バッケンのすぐ傍には平原が広がっている。
小高い丘が並ぶ平原であり、時折ぽつりぽつりと木が生えている以外特徴らしい特徴も無い平野だ。
そこに二人の男女──正確には一人の男と女の人形が居た。
言うまでもなくシュヴァルツの人形とパイモンである。
「は~ざっこ。
対象を拡大した攻撃魔法がパイモンの指先から放たれる。
十に分かれた電源が攻撃対象であるモンスターに向かい真っすぐと飛ぶ。
敵対しているモンスターは小さな恐竜だ。
大きく分厚い足に退化したのか小さな手を持つ蜥蜴に酷似した姿を持っている。
緑色の皮膚を有し、口からは涎が垂れている肉食系モンスター。
IOOにも居たモンスターであり名をイィガジという。レベルは五。
十に分かれた電撃が外れることなくイィガジに直撃し、絶命させる。
だがイィガジはまだ数多くいる。ざっと見るだけで三十体以上は二人の周囲にいる。
「流石に数が多いと面倒ですね」
等と呟きながらシュヴァルツは刀を振るい、イィガジを斬り捨てていく。
全て一刀両断。頭を斬り落とし胴体から斬り落とし、全て即死させていく。
流石にイィガジもシュヴァルツを脅威とみなし、逃走せんとじりじりと後ろに後退していく。
「はい死ね。
だが距離を取ればパイモンが遠距離の攻撃魔法を放つ。
火球が生まれ一直線に進み、着弾。炎の爆発を起こしイィガジを殺す。
そうして十分も経たずイィガジは二人の前に全滅したのだった。
「で、死体の回収か。めんどくせ」
「愚痴を言う暇があるなら手を動かしてください」
二人はナイフを片手にイィガジの死体を解体する。
解体と言ってもイィガジの手を斬り落とすだけだ。
「討伐証明とかめんどくさいね」
モンスターを倒した場合、本当にそのモンスターを倒したのかの証明が必要になる。
モンスターごとに部位は違い、イィガジの場合はその手になる。
イィガジは過食部位も少ないし、食ったとしても筋が多くてとても食べれるものではない。
後は単純に肉の味も不味い。そのくせ繁殖力が高くしかも雑食性という生態系に害を与える生態をしている。
その為ギルドからも定期的に駆除の依頼がされている。二人はその依頼を受けたという事だ。
「あ~あ。ゴエティアの方はどうなってるのかなぁ~」
はぁ、と深いため息とともにパイモンはそんなことを呟いたのだった。
■
「今日も早い帰りですね……」
冒険者ギルドの受付で。受付嬢──最初にシュヴァルツとパイモンの対応をしたのと同じ人物は溜息を堪えながら受付業務を済ます。
シュヴァルツとパイモンが冒険者として登録して一週間。二人は既にギルドでも有名な冒険者となっていた。
理由は幾つかある。先ずはその外見だ。
冒険者のメインは戦闘であり、容姿など二の次な事が多い。
だがそれでもシュヴァルツの人形のような──実際人形だが──美しさは人の目を引くし、パイモンの男性でありながら女性と見間違う美貌も噂を呼ぶ。
次にその実力。まだEランクという事で大したモンスターを相手に出来ないが、それでも試験相手のゴーレムを一撃で倒したという話は流れるし、実際どんなモンスター相手でも瞬く間に倒して帰って来る。
そういった要素からシヴァ・イルデとペイル・ルルという冒険者はバッケンで有名になっていた。
「これが今回の依頼のモンスターに成ります」
シュヴァルツは懐から袋を取り出し、受付嬢に渡す。
「はい。確かに受け取りました」
受付嬢は受け取ると袋の中身を取り出し、精算を始める。
数分で終わり、受付嬢は依頼達成分の金額を取り出す。
万札が二枚。女の天使が描かれた紙だ。
「こちらが今回の報酬と成ります。どうぞお確かめください」
受付嬢が渡すとシュヴァルツは律義に中身を確認する。
「はい。問題ありません」
シュヴァルツは一礼するとパイモンを連れてギルドの外へと歩いて行く。
ギルドの外に出た二人は会話を始める。
「では今日の情報収集と行きましょうか。どうします?」
二人の目的は冒険者として名声を得る事ではない。
冒険者として活動し、情報と資金を得る事。その過程で名声を得ている。
「変わらずでいいんじゃない? 僕が酒場とか行くからしゅ──シヴァは街中らぶらついてよ」
「まぁ、それが妥当ですか。わかりました」
