妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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勉強合宿二日目。 今回は少し息抜き回です。

……とは言っても、このメンバーなので静かに終わるはずもなく。

人生ゲーム組、トランプ組、そして裏で黙々と問題作成を進める和樹。 騒がしくも少しずつ距離が縮まっていく、そんな自由時間を書いてみました。

特に今回は、二乃や一花との掛け合いをかなり意識して書いています。 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!




27.紅茶の香りと笑い声

「今日の午前中は、皆の親睦を兼ねて。トランプにボードゲームを用意した。つまり自由時間だ」

 

中野家のリビング。

僕は右手にボードゲーム、左手にトランプを掲げながら、皆の前でそう宣言した。

 

「おぉぉーー!!」

「やったぁぁー!!」

 

政樹と四葉が真っ先に反応する。

 

「自由時間って言葉、最高っすね兄貴!」

「勉強漬けじゃないんですね!?」

 

二人とも目が輝いていた。

 

「いや、午後からは普通に勉強だけど?」

「現実見せるの早くないっすか!?」

「和喜さん鬼です!」

 

即座に騒ぎ始める二人。

すると。

 

「まあ、ずっと勉強ばかりでは集中力も持ちませんからね」

 

聖奈が紅茶を飲みながら静かに口を開いた。

 

「適度な休憩も必要です」

「流石(あね)さん……!」

 

政樹が感動したような目を向ける。

だが。

 

「その代わり、午後はしっかり勉強していただきますが」

「やっぱ鬼ぃぃ!!」

 

前言撤回だった。

 

「ふふっ」

 

その様子を見て、一花が楽しそうに笑う。

 

「でも、こういうのいいねぇ~♪」

「だね」

 

三玖もそれに続いた。

 

「片方は人生ゲーム。人数制限もあるし、トランプ組と別れてやると良いよ」

「良いよって、兄さんは参加されないのですか?」

 

流石は我が妹よく気付く。

 

「僕は午後の勉強会の準備をダイニングテーブルでやってるよ」

「アンタ正気!?」

「そうですよ!和喜さんも参加しましょう!」

 

僕の言葉に二乃と四葉があまり良い反応を見せなかった。

 

「これも家庭教師としての仕事だからね。大丈夫だよ、終わったら僕も参加するから」

「そうですか…」

 

五月が安心したような声を出すが、どこか心配そうな表情をむける。隣の三玖も同じである。

 

「家庭教師としての仕事。であれば、俺と聖奈も手伝おう」

 

そこで風太郎が提案してきた。

 

「そこは大丈夫。一人で集中した方が早く終わるし。それに、二人にはダブルチェックをしてもらうつもりだから」

「はぁぁ…兄さんならそう言うと思いました」

 

聖奈のため息が部屋の静けさを包んだ。

 

「では、俺も自分の勉強をさせてもらおう。自由時間、なのだろう」

 

そう言った風太郎はダイニングテーブルに参考書などを用意して座りかけようとする。

が──

 

「お兄ちゃん、一緒に遊ばないの……」

「うっ…」

 

うるうるさせた瞳のらいはちゃんに見つめられると、風太郎は腰を下ろすのを躊躇った。

 

「────よし!トランプでもするか!」

 

相変わらずのシスコンぶりである。

 

人生ゲーム組は、一花、三玖、四葉、清治。

残った二乃、五月、聖奈、風太郎、らいはちゃん、政樹はトランプ組へ回った。

 

「キヨハル君こういうの強そうだよね」

「ふっ。俺はこういう集まりでしかしないからな。そうでもないぞ」

「トランプは何します?」

「こう人数も多いからババ抜きとかでいいんじゃない?」

「うっしゃーー!!やるからにはかーつ!」

「はぁぁ…もう結果が見えてるがな」

 

思い思いがゲームを始める。

 

「やったー!結婚しました!ご祝儀ください!」

「ふむ。四葉さんやるな」

「四葉は運が強い…」

「ぐわーー!!何でいつもビリなんだーー!!!」

「政樹さんは表情に出しすぎです」

「らいはちゃん、楽しんでますか?」

「うん♪ありがとう五月さん」

 

楽しそうな皆の声をBGMに、黙々と作業を進める。

 

「一花は飽きっぽいから計算問題多めだな……二乃は平均的だし、英単語をつめていくか……?三玖は歴史以外の社会を伸ばして……四葉はまず基本だな……五月は応用問題の解き方を、と……」

