……のはずだったのですが、今度は三玖が“ある挑戦”を始めます。
そして当然のように巻き込まれる和喜達。
今回はかなり賑やかな日常回です。
五つ子達との空気感や、わちゃわちゃした掛け合いを楽しんでもらえたら嬉しいです!
それでは、『三玖のコロッケ奮闘記』どうぞ!
「「ただいまー」」
結局、あの後も何枚も写真を取られてやっと解放された。
しかも、次の仕事付きでだ!
今日はそもそも家庭教師の日。
撮影用の服はくれるとのことなので、その服のまま中野家に帰ってきた。
「……何か焦げ臭くない?」
「それ僕も思ったよ」
二人で怪訝な顔でリビングを覗くと、倒れた風太郎と政樹に、それを看病している四葉と二乃の姿があった。
どういう状況だよ……
「あら、お帰りなさい兄さん」
「おかえり…」
キッチンでは、普段通りの聖奈と真剣に油の引いた鍋を見ている三玖の姿があった。
テーブルには黒い物体が皿の上にいくつも乗せてある。
「お帰りなさい一花。和喜君と一緒なんて珍しいですね」
五月はその黒い物体を引きずった顔で食べ続けていた。
「五月……それは…?」
「……コロッケ…だそうです…」
申し訳なさそうに五月は答えると、そのままキッチンへと視線を向けた。
「三玖が突然コロッケを作りまして……それで、皆さんで試食会を……」
あの二人が倒れてるのはそのせいか……
「上杉君は美味しいと。政樹君は微妙じゃないか。と言うのですが、そのぉ…」
「他の姉妹は美味しくないって言ったんだね」
コクンと五月は僕の言葉に肯定した。
「それで、全員が美味しいというまで作ると言い出した三玖が次々に作りましたので……」
「二人は倒れてしまったと……」
「……で?」
二乃が腕を組みながら僕達を見る。
「その格好は何なわけ?」
そう言われ、改めて自分達の服装を見る。
普段よりかなり洒落た格好なのは間違いない。
一花はベージュ系のロングスカートに白いトップス。
僕は黒を基調にしたジャケットスタイル。
並ぶと妙に統一感があった。
「あー……その」
説明しようとした瞬間。
「今日は二人で服買いに行ってたんだよねぇ♪」
一花が自然な笑顔でそう言った。
「服?」
「うん♪ カズキ君の服選び付き合ってたの」
さらっと嘘を混ぜる。
「へぇ~?」
二乃の目が細くなる。
「アンタが?」
「何その反応」
失礼である。
「いや、だってアンタ服とか興味無さそうだし」
「最低限はあるぞ」
そう返すと。
「でも和喜君、確かに普段シンプルですよね」
五月が納得したように頷いた。
「今日はかなり雰囲気違います」
「ですよね!」
四葉がぱっと顔を明るくする。
「和喜さんめちゃくちゃカッコいいです!」
「……普通に似合ってる」
三玖も小さく呟いた。
「おぉぉ!? 兄貴モテコーデっすか!?」
「違うからな」
政樹まで復活して騒ぎ始める。
すると。
「いやぁ~でもね?」
一花が楽しそうに笑った。
「店員さんにも“お似合いですね”って言われちゃってさぁ♪」
「────っ!?」
二乃の眉がぴくりと動く。
「い、一花」
「え? ほんとのことだよ?」
悪戯っぽい笑み。
絶対楽しんでいる。
すると。
「確かに、客観的に見ても兄さんと一花さんはかなり絵になりますね」
キッチン側から、聖奈が静かに口を挟んだ。
フライ返しを片手に、視線だけこちらへ向けている。
「並んだ時の雰囲気も自然ですし、街中なら普通に恋人同士だと思われるかと」
「────っ!!」
今度は何故か一花まで少し赤くなった。
「せ、聖奈ちゃん結構言うねぇ!?」
「分析しただけです」
淡々と返しながらも、聖奈は鍋の火加減を調整する。
「三玖さん。今の温度だと衣が先に焦げます」
「……ん」
三玖が真剣な顔で頷いた。
「あと、コロッケはもう少し空気を抜いた方が良いかと」
「……なるほど」
完全に料理教室である。
「
「政樹さんは先程から床で寝ているだけですが?」
「ぐっ……!」
「へぇ~?」
二乃がじとーっと僕を見る。
「随分仲良く買い物してたのね?」
