導星の錬金術師 作:星見錬
しかもルーキーのランキングに入っていてとても驚きました。マジで?
これも読んでくださる読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!! 感謝してもしきれません。
嬉しさのあまり今回の話を書いたら、つい長くなってしまったので前後編に分けました。
まだ未熟な作者ではありますが、どうぞこれからもよろしくお願いします。
──1902年、リゼンブール
どんなに重大な悩みを抱えていようが、否応なしに日々は過ぎていく。
あらゆるものが不平等な世の中にあって、時間という概念は万物に対して平等だ。
明日死ぬ誰かも、昨日生まれた誰かも、皆同じ時間を生きている。
一秒が早まることも、逆に遅くなることもないわけだ。
時間という流れに沿って生きる以上、我々は生涯そこから逃れることはない。
……つまり、何が言いたいのかって?
なげーわ、原作開始まで。
この世界は紛れもない現実だが、同時に『鋼の錬金術師の世界』であることも間違いない。
そして私は、この世界で唯一
それを知る以上、行動の指針はおのずとその展開が中心になるはずなのだが……困ったことに。
原作の第一話が開始したのは1914年であり、現在は1902年。要するに十年以上先の話になる。
やっぱなげーわ。原作軸から見たら今は過去編だよ。しかも凄く平和だし。
……いやまあ、これから重大な出来事はたくさんあるんだけども。
できれば回避したい悲劇もかなりあるんだけども。
とはいえ、今の時点で打てる手はあまりにも少ない。
錬金術師見習いのヒヨッコができることなんて、ほとんどないのである。
ゲームで例えるなら、クエストはいっぱいあるけど肝心のレベルが足りないって感じだ。
そうなると私も人の子、やる気が持続するはずもなく。
ちょっと脱線して、憧れの世界でゆる~いセカンドライフを謳歌したくもなるわけで。
今の私は、エルリック兄弟やウィンリィと言った子供達と遊ぶのを何より楽しみにしていた。
「しょーぶだステラ! きょうこそかーつ!!」
「かーつ!!」
「かちゅー!」
「はっはっは! 今日も性懲りもなく挑んできたな、少年少女!
いいだろう──獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすもの。
今回も遠慮容赦なく、完膚なきまでに叩き潰してくれるわーー!!」
バッとジャケットの内側から取り出したるは、一枚のカード。
エドとウィンリィも同様に構え、対象年齢的に参加できないアルは側で観戦モード。
さあ今こそ、互いのプライドを賭けた熱き勝負の幕が──
「こら、ステラ。『叩き潰す』は流石にダメでしょ?
あと、あまり変な言葉を使うのもやめてちょうだいね。アルも見てるんだから」
「あっはい、すみませんトリシャさん……。つい興が乗っちゃって……えへへ……」
うーん、我ながら締まらないオチになってしまったな。
ま、気を取り直して。
程々に本気のメンコ勝負を始めようか。
さて、もしメンコやその歴史に詳しい人がこれを見たら、きっと大いに首を傾げたことだろう。
メンコの発祥は江戸時代の大阪であり、なおかつ私達の持つ紙メンコの登場は明治時代である。
一応年代的な齟齬はないが、欧州がモデルのアメストリスには存在しないはずのものだ。
にも関わらず、何故私はエドとウィンリィのコンビにメンコ勝負を挑まれているのか?
