導星の錬金術師   作:星見錬

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前話で総合評価が1000を超えたことに触れましたが、その後すぐに2000を超えていて思わず変な笑いが出ました。
更に日間ランキングにもたびたび入っているようで、いただく評価やご感想の一つ一つに心から感謝しています。
本当にありがとうございます!

……そんな中、大変心苦しいお知らせなのですが、しばらくの間は【毎週一話】の投稿に切り替えさせていただきます。

理由は、連載にあたって加筆した描写と、以前に書き貯めていた部分との齟齬が想像以上に大きくなってしまったためです。
このままでは、納得のいくクオリティを保ったままお届けするのが難しいと判断しました。

少しお待たせしてしまうかもしれませんが、その分「面白い」と思っていただける物語をお届けできるよう全力を尽くしますので、今後ともどうか応援のほどよろしくお願いします!


第10話『星は案じる』

「羅針協会、ねえ……」

 

 帰路の途中。夕日が地平線に沈みゆく中、私は師匠(せんせい)から聞いた名前を呟いた。

 

 それにしても……まさか、『錬金術師による錬金術師のための学び舎』があるなんてね。

 師匠(せんせい)が遊学先に勧めてきた『羅針協会』は、東部を中心に活動するアメストリス唯一の錬金術師養成所である。

 

 錬金術師になる方法といえば、弟子入りするか、市販の錬金術書で独学するかの二択が基本。

 そこに現れた、体系だった教育を行う組織──正に錬金術界の革命と言えるだろう。

 

 他にも、『錬金術師よ、大衆のためにあれ』という術師の常識に倣って、貧困層への炊き出しや無償での物品修理、医療費の肩代わりなどの慈善事業にも取り組んでいるらしい。

 また、国は運営に関わっておらず、とある一族の私財で成り立つ完全な独立組織なのだとか。

 

 以上が師匠(せんせい)から聞いた、羅針協会についての情報だ。

 

 

 ……初耳すぎるなあ……。

 

 さっきから原作やFA版の記憶を漁っているが、『羅針協会』の「ら」の字も出てこない。

 一応無印版の記憶も分かる範囲で探してみたものの、それらしい単語は皆無だ。

 トゥーレ協会? ありゃ世界線が違うわ。

 

 なら、それ以外の記憶なら? ……残念ながら、そこにも引っかからない。

 

 そもそも、私のハガレン知識はどこまであるのか?

 原作とFA版は詳細に参照できる。無印版も、原作との差異はある程度分かっている。

 ただ……その他のメディアミックスの記憶は、正直に言うとかなりおぼろげだ。

 

 まずはゲーム。単行本にゲームの宣伝漫画が載っていたので、ある程度存在は分かる。

 『翔べない天使』とか、『暁の王子』とか、『黄昏の少女』とか。どれも面白そうだよね。

 しかし、プレイした記憶はこれっぽっちもない。

 

 前世はあまりゲームに興味なかったか、対応ハードを持っていなかったかのどちらかだろう。

 G○とかP○Pのゲームをやった記憶はあるので、おそらくは後者。

 ……どうしてだろう、なんだか無性に悲しくなってきた……。プレイしたかったのかな……。

 

 気を取り直して、次は小説の方。

 限界まで頭を働かせて、ギリギリ思い出せたのが偽エルリック兄弟ことトリンガム兄弟の話。

 まあ……彼らは無印版にも登場していたので、その辺りで記憶に残っていたのだろう。

 だが、彼らの話以外はほとんど覚えていない。

 「何冊か読んだ気がしないでもない」くらいのふわっとした認識がある程度だ。

 

「もっとちゃんと読んどけやぁ……!!」

 

 私は前世の私を呪った。このポンコツが!!

