妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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いつもお読みいただきありがとうございます。

今回はお泊まり回になります。
勉強会から少しだけ距離が近づいて、それぞれの「視線」や「気持ちの変化」を意識して書いてみました。

大きな事件は起きませんが、その分、キャラ同士の空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ。


7.家庭教師、始動前夜 ―静かに交差する想い―

ピンポーン……

 

インターホンが鳴ったので、五月が来たのだと思い玄関を開けると、目の前には五月と並んで三玖の姿があった。

 

「あれ?三玖も来たんだ」

「うん……邪魔だったかな……?」

 

先程までのいつもの無表情から、三玖の表情がほんの少しだけ曇るのが分かる。

 

「いや、大歓迎だよ。さ、上がって」

「お邪魔します……」「お邪魔します!」

 

僕が開けた玄関のドアを背に二人を中へ促すと、三玖からはいつも通りの落ち着いた空気が、五月からは若干の緊張が感じ取れた。

本当に五つ子なのに、こうも個性が違うんだな。そこが面白くて、自然と興味が湧く。

玄関で二人が脱いだ靴を並べ、スリッパに履き替えたところで、リビングから父さんと母さんが顔を出した。

 

「いや~、こんばんは。君達が中野院長の娘さん方かな?」

「──っ!! 父をご存知なのですか!?」

「……!!」

 

父さんの言葉に五月は驚いて声を上げ、三玖も驚いたように目を見開いたが、声までは出なかった。

 

「あははは! 私と妻は君達のお父さんの経営している総合病院で雇われている身でね。私は外科医。そして──」

「私が看護師よ。これから何かあるかもしれないから、よろしくね。えっと……」

 

父さんと母さんが自分達の立場を話すも、どちらが誰かまではまだ分かっていないようだった。

 

「ヘッドフォンを首から下げてるのが三女の三玖。僕のクラスメイトだよ」

「……こんばんは……」

 

三玖を紹介すると、教室での自己紹介の時のように、少し硬い無表情のまま挨拶する。

 

「で、こっちの……髪型が特徴的な子が五女の五月。風太郎のクラスメイトで、今日の昼食の時に一緒になったんだ」

「変な間が気にはなりますが……コホンッ……こんばんは。はじめまして。改めて中野五月と申します」

 

ちらっと少し睨むようにこちらを見た五月は、一息入れると礼儀正しく挨拶した。

 

「はっはっはっ……すまないね。うちの息子は打ち解けやすいが、すぐにからかいたくなるらしくてね。改めて、和樹と聖奈の父で孝則と言う。普通におじさんと呼んで構わないが、風太郎君やらいはちゃんからは孝則さんと呼ばれている。好きなように呼んでくれ」

「らいはちゃん?」

 

父さんの口から出た“らいは”という名前に聞き覚えがなかったのか、五月が不思議そうに聞き返した。

 

「らいはちゃんってのは、風太郎の妹だよ。機会があれば……と言うか、今度の試合には来ると思うから紹介するね。三玖や他の姉妹には、まず風太郎を明日紹介するから」

 

僕の説明に、二人は納得したように頷いた。

 

「そして、私が母の藍華よ。それにしても二人とも、本当に可愛いわね♪どちらが和樹のお嫁さんになるのかしら♪」

「「およめっ……!!」」

 

母さんのからかいに、二人の頬は一気に赤くなる。

 

「全く、気が早いんだから。今日会ったばかりの友人をからかわないでくれる?」

「あら♪ 中野院長も貴方を気に入ってるのよ。五人のうち一人くらい、貴方を好きになるかもしれないじゃない♪貴方ったら全然彼女作らないじゃない」

 

痛いところを突いてきますね、この母親は──

 

「はいはい、それはまた今度。聖奈を待たせてるんだから」

「ふふふ……後で紅茶でも持っていくわね」

 

これ以上ここにいると母さんにあれこれ聞かれそうだったので、三玖と五月の背中を押して部屋へ向かうことにした。

 

「兄さん、えらく時間が……あら、三玖さんもいらっしゃったんですね」

 

部屋に着くと、既に準備万端だった聖奈が心配そうに話しかけてきたのだが、三玖の存在に僕と同じように驚きつつも、すぐに受け入れた。

 

「はぁぁ……母さんに捕まってね……二人はそこの丸テーブルに座りなよ」

 

頭をぽりぽりとかきながら遅れた理由を説明しつつ、三玖と五月を促し、自分は机に向かう。

座る位置は、聖奈を中心にして、僕の近くに三玖が、その横に五月が座った。

 

「悪いけど、僕は別の事をしなきゃだから、主に聖奈に聞いてくれ。五月は数学って聞いてたけど、三玖はどの教科?うちのクラスは三玖がやらないといけない宿題はないけど」

「……社会……」

 

あの屋上での会話を聞く限りだと、社会で三玖が困ることは無い気もするけど……まあ、社会も戦国時代だけじゃないしな。

 

「分かった。じゃあ、それでいこう。早速だけど五月の質問を僕が聞こうか」

「は、はい! えっと……ここなのですが──」

 