答えは簡単。
私が
事の発端は半年ほど前、基本的な理解・分解・再構築ができるようになった頃。
宿題として
モチーフとして例に挙がったのは、日用品やおもちゃなど。
更に、「できる限り細かいデザインを入れること」という追加課題まであった。
また、脳内のデザインをそのまま再構築として出力する訓練にもなると。
実は再構築ってかなり難しいんだよね。
だから脳内のイメージがしっかりしていないと、錬成物もぐにゃぐにゃになってしまう。
更に、下手をすればリバウンドの原因にもなるのである。
……まあ、これ全部
流石は錬丹術の基礎を作った西の賢者。とんでもない教え上手である。
何はともあれ、宿題を出された私は何を錬成するか悩みに悩んだ。
大人しく例に挙げられた物を作ればいいだろって? 確かに最初はそのつもりだったけどさ。
身も蓋もない言い方をすると……飽きるんだよね。同じ形のものばかり錬成するのって。
散々練習で作ったそれらを、また何度も何度も繰り返し錬成する気が起きなかったのだ。
そんなこんなで、最終的に知識引用まで使って決めたモチーフというのが──
『昔の日本のおもちゃ』だった。
具体的には紙メンコ、竹とんぼ、竹馬、コマ、ビー玉におはじきなどなど。
どれもちゃんと詳細な形を知っていて、なおかつ構造も簡単なものばかり。
追加課題についても、メンコやコマの柄で十分達成可能という万能っぷりだ。
……ま、ちょっとだけ日本が恋しくなってたのもあるかもしれないけど、それはまた別の話。
かくして、私はおもちゃの錬金術師となったのであった。
で、練習の中で一つ気付いたことがある。
メンコは再構築の鍛錬にかなり向いている題材である。
いや、与太話ではなく。マジもマジ、大マジな話。
そもそもメンコ──特に紙メンコは超ざっくり言うと、『厚紙に絵が印刷されたカード』だ。
材料は基本的に紙とインクさえあればいい。
色に関しても、構成元素が同じなら、わざわざ顔料を用意しなくても構わないのである。
こんなにも容易に錬成材料が揃うのに、追加課題は絵柄を複雑化させることでパスできる。
正に、錬金術の鍛錬のため生み出されたおもちゃと言っても過言ではない!*1
……ぶっちゃけ、言うほど簡単じゃなかったけどね。主に絵柄の複雑化の辺りが。
ちょっとでも気が逸れると、可愛い猫の絵がえげつないクリーチャーと化したりする。
そう考えると、即座にゴッテゴテの悪趣味デザインを錬成できる本編のエドは天才だ。
流石は最年少国家錬金術師。センスはかなり最悪だけど。
閑話休題。
そんなこんなで錬成したのはいいものの、一度作ったらそれなりに愛着が湧くもので。
私は宿題の提出後に返却された、大量のおもちゃ達の処分に困ってしまった。
捨てるのはもったいないし、また分解して再構築するのも素材の劣化の原因になってしまう。
そこで、「だったら彼らの暇つぶしになればいいかなー」と、軽い気持ちで。
エルリック兄弟やウィンリィに、遊び方を教えつつおもちゃをあげたのだ。
そしたらなんと、いつの間にかリゼンブールの子供達の間で盛大にバズっていた。
……気持ちは分からんでもない。リゼンブールってかなりのド田舎だもんな。
遊びといえば体か自然を使ったものが中心となるわけで、次第にマンネリ化してしまう。
一応トランプやチェスはあるけど、ルールが複雑だったり遊べる人数が限られたりするし。
つまり、リゼンブールの子供達は娯楽に飢えていたのである。
そんな娯楽に飢えた子供達に、黒船の如く新しい遊びをもたらしたらどうなるだろうか?
そりゃ流行る。えげつないレベルで流行る。大人達に波及するレベルで爆流行りする。
そのおかげで、私の元に舞い込む製作依頼もパンク寸前まで膨れ上がり。
今は落ち着いたものの、一番のピーク時は
しかも一部の悪ガキや大人達が勝手に模造品を作り、まだ持ってない子に高値で売りつけようとする事件まで起きる始末。
私
もちろん、悪ガキや大人は叱っておもちゃを取り上げ、持ってない子には正規品を渡した。
勧善懲悪、これもまた世の理である。
あとこれは完全に余談なのだが、おもちゃは私が考案者ということになっている。
まあ「前世の知識から引用しました!」とは言えないから、仕方のないことなんだろうけども。
なんかテンプレ転生ものみたいでちょっと恥ずかしいね。
おっと。閑話休題と言っておきながら、話が取っ散らかってしまったな。
というわけで、視点をメンコ勝負のところまで戻そう。
私達の目の前には、地面に描かれた丸の中に配置された、何枚かのメンコがある。
ここで、ステラ式メンコの遊び方を説明しよう。と言っても、基本の遊び方とほとんど同じだ。
丸は場、相撲で言う土俵のようなエリアだと思ってほしい。
プレイヤーはそこに手持ちのメンコを叩きつけ、風圧を起こす。
その風圧で場の中のメンコをひっくり返すか、場から出せばポイントが加算。
一人ずつ順番に挑み、最終的なポイントが多かった者が勝者となる。実にシンプルだ。
ちなみに奪い合いに関するルールは完全にオミットしている。
また作り直すのめんどい……ゲフンゲフン、喧嘩になったら大変だからね!!
