導星の錬金術師   作:星見錬

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ルーキーランキング1位!?
この話を書いている途中に確認したらそうなってて、思わず二度見しました。
光栄ですが、今まで頂いたことのない評価に冷や汗と嬉しさが止まりません。
本当にありがとうございます!! これからも頑張ります!!


第8話『人の形 魂の形』

 エドのプロポーズ騒動の後。

 書斎に向かうと、師匠(せんせい)が少し困ったように笑いながら出迎えてくれた。

 

「やあ、ステラ。聞いたよ、エドを振ったんだって?」

 

「うっ、蒸し返すのはやめてくださいよ……」

 

 思わず嫌な顔をすると、師匠(せんせい)はとうとう声を上げて笑い始めた。

 そりゃあ、貴方にとっては笑い話だろうけども。こっちは大変だったんですが?

 場が場なら「なにわろてんねん」って言うところだったよ、まったく。

 

「ははは。大変だったな」

 

「気持ちは嬉しいんですけどね。

 だけどやっぱり、赤ちゃんの頃から知ってる子と結婚はちょっと……」

 

「そうだろうな。……俺は、君が娘になってくれても構わないが」

 

師匠(せんせい)!?」

 

 驚きすぎて鞄を落としかけた。いきなりそういう爆弾発言はやめてもらえます!?

 流石にエステル・エルリックはシャレにならんのですが!

 

 というかそもそも私はエドウィン派だよ!!

 

 ……まあ、口には出さないけどね。流石に。

 

「もう、からかうのはやめてください!」

 

「悪い悪い」

 

 肩をすくめるだけの師匠(せんせい)に軽く怒りつつ、いつもの椅子に座る。

 そのまま講座の方に話を変えるために錬金術書を取り出そうとして──やめた。

 師匠(せんせい)が何かを言おうとしているのに気付いたからだ。

 

 ……うん、まあ。そろそろかな。

 三年も経ったんだ。隠し通せるはずがない。

 

「──ステラ」

 

 改めて名前を呼ばれて、「はい」と答える。

 先程の笑顔はどこにもなく、師匠(せんせい)の顔は真剣そのものだ。

 

 まるで、今から残酷な真実を告げようとしているかのような。

 

「エドを振った理由だが。……あれだけが理由じゃないんだろう?」

 

 振った理由に関しては、トリシャさんから聞いたのだろう。そしてそれに、違和感を持ったと。

 師匠(せんせい)の考えは、半分正解で半分外れだ。

 

 確かにあの時の私は、エドのプロポーズを断る理由はあれしかないと考えていた。

 かなり混乱していたしね。今思えばとんだポンコツである。

 でも、今は違う。歳の差なんかよりも、受け入れられない原因がある。

 

 ……冷静に考えたら、今こうして存在することさえ許されないのかも。

 

 だって、私は。私という存在は──

 

 

「ふふ、師匠(せんせい)にはやっぱりお見通しでしたか。……ええ、その通りです」

 

 笑って、師匠(せんせい)の問いかけに肯定する。

 どこか傷付いたような顔をした彼の前で、

 

 

「だって私、人間じゃありませんもの」

 

 

 私は、自分の正体を告白した。

 

 


 

 

 ──私は、人間じゃない。おそらくは人造人間(ホムンクルス)だ。

 

 そうじゃないと、成長しない……変化しない体に説明が付かない。

 食欲や睡眠欲といった、生存に必要な欲求が微塵もないことについても同様。

 

 とは言っても、お父様が作り上げた七つの大罪を冠する彼らとは別の存在だろう。

 怪我の治りは人より速い方ではあるけども、赤い光を発しながら即座に完治したりはしない。

 影を操ったり、変身能力があったりもしないし、最強の矛や盾、目も持ってない。

 ただ身体が不変で、クセルクセス人の特徴を持っていて──

 

 ついでにハガレンオタクの記憶と自覚が残っているだけの、美少女である。

 

 ……ちょっとふざけたのは許してほしい。こうでもしないとやってられないのだ。

 それだけ、自らを人間じゃないと明かすのは怖くて、苦しいことだったのだから。

 

