妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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花火大会を経て、少しずつ変わり始めた日常。

今回も中間試験前の勉強合宿回です。

騒がしくて、賑やかで、 でもどこか心地良い── そんな“みんなで過ごす時間”を書いてみました。

料理、食卓、勉強会。 少しずつ近づいていく距離感も楽しんでいただけたら嬉しいです!




24.温かな時間の過ごし方

中間試験前最後の週末。

今日の勉強会も、一時休憩として夕食タイムにすることになった。

おやつは五つ子たちに作ってもらったので、夕食は僕と聖奈で担当する流れになっている。

とは言え──

 

「十一人分かぁ……」

 

思わず苦笑が漏れた。

 

僕と聖奈。

五つ子。

風太郎とらいはちゃん。

政樹と清治。

 

こうして数えると、なかなかの大人数である。

 

「流石に普通の料理じゃ追いつかないね」

「ですね。量と効率を考えると、やはりカレーが最適でしょう」

 

聖奈が冷静に頷いた。

大鍋で一気に作れて、各自好きな量をよそえる。

勉強合宿にはうってつけだ。

 

その間に、五つ子たちは自宅の風呂へ。

男子組は父さんと母さんに任せ、うちの風呂へ入ってもらうことになっている。

ちなみに、らいはちゃんも人数の関係でこちらだ。

 

・・・・・

 

「へえぇぇ~……二人して手際良いじゃない」

 

丁度その頃。

風呂上がりの二乃がキッチンへ顔を出した。

リボンは外しているが、長い髪ですぐに分かる。

 

「まあ、うちは親が夜勤もあるからね。自然と作れるようになった感じかな」

 

包丁を動かしながら答える。

 

「どっちか暇な方が作る感じ。……まあ、実際は聖奈が作ってることの方が多いけど」

「兄さんも十分作れますよ」

 

聖奈がさらりと補足した。

二乃は興味があるのか、キッチン向かいのカウンターへ肘をつきながらこちらを眺めている。

 

「だったら何でアンタまでそんな慣れてんのよ」

「慣れてるって言っても、聖奈の補助程度だよ。料理なら聖奈とか二乃の方が上手いと思うし」

「そ……そう……」

 

褒められたのが照れ臭いのか、二乃が視線を逸らしながら髪を弄る。

 

……分かりやすいな。

 

五つ子の中でも、二乃は感情が表に出やすい。

 

「さて、後は兄さんに任せますね」

「はいよ」

 

聖奈からバトンタッチを受け、僕はコンロの前へ立った。

鍋へ油を引き、ホールスパイスを投入する。

 

ジュワッ……

 

弱火でじっくり熱を通すと、スパイス特有の香りが少しずつ立ち始めた。

 

「はあぁぁ~~……いい匂いですうぅぅ~~……」

 

匂いにつられたのか、風呂上がりの五月がふらふらと現れる。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!アンタ、ルー使わないの!?」

「ええ。兄さん直伝のスパイスカレーですから」

 

聖奈がどこか誇らしげに答えた。

 

「本当に美味しいんですよ?」

「へぇ……」

 

二乃が驚いた顔をする。

その間にも、刻んだ玉ねぎとトマトを鍋へ投入する。

木べらでじっくり炒め、水分を飛ばしていく。

やがてペースト状になったところで、パウダースパイスを追加。

 

ふわり──

 

一気に香りが広がった。

 

「♪~♪~」

 

気づけば鼻歌が漏れていた。

 

まあ、今さらか。

 

香りが立ったところで水を加え、聖奈に頼んでいた炒め済みの具材を投入。

後は煮込めば完成だ。

 

「ほわぁぁ……良い香りですー!」

「だねぇ。本格的なカレーって感じ♪」

「上がったよ……──っ、すごい美味しそうな匂い……」

 

四葉、一花、そして三玖も風呂上がりでキッチンへ集まってきた。

 

「集まってもまだ食べられないよ。もう少し煮込まないと」

「うぅぅ~~……これは絶対美味しいに違いありません!」

「ははは。そこまで言われると嬉しいな」

 

