導星の錬金術師 作:星見錬
こんなにも多くの人に読んでいただいた経験がないもので……。
感想も全てありがたく拝見しています。
あまり返信は上手くありませんが、本編に影響しない程度の疑問点であれば積極的に答えていこうと考えています。
もちろん、評価やお気に入り、しおりも全て嬉しいですし、執筆の励みになります。
読者の皆様、いつも本当にありがとうございます!!
──1903年、リゼンブール
私が目覚めてから、とうとう三年が経った。
この間まで「本編までなげーわ」とアホなことをのたまっていたのが嘘みたいだ。
困ったことに、私は
イシュヴァール内乱の戦況、流行り病の噂、
分かる範囲、手に入れられる範囲で情報を集めているものの……全て成果は芳しくない。
錬金術の方も若干伸び悩んでいる。要するに停滞状態だ。
「はあ……」
道すがら、大きなため息をひとつ。
……もしも、この世界が原作である『鋼の錬金術師』と同じように進むのならば。
来年は全てが変わってしまう、運命の年になる。
発端は
もちろん、私はその未来を変えるつもりでいる。
変えるのはトリシャさんの病死の方。彼女の死がないだけで、人柱が二人減ることになる。
その分お父様の計画を邪魔できるというわけだ。
……それを抜きにしても、トリシャさんは助けたい。
私にとって彼女は、数多く存在する恩人の一人でもあるのだ。
私がまだ、家事すらまともにできなかった頃。
何度も失敗して落ち込む私を、彼女は決して見捨てなかった。何度も根気強く教えてくれた。
私が念願叶って、
彼女も一緒に喜び、大きなケーキやご馳走を作ってお祝いしてくれた。
私が
定期的に差し入れをして、一休みできる時間を作ってくれた。
そんな些細だけど、温かくて優しい気遣いのおかげで、私はここまでやってこれた。
『原作のために見捨てる』だなんて馬鹿な考えは、とうの昔に投げ捨てた。
鋼の錬金術師が生まれなくなっても構わない。私は全身全霊で彼女を助ける。そう決めた。
……が、先程も言った通り成果はほとんどない。
流行り病は影も形も存在せず、治療薬やワクチンなんてもってのほか。
ロックベル夫妻もそういった情報は全然掴んでいないようだ。
作中の描写から少しは絞り込めないかと、脳内の情報を何度も反芻してみたものの……。
結局のところは何も分からず。正にお手上げ状態だ。
それでも諦めるわけにはいかない。
「日々努力あるのみ」と、どうにかこうにか自分を鼓舞してエルリック家へと向かうと。
「にいちゃんのバカーーーー!!」
「バカって言う方がバカなんだよ!!」
エルリック兄弟が、家の前でかなりの大喧嘩を繰り広げていた。
叩き合い、引っ張り合いの、お互いに一歩も引かない仁義なき戦いである。
「まーた喧嘩してら」
……と言っても、そう呟いてしまうくらいにはお馴染みの光景になっている。
ハガレンオタクならば皆ご存じであろう。
単行本4巻15話『鋼のこころ』及びFA版9話『創られた想い』にある通り、彼らは何度も何度も喧嘩している。
俗に言う「喧嘩するほど何とやら」ってやつだ。
去年はまだ、そんなに喧嘩してなかったはずなんだけどなあ。
アルは三歳になって自分の意見をはっきり言えるようになり、エドも絶賛生意気盛り。
そりゃぶつかり合いも多くなるってもんである。
確か昨日はジュースの量、一昨日はパンケーキのサイズ、その前は……えーっと……。
駄目だ。ほとんどクッソどうでもいい内容のくせに、回数はやたら多いから覚えきれねえ。
だからと言って、このまま終わるまで放置するわけにもいかない。
