これまで和喜達が積み重ねてきた努力が、少しずつ形になっていく回になっています。
五つ子達それぞれの成長や反応を楽しんでもらえたら嬉しいです。
そして今回は、いつも以上に「賑やかな日常感」を意識して書いてみました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
それでは、『五つ子達の中間試験』、どうぞ。
「よーし」
僕は軽く手を叩いた。
「自由時間終了。午後の勉強会始めるよー」
「うわぁぁぁぁ……」
「現実が来ましたぁ……」
政樹と四葉が同時に机へ突っ伏す。
「まだ何も始まってないだろ」
「“勉強”って単語だけでダメージ入るんすよ……」
「分かります……」
何故かそこだけ息ぴったりだった。
「はいはい、騒がない」
苦笑しながら問題プリントを配っていく。
「一花はこれ。三玖、四葉、五月はこっち。二乃は別」
「え、また違うの?」
「それぞれ苦手違うし」
そう返しながら、机へプリントを並べていく。
すると。
「……ほんと細かいわね」
二乃が小さく呟いた。
「ん?」
「何でもない」
だが、渡された問題用紙へ向ける視線は少し真剣だった。
「席どうする?」
一花が辺りを見回す。
すると。
「……ここ」
三玖が、僕の隣へ自然に座った。
ちなみに僕はリビングのテーブルに座っている。
「早いな」
「落ち着くから」
さらっと返される。
その直後。
「じゃあ私はこっちです!」
四葉が反対側へ座る。
「兄貴、分かんなくなったらすぐ聞ける席で!」
「最初から聞く気満々だな」
「えへへ……」
全く否定しない。
すると。
「ふーん?」
一花が面白そうに眺めた。
「何そのカズキ君包囲網」
「別に包囲してない」「してます!」
三玖と四葉の声が重なる。
「息ぴったりかよ」
思わず笑ってしまった。
その間にも。
「では、私はここに」
五月が僕の正面へ座る。
さらに。
「……」
二乃は一瞬だけ迷うような素振りを見せた後、少し離れた位置へ座った。
だが。
「兄さん」
聖奈が静かに口を開く。
「その位置だと二乃さん、質問しづらいのでは?」
「え」
「……っ」
二乃の肩が小さく跳ねた。
「別に!?」
「じゃあ何でさっきからそっち気にしてるんです?」
「気にしてないわよ!」
完全に図星らしい。
「ふふっ」
一花が肩を揺らして笑う。
「二乃、分かりやす~」
「うっさい!」
結局。
二乃は僕の斜め向かいへ移動してきた。
「……これでいい?」
「どうぞ?」
何故ちょっと睨まれているのか分からない。
「じゃあ始めるか」
そう言った瞬間。
「兄貴ぃ」
「ん?」
「シャーペン貸して」
「お前さっき持ってただろ」
「消えた」
「知らん」
すると。
「あ、政樹さん」
らいはちゃんが小さく手を上げた。
「ここにあります」
「おぉぉ!! らいはちゃん女神!!」
「ちゃんと机を見ろ」
風太郎が呆れたようにツッコむ。
騒がしい。
本当に騒がしい。
だが、不思議と嫌な感じは無かった。
「四葉、そこ違う」
「えっ!?」
「公式逆」
「うわぁぁぁ!!」
開始三分でこれである。
「落ち着きな」
苦笑しながらノートへ式を書いてやる。
すると。
「……近い」
隣で三玖がぽつりと呟いた。
「ん?」
「なんでもない」
そう言いながらも、三玖は少しだけ嬉しそうだった。
一方その頃。
「くっ……」
一花が問題用紙を睨んでいた。
「……分からん」
「早いな諦めるの」
「だって勉強だよ!?」
「まだ一問目だぞ」
すると。
「一花さん」
清治が静かに口を開いた。
「そこは先程の公式を使えばいい」
「……あ」
一花が目を瞬かせる。
「ほんとだ」
「ちゃんと見ろ」
「キヨハル君厳しい~」
そう言いながらも、一花は少し楽しそうだった。
「和喜君」
五月が真剣な顔でノートを差し出してくる。
「この解き方なのですが」
「あー、五月はそこまで行けてるなら──」
自然と説明に入る。
すると。
カチャッ
また僕の横へ紅茶が置かれた。
「二杯目」
「……ありがと」
二乃は何も言わず、自分の席へ戻っていく。
だが。
「二乃」
「なによ」
「世話焼き」
「~~~~っ!!」
三玖の一言が刺さった。
「違うし!!」
「顔赤い」
「四葉までぇ!?」