料理を振る舞うのは嫌いじゃない。

むしろ、こうやって楽しみに待ってくれる瞬間が好きだった。

 

・・・・・

 

しばらく煮込んでいると、男子組とらいはちゃんも風呂から上がってきた。

 

「うおぉぉーー!!兄貴のカレーきたぁぁ!!」

「騒ぐな、喧しい」

「ふっ。まあ政樹の興奮する気持ちも分からなくはないがな」

「和喜さんのカレー、本当に美味しいですからね♪」

 

既にテンションが上がっている。

 

「……カズキ、嬉しそう」

「そう?」

 

三玖の言葉に笑う。

 

「料理ってさ。こうやって喜んでもらえるのが一番なんだよ」

 

お玉で鍋を混ぜながら答えた。

すると。

 

「では兄さん」

 

聖奈が小皿を差し出してくる。

 

「最終確認を」

「了解」

 

少しだけカレーを注ぎ、聖奈へ渡す。

聖奈は息を吹きかけ、一口。

 

「……」

 

数秒の沈黙。

そして。

 

「問題ありません。今日も完璧です」

 

静かに、だが自信満々に太鼓判を押した。

 

「よかった」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

そこで二乃が割って入ってくる。

 

「私にも味見させなさい」

「ん、どうぞ」

 

同じように小皿へ注ぎ、二乃へ渡す。

二乃は慎重に小皿を口へ運び──

 

「……っ」

 

目を見開いた。

 

「どう?」

「……美味しい」

 

ぽつりと呟く。

 

「ちゃんとスパイス効いてるのに辛さだけじゃない……」

「うんうん」

「トマトの酸味も強すぎないし、玉ねぎの甘みも残ってる……」

 

分析するように言葉を重ねる。

 

「あと後味が重くない」

「お、流石」

「料理してるから分かるのよ」

 

そう言いながらも、二乃の表情はどこか嬉しそうだった。

 

「兄さん。そろそろ配膳しましょうか」

「だね」

 

僕は振り返る。

 

「三玖、四葉。悪いけど皿並べお願い」

「うん」

「任せてくださいっ!」

 

三玖が静かに皿を運び、四葉が元気よくスプーンを並べていく。

その横では。

 

「こら一花!つまみ食いしない!」

「えへへ、バレた?」

「バレるわよ!」

 

二乃のツッコミが飛ぶ。

 

「兄さん。サラダはこちらへ」

「了解」

「らいはちゃん、お皿運べますか?」

「うんっ!」

 

気づけば自然と全員が動いていた。

誰かが指示を出した訳じゃない。

けれど、皆が自然に役割を見つけて動いている。

 

……うん。

 

なんか、家族みたいだな。

 

・・・・・

 

「よし、完成」

 

大鍋いっぱいのスパイスカレー。

炊き立ての白米。

サラダ。

そして紅茶。

 

勉強合宿とは思えないくらい、ちゃんとした夕食になっていた。

席順は自然と決まった。

ダイニングテーブルには、僕、二乃、聖奈、四葉、政樹。

リビングテーブルには、一花、三玖、五月、風太郎、清治、らいはちゃん。

 

『いただきます!』

 

声が重なる。

その直後。

 

「うっっっっま!!」

 

政樹が叫んだ。

 

「兄貴これ店出せるって!」

「毎回言ってるなそれ」

「でも本当に美味しいです!」

 

四葉もスプーンを止めずに頷く。

 

「スパイス強いのに食べやすいです!」

「だろ?」

 

すると。

 

「……ねえ」

 

二乃がこちらを見る。

 

「この香りってクミン?」

「正解」

「やっぱり」

 

そこから自然と料理談義が始まった。

 

「最初に油で香り出してたわよね」

「テンパリングね」

「へぇ……」

 

四葉が興味津々で聞いている。

 

「玉ねぎ炒める時間も長かった」

「あれで甘み出るから」

「なるほど……」

 

気づけば、二乃と普通に料理の話をしていた。

その様子を、向かい側の聖奈が静かに眺めている。

時折会話へ混ざりながら。

 

