今回は林間学校直前回です。
キャンプファイヤーの伝説。
少しずつ変わり始める五つ子達の気持ち。
そして、それぞれの恋心の火種。
賑やかな日常回ですが、今後へ繋がる大切なエピソードにもなっています。
それでは本編をお楽しみください。
三玖のコロッケ事件から時は流れた。
あの日以降も勉強会は順調に続いており、五つ子達も少しずつではあるが成果を見せ始めている。
そして──林間学校前日。
いつものように昼休み。
食堂では十人が揃い、それぞれ昼食を取っていた。
だが。
「「「はぁぁぁ~~……」」」
テーブルの一角から、見事なまでに揃ったため息が漏れる。
僕。
清治。
聖奈。
三人同時である。
その様子に。
「何よ、せっかくのお昼なのに辛気くさいわね」
二乃が呆れたように眉をひそめた。
「何があったの……? そういえば教室でも女子に呼ばれてたね、カズキ……」
三玖も不思議そうに首を傾げる。
すると。
「ああ、キヨハル君も呼ばれてたよね」
一花が思い出したように言った。
「まあ、いつものことだから全然気にしてなかったけど」
何気ない言葉。
だが。
「そこは気付いてるなら助けてくれ、一花さん」
清治が本気で疲れ切った声を漏らした。
「あれ?」
一花が目を瞬かせる。
「えぇ~? だっていつものことでしょ?」
「今回はいつもと規模が違う」
即答だった。
その声には、僅かながら本気の疲労が滲んでいる。
すると。
「何の話よ」
二乃が怪訝そうに眉をひそめた。
「林間学校だよ」
僕がそう答える。
すると。
「あー……」
一花だけが納得したような声を漏らした。
「もしかしてキャンプファイヤー?」
「正解」
清治が小さく頷く。
すると。
「キャンプファイヤー?」
五月が首を傾げた。
「何かあるんですか?」
「この学校の伝説だよ」
一花が楽しそうに説明を始める。
「林間学校最終日のキャンプファイヤーでフィナーレに踊った男女は将来結ばれるってやつ♪」
その瞬間。
「あーー!!」
四葉が勢いよく立ち上がった。
「聞いたことあります!!」
「あら、本当にあったのね」
二乃が少し驚いたように言う。
「そんなのただの噂でしょ」
すぐにそう付け加えたが。
「俺もそう思う」
清治も頷いた。
「ですが」
聖奈が静かに口を開く。
「周囲はそう思っていないようですね」
そう言って小さくため息を吐いた。
その言葉に。
「だな」
僕も同意する。
「この昼休みまでで六人」
「俺は五人だ」
「私は七人ですね」
「「「「「えっ!?」」」」」
五つ子達の声が綺麗に揃った。
食堂中が振り返りそうな勢いだった。
「ちょ、ちょっと待って」
一花が目を丸くする。
「そんなに誘われてたの!?」
「昼休みまででね」
僕は味噌汁を啜りながら答えた。
「ホームルーム前から昼休みまでずっとそんな感じだった」
「へぇ~……」
一花が感心したように和樹を見る。
「カズキ君ってそんな人気あったんだ」
「私も驚きました」
五月も素直に頷いた。
「和喜君が女子に囲まれているところなんて、ほとんど見たことありません」
「私も」
三玖が小さく呟く。
「……意外」
すると。
「それは当然です」
聖奈がさらりと言った。
「今までは私が処理していましたので」
「「「「「は?」」」」」
再び五つ子達の声が揃う。
今度は完全に困惑だった。
「処理って何よ」
二乃が若干引きながら尋ねる。
「兄さんへの告白や連絡先交換の申し出です」
聖奈は平然と答えた。
「ちょっと待って」
今度は一花が手を挙げる。
「そんなのあったの?」
「ありました」
即答だった。
「週に二、三件ほど」
「多くないですか!?」
四葉が思わず叫ぶ。
すると。
「そりゃ知らないはずだぜ」
政樹が当然のように言った。
「
「福島君知ってたのですか!?」
「去年からずっと」
「「「「「えぇぇぇ!?」」」」」
驚く五つ子達。
さらに。
「俺も知っていた」
清治まで平然と頷いた。
「必要であれば手伝っていたからな」
「手伝うって何を……?」
五月が恐る恐る尋ねる。
すると。