「いや、ほぼ一花のペースだったぞ」
「カズキ君反応面白いからつい♪」
一花がけらけら笑う。
すると。
「……その服」
三玖が、じっと僕を見ながら呟いた。
「似合ってる」
「ん、ありがと」
自然に返すと。
「……ん」
三玖は少しだけ嬉しそうに視線を逸らした。
一方その頃。
「……ふーん」
二乃だけが、何とも言えない顔をしていた。
「二乃?」
「別に」
そう言いながらも、ちらちらと僕の服装を見ている。
すると。
「二乃さんは分かりやすいですね」
聖奈が静かに呟いた。
「なっ!?」
「先程から兄さんの服装ばかり見ています」
「見てないわよ!!」
「視線が三十秒に一回は向いていますが」
「数えてたの!?」
完全に遊ばれていた。
「ふふっ」
三玖が小さく笑う。
「二乃、気になってる」
「違うってば!!」
顔を真っ赤にしながら否定する二乃。
「可愛いっすねぇ」
「政樹君は黙ってなさい!!」
「痛ぁっ!?」
投げられたクッションが政樹の顔面へ直撃した。
その瞬間。
「あっはははは!!」
リビングに笑い声が広がる。
すると。
「それより!」
一花がぱんっと手を叩いた。
「今は三玖のコロッケ問題でしょ?」
「……っ」
その瞬間。
キッチンに立っていた三玖の肩がぴくりと揺れた。
「……問題」
「いやまあ……うん……」
流石に否定しづらい。
テーブルの上に置かれた黒い物体を見る。
形はギリギリコロッケ。
だが色が完全に限界突破していた。
「三玖、何作ってたの?」
「……コロッケ」
三玖は真剣な顔のまま答える。
「皆が美味しくないって言うから」
「いや、だってこれは……」
「二乃、ストップ」
僕は苦笑しながら制止した。
「……食べてみる」
「兄さん正気ですか」
「和喜さん!?」
「兄貴ぃ!?」
周囲がざわつく。
一方三玖は、じっとこちらを見ていた。
期待と不安が混ざったような目。
「……いただきます」
覚悟を決めて、一つ持ち上げる。
ずしり。
「重っ」
「そこなんですね」
聖奈が冷静にツッコんだ。
そのまま一口齧る。
ガリッ。
「…………」
全員の視線が僕へ集中する。
「ど、どう?」
「兄貴、生きてるっすか?」
「和喜さん……?」
そして僕は、ゆっくり水を飲んだ後。
「三玖」
「……ん」
「火力強すぎ」
「……あ」
「あと衣厚い」
「……うん」
「でも味付け自体は悪くない」
「!」
その瞬間。
三玖の表情がぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「うん。ちゃんとコロッケになりそうな味はしてる」
そう言うと。
「……次はもっと美味しく作る」
三玖が、小さく気合いを入れるように呟いた。
その瞬間。
「三玖さん」
聖奈が静かに口を開く。
「次回は、まず少量で試作する事を強く推奨します」
「……?」
「このままですと、犠牲者が増えますので」
「
政樹が涙目で叫ぶ。
「いやでもマジで死ぬかと思ったっすよ!?」
「大袈裟」
「風太郎見てから言ってください!!」
未だ床に倒れたままの風太郎。
すると。
「上杉さん!大丈夫ですか!?」
四葉が慌てて風太郎の側へ駆け寄った。
「し、しっかりしてくださいー!」
「……四葉、揺らすな……」
ぐらぐらと肩を揺さぶられ、風太郎が瀕死の声を漏らす。
「よ、良かったぁ~!生きてました!」
「勝手に殺すな……」
そのやり取りを見て。
「ふふっ……」
三玖が少しだけ安心したように笑う。
「四葉、優しい」
「だって心配じゃない!」
四葉はむぅっと頬を膨らませた。
「コロッケで倒れるなんて普通じゃないよ!?」
「原因はお前の姉妹だ」
「それはそうですね!」
即答だった。
その瞬間。
「あっはははは!!」
リビングに大きな笑い声が響いた。
「……じゃあ、次は僕も手伝うか」
僕は苦笑しながら立ち上がった。
「え?」
三玖が少し驚いたようにこちらを見る。
「いや、このままだと本当に被害者増えそうだし」
「兄貴ぃ……!」
