シュヴァルツとパイモンが泊まった宿はごく普通の宿だ。
五階建ての建造物であり、部屋数も多いが部屋も広さはある。
そんな部屋は、ごく普通の庶民向けの宿であった。
スイートルール等の様に部屋が分かれていることは無く一部屋だけ。五人も入れば狭く感じる部屋だ。
中にはベッドが二つ、小さい椅子とテーブルが一つずつあるだけの簡素な部屋だ。
一拍七千ゴルドの宿である。
パイモンも将軍である為自室を持っているが、それと比べてなんて小さな部屋だと嘆いている。
シュヴァルツは自室を持っていない。というか中庭に放置されているのが現状である。
「では。明日の予定を決めましょうか」
シュヴァルツはベッドの淵に腰かけるとインベントリから手帳を取り出す。
手帳にはアリシャから聞き出した人の街について書かれている。
「まずは朝一で冒険者ギルドに向かい冒険者として登録。その後冒険者として活動。宿のランクは冒険者の階級が上がる事に変更。
資金面で不足があればオロバスに相談し援助を願う。これで構いませんね」
「おっけーだよ」
冒険者とは神聖王国でもある程度の人気がある職業だ。
だがその人気はごく一部の者達への羨望の眼差しが元であり、実際の職業としてはモンスターの退治屋としての側面が強い。
冒険者という名前の癖に冒険することは無く、精々が森や洞窟へ赴いてのモンスター退治ばかりだ。
なら何故人気なのか、となるがそれは単純で金に成るからだ。
モンスターとの戦いは非常に危険だ。命を落とす者も多い。その分多少ではあるが危険手当という国からの援助が出る。
次に一部のモンスターの体の一部は何かしらの材料に成ったり、単純に肉が美味であったりする。
それらからの資金もあり、金になりやすい職業という事だ。
その為高レベルのモンスターを倒せる冒険者程金を稼ぎ、名声を得られる。
勿論それらは高レベルのモンスターを倒せるのを前提にしている。モンスターと戦えぬ者は碌に金を稼ぐことも出来ない職業だ。
「では今日も夜遅いので寝ましょうか」
宿探しで時間が経っている為時刻は既に夜の九時。常人ならば眠くなる時間帯だ。
竜であるシュヴァルツは眠る必要が無く、悪魔も種族特性で睡眠不要だ。だが眠れないという訳ではない。
二人は部屋の魔法の灯りを消し、ベッドに横になった。
■
「さて、行きますよ」
朝の七時半ごろ。太陽が昇り切った時間にシュヴァルツとパイモンは宿を出た。
宿の人間に聞いた冒険者達が仕事を受ける場所──冒険者ギルドに向けて足を進める。
「そういえばこの街に強者とか居た?」
パイモンが世間話でもするかのように問いかける。
「いませんねぇ。感知出来る範囲だとレベル四十が最高です」
「うわざっこ。うちの雑兵が最高とか人間よっわ」
ぷーくすくす、とパイモンは笑う。
パイモン達ソロモンの悪魔にとってレベル六十以下の者は戦うに値しない雑兵、塵芥だ。
レベル六十までなら城の機能で無限に湧くのもあり、敵とみなす事すら烏滸がましい塵であるというのがソロモンに属する悪魔の主な考えだ。
「だからと言って油断しないように。レベル以上の強者というのもいるのですから」
レベルというのはIOOにおける絶対の指針という扱いだが、例外も数多い。
そもそも同じレベルでも装備の差で勝ち負けはよく変わるし、職業でも変わる。
特に酷いのがIOOで世界で一人しか着くことが許されなかった『勇者』という職業だ。
最上位職であり、その力は凄まじい。レベル以上のステータスを有する事が出来る上、数多くの各種
固有
同レベルの勇者と戦えば例え装備で勝っていても負けるという酷いことが起こる。
それ以外にも各個人だけが着くことを許された職業などは数多い。
その為レベルというのはあくまで指針の一つに過ぎないのだ。
「はいはーい。わかってますよ」
パイモンは空返事をし、シュヴァルツはこいつほんとにわかってるのだろうかと疑惑の目を向ける。
二人は大人しく歩道を歩いて行き冒険者ギルドに辿り着く。
横に大きい建物だ。建築様式で言えば洋風が近い。
有り体に言えば中世ヨーロッパ風の建物であり、他の建造物と比べるとミスマッチ感が強い。
シュヴァルツとパイモンはウェスタンドアを開け、中に入る。
内部は食事処のような作りだ。
木製のテーブルと椅子が所狭しと配置されている。
奥には食事を提供する場と何かの受付が置かれている。
恐らくはあちらだろう、とシュヴァルツは辺りを付け受付の方へ進む。
受付には受付の人以外おらず、直ぐに受付につく。
「すみません。冒険者として登録したいのですが」
シュヴァルツの言葉に受付の女性は手慣れた様に書類を取り出す。
金髪碧眼の美女だ。身長は女性として平均的であり、肌荒れ等が無い綺麗な肌をしている。
「冒険者登録ですね。こちらの書類に記入してください。代筆は必要ですか?」
「不要です」
シュヴァルツは二枚書類。ついでにペンを二つ受け取り、机へと向かう。
「うわ、めんどくさ」
パイモンが文句を言いながらペンを取り出し記入を開始する。
書類には日本語で各種書かれている。