再び騒がしくなる。
「君達静かに勉強しなさい」
そう言いながらも。
誰一人、本気で嫌そうな顔はしていなかった。
窓の外では、柔らかな昼の光が差し込んでいる。
ペンの音。
ノートを捲る音。
時々混ざる笑い声。
勉強会のはずなのに。
その空気は、どこか心地良かった。
そして、勉強合宿も終わりいよいよ中間試験本番。
教室では最後の足掻きの如く、あちこちでノートなどを読み返していた。
「緊張してる?」
「……少し……」
そんな中、隣の三玖も最初の科目のノートを復習していた。
僕が作ってあげた一人一人の対策ノート。
恐らくそれを見てるのだろう。
「カズキはいつも通りだね…」
「まあ、教える時にさんざん勉強してきたからね」
緊張気味な三玖に微笑みかけると、どこか三玖の緊張も和らいだようだ。
「別に今回は全教科赤点回避する必要はないんだ。三玖ならきっと社会で回避出来るよ」
安心させるように優しく声をかける。
だが──
「それじゃ駄目なの。他の教科も頑張らないと、カズキの努力が無駄になっちゃう」
「っ…!」
ノートを真剣に見つめたまま、三玖は小さく唇を結ぶ。
その表情は、本気だった。
ただ赤点を回避したいからじゃない。
怒られたくないからでもない。
“頑張りたい”
そう思っているのが伝わってくる。
「……無駄じゃないよ」
僕は少しだけ苦笑した。
「三玖、ちゃんと頑張ってたし」
「……でも」
三玖がノートを抱える指へ少しだけ力を込める。
「私、覚えるの遅いから」
「それでも、前よりかなり出来るようになってる」
実際そうだった。
最初の頃は、英単語一つ覚えるだけでもかなり苦戦していた。
数学も、途中で集中が切れることが多かった。
でも今は違う。
分からなくても投げ出さない。
ちゃんと、“理解しよう”としている。
それは間違いなく、三玖自身の努力だった。
「だから大丈夫」
僕がそう言うと。
「……ん」
三玖は小さく頷いた。
その横顔はまだ少し緊張していたけれど、さっきより表情は柔らかい。
すると。
キーンコーンカーンコーン──
始業前のチャイムが教室へ響いた。
ざわついていた教室の空気が、一気に試験前特有の緊張感へ変わっていく。
「いよいよだね…」
「だな」
周囲でも、ノートを閉じる音が聞こえ始める。
「……カズキ」
「ん?」
三玖が小さな声で僕を呼ぶ。
「……頑張る」
その言葉に、僕は自然と笑っていた。
「ああ。一緒に頑張ろう」
そう返した直後。
ガラッ──
教室の扉が開き、担当教師が入ってくる。
「はい席着けー。試験始めるぞー」
その一言で、教室の空気が一気に引き締まった。
ざわついていた生徒達も慌てて席へ戻り、最後にノートを閉じていく。
「……」
三玖も静かにノートを閉じた。
その表情には、まだ少し緊張が残っている。
けれど。
数日前までの“逃げたい”という空気は無かった。
「大丈夫」
小さく声をかける。
「いつも通りやればいい」
「……ん」
三玖は小さく頷いた。
そして。
「始め」
問題用紙が配られていく。
ぱさっ……
机へ置かれた瞬間、教室の空気がさらに静かになった。
カリカリ……
パラッ……
聞こえるのは、紙を捲る音とシャーペンの音だけ。
僕も問題用紙へ視線を落とす。
……よし
難易度は予想通り。
対策範囲からも大きく外れていない。
むしろ。
結構素直な問題多いな
今回の勉強会でやった内容が、そのまま活きそうだった。
ちらりと横を見る。
「……」
三玖は真剣な表情で問題を解いていた。
最初こそ少し硬かったが、今はちゃんと手が動いている。
大丈夫そうだな
僕は小さく安心しながら、自分の問題へ集中した。
──一科目目終了。
キーンコーンカーンコーン……
終了のチャイムと同時に、教室の空気が一気に緩む。
「終わったぁぁぁ……」
「無理無理、絶対無理……」
「意外といけたかも」
あちこちからそんな声が上がっていた。
「……はぁ」
隣では、三玖が小さく息を吐いている。
「お疲れ」
「……緊張した」
そう言いながらも、表情はそこまで暗くない。
「でも、前より書けた気がする」
「なら十分じゃん」
僕がそう返すと、三玖は少しだけ嬉しそうに頷いた。
すると。
「兄貴ぃぃぃ!!」
勢いよく政樹がこちらへやって来た。
