五つ子との出会いは、思った以上に賑やかで──
そして、恋の火種は突然落ちるものですね。
今回は二乃が大暴れ(?)しつつ、
剣道部の練習試合へと繋がる回です。
ぜひ最後までお楽しみください。
「お、来た来た♪」
僕と三玖が二人で聖奈達五人がいる場所に向かうと、ショートカットの三玖や五月に似た顔の女子がご機嫌な声で出迎えてくれた。
その声は軽くて明るい。
初対面のはずなのに、距離を感じさせない余裕があった。
「あらあら、三玖ってば転入初日から男作るなんてやるじゃない」
「はぁぁ...だから違うと言ってるのに...
なるほど、その子が二乃か。
そんな中、腰まであるほどのロングヘアーに頭の両端に黒と緑の柄の入った蝶々のようなリボンをした、これまた三玖や五月と似た顔をした女子である二乃がニヤリと笑みを浮かべ、大きな胸を持ち上げるように腕を組んで出迎えてきた。
その笑みは挑発的で、場の空気を一瞬で自分色に染めてしまう強さがある。
近づくだけで温度が上がるタイプだ。
そんな二乃に対して、三玖は僕の横でため息混じりに睨みをきかせていた。
静かな瞳なのに、そこだけ妙に鋭い。
この二人仲悪いのか?
「あっははは!最初に三玖が男子と二人でいるって聞いた時はビックリしたけど、三玖が?っていう疑問もあったよ」
最初に声をかけてきたショートヘアの女子──一花は、冗談を言いながらも全体を見ている。
姉として場を回す余裕が自然と滲んでいた。
「そうですよ。それに学生の本分は勉学なのですから。男女交際などしている場合ではありません」
そこに頭に兎の耳のように緑のリボンを着けているショートボブカットの女の子が笑いながら三玖に彼氏が出来るのかという疑問を満天の笑顔で伝えた。
その笑顔はまるで太陽みたいで、いるだけで空気が明るくなる。
そしてそこに五月が真面目に勉学の為に男女交際などしている暇などないと目を瞑り姿勢正しく答えた。
その言葉だけが妙に正しくて、逆に浮いている。
真面目さが、彼女の輪郭をはっきりさせていた。
「まあ、五月さんの考えには同意しますが、少しくらいそういった話で盛り上がっても良いのではないでしょうか。皆さんは女子高からの転校ですので、今後そういった男性と出会わないとは限りませんし」
聖奈は五月の意見に同意しつつも恋する事までは否定しないでも良いのではと微笑みながら伝えた。
その微笑みは柔らかい。
けれどどこか含みがあって、言葉以上のものを隠している気がした。
「へえぇ~...意外ね。五月みたいにもう少しお固いイメージだったわ」
「ふふっ...恋愛は人の自由。ですよね、兄さん♪」
「あ...ああ...」
二乃の言葉に恋愛は人の自由であると伝えた聖奈は、僕に同意を求めるように微笑みを向けてきた。
その笑みには、妹らしさとは別の何かが混ざっていて、僕は少し緊張してしまう。
「と、そうだった。聖奈は自己紹介したかもだけど、僕はその聖奈の兄で樋口和喜…三玖とは席が隣同士になって仲良くなったんだよ」
営業スマイルな如く、にっこりと笑顔で僕は自己紹介をした。
「これはご丁寧に♪じゃあ、こっちは私から。私が長女の
一花の笑顔は軽いのに、場をまとめる芯がある。
長女という肩書きが自然に似合っていた。
「二乃よ。聖奈の兄貴ならこれから話す機会もあるかもね」
二乃は堂々と髪をかきあげる。
自信と好奇心がそのまま形になったようだった。
「
四葉は元気良く敬礼ポーズ。
彼女が動くだけで、周りまでつられて明るくなる。
僕達五人も何気に全員がバラバラのクラスだからなぁ…
うーむ…とりあえず、この子達の見分け方は髪型やアクセサリーとかで判別するしかないか。
……いや、それだけじゃない。
同じ顔でも、纏う空気がまるで違う。
そんな時──
「兄貴ーー!」
遠くから政樹の声が響き、手を大きく振りながらこちらへ向かってくる姿が見えた。隣には静かに歩く清治。
「部活終わりかい?」