「兄さん、今度二乃さんにもスパイス配合教えてあげればどうです?」

「え!?」

「いや、興味ありそうだし」

「……まあ、別に?」

 

絶対あるなこれ。

 

「でもアンタ、本当に料理出来るのね」

「だから出来るって言ってるだろ」

「ここまでとは思わなかったのよ」

 

二乃が少し悔しそうに唇を尖らせる。

 

「何よその顔」

「いや、珍しいなって」

「何が?」

「二乃が素直に褒めてる」

「──っ!」

 

二乃の動きが止まった。

 

「ち、違っ……別に褒めてる訳じゃないし!」

「はいはい」

「その反応ムカつく!」

 

そう言いながらも、完全にペースを乱されている。

その様子を見て。

 

「ふふっ」

 

聖奈が小さく笑った。

 

「兄さん、楽しそうですね」

「まあね」

 

こんな風に大人数で食卓を囲むなんて、今まであまり無かった。

 

騒がしくて。

賑やかで。

でも、不思議と落ち着く。

 

そんな空気だった。

 

・・・・・

 

その頃。

 

「五月!勝負だ!」

「?」

「どっちが多く食べられるか!」

 

政樹が謎の勝負を挑んでいた。

 

「望むところです」

 

五月も真顔で受けて立つ。

 

十分後。

 

「おかわりお願いします」

「俺も!」

 

さらに十五分後。

 

「もう一杯」

「……まだ食うのかよ……」

 

結果。

五月の圧勝だった。

 

「勝者、五月」

「やりました」

 

五月がどこか誇らしげに胸を張る。

 

「バケモンか……」

「政樹さんが少ないだけでは?」

「うぐっ……!」

 

聖奈の正論が刺さった。

 

「五月ちゃん凄いねぇ」

「食欲だけは最強だな」

「失礼ですね」

 

風太郎の言葉に五月が少し頬を膨らませる。

だが、その横には既に三杯目のおかわりが置かれていた。

説得力がない。

 

「うぅ……食ったぁ……」

 

政樹が椅子へもたれかかる。

 

「まだ勉強あるのに大丈夫?」

「無理っす……眠くなる……」

「なら食べ過ぎるな」

 

風太郎のツッコミが飛んだ。

 

・・・・・

 

食後。

少しだけ休憩時間を挟み、それぞれ自由に過ごしていた。

らいはちゃんは一花たちとテレビを見ながら笑っている。

四葉は眠気覚ましらしくストレッチ。

二乃はキッチンで食器洗いを手伝っていた。

 

「悪いね、手伝わせちゃって」

「別に?料理した側が全部やるの大変でしょ」

 

そう言いながらも、手際はかなり良い。

やっぱり料理慣れしてるな。

 

「……アンタ達って、なんか落ち着くわね」

「ん?」

「その……騒がしいんだけど、嫌じゃないっていうか……」

 

少し照れ臭そうに呟く。

 

「まあ、いつもこんな感じだから」

「変な集まりね」

 

そう言いながら、二乃は小さく笑った。

 

・・・・・

 

食休みを挟み、夜の勉強会が再開された。

今度は、僕がリビングのテーブル側へ移動する。

すると。

 

「ここ」

「では私はこちらで」

「じゃあ私ここー♪」

「私もこの辺りで」

「和喜さん、逃げちゃ駄目ですからね!」

 

気づけば、五つ子が僕を囲むように座っていた。

 

「……なんだこの包囲網」

「逃がさない」

「兄さん、頑張ってください」

「モテモテだねぇ」

 

好き勝手言われている。

 

「いや、普通に教えにくいんだけど」

「問題ない」

「あります」

 

その後は、一人ずつ教科を変えながら勉強を見ることになった。

 

一花には社会。

二乃には国語。

三玖には英語。

四葉には数学。

五月には社会。

 

それぞれ苦手分野を重点的に。

 

「カズキ、ここ」

「はいはい」

「和喜君、こちらも」

「順番ね」

「ねえねえカズキ君~」

「一花も待って」

 

完全に引っ張りだこである。

 