エドとウィンリィ、そして私。三人で繰り広げた勝負も、これで十五戦目。
まだ余裕で勝ち越せてはいるものの、追いつかれるのは時間の問題だろう。
だがしかーし! 今回の私は一味違うぜ!
何故かって? ふっふっふ……ようやく必勝のメンコを錬成できたからさ!!
いやー、威力や規模、正確さを極めるのは骨が折れたもんだよ。その分達成感もひとしおだ。
今、私の手にあるコイツは紙メンコならぬ神メンコ。
全ての勝負を過去にする最強のメンコである。
辺り一面は無風。自然の邪魔はない。
ライバルであるエドとウィンリィも、観戦者であるアルも、固唾を呑んで私の動向を見ている。
「フッ──」
思わず、勝利を確信して笑みが零れた。……さあ、刮目せよ!!
「はあっ!」
パアンッ!!
渾身の気合と共に、場の中心にある空白地帯にメンコを叩きつける。
しかし風圧を生み出すために放たれたわけではないそれは、周りのメンコと土煙を少しだけ舞い上がらせただけだった。
裏返るメンコも、場から出るメンコもなく、ただやる気が空回っただけの失敗──
「……そう、思うでしょう?」
ブワッ!
「なあっ!?」
「うそっ!?」
「ふぇっ!?」
私の失敗をほくそ笑むエドと、困惑したウィンリィの顔が驚愕に染まる。アルも同様だ。
それも仕方ない。何せ、
突風は土煙の中から勢いよく周囲のメンコを巻き上げ、メンコ達は紙吹雪の如く落ちていく。
ここからは多少の運も絡むので内心お祈りしていたが……無事、全てのメンコが裏返しか場の外に出た。
「パーフェクトゲーム──私の勝ちだ!」
勝利宣言と共に渾身のドヤ顔をキメる。
ふっふっふ。これこそが私の秘策、必勝の神メンコさ!
え、大人げないって? 知らね、私まだ未成年だもんね*2!!
さーて、エド達の反応はどうかな? 尊敬の眼差しと賞賛? それとも負け犬の遠吠えかな?
どっちでもバッチコイ、堂々と勝ち誇ってやるとも! 私は負けず嫌いなのさ!
「……なあ」
けれども、そのどれもが飛んでくることはなく。
「ステラおまえ、ズルしただろ!!」
代わりにエドから発せられたのは、反則を指摘する声だった。
「……へえ? 証拠はあるのかな」
私はそれを余裕の笑みで迎え撃ったものの、内心は冷や汗まみれになっていた。
もしや例の
いやでもまさか、まだ錬金術やってないはずのエドがアレに気付くはずが──
「メンコからかぜがでたとき、パッてひかったのがみえたんだよ!
あのとき錬金術使っただろ! ズルだズル!」
「そうだったの!? ……でも、ふつうメンコからあんなかぜがでるわけないもんね……」
……おいおい、なんつー勘と視力の良いガキなんだ。土煙で隠せたと思ったんだがな。
「ずりゅは、めー!」
エドの言葉とウィンリィの補足、トドメにアルの舌っ足らずなお叱り。……完敗だ。
「はいはい、そのとーりです。私の反則負けです。……だって、本気で勝ちたかったんだもん」
両手で降参の意思を示しつつ、ムスッとむくれる。
くそぅ、思い付いた時は行けると確信してたんだけどなあ……。
なんてことはない、必勝の神メンコの実態はコーネロレベルのド三流トリックだ。
錬成陣を絵柄の中に隠し、突風を発生して他のメンコを吹き飛ばすだけ。
……何を再構築したらそうなるんだって? そこは企業秘密ね。
ま、こんな見え見えのトリックがバレないわけもなかったか。
幼児だからって、未来の国家錬金術師様を舐めたツケが出たね。
未だにわーわーと私を批難する子供達をなだめ、「今度はちゃんと錬金術なしで勝負するから」と言いかけたところで、背後に何者かの気配を感じた。
感じたっていうか……普通に巨大な影で覆われたから気付いた。相変わらずデカすぎ。
こんなデカい影の持ち主など、この辺りでは
「ステラ」
「あっ、
我が錬金術の師匠、ホーエンハイムさんである。
エルリック兄弟&ウィンリィの年齢は14巻の「おまけのエルリック家」辺りを想定しています。
……あの話、ぶっちゃけ何歳の時か分からないんですけどね。
とりあえずその頃の話かも? って感じで見てください。