バトルウルフを掃討してすぐ、シュヴァルツは他の者他とは違う騎士に呼び止められた。
他の者達が全身鎧で頭部まで隠しているのに対し、その者は頭部を晒していた。
「助太刀、感謝いたします」
他の騎士達とは風貌が違う者は、シュヴァルツとパイモンに感謝を示した。
金髪碧眼の体格の良い男だ。顔つきは優男といった風貌である。
「いえ。こちらこそ急に参戦してしまいすみません。迷惑では無かったでしょうか?」
「迷惑などとんでもない。貴女方が来てくれなければこちらにも被害が出ていたでしょう」
シュヴァルツの竜としての探知能力でわかるが、騎士達のレベルもそう低いものではない。
平均すれば二十程度はあり、ボス以外の個体は倒せる程度の力量は有している。リーダー格の男は三十レベルはある。
これなら自分たちが関わらずともどうにかなっていたな、とシュヴァルツは思う。
IOOにてレベル差が二十もあれば絶対に勝てないとされる。レベル十なら装備と仲間次第で覆しようはある差だ。
それに人には知恵と戦略がある。それらをもってすればさっきの群れのボスだって絶対に倒せないなどとは言えないだろう。
それでも騎士の内何人かは確実に死ぬし、馬車自体にも被害が出るかもしれなかったが。
「私はリーフ家に使える騎士団団長のリイル・カカです。貴女方は?」
リイルの問いにシュヴァルツは意気揚々と答える。
「私はシヴァ・イルデ。こちらは仲間の──」
「ペイル・ルルでーす。よろしく団長さん」
パイモンは楽に答える。
「イルデ殿。ルル殿。良ければ一緒に街まで同行してはもらえないだろうか。お礼もしたいのだ」
断る理由もない提案にシュヴァルツは顔が綻ぶ。
「願っても無い事です。どうかよろしくお願いします」
そこに、馬車のドアが開いた。
思わず全員の視線がドアに向く。
「危機は去ったのでしょうか?」
少女が馬車から降りてくる。
出てきたのは可憐な少女だ。
金髪碧眼の豪華なドレスを纏っている。
愛くるしい外見をしており、女としての美は無いが少女のかわいらしさを持っている。
「お嬢様」
リイルはそう呟くと敬礼をする。
「貴女方が助けてくださったというのですね。私からもお礼を申し上げます」
少女は小さく可憐な礼をする。
「お礼って言うなら現物くれると嬉しいなぁ~」
「こら。ペイル」
シュヴァルツは俗物的な事を言うパイモンの頭を叩く。
「えぇ。私を助けてくださった報酬は必ずや相応しい物を支払いましょう」
それではこれで、と少女は馬車に戻っていく。
「よし。この場に居ても他にモンスターが来るかもしれないので。直ぐに移動を開始したい。よろしいですかな?」
「えぇ。問題ありません」
そういうやいなや、行動を開始した。
■
一同は何の問題も無く進んでいった。
道中モンスターに遭遇することも無く、馬車に関してトラブルが発生することも無く平穏なものだった。
そうして一同はゴエティアから最も近いとされる街、バッケンに辿り着いたのだった。
(まぁ、外側は普通の都市じゃな)
都市には壁がある。
十メートルは超える壁であり、城壁の上は人が歩ける形になっている。
石材で出来た壁であり、ぐるりと街を取り囲んでいる。
壁には四方に門があり、一同は四つある門の内一つに来ていた。
門には他に潜ろうとする者等はおらず、いるのは門番の騎士だけ。
一同は門の前へと進み、騎士団長が門番と軽い言葉を交わしている。
数度言葉を交わすと、門番の視線が不審者であるシュヴァルツとパイモンに向く。
「……そちらの人物は?」
門番の装備は軽い者だ。
動きやすい軽装鎧。先端が鉄性の鉄槍だけという、貧弱な装備だ。
ゴエティアの門番等とは比べるまでもない貧弱な装備であり、脆弱な存在だ。
門番の視線を受け、シュヴァルツはワザとらしくにこりと笑う。
美女の笑みを前に、男の門番はどきりと心が動く。
それを見たパイモンは何やってるんだこいつという目でシュヴァルツを見る。
「この方たちは私たちの恩人だ。通させて欲しい」
リイルは胸を張ってそう言う。
「畏まりました。そういう事でしたら」
門番は敬礼すると、門を開ける。
門は
防御力と実用性を兼ね備えた門である。
重低音と共に門が開き、一同は門の中へ──街の中へと入っていく。
「さて。私どもの屋敷まで距離があるのだが、ついてきてもらえるだろうか?」
「勿論、問題ありませんよ」
シュヴァルツとパイモンは騎士達に着いて行き、歩道へと移る。
街中はシュヴァルツには見た事の無い物だった。
シュヴァルツはかつて、バァル・ゼブルのシモベとして街まで行ったことがある。
シュヴァルツ=イルディッシュは特殊なNPCだ。通常の制作したNPCはギルド拠点などから動けないが、シュヴァルツは特殊なNPCである為移動が出来る。
他には召喚NPCも移動が出来るが、自由に姿形を決めれるNPCで移動が可能なのは非常に少ないと言っていいだろう。
そんなシュヴァルツはIOOの街並みというのを覚えている。