 

 ……いや、だけど「いつかハガレン世界に転生する気がするからハガレンの情報は隅から隅まで暗記しとかないと!!」みたいな人間がいたら、ソイツは100%狂人だろう。

 流石に、前世の私にそこまで求めるのは酷と言うものだ。

 

 他のメディアミックスは……じ、じ……実写版に……モバ……うっ、頭が。

 これは多分、思い出したら厄介オタクが憤死するパンドラの箱だな? 永遠にしまっとこ。

 多分羅針協会とか出てないだろうし。知らんけど。

 

 ──こうして確認してみると、私のハガレン知識もそう万能ではないようだ。

 この世界が本当に原作沿いなのかも怪しくなってきたし、頼りすぎるのは良くないのかも。

 

 

 話が怒涛の勢いで脱線したな。

 つまり何が言いたいのかと言うと、『羅針協会』は『鋼の錬金術師』には微塵も存在しない……ということだ。少なくとも、私の記憶する限りでは。

 プレイできなかったゲームや、忘れた小説の中にあったらお手上げだけども……、その可能性は低いと思う。

 何せ、こんな使えそうなネタがあったのなら、荒川先生が描かないはずがない

 

 だって、錬金術大国アメストリスで唯一存在する錬金術師養成所だよ?

 しかも創設者は師匠(せんせい)──ホーエンハイムさんの旧友と来た。

 使うでしょ。こんな設定思い付いたら。

 

 それに他メディアで登場していたのなら、宣伝ポイントとして喧伝されてもおかしくない。

 wikiにも書かれるだろうし、私ならどこかで見ていると思う。

 以上の理由から、羅針協会なる組織は『鋼の錬金術師』には存在しない。Q.E.D.(証明完了)

 

 

 と、そう結論に至った辺りで、自宅の前まで来た。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい。もうご飯できてるわよ」

 

 玄関を開けると、両手にお皿を持ったクリスが出迎えてくれた。

 どうやら晩ご飯の準備をしていたらしい。

 お皿から漂うビーフシチューのいい匂いが鼻孔をくすぐる。

 ちょっと背伸びしてテーブルを覗き見ると、パンとサラダが置いてあった。

 ……相変わらずお腹が空いたり食欲が湧いたりはしないけど、とても美味しそうだ。

 

 お礼を言って席に着き、「いただきます」の合図で食べ始める。うん、美味しい。

 

 ……そう言えば、こうして何か食べた後の栄養素ってどこに行ってるんだろう?

 成長には一切関与してないのに、一応排泄はしてるんだよなあ……。

 あ、もしかして怪我を直すエネルギー源になってるのかも? あるいは他にも用途が──

 

「ステラ? ……ぼーっとしてたけど、大丈夫?」

 

「あ、うん。ちょっと考えごとしてた」

 

 考察を打ち止めにして、笑って誤魔化す。いけないいけない、今は食事に集中しよう。

 晩ご飯を食べつつ、クリスとの談笑を楽しむ。

 エルリック兄弟の喧嘩とエドのプロポーズの件を話すと、クリスはお腹を抱えて爆笑した。

 

「モテモテね、ステラ」

 

「あんな小さい子にモテてもねえ」

 

 困ったように肩をすくめると、クリスはまた笑い出す。凄くウケるな、このネタ……。

 ……場もかなりほぐれたし、そろそろ話してもいい頃合いかな。

 

「ごちそうさまでした。……クリス、少し相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「ごちそうさま。相談したいこと? いいわよ。

 ……エドくんとアルくん、将来はどっちを選ぶか──とか?」

 

「そうじゃなくて! ……その」

 

 少しだけ言い淀む。クリスは、私がリゼンブールの外に出るのを嫌がる節がある。

 他所に遊学したいなんて言えば、きっと強く反対されるだろう。

 

 でも、ずっとリゼンブールに引きこもっているわけにもいかない。

 いつかは必ず、ここから旅立つ必要があるのだ。

 

 だからこれは、最初の一歩。

 

「私、他の場所で錬金術の勉強がしたい。

 ……師匠(せんせい)に遊学を勧められたんだ。最近、ちょっと伸び悩んでて……。

 だから、スランプを抜けるためにも他の場所に行った方が良いんじゃないかって話になってさ」

 

 この話は、師匠(せんせい)と一緒に考えたカバーストーリーだ。

 「自分の正体調べるために他所に行きたいです」なんて、あけすけに言えないからね。

 ……ぶっちゃけ、伸び悩んでいるのはマジなんだけど。これが才能の差ってやつか……。

 

「で、その遊学先が『羅針協会』ってい──」

 

ガチャンッ!!