やりすぎて大怪我しないうちに止めないと。
「おはよ、ウィンリィ。あの子ら、今日もまた随分とド派手にやり合ってんねえ」
兄弟を呆れた目で見つめるウィンリィに声をかける。止める前に喧嘩の原因を知るためだ。
原因が分からないと、仲裁するべきか喧嘩両成敗するべきかも決められないからね。
これも必須事項のひとつなのである。
「ステラ! ねえ、あのバカども何とかしてよ。さっきから二人とも、ずーっとゆずらないの!」
ウィンリィはすっかりおかんむりだ。
うーむ……これは仲裁を試みたものの、聞く耳を持ってもらえなかったと見た。
トリシャさんを呼ばないのは、おそらく買い物に出てるから。
「分かった分かった。……それで、今日は何で喧嘩してるの? ブランコの順番とか?」
そう問いかけると、ウィンリィは何故かジト目でこちらを見てきた。
そしてわざと大きなため息をつくと、「男子ってやーね」と言いたげな口調で
「あのね、あいつら『ステラをお嫁さんにするのはどっちか』でケンカしてるの。
どっちもちんちくりんなんだから相手にされるわけないのに。ステラだってそう思うでしょ?」
こちらにそう問いかけてきた。
私はどう答えればいいか分からず、「はあ……」と微妙な相槌でお茶を濁す。
ただ、この話の流れには覚えがあるぞ。先程挙げた話にも登場するエピソードだ。
幼きエルリック兄弟が、「ウィンリィをお嫁さんにするのはどっちか」で喧嘩してアルが勝利。
プロポーズしたものの「あたしより小さい男はイヤ」という理由で二人とも振られてしまう。
随分と微笑ましいエピソードではあるが、これが後に定着したアルの魂が本物であることの証明の一つに──って、うん?
今、ウィンリィはなんて言ったんだっけ?
……聞き間違いかな?
「えっと……二人は、
「ちがうよ! あいつらがお嫁さんにしたいのは
ステラ。ステラって誰だっけ。私か。私だな。エステル・オルティーズでステラだもんな。
つまりなんだ、エルリック兄弟は、私を取り合って……?
「──えぇええええええええええぇっ!?」
私は絶叫した。おい待て、待ってくれ頼む、それって──
変わっちゃってるじゃん!! 展開!!!
え、いいのか? 大丈夫なのかそれ!?
確かに「なんかいい感じに展開を変えられる確信が得られたらいいなー」とは考えてたけど!
まさかこんな形で叶うなんて、予想外にも程がある!
つかそもそも兄弟がウィンリィを取り合う喧嘩は五歳の時だから一年ズレてんじゃねーか!!
これが噂のバタフライエフェクトってヤツか!?
「──ラ? ステラ!? ねえ、ステラってば!! あいつら止めなくていいの!?」
「──ハッ!? ご、ごめんごめん。ありがとね、ウィンリィ。驚きすぎてぼーっとしてた」
ウィンリィに揺さぶられたことで、私はどうにか我に返った。
「でも、どうしたもんかなあ……」
呟きの原因は喧嘩の仲裁ではなく、変わってしまった展開の方だ。
アルの魂の証明うんぬんについては……まあ多分大丈夫だろう。振られた相手が変わるだけだ。
──あれ? ってことは、今から私がアルを振らないといけないのか? ……そりゃそうか。
流石に、赤ちゃんの頃から知ってる子を恋愛対象にはできんわな。yesショタnoタッチである。
ただまあ、今となっては魂の証明が必要になるかどうかすら不明になってしまったわけだが──
などとつらつら考えているうちに、どうやら喧嘩の決着がついたらしい。
泣きべそをかくアルを置いて、傷まみれのエドが地面から何かを拾い、私の前へ歩み出る。
……え? もしかして勝者まで変わっちゃったの? 嘘でしょ?