煉瓦や木材を使ったヨーロッパ風の家々が並ぶのがシュヴァルツの良く知るIOOの街だ。
だがこのバッケンという街はシュヴァルツの常識の外だった。
シュヴァルツの見た事の無い素材──コンクリートやアスファルトで作られた道。
木を中心に使った、見た事の無い形──現代建築の家々。
シュヴァルツが特に驚いたのは道だ。歩道と車道で別れている。
IOOではわけられておらず、人は端を歩き馬車が中央を進むシステムだった。
だがバッケンでは違い、歩道と車道の区切りが存在し人と馬車で進む場所が明確に分けられている。
(こりゃ本当に異世界に来たという訳じゃな)
この光景を見たシュヴァルツは本当に異世界に来たのだと強く実感する。
対しパイモンは初めての外である為この光景を街とはこんなものかと程度に思っている。
一同が三十分程歩くと、目的地に到着する。
豪華な館だ。他の家々とは二回りも三回りも大きく違う。
中央に本館、左右に別館が繋がっている屋敷である。
屋敷には中庭が存在し、柵で覆われている。
屋敷の門が開き、馬車と一同が中に入って行く。
「客間まで案内しましょう」
シュヴァルツとパイモンは騎士の一人に案内され屋敷の中へと入っていく。
屋敷の中も豪華なものだ。素人目でもわかる高級感がある。
勿論ゴエティアには遠く及ばない。黄金の壺やシャンデリア等は無く、普通の素材で出来た調度品のみだ。
二人は客間に案内され、中に入る。
客間も普通の作りだ。十人は入れる程度の広さを誇りソファーとテーブルがあるごく普通の客間。
シュヴァルツとパイモンは騎士が報酬を持ってくると言うと送り出し、ソファーに座る。
「
「そういうことを言うモノじゃありませんよ」
パイモンの文句をさらりと流し、シュヴァルツは考える。
報酬とは言うが何を持ってくるのだろうか、と。
単純な金銭? 宝石類? それとももっと違う何か?
数分待つとドアがノックされる。
シュヴァルツはノックに返事をするとリイルが入って来る。
リイルが入って来ると同時にシュヴァルツは立ち上がり迎え入れる準備をする。
「お待たせして申し訳ない。こちらが約束の物です」
渡されたのは札束だった。
シュヴァルツの見た事の無い紙。つまりは紙幣であった。
紙幣の表には背中から翼の生えた女の天使の絵が。裏面には城が印刷されている。
裏表には大きく10000とアラビア数字が書いてある。
その紙が計十枚。一束になっている。
「報酬の十万ゴルドになります」
「……ありがとうございます」
紙幣という物を知らないシュヴァルツは多少混乱しながら紙幣を受け取る。
竜種の探知能力で相手の感情もある程度は読み取れる。勿論探知系に対策を積んでいない相手に限るが、兎も角シュヴァルツには相手の感情という物がある程度は読み取れる。
そこからするとリイルからは相手をだまそうと等という感情は読み取れない。つまり正当な対価として紙を渡しているとシュヴァルツにわかる。
「それでどうでしょう。よろしければ今晩は泊まっていくというのは? 豪勢な食事を用意致しましょう」
「そこまでしてもらう訳にはいきません。これ以上貰うというのは過分というものです」
シュヴァルツは丁寧に断り、屋敷を出ることにした。
パイモンは備え付けの菓子を貪っていた。
■
「で、何処行く?」
「まずは泊まる場所を探しましょうか。もう夜も更けてきますし」
シュヴァルツとパイモンが屋敷を出ると、既に時刻は夕暮れ時だった。
街中で野宿などするわけにはいかない為、二人は宿を探して歩き始める。
「けどさー、さっき貰ったあれ何?」
パイモンが紙幣について問いかける。
「恐らくは通貨の類でしょう。ゴルド、というのが通貨の単位と考えれば紙の通貨、という事になるのでしょうね」
「紙の通貨? 人間って変なの使うんだねぇ」
ふーん、とパイモンは面白く無さそうに紙幣を掴み見やる。
「無くさないでくださいよ。仮にこれが通貨でなかったとしても、
「あれ、そうなの?」
竜は財宝の探知に長ける。
竜は財宝を守る物、という伝承を元にした能力であり竜が基本的に持っている
IOOの時代では竜はよりレアな装備を纏っている者を優先して攻撃するAIを持っていた。
その竜の力で探知すれば、紙の一枚一枚が魔法の籠った紙であるとわかる。
正し込められている魔法は単純なモノで、
パイモンはつまらなさそうに鼻を鳴らすとインベントリにしまう。
NPCにもインベントリはあり、容量はプレイヤーには及ばないがそれでもそこそこ入りはする。
(しかし、文字は変わらないのか──言語が同じだからこそか?)
シュヴァルツは周囲を見ながらそう思う。
時折見える店や看板に使われている文字はIOOの街と変わらない文字が使われている。
すなわち日本語が使われており、シュヴァルツ達NPCでも読み書きが可能な文字である。
「……探しても見当たりませんし、人に聞きますか」
シュヴァルツは大人しく人に宿の場所を聞き、宿へと向かったのだった。