 

カタカタとノートパソコンで問題を次々に作成していく。

 

カチャッ…

 

そこに紅茶の淹れられたマグカップが近くに置かれる。

 

「? 二乃?」

「喉くらい渇くでしょ」

 

ぶっきらぼうな声。

けれど、机へ置かれたマグカップからは、ふわりと良い香りが漂っていた。

 

「ありがと」

「……別に」

 

視線を逸らしながら、二乃は短く返す。

その態度は素っ気ない。

だが、雑に置いた訳ではないマグカップからは、ちゃんと彼女の気遣いが伝わってきた。

僕は小さく苦笑しながら、紅茶へ口を付ける。

 

「……美味しい」

「当たり前でしょ。誰が淹れたと思ってんのよ」

 

少しだけ得意げな声音。

その時。

 

「うわぁぁぁぁ!? また負けたぁぁぁ!!」

 

リビング側から、政樹の絶叫が響いた。

 

「だから表情に出過ぎなんです」

「夢を追った結果っすよ!!」

「破滅ですね」

「聖奈は相変わらず辛辣だな」

 

ババ抜き中のトランプ。

どうやら政樹は、また見事にジョーカーを引き当てたらしい。

 

「いやだって!! 今の絶対読めなかったでしょ!?」

「読めました」

「えぇ!?」

「政樹さん、“来い……来い……!”って顔してましたし」

「顔に出てたのかよ俺!?」

 

聖奈は呆れたようにため息を吐きながら、手札を整える。

どうやらトランプ組も、かなり盛り上がっているらしい。

 

「ふふっ……」

 

二乃が小さく笑った。

 

「ほんっと騒がしいわね」

「まあ、大人数だからね」

 

そう返しながら、僕は再びノートパソコンへ視線を戻す。

 

カタカタ……

 

キーボードを叩く音が静かに響く。

 

「一花は飽きやすいから、計算問題は短めに区切るか……四葉は基礎を反復だな……五月は応用問題多め、と……」

 

ぶつぶつ呟きながら、問題を整理していく。

すると。

 

「……アンタさ」

 

二乃が、ふとこちらを見た。

 

「ん?」

「ちゃんと一人一人考えてんのね」

 

その声は、どこか不思議そうだった。

 

「まあ、一応家庭教師だし?」

「そういう話じゃないわよ」

 

二乃は小さく息を吐く。

 

「普通そこまで細かく見ないでしょ」

「そうかな?」

「そうよ」

 

即答だった。

リビングからは、また笑い声が聞こえてくる。

 

「やったぁぁー!! 結婚しましたー!!」

「四葉さんホントに強いな」

「えへへへ♪」

 

人生ゲーム組も楽しそうだ。

そんな声を聞きながら。

 

「……アンタは混ざんなくていいの?」

 

二乃がぽつりと呟く。

 

「人生ゲーム」

「まあ、そのうち」

「絶対行かないでしょ」

 

図星だった。

思わず苦笑する。

 

「準備終わったらね」

「……ふーん」

 

納得していない声。

そして。

 

「皆と遊びたいとか思わないわけ?」

「思うよ?」

 

僕は自然に答えた。

 

「でも、皆がちゃんと結果出せた方が嬉しいし」

「……」

 

二乃が少しだけ黙る。

 

「だから今はこっち優先かな」

「……変なやつ」

 

ぽつりと漏れる言葉。

 

「よく言われる」

「褒めてんのよ」

 

二乃はそう返しながら、僕の手元を見る。

並べられた問題プリント。

教科ごとのメモ。

苦手分野をまとめたノート。

それを見て。

 

「……ほんと、真面目よね」

「二乃に言われると何か複雑」

「何よそれ」

 

少しだけ不満そうに睨まれた。

その時。

 

「兄貴ぃぃぃ!!」

 

また政樹の叫び声が響く。

 

「風太郎が心理戦しかけてくるっす!!」

「お前が分かりやすすぎるんだ」

「うるせぇ!!」

 

直後。

 

「あっ」

「政樹さん、今ババ引きましたね」

「何で分かるんですか(あね)さん!?」

「顔です」

「終わったぁぁぁ!!」

 

リビングから爆笑が起きる。

 

「ふふっ……」

「ははっ」

 

思わず二人同時に吹き出した。

 

騒がしくて。

落ち着かなくて。

でも、どこか温かい。

 