「兄さんへ告白しようとする女子が現れた場合」
聖奈が説明を始めた。
「まず私が察知します」
「怖いわね」
二乃が即答する。
「そして必要であれば俺へ連絡が来る」
清治が続く。
「その間に俺が兄貴を別の場所へ連れていく手筈だ」
政樹も胸を張った。
「何その連携プレー……」
一花が呆然と呟く。
五つ子達から見れば完全に秘密組織だった。
「いや待て」
そこで僕が初めて口を挟んだ。
「僕だけ何も知らないんだけど」
「そうでしょうね」
聖奈が即答する。
「兄さんですから」
「どういう意味だ」
「鈍感という意味です」
「否定出来ないな」
清治。
「否定出来ないっすね」
政樹。
「お前らな……」
僕は思わず頭を抱えた。
その様子を見て。
「ふふっ……」
三玖が小さく笑う。
「カズキらしい」
「確かに」
五月も苦笑した。
だが。
「つまり今まではセナちゃんが防波堤になってたってこと?」
一花がそう尋ねると。
「その通りです」
聖奈は頷いた。
「ですが今回は私自身も勧誘を受けていましたので」
「男子から?」
二乃が聞く。
「はい」
聖奈はさらりと答える。
「先程もお伝えしましたが七名ほど」
「七人!?」
今度は政樹が驚いた。
「
「兄さんの対応をしている余裕がありませんでした」
結果として。
和樹と清治への勧誘が表面化した。
というわけである。
「なるほどねぇ……」
一花が納得したように頷く。
すると。
「で?」
二乃が何気ない風を装いながら聞いた。
「結局アンタ達、誰と踊るの?」
その瞬間。
視線が集まった。
僕。
清治。
聖奈。
三人は顔を見合わせる。
そして。
「決めてない」
「決めていないな」
「未定です」
綺麗に答えが揃った。
その瞬間だった。
何故か。
五つ子達の表情がほんの少しだけ柔らかくなる。
安堵したような。
嬉しそうなような。
そんな微妙な変化。
だが。
当然ながら。
僕達三人が気付くことは無かった。
昼休みの喧騒は続く。
そして誰も知らない。
明日から始まる林間学校が、それぞれの想いを少しずつ動かしていくことを──
~食堂~
そして放課後。
明日からはいよいよ林間学校。
普通の生徒ならば友人達と買い物へ行ったり、荷物の最終確認をしたり、浮かれた気分で過ごしている頃だろう。
だが──
「なんで林間学校の前日まで勉強しないといけないのよ!」
食堂に響き渡る二乃の抗議。
「俺はみんなで買い物行くって聞いてたんだが……」
政樹も不満げに頬杖をついている。
しかし。
「仕方ないだろ!」
風太郎が机を叩いた。
「まだ全員揃ってないんだ!こういう空いた時間を使っていかずどうする!」
「上杉さんらしいですね」
四葉が苦笑する。
「………」
一方で三玖は何も言わない。
ただ黙々と問題集を解いていた。
そんな彼女を見て、風太郎も満足そうに頷く。
「ほら見ろ。三玖もやる気だ」
「……早く終わらせて買い物行きたいだけ」
「同じことだ」
「違う」
即答だった。
そんなやり取りが行われている中。
「と言うか!」
五月が風太郎を指差した。
「そのお面とカツラどうにかならないんですか!?怖いんですけど!」
その言葉通り。
現在の風太郎は異様な格好だった。
金髪のカツラ。
そして不気味なピエロのお面。
傍から見れば完全に不審者である。
「これは肝試しの予行練習だ!」
風太郎は胸を張った。
「そもそもお前を含めてクラス全員で俺に押し付けやがって!」
「あれはあなたが悪いんです!」
五月も負けじと反論する。
「先生が説明している間もずっと自習していたじゃないですか!」
「勉強して何が悪い!」
「話を聞いてください!」
完全に正論だった。
林間学校二日目の夜。
毎年恒例の肝試し。
その実行委員を決めるホームルームで、風太郎は先生の話を聞かずに勉強を続けていた。
結果。
気付いた時には実行委員へ任命されていたのである。
完全な自業自得だった。
「それで、その格好なんですか?」
四葉が興味津々で聞く。
「本番はもっと怖くする」
「えぇぇぇ!?」
「やめてください!」
四葉と五月の反応は真逆だった。
すると。