シュヴァルツが操る人形は所詮は人形だ。どれだけ精巧に人間に近くても人形でしかない。
その為人間ならば出来る食事や性行為といった事が一切出来ない。というか口を大きく開けすぎるとその中が繋がっていない事がばれる。
更に言えば生命探知などの魔法でも人形では無いとバレるなど、結構問題が多い。
それらの問題をリリス──四天王であり幻術系に特化した者が専用の幻術をかけている為問題ない外見となっているが、それでも食事等は出来ない。
その為情報を収集するために酒場等に赴いたとしても食事が出来ない為怪しまれる。
「じゃ、私はあちらの方を。それでは」
「じゃあねー」
シュヴァルツとパイモンは軽く言葉を交わすと二手に分かれて行動し始める。
パイモンは一人、ゆったりと街を歩く。
ゴエティアと比べると面白みの無い街だ。
街を歩くのは誰もかれも同一種族。ゴエティアにも悪魔しかいないが、それでも悪魔という括りの中でも多数の姿かたちをした者が居る。
それを考えれば人間はみな同じような姿をしていて面白みが無いとパイモンは思う。
建築様式だってそうだ。ゴエティアと比べるのも烏滸がましい程に耐久性や防護力に差がある。
パイモンは十分程歩くと目的地に辿り着く。
目的地は飲食店。それも酒場だ。
大衆酒場の類であり、そこそこの広さを持つ店舗だ。
パイモンはドアを開け、中に入る。
中に入ると焼き串の匂いが香る。
ここは焼き鳥屋であり、その匂いがこびりついている。
「お、ペイルじゃないか! こっち来いよ!」
店内に居た一つのグループから自分を呼ぶ声が聞こえ、パイモンはそちらに向かう。
パイモンと同じ冒険者をしている者だ。
流石にオフの日なのとただの店なので武装はしていないが、それでも暴力的な雰囲気を纏い体中についた傷が只者では無いと思わせている。
男四人のむさくるしいグループである。
その中の一人が声をかける。
「よ、ヘイゼル。また昼間から飲んでるのか?」
「それはお前も同じだろうペイル、同じ昼間から酒場に来てるんだからな!」
ガハハ、とヘイゼルと呼ばれた男は豪快に笑う。
パイモンは席に着くと店員を呼び、注文を始める。
頼むのは適当な焼き鳥の串とビールだ。
パイモンは注文が来るまでの間。雑談を始める。
会話の内容はくだらないものだ。やれ何処の依頼を達成しただの。どのモンスターを倒したといった話やパイモンの容姿を褒めてくる。
パイモンが注文された物を食しながら気分が良くなる。
パイモンにとって自らの容姿を褒められるのは気分が良い事だ。自らの創造主に与えられた姿を褒められている訳なのだから。
パイモンは男の娘として生み出された。そのことに誇りを持っている。例え褒めているのが人間という下等生物であっても気分はよくなるというもの。
「そういや聞いたか? ここに軍が来るってよ」
雑談をしている中。ヘイゼルが唐突に話始める。
「軍の連中が? 何でまた」
神聖王国は幾つか武装勢力が分けられている。
一つが軍隊。神聖王国そのものが保有する戦力であり鍛え上げれた軍人が所属している。平均レベルは三十程。各町や王都に軍事拠点が置かれている。
次に警察。戦闘能力ではなく治安維持や犯罪抑止を目標にした武装組織。本庁が王都にあり、各都市に支部が存在する。
騎士団。これは国が有する組織ではなく各町を収める領主が保有する戦力だ。国に解決を頼む程ではない事態──例えばモンスターの襲撃や強力な犯罪者の取り締まり──をするために存在する。
最後に冒険者。法律上では国に属していることになり、国の戦力として数えられている。冒険者は対人をすることは無く、何処までもモンスター相手の戦力だ。
「聞いて驚くなよ……俺も聞いた話だが、何でもエルフがここらで見つかったらしい」
「──
ヘイゼルが発した
直ぐに身を引っ込めるも、その態度の変化は印象に残る。
「お、おう……なんでも終わりの森近辺でエルフが見つかったからそれの掃討に来たんじゃないかってもっぱらの噂だぜ」
「ふーん……」
(これは、バァル・ゼブル様に報告しないとな)
シュヴァルツとパイモンがソロモンに連絡する方法は二つ。
一つがパイモンが
パイモンは宿に戻ってシュヴァルツとこのことを話してから連絡する事を心に決めたのだった。