妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は林間学校二日目、飯盒炊飯回です。

吹雪による予定変更はあったものの、何とか実施された飯盒炊飯。
各クラスそれぞれ個性が出ていますが、その中でも今回は三玖に少しだけスポットを当てています。

本人はまだ気付いていません。
けれど、少しずつ確実に変わり始めているものがあります。

そんな三玖の変化を感じながら読んでいただけたら嬉しいです。

それでは『まだ知らない、この気持ち』をお楽しみください。




36.まだ知らない、この気持ち

夕食を終えた僕達は、自分達の部屋へ戻ってきていた。

窓の外では雪が静かに降り続いている。

吹雪こそ収まったものの、白い雪は絶え間なく夜の景色を染めていた。

旅館の廊下も先程までの賑やかさが嘘のように静かだ。

 

「はぁ~……」

 

政樹が大きく息を吐きながら布団へ倒れ込む。

 

「食った食った」

 

満足そうな声だった。

 

「まだ寝るには早いぞ」

 

壁際へ腰を下ろしていた清治が呆れたように言う。

 

「分かってんよ」

 

そう返事はするものの、起き上がる気配は全く無い。

すると。

隣から妙な音が聞こえてきた。

 

「……ん?」

 

視線を向ける。

そこには風太郎がいた。

いつの間にか布団へ潜り込んでいる。

そして──

 

「すー……」

 

寝ていた。

完全に熟睡である。

 

「早っ!?」

 

政樹が飛び起きた。

 

「もう寝たのかよ!?」

「まあ」

 

僕は苦笑する。

 

「昨日ほとんど寝てないだろうしね」

「らいはちゃんの看病か」

 

清治も納得したように頷いた。

 

「朝もかなり早かったからな」

 

風太郎は全く起きる気配が無い。

相当疲れていたのだろう。

 

「風太郎も大変だなぁ」

 

政樹がぽつりと呟く。

 

「妹想いだからね」

 

僕がそう答えた時だった。

風太郎の腕に結ばれたミサンガが目に入る。

らいはちゃんから贈られたものだ。

寝る時ですら外していないらしい。

その事実に思わず笑みが漏れた。

本当に妹が大事なんだな、と。

 

しばらくして。

部屋には穏やかな静寂が流れていた。

風太郎は熟睡。

政樹は布団の上でごろごろしながら天井を眺めている。

清治は壁へ寄り掛かり、のんびりと外の雪を眺めていた。

すると。

 

「そういや兄貴」

 

政樹が口を開く。

 

「何?」

「明日の飯盒炊飯っすけど」

「ああ」

 

僕は頷いた。

 

「三玖と同じ班なんすよね」

「らしいね」

 

すると。

政樹が何故か真面目な顔になる。

 

「兄貴」

「ん?」

「頑張ってください」

「何を?」

「カレーを」

 

沈黙。

 

「………」

「………」

 

僕と清治が顔を見合わせる。

 

「どういう意味?」

 

僕が聞くと、

 

「いやだって」

 

政樹は当然のように言った。

 

「三玖料理苦手じゃないっすか」

「否定は出来ないな」

 

清治が頷く。

 

「おい」

 

僕は苦笑した。

 

「本人が聞いたら傷付くぞ」

「事実っす!」

 

政樹は即答だった。

 

「コロッケ事件忘れたんすか!」

「あれはまあ……」

 

流石に否定出来ない。

すると。

 

「だが」

 

清治が続ける。

 

「三玖さんは努力家だ」

「それはそうだな」

 

政樹も素直に頷いた。

 

「だから多分大丈夫っす」

「どっちなんだ」

「兄貴が居るからっす」

 

結局そこだった。

 

「なるほど」

 

僕は思わず笑ってしまう。

すると政樹は再び口を開いた。

 

「でも優勝候補は決まってるっすよ」

「優勝候補?」

「五組っす」

 

即答だった。

 

「二乃居るじゃないですか」

「ああ」

「しかも姉(あね)さんも居る」

 

その言葉に僕も納得する。

確かに二乃は料理が得意だ。

聖奈も家事全般をそつなくこなす。

 

「強そうだな」

「めちゃくちゃ強えよ」

 

政樹は断言した。

 

「料理担当が二人いるようなもんだからな」

「確かに」

 

清治も頷く。

 

「優勝候補筆頭だな」

「だよな!」

 