名前。年齢。性別。職業。学歴。
シュヴァルツは設定どおりに記入していく。
シヴァ・イルデ、二十一歳。女。職業戦士。学歴なし。
一通りの記入を終えたシュヴァルツとパイモンは書類をもって受付に戻る。
受付嬢に書類を渡すと受付嬢は立ち上がる。
「では、最後に冒険者としての試験を行います。ついてきてください」
冒険者は誰でも成れる訳ではない。
戦う職業である為一定以上の戦闘力は必須なのだ。
その為戦えない冒険者向けの依頼等は無い。
二人は大人しく受付嬢に着いて行く。
そのままギルドの裏口を通り、裏庭に出る。
そこそこの広さの運動場だ。十人程度は並んで訓練でも出来そうな広さを持っている。
運動場の左右には片方づつ四体、合計八体の石像が並んでいる。
(ゴーレムか)
シュヴァルツは竜の探知能力で石像の正体を見破る。
一体一体のレベルは二十程。シュヴァルツにもパイモンにとっても雑兵だ。
「このゴーレムを倒す、もしくは一定時間耐える事が出来たら試験合格となります」
受付嬢がそう言うとゴーレムの一体が動き出す。
ずしん、と重量感ある歩行音と共にシュヴァルツとパイモンの前にやって来る。
「試験は二人同時ではなく、一人ずつとなります。よろしいでしょうか?」
「問題ありません」
「ではまず、貴女からお願いします」
受付嬢はシュヴァルツを指名する。
わかりました、とシュヴァルツは答え一歩前に出て、パイモンと受付嬢は離れていく。
シュヴァルツとゴーレムは一定の距離間を取り、対峙する。
「では。始め!」
受付嬢が宣言するとゴーレムが腕を振りかぶる。
IOOにおけるゴーレムは雑兵だ。
素材次第で最大レベルが決まり、最高位の金属を使ったとしても最高レベルは百六十が限界だ。
更には
戦士系が持つ基本的な
更に酷いのが武器しか装備出来ないというところだ。防具の装備が出来無い。
更に言えば武器の中でも
単なる通常攻撃しかゴーレムはする事が出来ない。その為IOOでのゴーレムの評価は水増し兵隊としてなら使える、というものだった。
所持数限界が無く、やろうと思えば千だろうが万単位だろうが用意し軍勢を展開できる。更に指揮関係のバフもゴーレムには乗るのでやろうと思えば軍勢式系の戦い方も出来なくはない。
ただし所詮は何の
余談だが召喚NPCにもゴーレムはいるが召喚NPCの場合他の召喚NPCより割安で召喚可能でもある。
ゴーレムは石の拳をシュヴァルツに叩きつけんと動く。
シュヴァルツにとってみては余りにも遅すぎる動きだ。蠅が止まるとはまさにこのことである。
無論ゴーレムのレベルも二十はある。この世界の一般的な兵士程度の実力はある。
シュヴァルツとゴーレムとで実力に余りにも差がありすぎて、ゴーレムの拳が遅く見えすぎてしまう。
シュヴァルツ=イルディッシュが操る人形は一体操作の場合、その戦闘力はレベルに換算すると百八十相当になる。
ただしこれはステータスだけを見た場合だ。シュヴァルツの人形も所詮は人形に過ぎないため戦士系の
だがそれでも、ゴーレムを一振りで壊す事は出来る。
シュヴァルツは刀を抜き、ゴーレムとすれ違いざまに一閃。
滑る様に動き、華麗にゴーレムを斬り捨てた。
「え?」
その動きを見た受付嬢は驚愕の声を漏らす。
ゴーレムは胴体を横に斬られ、上半身と下半身に分けられた。
分けられた上半身がするりと滑り、大地に落ちる。
「こんなものですね」
刀を鞘に納めながらシュヴァルツはポツリと呟く。
「え、と……試験、合格です」
「じゃ、次僕の番だね」
「あ、片づけるので少々お待ちください」
受付嬢は一言断るとゴーレムを動かし、物言わぬ瓦礫となったゴーレムを奥にどける。
今度はパイモンと片づけたゴーレムが対峙する。
「では、始めてください!」
受付嬢がそう宣言するとゴーレムはシュヴァルツの時と同じように拳を振りかぶる。
「
パイモンは魔法を唱える。
ゴーレムを中心に炎の渦が生まれ、ゴーレムは瞬く間に炎に包まれる。
レベル五の魔法
ゴーレムは直ぐに動かなくなり、どさりと倒れ込んだ。
ゴーレムの体には煤が付き、一部の個所に至っては溶けている。
「ざーこざーこ」
くすくす、とパイモンは笑う。
「……試験、合格です」
受付嬢は再度絶句しながら宣言する。
パイモンはシュヴァルツの傍まで歩くと口を開く。
「じゃあこれで試験終わりだけど、どうなるの?」
一拍おいてから受付嬢は答える。
「あ、はい。お二人は最低ランクのEから始めてもらいます。これにはお二人の戦闘能力は分かりましたが、それ以外が分からないからです。
ですがお二人ほどの実力者ならば瞬く間にランクは上がるでしょう」
冒険者のランクは最高A、最低EのABCDEの五段階だ。
だいたいレベル十事に階級がわかれ、最低十レベル最高五十レベルという感じになる。
余談だが、アリシャはCランクであった。
「えー、めんどくさ」
パイモンは分かりやすく不満を口にする。
「わかりました。では直ぐにランクも上がるよう。早速依頼を受けさせていただきましょうか」
「畏まりました」