 

 テーブルが勢いよく揺れて、空の食器達が大きな音を立てる。

 揺れた原因は、クリスがテーブルに両手を突いて立ち上がったからだ。

 

「ク、クリス?」

 

 ただならぬ様子に、彼女の顔を覗き込んで──思わずぞっとした。

 見開かれた目に、強く皺が寄った眉間と、固く結ばれた口。ギリ、と奥歯を噛み締める音。

 ぶるぶると震える体は、何かに堪えようとして……それでも漏れ出ているようだった。

 

「……どうして、あの人からその名前が出るの?」

 

「え、あ、師匠(せんせい)の古いご友人が創設者らしくて……」

 

「そう。──ステラ、今すぐ……いえ、もう遅いから明日でいいわ」

 

 私を見下ろしたまま、クリスは冷たく言い放つ。

 

「師弟の縁を切って、錬金術を学ぶのを止めなさい。そしてもう二度と、あの家に近付かないで。

 遊学なんて……ここから出るなんてもってのほか。いい? 外には危険しかないの。

 あなたの安全のためにも、旅立たせるわけにはいかないのよ。……分かってくれるでしょう?」

 

 虚ろな笑みに、誰かを思いやるような気遣いはない。

 最後も問いかけの形ではあるものの、ほとんど「受け入れろ」という強制に聞こえた。

 

「……は?」

 

 彼女の言い草に腹が立って、思わず喧嘩腰で応じる。

 遊学の反対はまだ覚悟してたからいい。

 でも、その上に師弟の縁を切って、エルリック家に二度と行くなって?

 いくらなんでも話が飛躍しすぎだ。そこまで言われる筋合いはないが?

 

 今まで保護者としての恩があるから、キツい束縛にも耐えてきたけど……そこだけは譲れない。

 

「ねえ、クリス。前々から思ってたけどさ、どうしてそこまで私を外に出すのを嫌がるの?

 それに、師弟の縁を切れとか、あの家に近付くなとか……流石に言いすぎだと思うんだけど。

 だって師匠(せんせい)は、私のためを思って遊学を提案してくれたんだよ?」

 

「そんなわけがないでしょう!?」

 

 一瞬、彼女の瞳がぐらついた気がした。涙に揺れるような……あるいは古傷を抉られたような。

 続けて、悲痛にも聞こえる怒声が飛び出す。

 

「あそこがどんな場所か……どんな奴らがいるのか分からないから、そんなことが言えるのよ!

 慈善団体なんてただの建前、あいつらはただの人でなしだわ!!

 あいつらのせいでっ、私が……()()()がどんな目に遭ったか知らないくせに……!!」

 

 そこまで言うと、クリスは唐突に顔を強張らせた。

 致命的な失言をしてしまったのを誤魔化すように、震える手で口を押さえる。

 

 少しだけ、手の隙間から嗚咽に似た声が漏れて。

 ゆるゆると手を離すと、深いため息と共に、顔から一切の感情が消えた。

 まるで、自分の心を封じ込めて冷静に振舞おうとしているように。

 

「……とにかく、私は反対。師弟の縁を切ってほしいのも本音よ。──錬金術なんて。

 錬金術師になりたいなんて、あなたの正気を疑うわ。……それだけ」

 

 そう吐き捨てて自室へ去っていくクリスを、私は黙って見送ることしかできなかった。

 ぶつけられなかった怒りはすっかりしぼんでしまい、ただ大きな疑問だけが残る。

 

 ──クリスは、羅針協会を知って……いや、憎んでいる? どうして?

 

 彼女の堰を切ったような叫びは、あまりにも強い拒絶に満ちていた。

 錬金術嫌いすら、もう隠す素振りもない。

 ……あの言い方だと、何らかの実害を被ったから嫌いになったと見るべきだろう。

 

 おそらく、鍵になるのは『あの子』という言葉。

 口振りからして、年下の……大切な子を指しているのだろう。

 そして、その子が羅針協会や錬金術を憎む理由に深くかかわっていると。

 

 そう言えば……師匠(せんせい)と私の正体について話している時には有耶無耶にしてしまったけれど。

 私はまだ、クリスが執拗に私をこの村に縛り付けようとする理由を知らない。

 寝たきり状態だった頃から、私と共にいた理由もだ。

 

 そもそも、前提として──何故、私を『妹』だと定義したのか?

 ……養子というだけで、関係性の説明は終わったはずなのに。

 「気軽に接してほしいから」と言っていたけど、本当にそれだけの理由で?

