妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は剣道の練習試合回です。
少し日常から離れて、「実力」や「見る側の視線」を意識した回になっています。

そして新キャラも登場します。
和樹たちとはまた違う“大人の視点”が入ることで、少し空気が変わるかもしれません。

それぞれが何を見て、どう感じるのか。
そんな部分も楽しんでいただけたら嬉しいです。


9.視線の先にいる人

~駅前~

 

今日は和真と清治の剣道の練習試合。

その応援に向かう為、二人以外のメンバーが駅前に集合することになっていた。

 

既に集合場所に来ていた、聖奈と風太郎とらいはと政樹は五つ子が来るのを待っていた。

まだ集合時間には余裕があるものの、どこか落ち着かない空気が漂っている。

 

駅前は休日ということもあり人通りが多く、行き交う人々のざわめきが絶えない。

そんな中で、この一角だけは妙に目立っていた。

それぞれ雰囲気の違う面々が揃っているのだから無理もない。

 

「……遅いな」

 

ぽつりと風太郎が呟く。

 

「まだ集合時間五分前ですよ」

 

聖奈が淡々と返す。

その声音はいつも通り冷静だが、わずかに苦笑が滲んでいた。

 

「まあまあ、すぐ来るって」

 

政樹が軽く笑って場を繋ごうとした、その時──

 

「おっまたせ~♪」

 

いつもの調子で軽い挨拶をする一花を筆頭に五つ子も勢揃いした。

 

「遅いぞ。いつまで待たせるつもりだ」

「まだ集合時間五分前でしょ。器の小さな男ね」

 

待たされたことに文句を言う風太郎に、二乃はいちゃもんをつける。

どうやら、政樹に対してだけまだ緊張しているが、他の面々には、もう素を出しまくってる様だ。

 

「わぁー、可愛い子がいますね。上杉さんか福島さんの妹さんですか?」

 

風太郎と政樹の間にちょこんと立っていた女の子、らいはの顔に自身の顔を合わせる様に、四葉がしゃがんでにっこりと笑顔を向ける。

 

「俺の妹だ。らいは挨拶しろ」

「上杉らいはです。よろしくお願いします」

 

風太郎の言葉にらいはは礼儀よく頭を下げながら挨拶をする。

小さな体ながらも、その所作はしっかりしていて、見ている側が思わず微笑んでしまうような丁寧さだった。

 

「うわぁぁ~、本当に可愛いですね♪」

「うん…この間孝則さんが言ってたらいはちゃんだね…」

 

らいはの可愛さにその場に和の空気が生まれる。

張っていた空気が一瞬で緩み、自然と全員の表情も柔らいだ。

 

「お。孝則さん知ってんだな」

「ええ。和樹さんの家に行くことが会ったのでご挨拶しました。後、藍華さんもですね」

「二人とも優しい雰囲気だった…」

 

政樹の言葉に、五月と三玖は笑みを浮かべた。

思い出すように、少しだけ目を細める三玖の表情が印象的だった。

 

「ねえ、お兄ちゃん!同じ顔の人が五人もいるよ!」

「まあ…五つ子だからな」

「五つ子!?すごーい!」

 

らいはは目を輝かせながら五つ子を見回す。

その純粋な反応に、五つ子の方もどこか照れくさそうにしていた。

 

全員揃ったこともあり、試合会場である相手校の学校へと向かう。

そんな中、一花達五つ子が珍しいのからいははテンションが高いようである。

 

「それにしても、さっきの五月ちゃんのご挨拶って言葉。何やら面白そうですなぁ」

 

歩き始めたところで、一花がニヤニヤしながら話し始める。

 

「ホントにカズマ君に嫁ぐみたいだよねぇ~♪」

「「──っ!!」」

 

三玖と五月は顔を赤くしてビクッと反応する。

その反応の早さと分かりやすさに、周囲の視線が一斉に集まった。

 

