今回も中間試験前の勉強合宿回です。
騒がしくて、賑やかで、 でもどこか心地良い── そんな“みんなで過ごす時間”を書いてみました。
料理、食卓、勉強会。 少しずつ近づいていく距離感も楽しんでいただけたら嬉しいです!
中間試験前最後の週末。
今日の勉強会も、一時休憩として夕食タイムにすることになった。
おやつは五つ子たちに作ってもらったので、夕食は僕と聖奈で担当する流れになっている。
とは言え──
「十一人分かぁ……」
思わず苦笑が漏れた。
僕と聖奈。
五つ子。
風太郎とらいはちゃん。
政樹と清治。
こうして数えると、なかなかの大人数である。
「流石に普通の料理じゃ追いつかないね」
「ですね。量と効率を考えると、やはりカレーが最適でしょう」
聖奈が冷静に頷いた。
大鍋で一気に作れて、各自好きな量をよそえる。
勉強合宿にはうってつけだ。
その間に、五つ子たちは自宅の風呂へ。
男子組は父さんと母さんに任せ、うちの風呂へ入ってもらうことになっている。
ちなみに、らいはちゃんも人数の関係でこちらだ。
「へえぇぇ~……二人して手際良いじゃない」
丁度その頃。
風呂上がりの二乃がキッチンへ顔を出した。
リボンは外しているが、長い髪ですぐに分かる。
「まあ、うちは親が夜勤もあるからね。自然と作れるようになった感じかな」
包丁を動かしながら答える。
「どっちか暇な方が作る感じ。……まあ、実際は聖奈が作ってることの方が多いけど」
「兄さんも十分作れますよ」
聖奈がさらりと補足した。
二乃は興味があるのか、キッチン向かいのカウンターへ肘をつきながらこちらを眺めている。
「だったら何でアンタまでそんな慣れてんのよ」
「慣れてるって言っても、聖奈の補助程度だよ。料理なら聖奈とか二乃の方が上手いと思うし」
「そ……そう……」
褒められたのが照れ臭いのか、二乃が視線を逸らしながら髪を弄る。
……分かりやすいな。
五つ子の中でも、二乃は感情が表に出やすい。
「さて、後は兄さんに任せますね」
「はいよ」
聖奈からバトンタッチを受け、僕はコンロの前へ立った。
鍋へ油を引き、ホールスパイスを投入する。
ジュワッ……
弱火でじっくり熱を通すと、スパイス特有の香りが少しずつ立ち始めた。
「はあぁぁ~~……いい匂いですうぅぅ~~……」
匂いにつられたのか、風呂上がりの五月がふらふらと現れる。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!アンタ、ルー使わないの!?」
「ええ。兄さん直伝のスパイスカレーですから」
聖奈がどこか誇らしげに答えた。
「本当に美味しいんですよ?」
「へぇ……」
二乃が驚いた顔をする。
その間にも、刻んだ玉ねぎとトマトを鍋へ投入する。
木べらでじっくり炒め、水分を飛ばしていく。
やがてペースト状になったところで、パウダースパイスを追加。
ふわり──
一気に香りが広がった。
「♪~♪~」
気づけば鼻歌が漏れていた。
まあ、今さらか。
香りが立ったところで水を加え、聖奈に頼んでいた炒め済みの具材を投入。
後は煮込めば完成だ。
「ほわぁぁ……良い香りですー!」
「だねぇ。本格的なカレーって感じ♪」
「上がったよ……──っ、すごい美味しそうな匂い……」
四葉、一花、そして三玖も風呂上がりでキッチンへ集まってきた。
「集まってもまだ食べられないよ。もう少し煮込まないと」
「うぅぅ~~……これは絶対美味しいに違いありません!」
「ははは。そこまで言われると嬉しいな」
料理を振る舞うのは嫌いじゃない。
むしろ、こうやって楽しみに待ってくれる瞬間が好きだった。
しばらく煮込んでいると、男子組とらいはちゃんも風呂から上がってきた。
「うおぉぉーー!!兄貴のカレーきたぁぁ!!」
「騒ぐな、喧しい」
「ふっ。まあ政樹の興奮する気持ちも分からなくはないがな」
「和喜さんのカレー、本当に美味しいですからね♪」
既にテンションが上がっている。
「……カズキ、嬉しそう」
「そう?」
三玖の言葉に笑う。
「料理ってさ。こうやって喜んでもらえるのが一番なんだよ」
お玉で鍋を混ぜながら答えた。
すると。
「では兄さん」
聖奈が小皿を差し出してくる。
「最終確認を」
「了解」
少しだけカレーを注ぎ、聖奈へ渡す。
聖奈は息を吹きかけ、一口。
「……」
数秒の沈黙。
そして。
「問題ありません。今日も完璧です」
静かに、だが自信満々に太鼓判を押した。
「よかった」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
そこで二乃が割って入ってくる。