そうして、四人での勉強会が始まった。

その後、母さんから差し入れられた紅茶で一息入れながらも、勉強は真面目に進んでいく。

そんな時──

 

「あ、ゲーム……」

 

最初の休憩時間に、三玖が部屋の片隅に置いてあるゲーム機やソフトを見始めた。

 

「今日話したけど、趣味でたまにね。三玖もたしかゲームやってたよね」

「そうだけど……シミュレーションもの。戦国だけじゃなくて三国志もやるんだ」

「ああ。諸葛孔明だったり司馬懿、竹中半兵衛と黒田官兵衛、曹操と織田信長、呂布に本多忠勝。この二つの時代には、それぞれの時代以上に名を残してきた偉人ばかりだからね。特に、“あの時こうなってたら”っていうのが感じられて楽しいんだよねぇ~……」

 

うんうんと腕を組み、目を閉じながら頷く。

 

「はぁぁ……また始まりましたね、兄さんの趣味話」

「生き生きとしてます」

 

僕の話に聖奈は頭を抱え、五月はどこか驚いた表情で聞き入っている。

三玖に関しては言うまでもなく、興味深々という顔で僕の話を聞いていた。

 

「たしかここに……あ、あったあった。この書籍にはね、武田信玄公のことを詳しく書いてあって、それで──」

 

パンパンッ……!

 

「兄さん、いい加減にしてください。休憩はおしまいです。さあ、勉強に戻りましょう」

 

僕と三玖が二人の世界に入りかけるのを遮るように、聖奈は両手を叩いて僕の話を止める。

だから圧が凄いんだって……

 

「仕方ない。聖奈の機嫌がこれ以上悪くなるとまずいしね。良かったら三玖にこの本貸してあげるよ。持ってたりする?」

「う、ううん。いいの……?」

「ああ。うちの担任だったら、ここからももしかしたらテストで問題出すかもしれないからね」

 

あくまで勉強のため。五月もいることだから、軽くウィンクしながら三玖に渡す。

 

「そ、そんな書籍からテストが出るのですか!?」

「兄さんの担任の先生である社会の先生は、兄さん並みの歴史マニアで、たまに教科書に載っていないものまでテストに出す始末。点数を取るのに苦労します。五月さんも社会の授業を受けてみれば分かりますよ」

「はぁぁぁ~~~……」

 

僕の言葉に嘘はない。

驚く五月に対し、聖奈は頭を抱えながら真実だと伝える。五月はため息しか出なかった。

 

それから時は経ち、そろそろ二人も帰さなければいけないと思っていた時。

 

コンコンッ……ガチャ……

 

「勉強は順調かしら?」

 

母さんがノックをして部屋に入ってきた。

 

「はい。お二人ともとても教えるのがお上手で。とてもためになりました」

 

母さんの言葉に、五月は嬉しそうに答え、三玖も頷いて肯定した。

 

「そう。良かったわ。ああ、そうそう。二人とも、もううちに泊まっちゃいなさいな」

「「えっ……?」」

 

母さんの言葉に、五月と三玖は揃って声を漏らす。

 

「どうせワンフロア上に行くだけでしょ?なら、明日の朝に帰っても学校には間に合うわよ。大丈夫。院長先生であるお父さんの許可も取ってるし♪」

 

もう外堀から埋めてるじゃん。

 

「えっと……そこまで仰るなら……」

「……」

 

困ったように三玖を見る五月。

だが、その三玖はただ小さく頷くだけだった。

 

「じゃ、決まりね♪寝巻は……」

 

上機嫌だった母さんは、二人のある部分を見た瞬間、両手合わせて頬に当てたまま固まった。

ある部分というのは、言うまでもないだろう。

 

「う……うん!聖奈の予備がまだあるから、それを貸してもらえればいいわ。じゃあ、私は部屋の準備をしてくるわね」

 

少し肩を落とした母さんは、そのまま出て行った。

哀れな……後で慰めてと来そうだ。

 

「では、もう少しでキリも良いので、そこまでしてから寝ましょうか」

「そうだな」

「はい」

「うん……」

 

そうして、五月と三玖がうちに泊まることになった。

まだ知り合って初日。僕の周りはどんどん加速しているようである。

 


 

~三玖・五月Side~

 

藍華に用意された部屋に案内されると、そこには二組の布団が畳の上に敷かれていた。

もう夜も遅いのでと、二人はさっさと布団に入る。

だが、三玖は先程和樹に借りた本を早速読んでいた。

 

「三玖には分かるのですか?」

「う……うん。ゲームで出てくるから……」

 

五月にとっては難しそうな本だったので、三玖に分かるのか問いかけると、少し慌てたような様子で答えが返ってきた。

 

「しかし、やはりまだ会ったばかり。知らないことが多くありますね」

 

五月の言葉に、三玖はページをめくる手を止める。

 

「……うん」

 

ぽつりと短く答える。

部屋の中は静かだった。

外から聞こえるわずかな車の音と、時計の針の音だけが、やけに大きく感じる。

 