「うむ。明々後日が練習試合だからな。皆張り切っていた」
「俺はいつも通り、清治に頼んでトレーニング室っす」
事情を説明する政樹に、清治が淡々と頷く。
「お二人とも、お疲れ様です」
「ふっ……その笑みと労いがあれば疲れも飛ぶ」
「さすが
「……その呼び方は……はぁ……」
いつものやり取りに、聖奈は頭を抱えて諦めたようにため息をついた。
「ちょっ……和喜!」
突然、左腕を両腕で抱きしめられ、二乃に引っ張られる。
「な、何?胸当たってるんだけど……」
「今はそんなのどうでもいいわよ!」
いや、男としてはどうでもよくないんだが……
「で?何?」
「誰よ!あのイケメン!」
視線の先には政樹と清治。
「……どっち?」
「金髪の彼に決まってるでしょ!」
即答かよ……
「福島政樹。四葉と同じクラスだ」
「滅茶タイプ!どんな子がタイプなの?」
……分からん。が──
そこで政樹が聖奈と楽しそうに話している姿をチラッと見た。
「正直知らない。でも今はフリーだよ」
「そ……そう……」
それを聞いて、二乃はじっと政樹を見つめる。
「政樹は見た目で判断する奴じゃない。正義感も強いし」
「……ますます惚れ直しちゃった♡」
──完全に恋する顔だな。
「政樹。清治」
「ちょっ……!!」
そこに僕は政樹と清治を自分の元へ呼んだ。すると、焦ったような二乃の反応があり、それはそれで面白かった。
「そっちはだいたい、お互いの紹介は終わっただろ。で、この子が五つ子最後の子で、次女の二乃だよ。二人も仲良くしてあげてくれ」
「おう!俺は福島政樹だ!二乃でいいか?」
「え……う、うん……♡」
僕の紹介に真っ先に反応したのは政樹だった。名前の呼び捨てで良いかと確認され、二乃は左手で長い髪を口元へ持っていきながら、恥ずかしそうに頷く。そして若干、僕の方へ寄り添うような距離感になる。
「ふっ……そう怖がることもない。こいつは相手が最悪な女でない限り、女に手を出さん。そして俺は加藤清治だ。二乃さんと呼ばせてもらおう」
「え……ええ。よろしくね、二人とも」
清治にも十分イケメン要素はあるのだが、あくまで政樹が目当てなのだろう。二乃は清治に対しては落ち着いた対応だった。
「しっかし流石は兄貴だな!」
「は?何が?」
「うむ。二乃さんの心を、こうも早く射止めるとは……俺には出来ん」
「「は、はあぁっ!?」」
政樹の言葉の意味が分からず聞き返すと、どうやら清治は、二乃が僕に惚れたと勘違いしているらしい。思わず僕と二乃は同時に声を上げてしまった。
「ん?違うのか?現に今も、そうやって和喜の左腕にしがみついているから、そうだと思ったのだが……」
「はっ!こ、これは違うの!ちょっとした成り行きで!」
清治の指摘通り、二乃はまだ僕の左腕を抱きしめたままだった。慌てて離れる二乃。
「…………」
「うふふ……兄さん?流石に手が早いのでは?」
「か、かかか、和喜くん!ふしだらです!」
三玖からはジト目、聖奈からは笑顔(明らかに笑っていない)、そして五月からは真面目な説教。
……理不尽すぎる。
「あはは♪二乃とカズキ君の関係はとりあえず置いといて……二人の言い方からすると、カズキ君ってモテるんだ」
「置いとくんじゃないわよ!」
一花が面白がって話題を逸らすが、二乃は必死に否定する。
「大丈夫だよ♪二乃のタイプは、私たちみんな知ってるから」
「──っ!」
ウィンク付きで言われ、二乃は言葉を失った。姉妹には筒抜けらしい。
「うむ。和喜はモテるぞ。勉強も出来て、運動神経も抜群。そのうえ驕らず、気配りも出来る」
「いや、それはお前だろ。ファンクラブあるし。それに、僕に告白してきた子なんていないぞ?」
そう否定するも、政樹と清治は遠い目をしていた。
「な、何?」
「兄貴……俺は兄貴に忠誠を誓ってます!でも!これだけは……」
「うむ。人には、知らない事が一つくらいあっても良い」
……怖い。何かやらかしてるのか、僕?