「私にも味見させなさい」
「ん、どうぞ」
同じように小皿へ注ぎ、二乃へ渡す。
二乃は慎重に小皿を口へ運び──
「……っ」
目を見開いた。
「どう?」
「……美味しい」
ぽつりと呟く。
「ちゃんとスパイス効いてるのに辛さだけじゃない……」
「うんうん」
「トマトの酸味も強すぎないし、玉ねぎの甘みも残ってる……」
分析するように言葉を重ねる。
「あと後味が重くない」
「お、流石」
「料理してるから分かるのよ」
そう言いながらも、二乃の表情はどこか嬉しそうだった。
「兄さん。そろそろ配膳しましょうか」
「だね」
僕は振り返る。
「三玖、四葉。悪いけど皿並べお願い」
「うん」
「任せてくださいっ!」
三玖が静かに皿を運び、四葉が元気よくスプーンを並べていく。
その横では。
「こら一花!つまみ食いしない!」
「えへへ、バレた?」
「バレるわよ!」
二乃のツッコミが飛ぶ。
「兄さん。サラダはこちらへ」
「了解」
「らいはちゃん、お皿運べますか?」
「うんっ!」
気づけば自然と全員が動いていた。
誰かが指示を出した訳じゃない。
けれど、皆が自然に役割を見つけて動いている。
……うん。
なんか、家族みたいだな。
「よし、完成」
大鍋いっぱいのスパイスカレー。
炊き立ての白米。
サラダ。
そして紅茶。
勉強合宿とは思えないくらい、ちゃんとした夕食になっていた。
席順は自然と決まった。
ダイニングテーブルには、僕、二乃、聖奈、四葉、政樹。
リビングテーブルには、一花、三玖、五月、風太郎、清治、らいはちゃん。
『いただきます!』
声が重なる。
その直後。
「うっっっっま!!」
政樹が叫んだ。
「兄貴これ店出せるって!」
「毎回言ってるなそれ」
「でも本当に美味しいです!」
四葉もスプーンを止めずに頷く。
「スパイス強いのに食べやすいです!」
「だろ?」
すると。
「……ねえ」
二乃がこちらを見る。
「この香りってクミン?」
「正解」
「やっぱり」
そこから自然と料理談義が始まった。
「最初に油で香り出してたわよね」
「テンパリングね」
「へぇ……」
四葉が興味津々で聞いている。
「玉ねぎ炒める時間も長かった」
「あれで甘み出るから」
「なるほど……」
気づけば、二乃と普通に料理の話をしていた。
その様子を、向かい側の聖奈が静かに眺めている。
時折会話へ混ざりながら。
「兄さん、今度二乃さんにもスパイス配合教えてあげればどうです?」
「え!?」
「いや、興味ありそうだし」
「……まあ、別に?」
絶対あるなこれ。
「でもアンタ、本当に料理出来るのね」
「だから出来るって言ってるだろ」
「ここまでとは思わなかったのよ」
二乃が少し悔しそうに唇を尖らせる。
「何よその顔」
「いや、珍しいなって」
「何が?」
「二乃が素直に褒めてる」
「──っ!」
二乃の動きが止まった。
「ち、違っ……別に褒めてる訳じゃないし!」
「はいはい」
「その反応ムカつく!」
そう言いながらも、完全にペースを乱されている。
その様子を見て。
「ふふっ」
聖奈が小さく笑った。
「兄さん、楽しそうですね」
「まあね」
こんな風に大人数で食卓を囲むなんて、今まであまり無かった。
騒がしくて。
賑やかで。
でも、不思議と落ち着く。
そんな空気だった。
その頃。
「五月!勝負だ!」
「?」
「どっちが多く食べられるか!」
政樹が謎の勝負を挑んでいた。
「望むところです」
五月も真顔で受けて立つ。
十分後。
「おかわりお願いします」
「俺も!」
さらに十五分後。
「もう一杯」
「……まだ食うのかよ……」
結果。
五月の圧勝だった。
「勝者、五月」
「やりました」
五月がどこか誇らしげに胸を張る。
「バケモンか……」
「政樹さんが少ないだけでは?」
「うぐっ……!」
聖奈の正論が刺さった。
「五月ちゃん凄いねぇ」
「食欲だけは最強だな」
「失礼ですね」
風太郎の言葉に五月が少し頬を膨らませる。
だが、その横には既に三杯目のおかわりが置かれていた。
説得力がない。
「うぅ……食ったぁ……」
政樹が椅子へもたれかかる。
「まだ勉強あるのに大丈夫?」
「無理っす……眠くなる……」
「なら食べ過ぎるな」
風太郎のツッコミが飛んだ。
食後。
少しだけ休憩時間を挟み、それぞれ自由に過ごしていた。
らいはちゃんは一花たちとテレビを見ながら笑っている。
四葉は眠気覚ましらしくストレッチ。
二乃はキッチンで食器洗いを手伝っていた。
「悪いね、手伝わせちゃって」
「別に?料理した側が全部やるの大変でしょ」
そう言いながらも、手際はかなり良い。
やっぱり料理慣れしてるな。