そ、それはちょっと……まずいんじゃない? 本当に大丈夫か不安になってきた……。
エドは私の前まで来ると、「ん!」と後ろ手に持っていた何かを突き出した。──白い花だ。
近くの草原に咲いているもので、この前一緒に花冠を作った記憶がある。
摘んでからしばらく経っていたのか、花は少し萎びていた。
だけども、それが逆に幼子らしい健気さを感じさせて……正直ちょっと萌える。かわいい。
「ありがとう。大事にするね」
しゃがんで花を受け取る。目線を合わせてお礼を言うと、エドはぷいっと横を向いてしまった。
多分照れ隠しのつもりなんだろうけど、耳まで真っ赤なので全然隠せてない。
「………………」
「………………」
しばらくの間、気まずい沈黙が流れる。
エドはもじもじと爪先で地面を弄るだけだし、私もこれ以上何を言えばいいのか分からないし。
ただ、その様子は傍目から見るとかなりじれったいものだったらしい。
私の背後で見ていたウィンリィが、「男の子ならハッキリ言いなさいよ!」とヤジを飛ばした。
「うるせえ! い、今から言うつもりだったんだよ!!」
言い返したことで決心が付いたのか。私の方に向き直ると、エドは力いっぱい叫んだ。
「ステラ! おっ、オレの、およ、お嫁さんに……なってくだちゃい!!」
……噛んじゃった。最終巻のおまけ四コマを思い出す、見事な噛みっぷりである。
泣いていたアルはぽかんとエドを見つめ、ウィンリィなんか声が出ないレベルで爆笑している。
とりあえずウィンリィはそれ以上笑わないであげて? 流石に可哀想だから。
肝心のエド本人は、嚙んでしまった羞恥心で顔も真っ赤っか。涙目にすらなっている。
「あ~~~~……えーーーーっとぉ……」
しかし、本当に困ったことになっちゃったな。ここはどう答えたらいいんだ……?
……まあ、正直なところ。エドのことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
なんなら、ハガレンにハマりたての頃はマスタング大佐よりも好きだった気がする。
──けれども、それはあくまでも十五歳の『鋼の錬金術師』エドワード・エルリックの話だ。
それに対して今。私の目の前にいるのは、リゼンブールの四歳児『エドワードくん』である。
アルの時にも触れたが、赤ちゃんの頃から面倒を見てきた子なのだ。
そうなると、もう『ハガレンの主人公』と目の前の子を同じ目線で見られるはずもなく。
今の私の立場からすると、エルリック兄弟は『近所の可愛い弟分』といった感じ。
つまり最初から、答えは決まっていたのだ。
「……ごめんね、エド。君と結婚はしてあげられないかな」
どんなに微笑ましいものでも、最後にうっかり噛んじゃったとしても。
エドにとっては、きっと一世一代のプロポーズだったはずだ。
だから私も、真面目にお断りの言葉を告げる。
「……なんで?」
涙目で問いかけるエド。
どうにかオブラートに包みつつ、「歳の差があるから無理」という意味を伝えるには──
「私、自分より小さい子はちょっと……」
…………あっ、やべ。四歳児のイメージが先行しすぎてやらかしたわ。
よりにもよって、あのエドに向かって
これはもう取り返しが付かないのでは?
──いや、待てよ?
今までも「ちっちゃくて可愛いね」って言っちゃったことがあったけど、その時はプンスコって感じの軽い怒り方しかしてなかったし。
今回もそんな感じでどうにか
「ち、ち、ち──小さいって、いうなぁ~~~~~~~!!!!!」
駄目だったかー……。ああ、もうすんごいギャン泣き。しかも泣かせちゃったの私だし。
慰めようがないですね、これは。
かくして、私は意図しない形でエドにトラウマを植え付けてしまったのであったとさ。
根はかなり深く、エドはこの日以来「小さい」と言われると反射的に激怒するようになった。
逆に、私に振られたことに関しては綺麗さっぱり忘れたらしい。
……そ、そこまでショックだったのね……。ごめんよ、エド。
買い物から帰ってきたトリシャさんからは、「もっと言い方があったでしょう」と叱られた。
ごもっともで……。はい、反省してます……。
かくして、この件は踏んだり蹴ったりなほのぼのエピソードに──
ならなかった。
何故なら──
「──ステラ。エドを振った理由だが、あれだけが理由じゃないんだろう?」
「ふふ、
「だって私、人間じゃありませんもの」
この件こそが、私達の関係を変える最初の分岐点となったのだから。