政樹は満足そうだった。

すると。

ふと思い出したように僕は聞く。

 

「そう言う政樹はどうなんだ?」

「何がっすか?」

「料理」

 

その瞬間。

政樹はすっと視線を逸らした。

 

「……」

「おい」

「食べる専門っす」

 

即答だった。

 

「威張るな」

「えへへ」

 

全く反省していない。

その様子に思わず笑いが漏れる。

すると。

 

「……すぅ」

 

風太郎の寝息が聞こえた。

全員がそちらを見る。

腕にはらいはちゃんのミサンガ。

穏やかな寝顔だった。

 

「よく寝てるな」

 

僕が呟く。

 

「相当疲れていたのだろう」

 

清治が言う。

 

「昨日はらいはちゃんの看病だったしな」

 

政樹も小さく頷いた。

そして誰からともなく声が小さくなる。

明日は飯盒炊飯。

その後にはキャンプファイヤーも待っている。

それぞれが色々な思いを抱えながら。

僕達の林間学校一日目の夜は、静かに更けていくのだった──

 


 

~五つ子の部屋~

 

「はぁ~……中々美味しかったわねぇ」

 

二乃が満足そうに布団へ寝転がる。

 

「だよね!」

 

四葉も元気よく頷いた。

 

「温泉も気持ち良かったし!吹雪の時はどうなるかと思ったけど、逆にラッキーだったかも!」

「それはどうだろうね~♪」

 

一花がくすりと笑う。

そして、何かを思い付いたように三玖へ視線を向けた。

 

「ラッキーと言えば、三玖はラッキーだよね♪」

「……?」

 

突然話を振られた三玖は首を傾げる。

 

「何が?」

 

本気で分かっていない顔だった。

 

「何って」

 

一花はニヤニヤしながら続ける。

 

「明日の飯盒炊飯の班だよ~♪」

「班?」

「カズキ君と一緒じゃん♪」

「ああ……」

 

そこでようやく三玖は理解した。

 

「そうだったね」

 

だが反応は薄い。

本当に気付いていないらしい。

 

「そうでしたね」

 

すると五月も会話へ加わる。

 

「和喜君のお料理は美味しいですから」

 

どこか納得したような表情だった。

 

「きっと心強いですよ」

「そうだね」

 

三玖も素直に頷く。

コロッケ事件の時もそうだった。

和喜は料理が上手い。

だから助かる。

少なくとも三玖はそう思っていた。

 

「五月」

 

二乃がジト目になる。

 

「何ですか?」

「アンタ、もうお腹空かせた訳じゃないでしょうね」

「そ、そんな訳ないじゃないですか!!」

 

五月が慌てて否定する。

その反応に部屋の中へ笑いが広がった。

 

「ああ、後カレーなんてどこも大差ないわよ」

 

二乃が何気なく言う。

 

「そうなの?」

 

四葉が首を傾げた。

 

「当たり前でしょ」

 

二乃は肩を竦める。

 

「使う材料は同じなんだから」

 

確かにそうだ。

今回は林間学校。

材料は学校側が用意している。

 

「じゃあ差は出ないの?」

 

四葉が聞く。

 

「出るわよ」

 

二乃は即答した。

 

「ご飯」

「ご飯?」

「飯盒炊飯で一番難しいのはそこなの」

 

二乃は指を一本立てる。

 

「火加減を間違えれば焦げる」

「なるほど……」

 

五月も感心したように頷く。

 

「逆に火が弱すぎれば芯が残る」

「うわぁ……」

 

四葉が顔を引き攣らせた。

すると、ふと何かを思い出したように口を開く。

 

「そういえば」

「ん?」

「和喜さん達って飯盒使ったことあるのかな?」

 

その瞬間。

部屋が静かになった。

 

「「「「「………」」」」」

 

五人揃って考える。

そして──

 

「無さそう」

 

三玖が答えた。

 

「私もそう思います」

 

五月も頷く。

 

「和喜君は料理は出来ますけど、飯盒は別ですからね」

「確かに」

 

一花も笑う。

 

「フータロー君とか絶対知らなそう」

「それは分かるわ」

 

二乃も頷いた。

 

「加藤さんは?」

 

四葉が聞く。

 

「微妙」

「微妙だね~」

「微妙ですね」

 

綺麗に意見が揃った。

そして。

 

「福島さんは?」

 