「……兄さん人気者ですね」

「聖奈。笑ってないで助けて」

「嫌です♪」

 

即答だった。

 

・・・・・

 

一方、ダイニング側では──

 

「だからここはこう解くんだよ!」

「わっかんねぇぇ!!」

「理解しろ」

 

風太郎&聖奈による政樹特訓が続いていた。

さらに。

 

「聖奈さん、この問題なのだが」

「はい。こちらですね」

 

清治が自然に質問を挟む。

 

「なるほど……そういう解釈か」

「ええ。なので、この場合は──」

 

距離が近い。

すると。

 

(あね)さん!俺も分かんねぇ!」

「順番です」

「くっ……!」

 

政樹が割り込む。

さらに。

 

「……ここ、どうしてそうなる」

 

風太郎まで質問を始めた。

静かな戦争である。

 

「……何なんだあっち」

 

思わず苦笑する。

 

「聖奈さん人気ですねぇ」

「いや絶対別の意味でしょ」

 

五月の言葉に一花が楽しそうに眺めていた。

 

・・・・・

 

「カズキ」

 

不意に三玖がノートを差し出してきた。

 

「この問題、答えは合ってるけど理由が分からない」

「どれ?」

 

ノートを覗き込む。

 

「……ああ、これか」

 

三玖の横へ少し身体を寄せながら解説を書き込む。

すると。

 

「近い」

「へ?」

「……なんでもない」

 

三玖が少しだけ視線を逸らした。

その瞬間。

 

「おやおや~?」

「一花うるさい」

「まだ何も言ってないよ?」

「顔が言ってる」

 

その横では。

 

「和喜君、ここはどうしてそうなるのですか?」

「五月はこっちね」

 

さらに。

 

「カズキ君、私も分かんなーい」

「一花はまず自分で考える」

「ひどい!」

 

騒がしい。

本当に騒がしい。

でも──嫌じゃない。

むしろ、この空気が心地良かった。

 

・・・・・

 

気づけば、窓の外はすっかり夜になっていた。

時計を見る。

既にかなり遅い時間だ。

それでも。

 

「……ふふっ」

 

誰かの笑い声が響き。

 

「違います!」

「いや合ってるって!」

「だからそこは──」

 

誰かの会話が続いている。

勉強合宿。

そのはずなのに。

今この場所にあるのは、点数だけじゃない気がした。

少しずつ近づいていく距離。

変わっていく関係。

そして。

騒がしくて、温かい時間。

そんな夜は、まだ終わりそうになかった。

 

──その時だった。

 

「兄貴ぃ……」

 

政樹が、完全に死んだ目でこちらを見ていた。

 

「もう脳みそが限界っす……」

「まだ一日目だぞ?」

「聞きたくねぇぇ……」

 

机へ突っ伏す政樹。

すると。

 

「政樹さん」

 

聖奈が静かに口を開く。

 

「あと英単語十個です」

「鬼ぃぃぃ!?」

「頑張ってください」

「笑顔が怖ぇぇぇ!!」

 

食堂へ笑い声が広がる。

 

「ふふっ……」

「はははっ!」

 

一花と四葉が笑い。

 

「……賑やか」

「ですね」

 

三玖と五月も、小さく微笑む。

そんな皆の姿を見ながら、僕はそっと息を吐いた。

 

騒がしくて。

少し疲れて。

でも、不思議と心地いい。

 

こういう時間も、悪くないのかもしれないな。

窓の外では、秋の夜風が静かに揺れていた。

 

 




読んでいただきありがとうございました!

今回はかなり“日常回”寄りのお話でした。 ですが、自分としてはこういう何気ない時間こそ、 関係性の変化や距離感が一番出る瞬間だと思っています。

料理中のやり取り。 食卓の空気。 勉強会で自然と隣に座る距離感。

少しずつ変わっていく彼らの関係を、 今後も丁寧に描いていけたらと思っています。

特に今回は、 二乃の料理トークや、 三玖・五月の自然な距離感、 そして聖奈を巡る男子組の空気感など、 細かい部分も楽しんでもらえていたら嬉しいです。

引き続き応援していただけると励みになります!

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