「……あんた何したのよ?」
「いや、マジで身に覚えないって!本当にコクられた事ないし!」
二乃のジト目な言葉にそう主張すると、三玖と五月がどこかホッとした表情を見せた。気のせいだろうか。
「……兄さんがモテるかどうかはさておき、周りから親しまれているのは確かですね」
「それって、お昼に言われていた“樋口四天王”に関係あるんですか?」
五月の一言に、他の四人が揃って首を傾げる。
「なんか強そうです!」
「だろ?分かってんな!」
四葉と政樹がハイタッチし、二乃がそれを面白くなさそうに見る。
「……その、福島君って、何か凄いところがあるの?」
「喧嘩は負けなし。今の目標は兄貴だな。俺の事は政樹でいいぜ」
「……マ、マサキ君で……♡」
「おう!」
満面の笑顔を向けられ、二乃は再び僕の左腕にしがみついて顔を擦り付けてくる。
「……ヤバい……滅茶カッコいいんですけど……♡」
だから、何故僕の腕なんだ。
「あっはは♪キヨハル君も、何か特別なものでもあるの?」
そんな光景を面白そうに眺めていた一花が、今度は清治へと視線を向けて問いかけた。
「ふむ……特にこれと言うものは無いと思うのだが……剣道部のエースと言われてはいるが……和喜には勝率では負けているしな……」
少し困ったような表情でそう答えた清治に、三玖が驚いたように目を輝かせる。
「すごい……カズキ、剣道できるんだ……!」
「まあ、我流だけどね。ちなみに清治は、去年と今年の個人全国一位」
「凄いです!! え……? でも、さっき加藤さんは……」
僕の説明に四葉が目を丸くしながらも、先ほどの清治の発言を思い出したのか、不思議そうに首を傾げる。
「ああ。僕は剣道部に所属してないんだ。団体戦では助っ人で出場してるけどね」
「兄貴はな! そこで負けなしなんだぜ!」
政樹が自慢気に胸を張って補足する。
「うむ。お陰で今年も団体で全国に行けた。……まあ、優勝は出来なかったのだが」
そう言って、清治は少しだけ悔しそうに視線を落とした。
「全国……凄いですね……」
「そうだ! 今度の剣道部の練習試合に、兄貴も出るんだ」
五月の言葉をきっかけに、政樹がぱっと明るい声を上げる。
「俺と聖奈と、もう一人ダチとで観に行く予定なんだけど……みんなもどうだ?」
その提案に、二乃がピクリと反応した。
「……待って……! それって、マサキ君とお近づきになれるってことよね……?」
顎に手を当て、何やら真剣に思案した後、二乃は勢いよく手を挙げた。
「行くわ!」
──はやっ……
心の中でツッコミを入れる。
「普通の人も観戦して良いものなのでしょうか?」
「構いませんよ。清治さん目当ての女子達も、よく来られてますし……ね?」
聖奈がそう言って、いたずらっ子のような笑みを清治へ向ける。
「……むうぅぅ……」
反論できずに唸る清治。
「ふ~ん♪ 面白そうだし、私も行こうかな」
「そうだね! 二乃も行く気満々だし!」
「……うん。私も、ちょっと興味ある……」
「そうですね。では、私もお願いします」
一花を皮切りに、四葉、三玖、五月と、次々に参加表明が続いた。
(……これは、無様な姿は見せられないな)
心の中で静かに気合を入れる。
その後、全員で連絡先の交換を済ませ、途中まで政樹と清治と一緒に帰る流れになった。
そして五つ子とは言うと──
「まさか、同じマンションだったとはね」
「ええ。本当に、世の中は狭いものですね」
二乃が呆れたようにそう言うと、聖奈が穏やかに頷いて答えた。
今はエレベーターに七人で乗っている。
思った以上に人数が多く、自然と距離も近くなる。
肩が触れそうなほどの空間に、二乃は落ち着かないのか何度も髪を指で弄っていた。
四葉は逆に楽しそうで、狭さすらイベントのように笑っている。
三玖は静かに立っているが、時折こちらに視線が向くたび、僕は妙に背筋が伸びた。
「しかも、フロアも一つしか変わらない……」
三玖が驚いたように呟く。
僕たちが住んでいるのは二十九階。
五つ子たちは最上階の三十階だ。
「僕たちの方が一つ下なんだね」
「そういうことになりますね」
「えー!そんな近かったんだ!」
「あははは♪こんな事もあるんだね!」
四葉が無邪気に声を上げ、一花が楽しそうに笑う。
「しかし、今までお会いしなかったのが不思議ですね」
「まあ……それは」
五月の疑問に、僕が答える。
「僕と聖奈が高校入学のタイミングで、こっちに引っ越してきたからね。来てから、まだ一年半くらいなんだ」
「なるほどね~」
一花は納得したように頷いた。
エレベーターは静かに上昇し、
やがて「29」という表示が点灯する。
「ここだな」
「ええ」
扉が開き、僕と聖奈はエレベーターを降りる。
「じゃ、三玖。明日もよろしくね」
「うん……!」
三玖は少し控えめに、でも確かに嬉しそうに笑った。
「他の皆さんも、何かあれば遠慮なくお声がけください」
「はい」
「ありがとう」
「よろしくね~♪」
五人がそれぞれ手を振り、
エレベーターの扉がゆっくりと閉まっていく。
閉じる直前、二乃がこちらを見て、
一瞬だけ意味ありげな視線を向けた気がした。
……気のせい、か?
完全に扉が閉まり、
エレベーターの音が遠ざかる。
「さて……帰りますか」
「ええ」
そう短く言葉を交わし、
僕と聖奈は並んで自宅へと向かった。
今日一日を思い返す。
転校生。
五つ子。
勘違いと理不尽と、剣道と、練習試合。
そして──
これから、確実に騒がしくなる予感。
そんな事を考えながら、
僕たちは静かな廊下を歩いていくのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
二乃の恋心が一気に加速しましたが、
次回は剣道部の練習試合編へ突入していきます。
──と言いたいところではありますが、原作を読んでる方にはこの後あるイベントが起こる事をご存知ですよね。
そう!風太郎の五つ子家庭教師イベントです。
ここをどうオリジナル展開に持っていくか──
続きをぜひお楽しみに!
今後もどうぞよろしくお願いいたします。