四葉が最後の一人を挙げる。

その瞬間。

全員が同じ事を考えた。

 

「「「「「無理そう」」」」」

 

完全一致だった。

そして五つ子達の林間学校初日の夜は、笑い声と共に更けていくのだった。

 


 

そして次の日。

 

吹雪の影響で多少予定は変更されたものの、飯盒炊飯は無事に実施される事となった。

広場のあちこちでは、クラスごとに分かれた生徒達が慣れない手付きで準備を進めている。

当然ながら。

クラスによってその様子は大きく違っていた。

 


 

一組では──

 

「あと三十秒……」

 

五月がスマホを見つめながら真剣な表情で呟く。

 

「あと二十九秒……二十八秒……」

「五月さん!?」

「流石に細かすぎない!?」

 

周囲の女子達が思わず突っ込んだ。

 

「カレーは煮込み時間が重要なんです!」

 

五月は真面目な顔で反論する。

 

「一秒たりとも油断は出来ません!」

「五月さんガチだ……」

「料理番組みたい……」

 

周囲の女子達は若干引いていた。

 


 

二組では──

 

「これ、もう使わないから片付けておくね♪」

 

一花が笑顔で道具を回収していた。

 

「助かるー!」

「ありがとう中野さん!」

 

女子達から感謝の声が飛ぶ。

なお。

本人はほぼ調理に参加していない。

 

「一花さん」

 

男子生徒が聞いた。

 

「何で片付けばっかりなんだ?」

「だって得意だもん♪」

 

本人は悪びれない。

すると少し離れた場所で野菜を切っていた清治が小さく呟く。

 

「それで許されるのも才能だな」

「でしょー?」

 

一花は満面の笑みだった。

 


 

三組では──

 

「目分量でいきましょー!」

 

四葉が元気よく宣言する。

 

「だな!」

 

政樹も即座に同意した。

 

「量なんてだいたいで十分!」

「十分です!」

 

恐ろしい事に二人とも本気だった。

 

「お前ら待てぇぇぇぇ!」

「それで失敗したらどうするんだ!」

 

班員達の悲鳴が響く。

 


 

五組では──

 

「火力強すぎるのよ!」

 

二乃の怒声が飛ぶ。

 

「だから申し上げたではありませんか」

 

聖奈も冷静な声で続けた。

その視線の先には──

真っ黒になった飯盒。

 

「ご、ごめん……」

 

男子達が縮こまる。

 

「謝る前に次を炊く!」

「時間が無いんですから」

 

二乃と聖奈。

五組最強の料理担当二人による再炊飯が始まっていた。

 

「お前ら二人居れば店開けるんじゃね……?」

 

男子生徒が呟く。

 

「褒めても何も出ないわよ」

 

二乃は鼻を鳴らした。

 


 

そして──

我らが四組では。

 

「うん。ゆっくりで良いからね」

 

僕は優しく声を掛ける。

 

「……こ、こう……?」

 

三玖が恐る恐る包丁を動かした。

 

「そうそう」

 

僕は頷く。

 

「不格好でも問題ないから。そのくらいの大きさに切っていこう」

 

僕が皮を剥いたジャガイモを、三玖が一つ一つ丁寧に切っていく。

慣れていないのは見れば分かる。

包丁の動きもぎこちない。

けれど真剣だった。

だから僕も急かさない。

 

「……カズキ、皮剥くの上手い……」

 

三玖がぽつりと呟く。

 

「そう?」

 

僕は苦笑した。

 

「家でもよくやるからね」

 

包丁を滑らせる。

ジャガイモの皮が綺麗に繋がったまま落ちていく。

 

「こればっかりは慣れかな」

 

芽を取り除き、次のジャガイモへ。

 

「……ピューラー使わないの?」

 

三玖が不思議そうに聞く。

 

「ああ」

 

僕は頷いた。

 

「そっちの方が安全だからね」

 

そして少し笑う。

 

「でも慣れると包丁の方が早いんだ」

「そうなんだ……」

「たぶん聖奈とか二乃も包丁派だと思うよ」

 

その言葉に三玖は少し納得したようだった。

やがて、僕は剥き終わったジャガイモを三玖へ渡す。

代わりに人参へ取り掛かる。

 

「……んしょ……」

 

三玖は慎重に包丁を動かしていた。

焦らず。

一つずつ。

丁寧に。

そんな様子だった。

 