そんな空気が、部屋全体を包んでいた。

すると。

 

「……ねぇ」

 

二乃が、不意に静かな声を出した。

 

「ん?」

「アンタってさ」

 

少しだけ視線を逸らしながら続ける。

 

「昔からそうなの?」

「そうって?」

「……自分より周り優先する感じ」

 

予想外の言葉だった。

 

「別に、そんな大したことじゃ」

「誤魔化さない」

 

珍しく真面目な声。

 

「昨日からずっと見てれば分かるわよ」

「……」

「勉強教えて。料理作って。準備して。朝も走って」

 

二乃は小さく息を吐く。

 

「なのに、自分はずっと裏方」

 

その言葉に、少しだけ言葉が止まった。

リビングでは、まだ皆が笑っている。

 

「……まあ」

 

僕は小さく笑った。

 

「皆が楽しそうなら、それでいいかなって」

「……」

 

二乃が、少しだけ目を見開く。

その後。

 

「……ほんと」

 

小さく呟いた。

 

「変なやつ」

 

だけどその声は、さっきよりずっと柔らかかった。

そこへ──

 

ヒョコッ……

 

一花が、テーブルから目元だけ覗かせるように現れた。

 

「──っ!? アンタ心臓に悪いのよ!」

 

二乃が肩を跳ねさせる。

 

「あっははは、ごめんごめん♪」

 

一花は悪戯っぽく笑いながら身体を起こした。

 

「いやぁ~? なんか良い雰囲気だったから、邪魔しないように気を遣ってたんだけどねぇ?」

「な、何がよ!?」

 

二乃が一気に顔を赤くする。

 

「別に普通に紅茶持ってきただけでしょ!?」

「へぇ~?」

 

一花がニヤニヤしながら視線を向ける。

 

「でも二乃、さっきまで凄く優しい顔してたよ?」

「~~~~っ!!」

 

二乃の顔が一気に真っ赤になる。

 

「い、一花ぁぁぁ!!」

「わっ、怒った怒った♪」

 

一花は楽しそうに笑いながら、ひょいっと二乃の攻撃を避けた。

 

「別に変な意味じゃないって~」

「絶対嘘でしょ!!」

「えー? だってさぁ」

 

一花がちらりと僕を見る。

 

「カズキ君、さっきから全然気付いてなさそうだし?」

「ん? 何が?」

「ほらね?」

 

即答だった。

 

「アンタは少し黙ってなさい!!」

「なんで!?」

 

理不尽である。

すると。

 

「……ふふっ」

 

三玖が小さく笑った。

 

「二乃、分かりやすい」

「三玖までぇ!?」

 

完全に包囲網だった。

その横では。

 

「おぉぉ……修羅場っすか!?」

「違います」

「即否定ぃ!?」

 

政樹が勝手に盛り上がり始める。

 

「政樹さん、空気を読んでください」

(あね)さん冷たいっ!!」

 

いつもの流れである。

 

「和喜君」

 

そんな中、五月がこちらを覗き込んできた。

 

「問題作成は順調なのですか?」

「ああ。あと少し」

 

ノートパソコンの画面を見せる。

 

「前半で基礎確認。後半からは個別対策って感じかな」

「流石ですね……」

 

五月が感心したように呟く。

 

「ここまで一人一人に合わせて問題を変えるの、大変じゃないですか?」

「まあ、そこは慣れかな」

 

そう答えながらキーボードを叩く。

すると。

 

「……ほんと」

 

二乃がぽつりと呟いた。

 

「真面目よね、アンタ」

「そう?」

「普通、自由時間くらい自分も遊ぶでしょ」

 

少し呆れたような声音。

だけど、その目はどこか柔らかい。

 

「皆がちゃんと点数取れる方が大事だし」

「……そういうとこよ」

 

二乃が小さく息を吐く。

すると。

 

「二乃おぉぉ♪」

 

一花が後ろからにゅっと顔を寄せた。

 

「また優しい顔してる~」

「ひゃっ!?」

 

突然耳元で声をかけられ、二乃が肩を跳ねさせる。

 

「アンタ近いのよ!!」

「えへへ~♪」

 

一花は全く反省していない。

 

その様子を見て。

 

「仲良いねぇ」

 

らいはちゃんがほのぼのと呟いた。

 

「良くない!!」「良いよ」

 