「兄貴! 英語やばかったっす!!」
「どっちだよ」
「単語めっちゃ出ました!!」
「それは良かったな」
「兄貴のノート無かったら死んでたっす!」
どうやら、そこそこ手応えはあったらしい。
「でも長文でちょっと死んだっす……」
「そこは今後の課題だな」
「うぅ……」
政樹が項垂れる。
その様子を見て。
「……ふふっ」
三玖が小さく笑った。
「マサキ、分かりやすい」
「え!? 今褒められた!?」
「違うと思う」
僕は即座に否定した。
そんなやり取りをしていると。
キーンコーンカーンコーン──
休み時間終了のチャイムが鳴る。
「はい、席着けー」
担当教師が教室へ入ってきた。
周囲の生徒達も慌てて席へ戻っていく。
「次、数学かぁ……」
政樹が遠い目をした。
「頑張れ」
「兄貴ぃ……励ましが軽いっす……」
最後まで騒がしいまま、政樹は自分の教室へ戻っていった。
そして。
教室に、再び静けさが戻る。
僕は深く息を吐きながら、机の上の筆箱へ視線を落とした。
──中間試験は、まだ始まったばかりだった。
そして、結果発表の日。
食堂では、それぞれが返却されたテスト結果を持ち寄って集まっていた。
ちなみに清治は部活へ行っており、結果も「いつも通りだった」とのことだ。
恐らく今回も高得点なのだろう。
「じゃ、早速だけど政樹から見せてもらおうか」
僕がいつも通りの調子でそう言うと。
「待ってください、兄貴!」
政樹が真剣な表情で手を突き出してきた。
「何?」
「テストの点数というのは、他人に軽々しく見せるものでは無いと思うんすよ」
「ほう」
「いわゆる個人情報ってやつっすね」
やけにそれっぽいことを言い始めた。
「ふむ。つまり赤点があったと」
「…………」
政樹は静かに目を閉じた。
図星らしい。
「時間の無駄だ。見せろ」
「ああぁぁっ!! 風太郎! 貴様ぁぁ!!」
風太郎が政樹の結果用紙をひったくる。
それを奪い返そうと、政樹が勢いよく飛びかかろうとした──が。
「政樹さん?」
聖奈の静かな声。
その瞬間、政樹の動きがぴたりと止まる。
「……はい」
完全敗北である。
「国語三十二点。数学十八点。社会二十七点。理科二十五点。英語五十四点」
風太郎が淡々と読み上げていく。
「まあ、予想の範疇だな」
「英語だけめちゃくちゃ伸びてるじゃない」
「マサキ君やるねぇ~♪」
二乃と一花から、呆れ半分、感心半分といった声が漏れる。
確かに、以前の政樹を考えれば英語五十四点はかなりの成長だ。
「兄貴ぃぃ……! 英語だけは褒めてくださいっす……!」
「そこは素直に頑張ったと思うよ」
そう言うと、政樹がぱっと顔を明るくした。
「うぉぉぉ!!」
「ですが」
聖奈が静かに立ち上がる。
「他教科の惨状については、後ほど詳しくお話があります」
「あっ」
政樹の笑顔が固まった。
「政樹さん。こちらへ」
「
「問答無用です」
「ああぁぁぁっ!!」
襟首を掴まれた政樹は、そのまま食堂の隅へ連行されていった。
南無三。
「……相変わらずだね。賑やか」
三玖が小さく呟く。
「じゃ、次は五つ子達の結果を見ていこうか」
気を取り直しながら、僕は五人へ視線を向ける。
「前にも言ったけど、一教科でも赤点回避出来たなら十分成長してるからね」
その言葉に、五つ子達は顔を見合わせながら頷いた。
そして、それぞれ結果用紙をテーブルへ並べていく。
一花:国語二十四点。数学五十二点。社会二十点。理科三十一点。英語三十三点。
二乃:国語二十点。数学二十四点。社会十九点。理科三十三点。英語五十二点。
三玖:国語三十点。数学三十四点。社会七十三点。理科二十五点。英語十八点。
四葉:国語四十一点。数学十四点。社会二十七点。理科二十三点。英語十三点。
五月:国語三十二点。数学二十七点。社会二十五点。理科六十点。英語二十八点。
「…………」
一瞬、静寂。
そして。
「やっっったぁぁぁぁ!!」
最初に叫んだのは一花だった。
「数学赤点回避してる!!」
「ほんとだ」
「すご……」
三玖と四葉も驚いたように目を見開く。
「えへへへ♪ カズキ君の勉強法めっちゃ分かりやすかったからねぇ♪」
一花が嬉しそうに笑う。
すると。
「二乃も英語超えてるじゃない」
「……まあね」