「……時間掛けてごめんね……」

 

少し申し訳なさそうな声。

だが。

 

「いいよ」

 

僕は即答した。

 

「別に早く作る事に意味なんて無いんだから」

 

そして優しく続ける。

 

「三玖のペースでやっていこう」

「………」

 

三玖は一瞬だけ目を丸くした。

それからふわりと笑う。

 

「……ありがと」

 

その笑顔は、いつもより少し柔らかかった。

すると、近くで暇を持て余していた男子達がこちらへやって来る。

 

「おーおー」

 

ニヤニヤ顔。

嫌な予感しかしない。

 

「お二人さん仲良いねぇ~」

「まるで夫婦じゃないの?」

 

その瞬間。

三玖の動きが止まった。

 

「夫婦……」

 

小さな呟き。

顔が赤くなる。

耳まで真っ赤だった。

 

「おいおい」

 

僕は苦笑する。

 

「からかわないの」

 

そして。

手に持っていた包丁を軽く持ち上げた。

 

「何だったらお前らを捌こうか?」

 

満面の笑み付きだった。

 

「樋口が言うとマジに聞こえて怖ぇんだよ!」

「悪かったって!」

「戻る戻る!」

 

男子達は一目散に逃げていく。

静けさが戻った。

すると。

 

「………」

 

三玖はまだ俯いたままだった。

 

「大丈夫?」

 

僕が聞く。

 

「……うん」

 

小さな返事。

だが顔はまだ赤い。

 

「本当に?」

「……本当に」

 

そう言いながらも。

視線は合わせてくれない。

僕は首を傾げる。

何か変な事でもあっただろうか。

分からない。

 


 

~三玖side~

 

──夫婦。

 

先程の言葉が頭から離れなかった。

もちろん冗談だ。

そんな事くらい分かっている。

なのに。

何故だろう。

胸の奥が少しだけ落ち着かない。

包丁を持つ手に力が入る。

すると。

 

「危ない」

 

不意に温かい手が重なった。

 

「!」

 

三玖の肩が小さく跳ねる。

和喜だった。

包丁を持つ三玖の手へ、そっと手を添えている。

 

「ご、ごめん」

 

和喜は慌てて手を離した。

 

「指切りそうだったから」

「……うん」

 

三玖は小さく頷く。

だが、今度は別の意味で包丁へ集中出来なかった。

胸の奥が少しだけ騒がしい。

心臓がいつもより近くで鳴っている気がした。

そんな三玖の様子に周囲の誰も気付かない。

ただ一人。

少し離れた場所で、一花だけが面白そうに微笑んでいたのだった──

 


 

煮込みなどは残りの女子達に任せ、僕は三玖と一緒に飯盒の様子を見に行く事にした。

すると──

 

前田。政樹。風太郎。

 

何とも言えないシュールな光景が広がっていた。

 

「どう?上手く炊けてる?」

 

僕が声を掛ける。

 

「あ、兄貴!」

「な、樋口!」

 

政樹は歓迎ムード。

前田は何故か驚愕している。

そして。

 

「知らん。炊けてるんじゃないのか?文献で調べた通りにしてるからな」

 

風太郎だけは相変わらずこちらを向きもしなかった。

 

「すごいね、フータロー……調べてきたんだ……」

 

三玖が感心したように呟く。

 

「ふん。当然だ」

 

風太郎は鼻を鳴らした。

 

「しおりにも載っていたからな」

 

その言葉を聞いて僕は納得する。

林間学校前夜。

風太郎がやたら本を借りてきていたのは、そのためだったのだろう。

そりゃ寝不足にもなる訳だ。

 

「樋口!」

 

不意に前田が身を乗り出してきた。

 

「お前は中野さんと踊るってのに他の姉妹といて良いのかよ!」

 

そこへ噛み付いてくる。

 

まあ。当然と言えば当然か。

 

「良いも何も」

 

僕は肩を竦めた。

 

「同じ班なんだから、一緒にいても問題ないでしょ」

 

すると前田は信じられないものを見るような顔になる。

 

「でもよ!」

 

前田は食い下がる。

 

「こう、一緒に踊る中野さんの様子を見に行くとか無いのかよ!」

「いや」

 

僕は首を傾げた。

 

「一花とは前田が思ってるような関係じゃないしね」

「は?」

「ただ友人として踊るだけだし」

「へ?」

 