「ですが……」

 

五月が布団の中で少し体を動かす。

 

「不思議と……安心できる方でした」

 

その言葉に、三玖の視線がわずかに揺れる。

 

「……わかる」

 

小さく、同意する。

 

「押し付ける感じではなくて……それでいて、ちゃんと見ているというか」

 

五月は少し考えながら言葉を探す。

 

「距離の取り方が……上手い方ですね」

 

三玖は本を閉じる。

 

「……ちゃんと、見てる」

 

ぽつりと呟く。

 

「四葉の時もそう。好きな食べ物、覚えてて……」

 

少しだけ間を置いて。

 

「……私のことも、見てた」

 

武田信玄の話をした時。

あの時の、あの空気。

 

(……楽しかった)

 

胸の奥が、少しだけ温かくなる。

 

「三玖?」

 

五月が不思議そうに声をかける。

 

「……なんでもない」

 

短く答えて、布団に潜り込む。

 

「でも」

 

珍しく、三玖が続けた。

 

「……気になる」

 

その一言に、五月の心臓が小さく跳ねる。

 

「それは……どういう意味で?」

 

ほんの少しだけ、声が硬くなる。

三玖は少しだけ考えて──

 

「……まだ、分からない」

 

正直に答えた。

その言葉に、五月は小さく息を吐く。

 

「……そうですか」

 

安心と、少しの引っかかり。

静かな夜の中で、二人の間にわずかな火種が灯る。

 


 

ヴー……ヴー……

 

スマホが震える。

……一花?

画面を見ると、着信は一花だった。

 

「はいよ」

『もしも~し♪ちょっといい〜?』

 

いつもの軽い声。

 

「どうした?」

『五月と三玖、そっち行ってるでしょ?』

「来てるよ。で、今夜はうちに泊まり」

『は!?泊まり!?』

 

一花の声が一段上がる。

 

『ちょっとちょっと!いきなり何してんの!?』

「いや、母さんが勝手に話進めてね。君達のお父さんの許可も取ってるらしいよ」

『あ〜……あの人ならやりそう……』

 

納得したような声。

中野院長にはまだ会った事はないが、いつもそんな感じなのだろうが。

 

『で?どうなの?』

「どうって?」

『二人』

 

少しだけ声のトーンが変わる。

 

『どっちが可愛い?』

 

そう来たか。

 

「両方。同じ顔だし」

『ずる〜い』

 

くすくす笑う声。

 

『でもさ〜……三玖、結構来てるでしょ?』

「何が?」

『分かってるくせに』

 

少し間。

 

『あの子、興味持つと一直線だからさ』

 

……なるほど。

ただ、恋心というより、今は“気になる人間”程度だと僕は思うけどね。あの時の食いつき方はそういう感じだった。

 

「五月は?」

『真面目すぎて逆に危ないタイプ』

 

即答だった。

思わず苦笑する。

 

「……なるほどね」

『あんまりからかいすぎないでよ?』

 

一花の声が、少しだけ柔らかくなる。

 

『あの子達、慣れてないから』

 

……分かってるって。

 

「安心しなよ」

『ほんと〜?』

 

少し疑うような声。

 

「少なくとも、泣かせるようなことはしないよ」

『……ならいいけど』

 

少しだけ間。

 

『あ、あとさ』

「ん?」

『二乃。二人が帰ってこなくて心配してるよ』

 

あー……あの性格なら──

 

「荒れるな」

『荒れるね〜♪』

 

楽しそうに笑う。

 

「じゃあ、そっちは任せた」 

『丸投げ!?』

 

軽く笑い合って──

 

『じゃ、おやすみ〜』

「おやすみ」

 

通話が切れる。

……これからもっと賑やかになる。

静かだった部屋が、少しだけ温度を持った気がした。

 


 

~聖奈Side~

 

「…………」

 

部屋に戻った聖奈は、ベッドに腰を下ろしていた。

静かだった。

けれど──

 

(……()()

 

あの時の視線を思い出す。

和樹と話している時の、あの表情。

 

(あれは……)

 

ただの興味ではない。

少なくとも──

 

「……気づいてますよ」

 

ぽつりと呟く。

三玖の“距離の詰め方”。

そして──

 

()()も……)

 

真面目だからこそ、近づいた時の影響が大きいタイプ。

 

「……ふふっ」

 

小さく笑う。

 

「面白くなってきましたね」

 

だが、その目は笑っていない。

 

「でも──」

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

「譲るつもりはありませんよ、和樹」

 

静かな宣言。

誰にも聞こえないはずのその言葉は──

確かに、夜の中に溶けていった。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回は少し静かな回でしたが、
三玖と五月、それぞれの中で“何かが動き始めた回”でもあります。

そして聖奈の方も、少しずつ動きが見えてきました。

次回からはまた少しテンポを上げて、
関係性や展開も進めていく予定です。

もし「続きが気になる」と思っていただけたら、
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それでは、次回もよろしくお願いします!
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