政樹が感動したような目を向けてくる。
「救世主っす……!」
「大袈裟だ」
そう返しながらキッチンへ向かう。
すると。
「兄さん」
聖奈がフライ返しを持ったまま、静かにこちらを見た。
「三玖さんは今、“感覚”で作っています」
「……ん」
「ですので、分量と手順を整理しながら教えていただけると助かります」
完全に料理教室モードである。
「了解」
僕は頷きながら、テーブルの上へ置かれた材料を見る。
じゃがいも。
ひき肉。
玉ねぎ。
パン粉。
材料自体はちゃんとしている。
「三玖、途中までは普通に出来てるんだよ」
「……ほんと?」
「問題は火加減と衣」
そう言いながら、僕は黒いコロッケを指差した。
「これ、揚げすぎ」
「……むぅ」
三玖が少しだけ悔しそうな顔をする。
「あと、一個が大きい」
「大きい方がいっぱい食べれる」
「気持ちは分かるけど、火通りにくくなるんだよ」
すると。
「確かに、中心部まで熱が通る前に外側が焦げていますね」
聖奈が静かに頷いた。
「今の三玖さんですと、一口大くらいの方が安定するかと」
「……なるほど」
真剣にメモを取り始める三玖。
「三玖ってそこまで本気だったんだ……」
一花が少し驚いたように呟く。
「だって……」
三玖は俯きながら、小さく口を開いた。
「皆、美味しくないって言ったから」
「いやまあ、あれはちょっと……」
「二乃」
僕が軽く視線を向けると、二乃が気まずそうに目を逸らした。
「だ、だって不味かったんだもん……」
「正直でよろしい」
すると。
「よーし! 今度こそ成功させましょう!」
四葉が元気よく拳を上げる。
「おぉー!」
何故か政樹まで乗っかっていた。
「お前はまず休め」
「もう復活したっす!」
全然説得力が無い。
「じゃあまずは形成からだね」
僕は新しく潰したじゃがいもをボウルへ入れる。
「三玖、混ぜてみ」
「……ん」
三玖が真剣な顔で木べらを動かす。
「力入りすぎ」
「……あ」
「もっと軽くでいい」
「こう?」
「そうそう」
すると。
「何か夫婦みたいですねぇ♪」
一花がにやにやしながら呟いた。
「────っ!?」
三玖の手が止まる。
「一花」
「冗談だってば~♪」
全く反省していない。
一方その頃。
「……ふーん」
二乃だけが、妙に面白くなさそうな顔をしていた。
「二乃さん、顔に出ていますよ」
「出てないわよ!!」
聖奈の追撃が飛ぶ。
「ですが、先程から兄さんと三玖さんの距離を見るたび眉が」
「細かいのよ観察が!!」
完全に遊ばれていた。
「ふふっ……」
三玖が少しだけ嬉しそうに笑う。
「二乃、分かりやすい」
「三玖まで!?」
騒がしい。
本当に騒がしい。
だけど。
「……あ」
その時。
三玖が小さく声を漏らした。
「どうした?」
「……綺麗に出来た」
そこには、今までよりずっと形の整ったコロッケが並んでいた。
「おぉー!」
四葉が目を輝かせる。
「三玖凄い!」
「……えへへ」
少しだけ照れたように笑う三玖。
すると。
「では次は揚げ工程ですね」
聖奈が静かに鍋を見る。
「ここからが本番です」
「何かラスボス戦みたいな言い方っすね……」
政樹がぼそっと呟いた。
「政樹さん」
「はい黙ります」
即終了だった。
そして。
じゅわぁぁぁ……
新しいコロッケが、静かに油の中へ沈んでいく。
今度は焦げ臭い匂いではない。
ちゃんと、美味しそうな香りが部屋へ広がっていった。
「おぉぉ……!」
政樹が目を輝かせる。
「今回はちゃんとコロッケの匂いしてるっす!!」
「前回は何の匂いだったんだ」
「焦げです」
聖奈が即答した。
「
「事実ですので」
じゅわぁぁ……
油の中で、きつね色になっていくコロッケ。
今度は明らかに違った。
焦げ臭さは無い。
むしろ、食欲を刺激する香りが部屋中へ広がっていく。
「……おぉ」
風太郎が、ゆっくり復活しながら顔を上げる。
「生き返ったっすか!?」
「……コロッケの匂いでな」
まだ少し顔色は悪い。
すると。
「上杉さん、大丈夫ですか?」
四葉が心配そうに駆け寄った。