 

「……いつから、気付いていたんだ?」

 

「最初に『少しおかしいな』と思ったのは、目覚めて半年くらい経った頃ですかね。

 ロックベル先生の指示で、身長と体重を記録していたのですが……」

 

「変わっていなかった?」

 

「ええ。髪や爪の長さなども記録していましたが、そちらも変動はありませんでした。

 今はもう記録していません。多分、しても意味ないので」

 

「そうか……。他に、自分と他人が違うと思ったことは?」

 

 師匠(せんせい)は手元の紙に情報を書き込みつつ、私に話の先を促す。

 生存欲求についてはさっき軽く話しといたから……次に触れるべきなのはここかな。

 

「そうですね……。やはり、首に巻かれたこの包帯でしょうか。

 私は未だに、この包帯の下に何があるのかを知りません。

 ……クリスに、触れることを禁じられているもので」

 

「クリスに? ……解くのは、止めた方が良さそうか?」

 

「包帯の下にあるものを、師匠(せんせい)に見てもらうのが一番確実なんでしょうけどね。

 ……多分、巻き直しても違和感を持たれてしまうと思います。すみません」

 

 包帯の下にあるものについては、既に心当たりがある。──錬成陣だ。

 より詳しく言うのなら、血印。この体と魂の仲立ちをする、精神の代わりのようなもの。

 

 仕組みとしては、原作のアルやバリー、スライサー兄弟と同じものだろう。

 違うのは、魂を宿しているのが鎧ではなく、人間の体であるということ。

 

 ……この体も多分、錬成されたもの。死体にしては死臭がしないし、腐ってもないからね。

 魂のない人体を作るだけなら、人体錬成には値しない。これは原作の中で説明されている。

 だからそこは特に疑問点にはならない。

 

 今、一番の問題点と言えば──

 

「なるほど。……もしも君が、何者かに作られた人造人間(ホムンクルス)だとして。

 その作成者がクリスである可能性はあると思うか?」

 

「いいえ。それは多分、違うと思います」

 

「確実に君の正体を知っているのに?」

 

「はい。あくまでも私の主観の話にはなりますが。

 ──クリスは多分、錬金術が嫌いなんだと思います」

 

 ……最初に「錬金術師になりたい」と打ち明けた時、彼女はとても反対していた。

 錬金術の危険性を全面的に押し出して、「心配だからやめてほしい」と何度も言われたものだ。

 

 ホーエンハイムさんに弟子入りした後も度々顔を曇らせていたし、小言も多かった。

 錬成物を見せても、最初は褒めてくれるものの、やっぱり最後は注意喚起で終わってしまう。

 

 彼女は錬金術というものに対して嫌悪感……あるいは、恐怖を覚えているのだろう。

 そんな彼女が、人体錬成に──肉体に魂を宿すという、高度な錬成に挑むはずがない。

 体の一部が持って行かれた様子もないし。だから彼女は私の作成者ではない。

 

 最後の部分だけ省いて師匠(せんせい)に話すと、彼は「ふむ……」と考え込んだ。

 

「他に、作成者の心当たりは?」

 

「ありませんね。師匠(せんせい)以外の錬金術師には、会ったこともないので……」

 

 ああ……血印の形さえ見られたら、そこから何らかの手がかりが得られたのかもしれないのに。

 こうなったらクリスに怒られる覚悟で包帯解いて、師匠(せんせい)に陣を見てもらおうか?

 いやでも、それで何も分からなかったら怒られ損だよなあ……。

 

 というか、アレだな。今ふと疑問に思ったことなんだけども。

 

「そもそも……どうして私は作られたんでしょうか?」

 

「……! 確かに、そこも大きな疑問点だな。

 作成目的から深堀りしていけば、作成者のヒントも得られるかもしれない。

 よし、考えられるだけ挙げてみよう」

 

 二人で考えつくだけの理由を書き出し、ああでもない、こうでもないと話し合った結果。

 残ったのは、以下の二つだった。

 

 『単なる学術的興味からの実験』説と、『死者を蘇らせるため』説だ。

 

 

