屋台ではしゃいでいたはずが、気づけばバラバラ。
でも、そんな夜だったからこそ見えた想いや、言葉にできなかった気持ちもあったのかなと思います。
特に今回は、一花の“夢”についても少し踏み込んでみました。
皆との時間を大切にしたい。
でも、夢も諦めたくない。
その間で揺れる一花を書きたくて、今回の話に繋がっています。
そして、花火大会が終わったあと。
大きな花火ではなく、皆で囲む小さな手持ち花火の時間も楽しんでもらえたら嬉しいです!
それでは──
『五人で笑う、花火のあと』
どうぞお楽しみください!
「お、間に合ったようだね」
屋上へ戻った瞬間、夜空いっぱいに大輪の花が咲いた。
ヒュゥゥゥ──……ドォォォン!!
花火大会はいよいよ終盤。
数玉の花火が、間を空けることなく夜空へ打ち上げられている。
赤、青、金。
色とりどりの光が、夜を塗り替えるように広がっていた。
「兄貴!」
「和喜さん!」
「和喜君っ!」
僕の姿を見つけた皆が、こちらへ集まりかける。
けれど──
「皆お待たせ」
軽く手を上げて、それを止めた。
「僕はちょっと疲れたから、三玖の横にでも座ってるよ。皆はそのまま花火見てな」
そう言いながら笑うと、皆もひとまず安心したように息を吐く。
「それは良いけど、一花はどうしたのよ!?」
真っ先に詰め寄ってきたのは二乃だった。
やはり気になっていたのだろう。
黄色の浴衣がここにいないことを。
「後から合流するってさ」
僕は静かに答える。
「大丈夫。僕に考えがあるから」
「……考え?」
二乃が眉をひそめる。
けれど。
「花火はこれで終わりじゃない、だろ?」
そう返すと、二乃は少しだけ呆れたように息を吐いた。
「……よく分かんないけど」
視線を逸らしながら、小さく肩をすくめる。
「今は、あんたを信じることにするわ」
そのまま政樹の隣へ戻っていく。
「おっ、信頼されてんなぁ兄貴!」
「茶化すな」
笑いながら返す。
その視線の先。
四葉とらいはちゃんに挟まれる形で、風太郎が花火を見上げていた。
「わぁぁ~!すごいです上杉さん!」
「お兄ちゃん見て!ハートみたい!」
「お、おう……だから引っ張るな」
両側から腕を掴まれながら、どこか居心地悪そうにしている。
……けど。
なんだかんだ、ちゃんと付き合ってる辺りがあいつらしい。
「……」
僕はその光景を眺めながら、三玖の隣へ腰を下ろした。
その瞬間。
ふと、視界に入る。
──空いている場所。
本来なら、そこにいるはずだった黄色の浴衣。
「……」
皆、口には出していない。
けれど。
誰もが一度は、その空席を見ていた。
「お疲れさま、カズキ……」
隣で、三玖が小さく声をかけてくる。
「ははは……まあ、一花をこの場所に連れてこれなかったけどね」
苦笑混じりに返す。
すると──
「どうぞ」
目の前に、焼きそばの入ったパックが差し出された。
五月だった。
「和喜君の事です。何かあるのでしょう?」
その声に、不安はない。
むしろ、信じているような響きだった。
「ま、それで納得してくれるかは皆次第だけどね」
焼きそばを受け取りながら返す。
「こちらもどうぞ」
今度は、聖奈から冷えたお茶のペットボトルが差し出された。
「ありがとう」
受け取る。
その横で、清治が静かに笑った。
「全くだ。どこまで先を読んでいるのやら」
「兄さんの顔、完全に成功する時の顔してますからね」
「いやいや、そこまで大したこと考えてないって」
過大評価だ。
……とはいえ。
「……」
夜空を見上げる。
ヒュゥゥゥ──……ドォォォン!!
