖奈は、いつもの涼しい顔。

 

「しっかし、(あね)さんが無事で良かったっす!」

「ありがとうございます。政樹さんも、二乃さんをしっかり誘導していましたね」

「ウッス!任されたんで!」

 

政樹は胸を張る。

その横で、二乃はそっと手首を見下ろした。

先ほどまで掴まれていた場所が、まだ少しだけ熱い気がした。

 

「二乃、屋上への案内頼む」

「え、ええ。こっちよ!」

 

二乃は慌てて先頭に立つ。

 

(もしかしたら、姉妹の誰かがもう来てるかも……!)

 

そう思いながら階段を上る。

一段。

また一段。

外の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。

そして屋上の扉を開けた瞬間──

 

ヒューー……

ドオォォン!

 

一発目の花火が、夜空に咲いた。

 

「お、間に合ったな」

「しかし……他には誰もいませんね」

 

政樹は花火に間に合ったことに安堵し、聖奈は周囲を見回して呟く。

二乃は、そこでようやく気づいた。

 

「……」

 

誰もいない。

 

一花も。

三玖も。

四葉も。

五月も。

和喜たちも。

 

「……どうしよう」

 

ぽつりと声が漏れる。

 

「この場所……誰にも教えてないや……」

「「え!?」」

 

政樹と聖奈の声が重なる。

 

ヒューー……

ドオォォン!

 

二人の驚きを気にしないように、二発目の花火が夜空に開く。

綺麗だった。

けれど今の二乃には、その美しさを楽しむ余裕などなかった。

 

「……まずいですね」

 

聖奈が静かに呟く。

 

「マジか……」

 

政樹もさすがに表情を引き締める。

二乃は唇を噛んだ。

花火は始まった。

でも──

本当に集まるべき人たちは、まだそこにいない。

夜空に咲く光の下で。

二乃の胸に、不安が静かに広がっていった。

 

 




ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

花火大会回ということで、今回は“夏の特別感”をかなり意識して書きました。

人混みで離れてしまう不安。
その中で見つける安心感。
そして、いつもとは少し違う距離感。

そして花火大会は、まだ終わりません。

ここからさらに、止まっていた感情や、気づいていなかった想いが、少しずつ動き始めます。

もし面白いと思っていただけましたら、感想・評価・お気に入り登録で応援していただけると、とても励みになります!

それでは、また次回もよろしくお願いします!

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