二乃は平静を装っているが、口元が少し緩んでいた。
「五十点超えたの、久しぶりかも」
「普通に凄いじゃん」
「ふ、ふん。これくらい当然でしょ」
照れ隠しなのか、そっぽを向く。
だが耳は少し赤い。
「三玖は社会七十三点か」
僕がそう言うと。
「……ん」
三玖が小さく頷いた。
「頑張った」
「ああ。凄いよ」
その瞬間。
「……えへへ」
三玖が、本当に嬉しそうに笑った。
すると。
「待ってください!?」
今度は四葉が結果用紙を見ながら叫ぶ。
「国語四十一点あります!!」
「おお」
「赤点回避だな」
「やりましたぁぁぁ!!」
ばんざーい! と両手を上げる四葉。
「和樹さん! 基礎問題いっぱいやったの当たりました!」
「ちゃんと努力した成果だよ」
そして。
「五月は理科六十点か」
「ふふっ……」
五月が嬉しそうに胸元で結果用紙を抱きしめる。
「今回はかなり自信ありました」
「理科だけ妙に強いよね五月」
「好きな教科ですから!」
どこか誇らしげだった。
五つ子達は、それぞれ点数に差こそある。
だが。
以前と比べれば、間違いなく成長していた。
そして何より。
「……皆、ちゃんと結果出したな」
僕がそう呟くと、五つ子達は少し照れ臭そうに笑った。
すると。
「……まあ」
風太郎が腕を組みながら、小さく口を開く。
「最初の頃を考えれば、十分伸びてる方だろ」
その言葉に、五つ子達が一斉に目を瞬かせた。
「え?」
一花が不思議そうな声を漏らす。
「上杉さんが褒めてる……?今日は雪ですか!?」
四葉まで驚いていた。
「おい」
風太郎が眉をひそめる。
「俺は事実を言っただけだ」
「でもフータローが素直に認めるの珍しい」
「……うるせぇ」
三玖に言われ、風太郎が少しだけ視線を逸らした。
だが。
「特に四葉と一花は、ちゃんと成果出てる」
その言葉に、二人の表情が少し明るくなる。
「基礎が前より頭に入ってるし、二乃も英語はかなり良い」
「へぇ~? フータロー君って案外ちゃんと見てるんだ♪」
「家庭教師だからな」
風太郎は淡々と返した。
「五月も理科は安定してるし、三玖の社会は普通に強みだろ」
「……ん」
三玖が小さく頷いた。
すると。
「つまり!」
政樹が勢いよく立ち上がる。
「これはもう大成功ってことっすよね!?」
「お前はまず他教科をどうにかしろ」
「うぐっ……!」
風太郎の正論が突き刺さった。
「ですが」
聖奈が静かに口を開く。
「今回の結果を踏まえれば、今後の課題も見えてきました」
「あー……始まった」
政樹が遠い目をする。
「まず政樹さんは数学と理科の基礎からですね」
「はい……」
「四葉さんは英語の単語量不足。一花さんは国語の読解力。二乃さんは社会を──」
「うぅぅ……」
五つ子達から小さな呻き声が漏れる。
そして。
「という訳で、今日から今回の試験内容を踏まえた復習会を──」
聖奈が続きを言いかけた、その時だった。
「その前にさ」
僕は苦笑しながら口を開く。
「今日は頑張ったご褒美ってことで、駅前のパフェでも食べに行かない?」
「…………え?」
一瞬。
場が静止した。
そして次の瞬間。
「「「「「行く!!」」」」」
五つ子全員の声が綺麗に揃うのだった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
今回は勉強合宿の締めとして、中間試験本番から結果発表までを描かせていただきました。
最初は赤点回避すら厳しかった五つ子達が、少しずつ成果を出していく流れは、自分でも書いていて楽しかったです。
特に、
・一花の数学
・二乃の英語
・三玖の社会
・四葉の国語
・五月の理科
は、それぞれ“その子らしい成長”を意識していました。
また、和喜自身も「教える側」として、少しずつ五つ子達との距離を縮めていけていたら嬉しいです。
そして最後は、重く締めるのではなく、いつもの騒がしい空気感で終わらせてみました。
やっぱりこの作品は、皆で笑ってる空気が似合うなぁと改めて感じます。
もし少しでも「続きが読みたい」「面白かった」と思っていただけましたら、
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それでは、次回もよろしくお願いします!