 もしも前者だった場合。師匠(せんせい)には言わなかったものの、軍が私を作った可能性がある。

 例えば先程挙げた、鎧に魂を定着させる技術のプロトタイプの可能性だ。

 

 最初は別の体に魂を定着させる予定だったものの、色々あって鎧に変更した──とか。

 ……いや、わざわざ人の魂を別の人型に押し込める理由がないな。

 この体、戦闘力皆無だし。だったら最初から鎧に定着させた方がいい。

 つまり軍が作成者説はナシ、と。

 

 それを抜きにして考えると、どこかの在野の錬金術師が私を作ったということになる。

 ……そいつ、もしかしなくてもマッドサイエンティストなのでは? 私は訝しんだ。

 単なる興味で禁忌犯されても、真理野郎だって困惑するだろう。

 

 人体実験上等なブラックすぎる軍と、興味本位で禁忌を犯すマッドサイエンティスト。

 どちらも親にしたくない存在だ……。

 

 

 そう考えると、後者の『死者を蘇らせるために挑んだ』とする説の方がまだマシだ。

 ただ、こっちはこっちで私を作った人が報われない。

 

 その人物が誰を蘇らせたかったのかにしろ、死者蘇生目的の人体錬成は成功しない。

 何故なら、死者の魂はどこにも存在しないから。無から有は生まれない。

 錬金術の鉄則だ。

 

「……ん? あれ?」

 

 どこか違和感を覚えて、首を傾げる。

 

「どうした?」

 

 師匠(せんせい)の問いかけも他所に、思考は深く深く沈んでいく。

 

 

 死者は生き返らない。無から有は生まれない。

 何かを欲すれば、必ず同等の代価を支払うべし。

 

 それが等価交換と呼ばれる、この世界の法則にして真理だ。

 

 

 ……それなら。それが真理だと言うのなら。

 

 

 この世界とは別の世界から来た、私の魂は何だ?

 

それに気付いてはいけない。

 

 私は一体、何を代価にして生まれてきた?

 

今すぐ思考を止めろ。

 

 あの日真理が言っていた『代価』は、一体何に対してのものだったのか?

 

──それ以上進むと、手遅れになる。

 

 何かが警告している気がする。まるで、真理に近付く者を撃ち落とすように。

 だとしても思考は止められない。原作の知識と私の状況を当てはめて考えて、

 

「…………あ」

 

「ステラ?」

 

師匠(せんせい)、……ホーエンハイムさん。つかぬことを、お聞きしますが。

 貴方は──」

 

 思い至った。思い至って()()()()

 

 

()()()()()()()()を、見たことはありますか?」

 

 

「そ、れは……────ッ!!」

 

 私の問いかけで、同じ結論に至ってしまったのだろう。

 椅子を倒しかねない勢いで立ち上がった彼は、数歩後退りした。

 そして、信じられないモノを見るような顔で私を見る。

 

 そうなると思っていた。貴方と()()には、根深い因縁があるのだから。

 

 

 今から、遠い遠い昔のこと。

 ()()は、とある奴隷の血を触媒にしてこの世界に生まれた。……そう、触媒だ。()()じゃない。

 かの存在が生まれたのは、原作でただ一回だけ起きた奇跡。そこには再現性も何もない。

 

 だとしても、同じ奇跡が二度起こらないとは限らない。

 

 『「ありえない」なんて事はありえない』。グリードの言葉が繰り返し頭の中で響く。

 

 もしも、私の考えが正しいのなら。

 転生した理由も、転生前に()()()()にいたことにも説明が付く。

 原作とは多少の齟齬が出るが、無印版でその設定は既出だ。

 実に信じがたい話だが、この世界が両方の要素を含んでいるのなら別にありえない話じゃない。

 

 私の本当の正体は、真理の扉の向こうから生まれたフラスコの中の小人(ホムンクルス)

 

 ……より詳しく言えば、その魂を人の形をした入れ物に入れたもの。

 

 

「……いや、まさか、そんな……」

 