大輪の花火が、再び夜を照らした。
黄色。
まるで、一花の浴衣みたいな色だった。
「……間に合うさ」
小さく呟く。
夢にも。
この時間にも。
きっと。
まだ、間に合う。
そう思いながら、僕は焼きそばを一口頬張った。
ソースの香りと、夏の夜風。
そして、夜空を彩る花火の光。
その全部を感じながら。
僕たちは、大会最後の花火を静かに見上げるのだった。
~オーディション会場・審査室~
「それでは中野さん、お願いします」
静かな声。
真正面には審査員が三人。
その視線は鋭く、空気は張り詰めている。
──けれど。
「……はい」
一花は、小さく息を吸った。
緊張していない訳じゃない。
むしろ、かなりしている。
急遽決まったオーディション。
祭り会場からそのまま来たようなものだ。
準備時間も少ない。
それでも──
(やるしかない)
手の中の台本を握り直す。
「では、“別れのシーン”から」
審査員の声。
一花は静かに頷き、役へと入った。
「……どうして?」
声色が変わる。
さっきまでの“中野一花”ではない。
「どうして、何も言わずにいなくなっちゃったの?」
悲しそうに揺れる瞳。
震える声。
「私……ずっと待ってたんだよ?」
自然だった。
感情の乗せ方。
間の取り方。
視線。
どれもレベルが高い。
審査員たちも、静かに資料へメモを書き込んでいる。
「……でも」
一花は俯く。
「君には夢があるから」
相手役の台詞を、一人で続ける。
「僕は邪魔になる」
そこで。
「……っ」
一花の呼吸が、一瞬だけ止まった。
“夢”。
その言葉が、妙に胸に刺さった。
今日、自分が選んだもの。
皆との時間より優先したもの。
それを思い出してしまった。
「……私は」
続ける。
「そんなの、嫌」
自然と声に熱が入る。
「夢も大事。でも……」
顔を上げる。
その瞬間。
ふと、脳裏に浮かんだ。
街灯の下。
花火の音。
そして──
『両方欲張ればいい』
『その笑顔があれば敵なしだな』
「……っ」
思わず、笑みが零れた。
作った笑顔じゃない。
演技でもない。
ただ。
誰かを思い出して、自然に溢れた笑顔。
その瞬間だった。
──空気が変わる。
審査員の一人が、ふっと顔を上げた。
別の審査員も、ペンを止める。
「……」
一花自身も気づいていた。
今のは、“役”だけじゃなかった。
「一緒にいたいって思うのは……ダメかな」
小さく。
でも真っ直ぐに。
その言葉が落ちた瞬間。
室内が静まり返る。
数秒。
誰も口を開かなかった。
そして──
「……はい、ありがとうございました」
審査員の声。
けれど。
その表情は、さっきまでとは少し違っていた。
「……中野さん」
退出しようとした時だった。
一花が振り返る。
すると、中央に座っていた審査員が静かに口を開いた。
「最後の笑顔」
「……はい」
「非常に良かったです」
短い言葉。
けれど。
その一言が、真っ直ぐ胸に届いた。
「作っていない自然さがありました」
「……っ」
一花の目が、少しだけ見開かれる。
「技術だけでは出せない表情です」
静かな評価。
でも、それは──
今までで一番欲しかった言葉だった。
「……ありがとうございます」
深く頭を下げる。
その瞬間。
胸の奥にあった不安が、少しだけ軽くなった気がした。
審査室を出る。
扉が閉まる。
「……はぁ~~~……」
一気に力が抜けた。
壁に背中を預ける。
「終わったぁ……」
緊張していた。
思っていた以上に。
けれど──
「……ふふっ」
自然と笑みが零れる。
『その笑顔があれば敵なしだな』
「……もう」
思わず顔を覆う。
「反則なんだって、ああいうの……」
胸が少しだけ熱かった。
でも。
その熱は、不思議と嫌じゃなかった。
遠くで、花火の音が響く。
ヒュゥゥゥ──……ドォォォン!!
夜空に咲く大輪の花。
一花は、その音を聞きながら小さく目を閉じた。
「……ちゃんと、頑張れたかな」
ぽつりと漏れたその言葉は、誰に向けたものだったのか。
一花自身にも、分からなかった。
「一花ちゃーん!」
廊下の向こうから、織田社長が駆け寄ってくる。
「お疲れ様ぁ!いやぁ~良かったよぉ!最後の笑顔めちゃくちゃ自然だった!」
「えへへ、ホントですか?」
「ホントホント!あれは強い!」
興奮気味に語る織田社長。
「これは期待できるよぉ~!」
「だといいんですけどね」
笑いながら返す。
でも。
「……?」
織田社長が、ふと首を傾げた。
「どうしたの?」
「え?」
「なんか、元気ない?」
「……そんなことないですよ?」
いつもの笑顔。
いつもの調子。
……のはずだった。
「うーん……」
織田社長は少し考え込む。
だが。
「あ、そうだ!」
ぽん、と手を叩いた。
「外、迎え来てるよ!」
「……え?」
迎え?
誰が?