「何言ってんのよ。まだ会ってその日なのよ──て!あんたら本気で!?」

「ち、違います!本当にお邪魔する挨拶をしただけです!」

 

一花のからかいに二乃はバカな事を言うなと言わんばかりに話すが、三玖と五月の反応に気付くはずもなく二人に問いつめた。

それを五月ははっきりと否定する。

三玖も首を縦に振りながらそれに続く。

 

「大方、母さん辺りからからかわれたのでしょう。あの人はそういうお話が好きですし。後は、兄さんを溺愛してますからね。自分の勤め先の院長の娘さんで可愛いとなれば、母さんの事です、その様な話を持ち出したのでしょう」

 

そこに聖奈が二人の助け船の様に語りだす。

その言葉はあくまで冷静で、状況を俯瞰したものだった。

 

「それを聞くと、私たちも会ったら和真さんのお嫁さん候補に勧められるんじゃー…」

「かもしれませんね」

 

緊張した趣の四葉とは反対に、聖奈は冷静を()()()()()

その内側では、確実に何かを考えていた。

 

(……油断はできませんね)

 

ほんの僅かな思考。

だが、それは確実に未来へ向けたものだった。

 

「あっははぁ~♪それは、まいったねぇ~♪」

「あんた見てても全然まいったように見えないわよ。私はもう好きな人がいるから問題ないけど……はっ!!」

 

一花の言葉にいつも通りに返す二乃であったが、ここにその好きな政樹がいることに気付いたがもう遅し──

 

「へぇ~、二乃はもう好きな奴が出来たんだな。二乃みたいな女子に好かれるなんて、そいつは果報者だな」

 

自分の事を言われてるとは思ってもいない政樹はそう口にする。

 

(多分兄貴だろうな。さっすが兄貴だぜ!女性の心をこうも簡単に掴むなんてな!)

 

そして、あらぬ方向へと考えを持ち、意気揚々と前進していった。

 

(どうしよう!わたしに好かれる人は果報者だって!え!?てことは、わたしいける!?)

 

当の二乃はポジティブに捉えているようである。

両手で頬を押さえて顔を赤くしている。

それを他の姉妹は苦笑いで見ている様だ。

 

その後も女性陣と政樹は話で盛り上がりながら相手校の学校に着いた。

勿論、風太郎は参考書を見ながら皆の後について行った。

聖奈やらいはの注意も何のそのである。

 

「いっち!にっ!……」

 

武道場に近づくにつれ、かけ声が聞こえてくる。

どうやら試合前の練習に励んでる様である。

空気が少しずつ張り詰めていくのが分かる。

 

そんな武道場の片隅には、旭高校の制服姿の女子達が固まって黄色い声をあげている。

その喧騒から少し離れた木陰に座り、暖かい目で見ている青年がいた。

 


 

「兄貴!」

 

政樹の声が聞こえたのでそちらを見てみると、ゾロゾロとこちらに向かってくる集団がいた。

 

木陰に座りながら道場の様子を眺めていた僕は、その声に反応してゆっくりと顔を上げる。

視線の先には、見慣れた顔ぶれと──その中に混ざる、少しだけ新しい関係の輪。

 

……来たか

 

静かに息を吐く。

 

「和樹さーーん!」

「おっと…」

 

清治のファンクラブの熱い声援を休憩がてら見ていたのだが、別の応援団を迎えると、らいはちゃんがいち早く僕のところにかけてきたので、急いで抱き抱えた。

 

小さな体が勢いよく飛び込んでくる。

その軽さと温もりに、自然と口元が緩む。

 

「ほら、危ないだろらいはちゃん。それに、今の僕汗臭いよ」

「ふふふ。そんな事ないよ。いつもの和真さんの良い匂い♪」

 

更に抱きしめてくるらいはちゃんの頭を撫でながら、他のメンツを出迎える。

 