 ホーエンハイムさんは放心したまま、ぶつぶつと呟くだけだった。……無理もない。

 フラスコの中の小人(ホムンクルス)の触媒となった血の持ち主は彼だ。

 かつて奴隷だった彼は奴から名と知識を与えられ、果てには永遠の命すら与えられた。

 今の彼の苦しみは、それに起因すると言っても過言ではない。

 

 自分の弟子が、奴と同類などと──何より、奴を生み出す術師が現代にも存在するのだと。

 そう突き付けられて、冷静でいられるはずがない。

 

「……ひとつ、聞いてもいいか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「もしも君が、俺が想像しているような存在だったとして……。

 何故、俺から錬金術を習う真似なんかしたんだ? 君なら元から使えたはずだ」

 

 猜疑心に満ちた視線で射抜かれて、心臓が凍り付く。

 優しかったホーエンハイムさんはもう、どこにもいない。そう思えてしまうほど。

 

 ……でも、言われてみれば少し違和感があった。

 私はフラスコの中の小人(ホムンクルス)かもしれない。

 けれど、そうなるとおかしい点があるのだ。

 

「いえ、私は貴方に習うまで錬金術は使えませんでした」

 

「……それは本当か?」

 

「はい。……誤解が生じる前に言いますが、記憶がないのも本当です。

 私には、三年前に目覚める前の記憶が全くありません。

 ある程度の知識こそありますが、それもまばらと言うか、少々偏っていて……」

 

「いや、それはおかしい」

 

 ホーエンハイムさんの目が一瞬、何かに気づいたように細められる。

 新たな疑問点の登場で冷静になったのか、彼は椅子に座って再び紙に情報をまとめ始めた。

 

「君が奴……『あの存在』だったとして。

 その場合、君が持つ知識は完全なものであるはずだ。偏ることなどありえない。

 そうではないということは──」

 

「『違う存在』か、『不完全である』……ということでしょうか?」

 

「……そうなるな」

 

 ホーエンハイムさんと顔を見合わせる。

 どちらの可能性も否定できないが、同時に立証も不可能だ。

 ──それはもう、『神のみぞ知る』というほかなかった。

 

「……ステラ。最後にもう一つだけ聞かせてくれ。

 例え、自らがどのような存在であったとしても──君は人間の味方でいられるか?

 もしも自分と同じ存在がいたとして、そいつが人間の敵だったとして……。

 君が『そちらに与することはない』と、ここで宣言することは」

 

「できますよ」

 

 あえて言葉を遮り、私はホーエンハイムさんの目を見てはっきりと告げた。

 ホーエンハイムさんが問いたくなる気持ちも分かる。だけど、これだけは言わないといけない。

 

「私が人間でないことは分かっていました。……どんな存在かまでは、分かりませんでしたが。

 それでも貴方の弟子を続けていたのは……人間として暮らしていたのは……っ!」

 

 

「私が、人間でいたかったからだ!!」

 

 

 気が付けば、そう泣き叫んでいた。

 疑われたのが悔しかったわけじゃない。それは当然のことだから。

 ただ、自分でも意味が理解できない涙が止まらなかった。

 

「……貴方が、どうしても私を信じられないのなら。破門していただいても構いません。

 この家にも近付かないと約束します。でも、だけど……っ」

 

「すまない、ステラ。君を泣かせるつもりはなかったんだ」

 

 ホーエンハイムさんの大きな手が、私の頬に流れる涙を拭った。

 優しい、父親のような手つき。そこには、猜疑心など微塵もなかった。

 

「……そうだな。俺は疑うのではなく、君と過ごした三年間を信じるべきだった。

 破門はしない。今まで通り過ごしてもらっても構わない。ただ……」

 

 彼が紙に何かの名前を書き込む。それを見ると、『羅針協会』と書かれていた。

 

「もしも、君が本当に自分の正体を知りたいと望むなら。

 クリスチナの元を離れ、他の錬金術師に師事してみるのも一つの手だろう。

 ここは、俺の古い友人が作った錬金術師の養成所だ。手紙で君のことを紹介しよう」

 

「……つまり?」

 

「遊学だよ。君は、ここ以外の世界を知るべきだ。

 ……ステラ。リゼンブールの外へ旅立つ気はないか?」

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