二乃と一花の声が綺麗に重なる。

 

「息ぴったり」

「ですね。意見はバラバラですが…」

 

三玖と五月が静かに頷いた。

 

「もうやだこの姉妹……」

 

二乃が額を押さえる。

だが、完全に本気で嫌がっている感じではない。

むしろ。

騒がしく笑い合うこの空気を、どこか楽しんでいるようにも見えた。

すると。

 

「兄貴ぃぃぃ!!」

 

突然、政樹が叫ぶ。

 

「ん?」

「風太郎が全然ババ引いてくれねぇっす!!」

「知らんがな」

 

完全に八つ当たりだった。

 

「お前が分かりやすすぎるだけだ」

「うぐっ……!」

 

風太郎の正論が刺さる。

 

「政樹さん、今“次こそ勝てる”って顔してます」

(あね)さんエスパーっすか!?」

「顔です」

「顔かぁぁぁ!!」

 

再び笑い声が広がった。

 

賑やかで。

騒がしくて。

でも、不思議と居心地が良い。

 

そんな空気の中。

僕は静かにキーボードを叩きながら、小さく笑った。

……悪くないな。

こういう時間も。

すると。

 

「カズキ君!」

 

人生ゲーム側から、一花が再び声を上げた。

 

「んー?」

「銀行役なんだから、ちゃんと仕事してよー!」

 

気付けば、一花が紙幣をぶんぶん振っている。

 

「四葉が荒稼ぎしすぎて、お金足りないんだけど!?」

「知らんがな」

 

思わずツッコむ。

 

「えへへっ♪ また株が当たりました!」

「四葉さん、本当に運だけで生きてないか?」

「加藤さん酷い!」

 

人生ゲーム卓もかなりカオスらしい。

 

「三玖は?」

「……堅実に生きてる」

 

三玖は淡々とカードを並べていた。

 

「保険も加入済み」

「現実的だなぁ……」

「大事」

 

妙に説得力がある。

すると。

 

「和喜君、はい」

 

五月がそっと小皿を差し出してきた。

 

「ん?」

「先程、二乃が作っていたクッキーです」

「ちょっ!? 五月!?」

 

二乃が慌てて声を上げる。

 

「べ、別にアンタ用じゃないわよ!?」

「皆で食べる用でしょ?」

「そ、そうだけど!」

 

完全にペースを乱されていた。

 

「……でも、美味しい」

 

僕が素直に感想を漏らすと。

 

「……当然でしょ」

 

二乃がそっぽを向く。

だが、耳が少し赤い。

 

「おぉ~?」

 

一花がまたニヤニヤし始めた。

 

「二乃さん、完全に胃袋掴みにきてます?」

「いってない!!」

「でも紅茶淹れて、クッキー渡して」

「うっさい!!」

 

騒がしい。

本当に騒がしい。

なのに。

カタカタとキーボードを叩きながら、僕は不思議と集中出来ていた。

 

「……兄さん」

 

聖奈が小さく声をかけてくる。

 

「何?」

「顔、緩んでますよ」

「え?」

 

自覚は無かった。

だが。

 

「ふふっ」

 

聖奈はどこか楽しそうに笑う。

 

「昨日より、ずっと楽しそうです」

「……そうかもね」

 

素直にそう思った。

 

勉強会。

自由時間。

騒がしいメンバー。

 

少し前までなら、こんな時間がこんなに心地良いなんて思わなかったかもしれない。

 

「兄貴ぃぃぃ!!」

 

そして。

 

「風太郎がまた心理戦してくるっすぅぅ!!」

「お前が単純なんだ」

「ぐはっ!!」

 

やっぱり、静かにはならないらしい。

 

その騒がしさに、思わず笑みが零れた。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました!

今回は“事件が起きる回”というより、 「皆で過ごす時間そのもの」をメインにした回でした。

勉強会、料理、朝ランニング、自由時間──。 少しずつ自然に距離が近づいていく空気感を書きたかったので、そう感じてもらえていたら嬉しいです。

そして、二乃の距離感。 本人は無意識に世話を焼いているつもりですが、周囲から見るとかなり分かりやすくなってきています(笑)

一花の“空気を読んで茶化す係”も、個人的にかなり書いていて楽しいポジションになってきました。

次回からは、再び午後の勉強会へ。 自由時間で緩んだ空気がどう影響していくのか、引き続き見守っていただければ嬉しいです!

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