「行けば分かるって!」
背中を押される。
訳が分からないまま、一花は事務所の出口へ向かった。
そして──
自動ドアが開く。
夜風が吹き込む。
その先。
街灯の下。
壁にもたれかかるように立っていた人影を見て、一花は目を瞬かせた。
「……カズキ君?」
「お疲れ」
和喜だった。
「……なんでいるの?」
思わず聞き返す。
すると和喜は、当たり前みたいに肩をすくめた。
「迎え」
「迎えって……」
ぽかんとする一花。
「花火、まだ終わってないし」
「……え?」
意味が分からず目を丸くする。
そんな一花を見て、和喜は小さく笑った。
「行こう。一花」
そう言って歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌てて追いかける。
「どういうこと!?」
「行けば分かる」
「気になるんだけど!?」
「まあまあ」
はぐらかすように笑う。
「……むぅ」
納得いかない。
でも、隣を歩くその背中を見ていると、不思議と安心した。
数分後。
「……ここって」
辿り着いたのは、河川敷近くの小さな公園だった。
花火大会の喧騒から少し離れた場所。
静かな夜風。
遠くで聞こえる祭りの余韻。
そして──
「一花ぁぁーー!!」
元気な声。
次の瞬間、四葉が勢いよく飛びついてきた。
「うおっと」
「一花!おかえりなさい!」
「え、ちょ、四葉っ!?」
慌てる一花。
その向こうでは。
「遅いわよ、バカ」
二乃が腕を組んで立っていた。
けれど、その表情はどこか安心している。
「……お疲れ」
三玖が小さく微笑む。
「頑張ったんだね」
「三玖……」
「お疲れ様です、一花」
五月もほっとしたように息を吐いた。
「無事で良かったです」
「……うん」
さらに。
「お、主役の帰還だな!」
「遅刻だぞ、一花さん」
「まあ間に合ったなら問題ないだろ」
政樹、清治、風太郎までいる。
そして。
「一花さん、おかえりなさい!」
らいはちゃんが、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「……え」
一花は目を瞬かせる。
皆がいる。
全員。
ちゃんと、待っていた。
「……なに、これ」
呆然と呟く。
すると。
「花火第二ラウンドだよ」
笑いながら伝える。
次の瞬間。
シュボッ──
小さな火が灯る。
手持ち花火。
「せっかく浴衣なんだし、これくらいしないとな」
僕がそう言うと、四葉が元気よく手を上げた。
「賛成です!!」
「私、線香花火やりたい」
「俺は打ち上げ系だな!」
「やめなさい危ないから!」
一気に騒がしくなる。
さっきまでの静けさが嘘みたいだった。
「……っ」
一花は、その光景を見つめる。
胸の奥が、熱くなる。
夢を選んだ。
だから、もう間に合わないと思っていた。
でも。
「……カズキ君」
小さく名前を呼ぶ。
「ん?」
「……間に合わなかったと思った」
本音だった。
すると僕は、手持ち花火に火をつけながら小さく笑った。
「だから言っただろ」
ぱちぱちと火花が散る。
その光の中で。
「途中からでも、きっと間に合うって」
「……っ」
その瞬間。
一花の目尻が、少しだけ熱くなった。
「……ほんと」
困ったように笑う。
「ずるいなぁ、カズキ君は」
そう言いながら受け取った花火に火をつける。
ぱちぱちと、小さな光が夜に咲く。
大きな花火大会は終わった。
でも。
皆で笑うこの時間は、確かにここにあった。
夢も。
仲間も。
自分の気持ちも。
全部を諦めなくていい。
夜風の中、一花は小さく笑う。
その笑顔は──
今日一番、自然なものだった。
「ウッシ!じゃあ、一花も来たことだし本格的に始めようぜ!」
政樹の音頭で皆がそれぞれの花火を手にする。
そんな中──
「みんな!」
一花が一歩前に出てきた。
そして──
「ごめん!私の勝手でこんなことになっちゃって…本当にごめんね」
頭を下げながら謝る一花。
「そこまで謝らなくても良いのではないですか」