「何あんた。小学生に手を出してるわけ…?」

「出しとらんわ!風太郎と同じで付き合いが長いんだよ」

 

二乃の白い目に思わずツッコミを入れる。

 

「言ってしまえば、聖奈同様妹みたいな存在だよ」

「えぇぇ~、わたしは和樹さんの事大好きですよ♪お嫁さんにだってなってあげます」

「和樹!何度も言うが、らいはだけは手を出すなよ!」

 

らいはちゃんがご機嫌に話すが、それを許さずといった形で、風太郎が僕かららいはちゃんを剥がし取るように自分の方に連れていった。

 

だから、手を出してないっての。このシスコンが……

 

「もう!お兄ちゃん、邪魔しないでよ!」

「いいからいは!お前にはまだ早すぎるんだ。和真は良い奴かもしれない。だが!お前にはちゃんとした男を親父とだな──」

 

この通り、風太郎はらいはちゃんの事となると過保護になる傾向がある。

その必死さは、もはや兄というより保護者に近い。

 

「カズキ…胴着姿…似合ってる…」

「そう?あはは、ありがとね三玖」

 

三玖に褒められたので、少し襟を正してみたりした。

ほんの僅かな仕草。

それだけで、三玖の視線が少しだけ柔らぐ。

 

「にしても、何で君はここにいるの?サボり……て訳じゃなさそうだね」

 

一花の指摘通り、部員が練習しているなかこんなところで座ってれば、練習をサボってると思われてもおかしくは無いだろう。

 

だが、僕は汗だくでタオルを首から下げてる状態だ。

サボってる様には見えなかったのだろう。

 

「僕は剣道の型を身につけて無いからね。だから、自主練をしてたんだよ」

「「「「「?????」」」」」

 

僕の言葉に五つ子からは不思議な表情を向けられたが無理もないだろう。

“剣道部なのに剣道の型をやっていない”

その矛盾は、普通なら理解できない。

 

「前に四葉には伝えたが、兄貴の剣は神影一刀流っす。これは剣道ではなく()()なんすよ」

「剣術…ですか…?」

 

五月の反応からまだ理解出来ていない様だ。

だが、その言葉に興味は確実に向いている。

 

「『実戦のための技術』が剣術で、『自分を磨くための武道』が剣道、とイメージすると分かりやすいですよ。兄さんはあくまでも実戦形式のものしか覚えませんから。空手、柔術、中国拳法等ですね」

「ほえぇぇ~、そんなに!凄いです!」

 

冷静な説明に四葉が興奮した様に顔を突き出してきた。

距離が近い。いつも通りだ。

 

「……だから、型の練習はやらない。必要な動きだけやる」

 

僕は淡々と付け足す。

それは誇張でも自慢でもなく、ただの事実。

 

ジャリッ…

 

砂利を踏む音。

 

その音は、不思議と場の空気を一段引き締めた。

 

「相変わらず無茶苦茶な坊主だなぁ~」

石暮(いしぐろ)さん!ちぃーす!」

 

訪問者は三人。その中央に立つ男は知り合いだったので政樹が挨拶する。

僕もその場を立ち上がり礼をする。

 

その男は、年の頃は三十代後半。

黒髪は軽く流され、少し無造作。

整えすぎていない分、どこか現場の匂いを感じさせる。

 

切れ長の目は一見すると眠たげだが、その奥には、はっきりとした観察の色がある。

視線が動くたび、周囲の情報を拾い上げているのが分かる。

 

ネクタイはわずかに緩められ、ジャケットの内側には、警察手帳。

細身の体つきだが、無駄のない筋肉の付き方をしているのが、立ち姿だけで分かる。

 

口元には、薄く笑み。

余裕──というより、“慣れている”人間の表情だった。

 

「おう!政樹、来てやったぞ!ちゃんと鍛えてるだろうな?」

「勿論っすよ!」

 