「お水飲みます?」
「……頼む」
素直に受け取る風太郎。
「ふふっ」
その様子を見て、一花が楽しそうに笑った。
「なんか夫婦みたいだねぇ」
「違います!!」
「違う」
四葉と風太郎の声が綺麗に重なる。
「息ぴったり」
「ですね」
三玖と五月が静かに頷いた。
「何なんだこの姉妹達……」
風太郎が本気で疲れた顔をしていた。
その間にも。
「三玖さん、そろそろ引き上げましょう」
聖奈が静かにコロッケを見つめる。
「色は十分です」
「……ん」
三玖が緊張した面持ちでコロッケを取り出す。
さくっ……
油切りの上へ並べられたそれは、今までと違ってちゃんと美味しそうだった。
「おぉぉぉ!!」
四葉が拍手する。
「完全にコロッケです!」
「いやコロッケなんだけどね本来」
僕は苦笑した。
「……食べる」
三玖が真剣な顔で皿を差し出してくる。
その瞬間。
「兄貴、毒見役お願いします」
「お前なぁ」
政樹の肩を軽く小突く。
「今回は大丈夫そうだろ」
「いやでも前科が……」
「政樹さん」
「はい」
聖奈に名前を呼ばれただけで黙った。
そして。
「……いただきます」
今度こそ、全員でコロッケへ箸を伸ばす。
さくっ──
「……!」
最初に反応したのは五月だった。
「美味しいです!」
「ほんと?」
「はい!」
五月が目を輝かせる。
「ちゃんとコロッケです!」
「感想がおかしいでしょ」
だが気持ちは分かる。
「……ん、美味い」
風太郎も小さく頷いた。
「前回と別物だな」
「当たり前っすよ!! あれは兵器だったっす!!」
「政樹」
「はい黙ります」
即終了である。
「……どう?」
三玖が少し不安そうにこちらを見る。
「普通に美味しいよ」
僕がそう答えると。
「……っ」
三玖の目が少し見開かれた。
「ほんと?」
「うん。衣も丁度いいし、中もちゃんと火通ってる」
すると。
「……えへへ」
三玖が、心底嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て。
「良かったわね」
二乃が小さく呟く。
「……ん」
三玖は嬉しそうに頷いた。
すると。
「じゃあ記念にもう一回作りましょう!」
四葉が元気よく拳を上げた。
「え」
「今度は私も手伝います!」
「それはそれで不安なんだが!?」
政樹が悲鳴を上げる。
「四葉さんの場合、勢いで油へ投入しそうです」
「そんな事しませんよ!?」
「否定しきれないのが怖い」
一花が吹き出した。
すると。
「じゃあ次は私が味付け担当やる」
二乃が腕を組みながら前へ出る。
「三玖、コロッケは下味大事だから」
「……ん」
真剣に頷く三玖。
「じゃあ私は盛り付け頑張ります!」
五月もやる気満々だった。
「……何か普通に料理会になってきたな」
僕が苦笑すると。
「良いじゃないですか」
聖奈が静かに口を開いた。
「こういう時間も、悪くないと思いますよ」
その言葉に。
皆が少しだけ笑う。
騒がしくて。
落ち着かなくて。
でも、どこか温かい。
そんな空気が、今日も中野家を包んでいた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
今回は久々に、勉強や恋愛メインというより“皆で過ごす日常”を意識して書いてみました。
焦げたコロッケから始まりましたが、最終的にはちゃんと形になった三玖の料理。
不器用ながらも頑張る姿を書くのがとても楽しかったです。
そして、相変わらず騒がしい中野家&樋口家メンバー達。
書いている側も「お前ら本当に自由だな……」と思いながら執筆していました(笑)
個人的には、
・妙に世話焼きな二乃
・料理指導モードの聖奈
・全力で心配する四葉
・被害者ポジが板についてきた政樹
・何だかんだ面倒見の良い風太郎
辺りがお気に入りです。
次回はまた少し違った方向の話になるかもしれません。
これからもよろしくお願いします!
感想や評価などもとても励みになっています!
本当にありがとうございます!