「だな。一花さんもしっかりと反省しているのだから」
そんな一花に対して、聖奈と清治がフォローをいれる。
が──
「全くよ」
二乃がそれを許さない。
「何で連絡くれなかったのよ。今回の原因の一端はあんたにあるわ」
責める二乃。だが……
「あと、予約場所を共有してなかった私も悪い」
恥ずかしげに顔を逸らしながらそんな言葉を綴った。
「今回の件は誰が悪いとかはありません。何せ、全員ではぐれてしまったのですから」
そこに再び聖奈のフォローが入る。
「お母さんがよく言っていました」
「?」
二乃が一花に花火を渡し、五つ子は五人で円を描くように立った。そして、中心に向かって花火を向ける。
五月の言葉に聖奈が不思議そうな顔をしたのが少し気にはなったが…
「誰かの失敗は五人で乗り越えること。誰かの幸せは五人で分かち合うこと」
「ほおぉ~」「へえぇ~」「!!」
五月の綴る言葉に、清治と政樹は興味深く耳を傾けるなか、聖奈だけは驚きの表情で目を見開いていた。
「喜びも」
「悲しみも」
「怒りも」
「慈しみも」
「私たち全員で五等分ですから」
なるほど。良い母を持ったようだな。
「すみません、少し席を外します」
僕が関心してるなか、聖奈は一人離れた場所に向かった。
その際に目から一筋の涙が流れていたような気がしたが、気のせいだっただろうか。
ま、今は五人笑顔で花火をしている。
それだけで良しとしますか。
「なあ、和樹」
「ん?」
そこへらいはちゃんをおんぶした風太郎が近づいてきた。
どうやら、らいはちゃんは疲れて眠ってしまったようである。
「俺、もう帰って勉強しても良いんじゃないか?」
「は?」
何を言っているのかな、このぼんくらは…
「いや、五人揃って笑顔で花火をしている。らいはも満足そうに眠ってる。俺いらなくね?」
「はぁぁ…」
「お前って奴はよぉー!」
風太郎のその言葉には、流石の清治と政樹もため息しか出なかった。
「ふぅ~~太郎さぁ~~ん」
「───っ!」
そして、凍りつくような声を風太郎を襲う。
声の主は聖奈。いつの間に戻ってたんだ。
その後、らいはちゃんは僕が預かり風太郎は聖奈のお説教を受ける事になったのだった。
聖奈が席を外したのは、五つ子の言葉に感動して、涙を見せたくなかったからとか。
まあ、乙女心は分からないな。
政樹と清治には、花火に参加するように伝えて、僕は近くのベンチに座り、膝枕でらいはちゃんを寝かせた。
「カズキ…」
「和喜君」
そこに三玖と五月が微笑みながら近づいてきた。
手持ち花火の火が、ぱちぱちと夜を照らす。
大きな打ち上げ花火とは違う。
けれど。
こうして皆で囲む小さな光も、不思議と嫌いじゃなかった。
「らいはちゃん寝ちゃいましたね」
「んー……完全に電池切れだな」
膝の上では、らいはちゃんがすやすやと寝息を立てている。
さっきまであれだけはしゃいでいたのだから、無理もない。
「ふふっ……幸せそう」
三玖が小さく微笑む。
その声につられるように、五月も優しく目を細めた。
「本当に。良い寝顔ですね」
そう言いながら──
二人とも、自然と僕の隣へ腰を下ろした。
左に三玖。
右に五月。
……近いな。
「カズキ、疲れてない?」
三玖がそっと顔を覗き込んでくる。
「ん?まあ、それなりには」
「……肩、貸そうか」
ぽつり。
かなり自然に言った。
「いや、膝枕しながらそれやると、僕の首が大変なことになるんだけど」
「……あ」
想像したのか、三玖がほんの少し赤くなる。
「……ごめん」
「いやいや、気持ちはありがと」
苦笑しながら返す。
すると。
「三玖」
五月が静かに口を開いた。
「和喜君は、今らいはちゃんを寝かせているのですから、あまり動かさない方が良いと思います」
「……」
一見、正論。
だが。
「……五月、さっきから近い」
三玖がじっと五月を見る。
「そちらこそ」
即答だった。
「三玖は左側に寄りすぎです」
「五月も」
静か。
なのに、妙な圧がある。
「「……」」
……なんだこれ。
花火の音の代わりに、変な火花散ってない?