恒一(こういち)さんは笑いながら政樹に近づくと、政樹の胸に右拳を当てる。

軽い動作。しかし、そこには信頼関係が見えた。

 

「お前が呼んだのかよ…恒一さんだって忙しいんだぞ…」

「あっはっは!気にすんな。ちょっとくらいかまやしねぇ。()()にも話しつけてるからよ!」

「相変わらずの自由人でいらっしゃる」

 

石暮 恒一。

県警捜査一課の警部。

 

場にいるだけで、空気の質が変わる。

軽口を叩きながらも、その存在は明らかに“場数”を踏んだ人間のものだった。

 

「よう、聖奈ちゃん!相変わらず美人さんだねぇ」

「ふふふ…石暮さんこそ、相変わらずのセクハラ発言ですね」

「ははは!このくらい許してくれや。で?風太郎は、ここでも勉強かよ!体力くらい少しはつけろよ!」

 

バンッ…バンッ…

 

「かはっ…余計なお世話ですよ」

 

背中を叩かれた風太郎はむせる。

だが石暮は笑っているだけだ。

 

恒一さんの視線が、ゆっくりと全体をなぞる。

 

五つ子。

政樹。

風太郎。

聖奈。

らいは。

そして──僕。

 

「……なるほどな」

 

小さく呟く。

 

その一言には、評価と興味が混ざっていた。

 

見てるな……

 

内心でそう感じる。

あの視線は、“人を見る側”のものだ。

 

「で、本題だ」

 

恒一さんは後ろの二人に軽く顎で指示する。

 

「こいつらは、部下だ」

「は、初めまして!」

「よろしくお願いします!」

 

やや緊張気味の声。

だが、その目は真剣だ。

 

「今日はな──」

 

一拍。

 

「“見せに来た”」

「見せる……?」

 

五月が小さく反応する。

 

「そうだ」

 

視線が、僕へ向く。

 

「お前と──」

 

そして武道場へ。

 

「この剣道部のエース」

「……清治か」

「現場じゃ見れないタイプの動きだ。いい教材になる」

 

部下の二人が強く頷く。

 

「警察の人にとっても、参考になるんですか?」

「なる」

 

四葉の問いに即答。

 

「速さ、間合い、踏み込み。全部が実戦に繋がる」

 

一瞬、空気が張る。

 

「……特に、そいつのはな」

 

僕を見る。

 

……完全に見られてるな

 

評価されている。

だが、それを表に出す気はない。

 

「警察の教材にされるのは、光栄なのか分からないですね」

「褒め言葉だと思っとけ」

「そういうことにしておきますよ」

 

軽く言葉を交わす。

 

だが、その裏では──

 

恒一さんは確実に楽しんでいた。

 

「今から試合に出るんだろ?」

「ええ」

「なら──」

 

少し距離を取る。

 

「しっかり見せてもらう」

 

その声には、軽さと“期待”があった。

 

「期待に応えられるかは分からないけど」

 

一歩、踏み出す。

 

「やることは変わらない」

 

武道場へ向かう。

 

背後で、視線が集まる。

 

三玖は静かに見つめ、五月は真っ直ぐに背中を追い、聖奈はわずかに目を細め、二乃は腕を組みながらも目を離さず、四葉は楽しそうに笑い、一花は興味深そうに見ていた。

 

「……いいな、ああいうの」

 

恒一さんの小さな声が、風に乗って零れた。

 

それは、ただの感想ではない。

 

“現場で生きる人間”が、

“異質な強さ”を見た時の──

 

素直な、本音だった。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回は「視線」をテーマに書いてみました。
同じ場面でも、誰が見るかで意味が変わる──そんな空気を少しでも感じてもらえていたら嬉しいです。

そして、いよいよ次は試合本番に入っていきます。
和樹と清治、それぞれの戦いと、それを“見る側”の変化も描いていく予定です。

もし「続きが気になる」と思っていただけたら、
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それでは、次回もよろしくお願いします!
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