「まあ、確かに怖いわね」
二乃も頷く。
「夜道で見たら普通に悲鳴上げるわ」
「だろ?」
風太郎が少し嬉しそうに言う。
「それ褒め言葉じゃないからね」
二乃が呆れたように返した。
その様子を見て。
「……ぷっ」
政樹が吹き出した。
「何だ」
「いや、風太郎がお化け役とか似合いすぎて」
「うるさい」
「しかも勉強しながら脅かしてきそうだよな」
「やりそう」
三玖がぽつりと呟く。
「お前まで言うのか」
風太郎が若干傷付いていた。
そんな中。
「そ、それより政樹君」
突然。
二乃が少し緊張した声を出した。
「ん?」
政樹が振り向く。
五月と風太郎の言い争いを無理やり遮るようなタイミングだった。
「その……」
二乃は珍しく視線を泳がせる。
「林間学校のダンスなんだけど」
「ダンス?」
「ほら、キャンプファイヤーの」
政樹は「ああ」と頷いた。
すると。
「やっぱり誰かに誘われたいって思ったりする?」
二乃はなるべく自然を装いながら聞く。
「それか、もう相手が決まってたりとか……」
その瞬間。
近くにいた三玖の耳がぴくりと動いた。
四葉もさり気なく聞いている。
五月も問題集を開きながら聞いている。
だが当の本人は。
全く気付いていなかった。
「んーー」
政樹は腕を組む。
意外にも真面目に考えている。
「そりゃ誘われたら嬉しいけどなぁ…」
「……そ、そう」
二乃が小さく頷く。
だが。
「俺も誰でも良いって訳じゃないからな」
続いた言葉に。
二乃の心臓が少しだけ跳ねた。
「お?」
政樹が急にニヤリと笑う。
「それとも二乃が俺と踊ってくれるのか?」
「──っ!!」
二乃の顔が真っ赤になる。
「そ、そんな訳ないでしょ!!」
即座に否定。
「ただ羨ましがってたから聞いてみただけよ!勘違いしないで!」
「そうなのか?」
政樹は首を傾げる。
本当に分かっていない。
「でも五つ子のみんなだったら普通に誘われそうだけどな」
そう言われ。
二乃はさらに顔を赤くした。
慌てて顔を逸らす。
(うーー……)
心の中で悶える。
(本当は誘いたいけど……)
こんな大勢の前で言える訳がない。
ましてや。
本人を前にしてなど。
(でも……)
政樹の言葉を思い出す。
『誰でも良いって訳じゃない』
その一言だけで。
少しだけ口元が緩んでしまった。
もちろん。
誰も気付いてはいなかった。
──三玖を除いて。
「……」
三玖は静かに問題集へ視線を落とす。
だが。
どこか考え込むような表情をしていた。
そして。
ぽつりと。
小さく呟く。
「……なんで好きな人と付き合いたいんだろ」
ぽつり。
何気ないようでいて、あまりにも予想外な三玖の一言に、その場の全員が固まった。
「え?」
最初に反応したのは四葉だった。
「ど、どうしたの急に?」
「いや……」
三玖は少しだけ視線を落とす。
「なんとなく」
それだけだった。
だが。
「なんとなくで出る疑問じゃないわよ」
二乃が思わず突っ込む。
すると。
「だって」
三玖は少し考えるように言葉を続けた。
「好きなら一緒にいたいってことなんだよね?」
「まあ……そうじゃない?」
二乃が答える。
「でも」
三玖は首を傾げた。
「友達でも一緒にいられる」
「うっ」
誰も即答出来なかった。
「付き合うと何か違うの?」
純粋な疑問。
恋愛を否定している訳ではない。
本当に分からないのだ。
だからこそ余計に答えに困る。
「それはだな!」
政樹が勢いよく立ち上がる。
「好きな人ってのは――」
「政樹君」
五月がじっと見つめる。
「何だ?」
「なんとなく説得力がありません」
「まだ何も言ってないのに!?」
即死だった。
すると──
「お待たせ~♪」
聞き慣れた声。
「一花」
五月が振り返る。
「やっと来たんですね」
「いやぁ~、先生に捕まっちゃってさ」
苦笑しながら近付いてくる一花。
そして。
風太郎を見る。
「…………」
数秒沈黙。
「誰?」
「俺だ」
即答だった。
「えっ、何その格好」
「肝試しの練習だ」
「ぶふっ!」
一花が吹き出した。
「ダメだってそれ!全然怖くない!」
「何だと」