「……アンタ達って、なんか落ち着くわね」
「ん?」
「その……騒がしいんだけど、嫌じゃないっていうか……」
少し照れ臭そうに呟く。
「まあ、いつもこんな感じだから」
「変な集まりね」
そう言いながら、二乃は小さく笑った。
食休みを挟み、夜の勉強会が再開された。
今度は、僕がリビングのテーブル側へ移動する。
すると。
「ここ」
「では私はこちらで」
「じゃあ私ここー♪」
「私もこの辺りで」
「和喜さん、逃げちゃ駄目ですからね!」
気づけば、五つ子が僕を囲むように座っていた。
「……なんだこの包囲網」
「逃がさない」
「兄さん、頑張ってください」
「モテモテだねぇ」
好き勝手言われている。
「いや、普通に教えにくいんだけど」
「問題ない」
「あります」
その後は、一人ずつ教科を変えながら勉強を見ることになった。
一花には社会。
二乃には国語。
三玖には英語。
四葉には数学。
五月には社会。
それぞれ苦手分野を重点的に。
「カズキ、ここ」
「はいはい」
「和喜君、こちらも」
「順番ね」
「ねえねえカズキ君~」
「一花も待って」
完全に引っ張りだこである。
「……兄さん人気者ですね」
「聖奈。笑ってないで助けて」
「嫌です♪」
即答だった。
一方、ダイニング側では──
「だからここはこう解くんだよ!」
「わっかんねぇぇ!!」
「理解しろ」
風太郎&聖奈による政樹特訓が続いていた。
さらに。
「聖奈さん、この問題なのだが」
「はい。こちらですね」
清治が自然に質問を挟む。
「なるほど……そういう解釈か」
「ええ。なので、この場合は──」
距離が近い。
すると。
「
「順番です」
「くっ……!」
政樹が割り込む。
さらに。
「……ここ、どうしてそうなる」
風太郎まで質問を始めた。
静かな戦争である。
「……何なんだあっち」
思わず苦笑する。
「聖奈さん人気ですねぇ」
「いや絶対別の意味でしょ」
五月の言葉に一花が楽しそうに眺めていた。
「カズキ」
不意に三玖がノートを差し出してきた。
「この問題、答えは合ってるけど理由が分からない」
「どれ?」
ノートを覗き込む。
「……ああ、これか」
三玖の横へ少し身体を寄せながら解説を書き込む。
すると。
「近い」
「へ?」
「……なんでもない」
三玖が少しだけ視線を逸らした。
その瞬間。
「おやおや~?」
「一花うるさい」
「まだ何も言ってないよ?」
「顔が言ってる」
その横では。
「和喜君、ここはどうしてそうなるのですか?」
「五月はこっちね」
さらに。
「カズキ君、私も分かんなーい」
「一花はまず自分で考える」
「ひどい!」
騒がしい。
本当に騒がしい。
でも──嫌じゃない。
むしろ、この空気が心地良かった。
気づけば、窓の外はすっかり夜になっていた。
時計を見る。
既にかなり遅い時間だ。
それでも。
「……ふふっ」
誰かの笑い声が響き。
「違います!」
「いや合ってるって!」
「だからそこは──」
誰かの会話が続いている。
勉強合宿。
そのはずなのに。
今この場所にあるのは、点数だけじゃない気がした。
少しずつ近づいていく距離。
変わっていく関係。
そして。
騒がしくて、温かい時間。
そんな夜は、まだ終わりそうになかった。
──その時だった。
「兄貴ぃ……」
政樹が、完全に死んだ目でこちらを見ていた。
「もう脳みそが限界っす……」
「まだ一日目だぞ?」
「聞きたくねぇぇ……」
机へ突っ伏す政樹。
すると。
「政樹さん」
聖奈が静かに口を開く。
「あと英単語十個です」
「鬼ぃぃぃ!?」
「頑張ってください」
「笑顔が怖ぇぇぇ!!」
食堂へ笑い声が広がる。
「ふふっ……」
「はははっ!」
一花と四葉が笑い。
「……賑やか」
「ですね」
三玖と五月も、小さく微笑む。
そんな皆の姿を見ながら、僕はそっと息を吐いた。
騒がしくて。
少し疲れて。
でも、不思議と心地いい。
こういう時間も、悪くないのかもしれないな。
窓の外では、秋の夜風が静かに揺れていた。
読んでいただきありがとうございました!
今回はかなり“日常回”寄りのお話でした。 ですが、自分としてはこういう何気ない時間こそ、 関係性の変化や距離感が一番出る瞬間だと思っています。
料理中のやり取り。 食卓の空気。 勉強会で自然と隣に座る距離感。
少しずつ変わっていく彼らの関係を、 今後も丁寧に描いていけたらと思っています。
特に今回は、 二乃の料理トークや、 三玖・五月の自然な距離感、 そして聖奈を巡る男子組の空気感など、 細かい部分も楽しんでもらえていたら嬉しいです。
引き続き応援していただけると励みになります!