 

 今までに抱いた違和感や、作中の描写をピースにして仮説を組み上げる。

 明らかな無理筋のみを排除して、「これなら説明が付く」という要素を拾い上げて。

 

 やがて、たった一つの仮説が組み上がって──私はその残酷さに歯噛みした。

 この仮説なら、全ての辻褄は合う。

 

「……でも、それは……」

 

 しかしそれは、真実とするにはあまりにも残酷だ。

 

 

 フラスコの中の小人(ホムンクルス)の錬成には、他者の血が必要。

 例を挙げると、『お父様』の元になったのは奴隷23号──ホーエンハイムさんの血だ。

 

 じゃあ、私は?

 

 アメストリスに奴隷制度はない。勝手に他者から血を奪うことはできない。

 だけど──もしも、『治療のための採血』だと偽ったのなら?

 

 ホーエンハイムさんが語った羅針協会の活動の一つに、『医療費の肩代わり』があった。

 

 クリスが語った『前の私(ステラ)』の境遇に曰く、彼女の両親は医療費に困窮して娘を見捨てたらしい。

 

 『医療費を肩代わりする代わりに、治療薬の実験に使うから血液を分けてほしい』

 ──困窮している中でそう言われて、否定できる人間はいるだろうか?

 

 『前の私』について語るクリスの慈しむ顔や、両親に対する唾棄するような態度。

 どちらも演技には見えなくて、だからこそ目覚めたばかりの私は信用した。

 

 多分、本当に『病弱なステラ』はいたんだろう。それもクリスの実妹として。

 ただの他人を、あそこまで慈しめるとは思えない。

 「病室が同じだから仲良くなった」や「養子として引き取った」というのは、私とクリスの容姿が似てないのを誤魔化すための方便だろう。

 

 そして、クリスの妹の『ステラ』こそが、私の元となった存在。

 

 ……更に言うのなら、彼女は既に──

 

「ままならないなあ……」

 

 リビングに、私の独り言が虚しく落ちる。

 

 きっと、彼女は信じていたのだろう。

 ……いや、もしかしたら今もまだ信じたいのかもしれない。

 私が『ステラ()』であることを。でも、その願いは叶わないし、叶えられない。

 

 『お父様』とホーエンハイムさんが別の個を持つように、私と『ステラ』も別物に過ぎない。

 例え、今から『本当のステラ』の性格や仕草、記憶を余すことなく学んで真似たとしても……。

 

 私という、別の『エステル・オルティーズ』にしかなれない。

 

「明日の朝、謝って……。でも、やっぱり縁を切ることはできないって言うしかないか」

 

 彼女の思いは、実に真っ当なものだ。

 錬金術の実験で実の妹を喪って、怒り憎まない人間はいないだろう。

 ……まあ、あくまでも仮説の話ではあるけども。だけど、核心には近いはずだ。

 

 でも、もしもこの仮説が全て正しいものだったとしても……私は錬金術をやめるつもりはない。

 錬金術が好きな気持ちも変わらないと断言できる。

 

 錬金術はただ人を犠牲にするだけのものじゃない。

 人を救い、助け、発展させるためのものだと信じている。

 

 ……例え、この思いのせいで、クリスと決定的に仲違いしてしまうことになったとしても。

 私は私の決意のために、錬金術を選ぶだろう。

 

「ああ、だけど……」

 

 ホーエンハイムさん……じゃなくて、師匠(せんせい)にはなんて言おうか?

 旧友が作った組織が、人体実験の末に私というフラスコの中の小人(ホムンクルス)を作ったなんて知ったら、きっと大きなショックを受けるに違いない。

 

 ……うん。ここは明かさずに、ただ「反対されてしまった」とだけ言おう。

 

 その上で──

 

「どうしようかなあ……」

 

 また大きな悩みがひとつ。

 羅針協会に行くべきか、行くのをやめるべきか、それが問題だ。

 

 かくして、うんうんと悩んでいるうちに夜が明ける。

 

 

 答えを決めきれないまま、とぼとぼとエルリック家に向かう私を待っていたのは──

 

 

「こ、国土錬成陣……!?」

 

 

 まさかの師匠(せんせい)から直々にカミングアウトされた、国土錬成陣の情報だった。

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