前田が固まる。

完全に理解が追い付いていない顔だった。

 

「ここにいる三玖も友人として一緒に回ってる。何も問題ないでしょ」

「……っ!」

 

その瞬間。三玖の指先が僅かに止まった。

だが誰も気付かない。

いや。正確には僕だけが気付いていた。

 

「一花は今恋愛する気は無いから友人の僕と踊る」

 

僕は続ける。

 

「そうすれば他の人からの誘いも無くなるしね」

 

そして苦笑した。

 

「僕も利害が一致してそうした訳」

「あはは!」

 

政樹が豪快に笑う。

 

「兄貴や一花らしいぜ!」

「だろ?」

 

僕も笑う。

すると。

 

「まあ前田も」

 

僕は続けた。

 

「一花は諦めて他の子でも誘うんだね」

「ぐっ……」

 

前田がダメージを受ける。

 

「それこそ今夜の肝試しとか。他に気になる子がいるなら誘ってみたら?」

 

僕は笑った。

 

「吊り橋効果ってのもあるしね」

「ぐぬぬ……」

 

前田は複雑そうな顔をしていた。

その時だった。

 

「上杉さん!肝試しの道具運んじゃいますね!」

 

元気な声が響く。

振り向くと、四葉がこちらへ駆け寄って来ていた。

 

「四葉」

 

風太郎が視線を向ける。

 

「お前は確かキャンプファイヤーの係だろ」

「はい!」

 

四葉は元気よく頷いた。

 

「でも上杉さんお一人だと無理だと思って!」

 

そして胸を張る。

 

「クラスの友達にも声を掛けました!」

「流石四葉」

 

僕は思わず笑う。

 

「気が利くね」

「あっ!」

 

そこでようやく四葉は僕達の存在に気付いた。

 

「和喜さんと三玖もいらっしゃったんですね!」

 

満面の笑みだった。

 

「あの勉強星人の上杉さんが、せっかく林間学校に来てくれたんです!」

 

四葉は力強く言う。

 

「全力でサポートしますよ!」

「ふっ……そうか」

 

風太郎が小さく笑った。

本当に僅かだったが、確かに笑った。

そして。

 

「和喜」

「ん?」

「三玖」

「……?」

「俺の班の飯盒を見ていてくれないか」

「ああ、良いよ」

 

僕は頷く。

すると。

 

「カズキがいるなら問題ない……」

 

三玖も静かに答えた。

その言葉に。

風太郎は満足そうに頷く。

そしてふと前田へ視線を向けた。

 

「あと」

「ひっ!?」

 

前田が身構える。

 

「前田だっけか」

 

風太郎は淡々と言う。

 

「さっきの和喜の話通りだ」

「え?」

「誰か誘ってみると良い」

 

そして不敵な笑みを浮かべた。

 

「ただし」

 

空気が変わる。

 

「こっちも本気でいくからビビるんじゃねぇぞ」

「……!」

 

前田が目を見開く。

風太郎らしい。

不器用で。

真っ直ぐで。

そして少しだけ負けず嫌いな宣戦布告だった。

 

「行くぞ四葉」

「はい!」

 

元気よく返事をする四葉。

そして二人は肝試しの準備へ向かっていく。

その背中を見送りながら。

僕は小さく笑った。

 

今夜は肝試し。

きっとまた賑やかな夜になるだろう。

そんな予感を胸に抱きながら。

僕達は再び飯盒へと視線を戻すのだった──

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。

今回は飯盒炊飯回ということで、各クラスの様子や、それぞれの個性を描いてみました。

五月の秒単位カウント。
一花の安定した省エネスタイル。
四葉と政樹の豪快な目分量。
二乃と聖奈の頼もしすぎる料理班。

そして四組では、少しずつ距離が縮まっていく和喜と三玖。

「夫婦」という何気ない一言。
包丁を持つ手に重なった手。
和喜にとっては何気ない行動でも、三玖にとっては少しずつ心に残っていく出来事になっています。

ただ本人は、まだその感情の正体を知りません。

だからこその今回のタイトルです。

そして物語はいよいよ夜へ。
次回は林間学校恒例の肝試し編。

怖がる者。
張り切る者。
そして思わぬ形で距離が縮まる者。

それぞれの想いが少しずつ動き始めます。

面白いと思っていただけましたら、感想・評価・ブックマークをいただけると今後の執筆の励みになります。

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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