「むしろ面白い!」
「お前な……」
風太郎が露骨に不機嫌になる。
そのやり取りに笑いが起きた。
すると。
「そういえば」
一花が空いている席へ腰を下ろす。
「何の話してたの?」
「三玖が変なこと聞いたんです」
五月が答えた。
「変なこと?」
「好きな人と付き合う意味」
「へぇ」
一花が目を丸くした。
そして三玖を見る。
「その人のことが好きで好きで仕方ないからじゃない?」
「……」
三玖が黙る。
「一緒にいたいとか。会いたいとか。もっと知りたいとか。そういう気持ちの積み重ねかなぁ」
一花は自然な笑みを浮かべた。
その言葉に。
三玖の胸が少しだけざわつく。
だが理由は分からない。
「三玖にも心当たりあるんじゃない?」
「な、ないよ……」
少しだけ顔を赤くしながら否定する。
すると。
「へぇ~?」
一花が意味深に笑った。
「何その顔」
「別に~?」
絶対に別にではなかった。
すると。
「一花遅いぞ」
風太郎が言う。
「もう始めてる」
「えーっと……」
一花は周囲を見渡した。
勉強。
問題集。
ノート。
参考書。
そして相変わらずの風太郎。
「何を始めてるのかな?」
「勉強だ」
「明日林間学校だよ?」
「だからだ」
即答だった。
「……あー」
一花は一瞬で理解した。
「なるほどね」
そして周囲を見回す。
「あら?」
「どうかした?」
「加藤君はご一緒じゃないのですね?」
五月の疑問の瞬間。
数人が顔を見合わせた。
そういえば居ない。
すると。
「多分遅れるよ」
一花が何気なく言った。
「教室の外に女子が何人も待機してたし」
「なるほどな」
風太郎が妙に納得した顔になる。
「お前らも大変だな」
そう言いながら、ようやくカツラとお面を外した。
やっと普通の人間に戻った。
「それでね」
一花が続ける。
「実は私も今日は長く居られないんだ」
「仕事ですか?」
五月が聞く。
「うん」
一花が頷いた。
「急に入っちゃってさ」
「大変だね」
四葉が素直に言う。
「芸能人って忙しいんだね~」
「まあね~」
一花は苦笑した。
その時。
ピロン♪
スマホが鳴る。
メッセージを確認した一花の表情が固まった。
「……あー」
嫌な予感しかしない声だった。
「どうかしたの?」
四葉が首を傾げる。
「クラスの子達に呼び出された」
「え?」
「林間学校について決めることがあるんだって」
そう言った一花は。
三玖へ視線を向けた。
「三玖」
「ん?」
「いつものお願い」
「……分かった」
特に驚く様子もなく、三玖は頷いた。
どうやらこれだけで事情を理解したらしい。
「またですか」
五月が苦笑する。
「また」
三玖も苦笑した。
そのやり取りに。
風太郎達は首を傾げる。
「何なんだ?」
「あはは……五つ子あるあるかな?」
一花が誤魔化すように笑う。
そして。
三玖は静かに鞄を開いた。
中から取り出したのは、見慣れたショートヘアーのウィッグ。
「……?」
風太郎が首を傾げる。
「何だそれ」
「秘密♪」
一花が笑う。
「みんな。先に進めてて」
「うん!」
「分かったわ」
そうして。
一花と三玖は並んで食堂を後にした。
残された風太郎と政樹は、何が起きたのか分からないまま、ただ二人の背中を見送るしかなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は林間学校前の準備回ということで、各キャラクターの心情変化を中心に描いてみました。
二乃の反応や、三玖の「好きな人と付き合う意味」という疑問。
そしてキャンプファイヤーの伝説。
今はまだ小さな感情ですが、林間学校ではそれぞれの想いが少しずつ動き始めます。
特に三玖については、今回の何気ない疑問が今後の大きな転機になっていく予定です。
もし面白かったと思っていただけましたら、評価・感想・お気に入り登録などで応援していただけると励みになります。
果たしてキャンプファイヤーで誰が誰を誘うのか。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。