「二人とも、どうしたの?」
素直に聞いてみる。
すると。
「「別に」」
綺麗にハモった。
「息ぴったりじゃん」
「良くありません」
「……不本意」
いや、そこも揃うのか。
そんなことを考えていると──
「なになに~?」
間延びした声が聞こえた。
「二人とも、カズキ君の取り合い?」
一花だった。
にやにやとこちらへ歩いてくる。
「ち、違います!」
「……違う」
反応は真逆。
だが、どちらも少しだけ早口だった。
「えぇ~?ホントにぃ?」
一花は楽しそうに笑う。
完全に分かってて弄ってる顔だ。
「一花、あんまり煽るなよ」
「だって面白いんだもん♪」
悪びれもせず、僕の後ろからベンチに体を預けてくる。
「うおっ、近い」
「疲れたんだよぉ~。今日は色々あったし?」
確かに、それはそうだ。
オーディションまで行ってきたのだから、精神的にも疲れているだろう。
「……お疲れ様」
そう言うと。
一花は、一瞬だけ目を丸くした。
「……んふふ」
そして、少しだけ嬉しそうに笑う。
「ありがと、カズキ君」
その笑顔を見て。
三玖と五月が、ほんの少しだけ視線を細めた。
……あ、これ。
また始まるやつだ。
「ところでさ」
一花が僕の肩越しに三玖たちを見る。
「二人とも、さっきから距離近くない?」
「……普通」
「普通です」
またハモった。
「いや絶対普通じゃないだろ」
「気のせい」
「気のせいです」
「えぇ……」
なんなんだこの連携。
すると。
「和喜君」
五月が、少しだけ真面目な声を出した。
「……今日は、その」
言葉を探すように視線を揺らす。
「助けていただいて……ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。
さっき、人混みの中で泣いていた時とは違う。
いつもの五月に戻っていた。
「気にしなくていいよ」
「ですが……」
五月は、少しだけ言葉を詰まらせる。
「一人になった時、とても不安で……」
小さな声。
「だから、和喜君が見つけてくださった時……本当に安心したんです」
……ああ。
そういえば、かなり泣いてたな。
「よしよし。頑張ったな」
「はいっ……」
さっきの光景を思い出しながら五月の頭を撫でる。
すると。
「……五月だけ、ずるい」
ぽつりと三玖が呟いた。
「え?」
「カズキに、いっぱい撫でてもらってる」
「っ!?」
五月の顔が、一気に赤くなる。
「そ、それは……!」
「……私も、怪我した時優しかったけど」
三玖も負けじと続ける。
「お姫様抱っこ、されたし」
「ぶっ!?」
今度は五月が三玖を見る番だった。
「お、お姫様抱っこ!?」
「うん」
三玖は静かに頷く。
でも、その耳は少し赤い。
「……カズキ、すごかった」
「いやまあ、あのまま歩かせる訳にもいかなかったし」
「へぇ~~~?」
そこへ、一花の声。
「カズキ君って、そういうこと普通にするんだ?」
「状況的に仕方ないだろ」
「ふーん?」
にやにやしている。
絶対面白がってる。
「……でも」
三玖が小さく呟く。
「嬉しかった」
花火の火が、ぱちりと弾ける。
夜風が吹く。
その声は小さかったけれど、不思議とはっきり聞こえた。
「……っ」
五月が少しだけ目を見開く。
一花も、一瞬だけ笑みを止めた。
「……そっか」
僕は短く返す。
変に茶化すのも違う気がした。
すると。
「……もう」
一花が小さく笑った。
「今日のカズキ君、無自覚にポイント稼ぎすぎじゃない?」
「なんの話?」
「それが分かってない時点で重症だよねぇ」
「?」
「……天然」
「自覚なしですね」
三人が揃ってため息を吐く。
なんでだ。
「兄貴って、やっぱ兄貴っすねぇ」
少し離れた場所から、政樹がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「全くだ」
清治も呆れたように頷く。
「……なんか今日、僕の評価おかしくない?」
そう呟くと。
「おかしいのは和喜君の距離感です」
「……カズキは近い」
五月と三玖から即座に返された。
「えぇ……」
納得いかない。
そんな僕を見て、一花がくすっと笑う。
「ま、そこがカズキ君らしいんだけどね」
その言葉と同時に。
最後の線香花火が、静かに落ちた。
ぱち。
小さな音。
けれど。
今日という夜が終わるには、どこか優しい音だった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
今回は「花火大会そのもの」よりも、“花火のあとに残る時間”を意識して書いてみました。
はぐれて、不安になって、夢と皆との時間の間で悩んで、それでも最後には、また笑い合える。
そんな“帰ってこられる場所”みたいな空気を感じてもらえていたら嬉しいです。
個人的には、一花のオーディションシーンと、五つ子の「喜びも、悲しみも、怒りも、慈しみも──私たち全員で五等分ですから」が特にお気に入りだったりします。
原作でも素敵ですよね。
そして……和喜君。
本人は無自覚ですが、だいぶ色んな感情を動かしております(笑)
花火は終わっても、五つ子たちの想いは、まだまだ止まりません。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
もし少しでも「良かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、感想や応援をいただけると励みになります!
それでは、また次回!